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ミリ波の普及を加速
NECの分散MIMOシステム
NECの最先端技術 2023年4月21日

メタバースやデジタルツインを支える次世代通信として期待されているBeyond 5G/6G。しかし、5Gで使用が開始され、6Gで本格的な活用が期待される「ミリ波」は遮蔽物に弱く、通信が途切れやすいため、これまであまり普及していませんでした。これに対し、NECは2022年10月までに日本電信電話株式会社(以下、NTT)と株式会社NTTドコモ(以下、ドコモ)との共同実証実験(※1)を行い、移動端末の状況を予測し基地局の分散アンテナを動的に切り替える技術の実証に世界で初めて(※2)成功しました。ミリ波の普及に向けて大きな希望となったという本技術について、研究者に話を聞きました。
- ※1
- ※22022年10月31日現在、NTT調べ
6Gのミリ波の課題を克服

研究マネージャー
村岡 一志
― 今回の技術は6Gの課題を克服するということですが、一体どのようなものなのでしょうか?
村岡: 6Gで扱う「ミリ波」の欠点を補う技術です。ミリ波は、メタバースやデジタルツイン実現のために必要な高速・大容量通信を可能にする高周波数帯の電波です。五感の伝送やデジタルツインによる将来予測など、革新的な未来を実現するために有効であると期待されています。
しかし、その一方で、ミリ波は直進性が非常に高く、建物などの遮蔽物の後ろまで電波が回り込みにくいという欠点がありました。これでは、人や車が通信をしていても、電波の陰に入った途端、突然通信が途切れてしまいます。こうした取り回しの難しさが原因となり、ミリ波はこれまであまり活用が進んでいませんでした。
この課題に対し、NECではNTT様やドコモ様とともに「分散MIMO」という技術の検討を進めてきました。分散MIMOとは、1つの基地局のエリア内に多数のアンテナを配置し、それらと移動端末との間で無線伝送を行う技術です。アンテナを多く設置してエリアをカバーすることで、できる限り電波の死角をなくし、遮蔽物による影響の最小化をめざします。
竹内:ただし、今度は通信するアンテナの切り替えが大きな問題となりました。たとえば移動端末がアンテナAと通信しながら移動していたときに電波が遮られた場合、そのエリアを同じくカバーするアンテナBに通信相手を切り替えなければなりません。従来の電波であれば多少の電波の回り込みがあるので、遮られた後に制御しても十分に間に合ったのですが、電波の変動が急なミリ波ではそうはいきません。たとえ一時的であっても、通信が途切れてしまう恐れがあります。この問題を解決したのが、今回開発した「端末移動予測に基づくアンテナ制御技術」です。

NECの無線通信ノウハウとAI技術を融合

リードリサーチエンジニア
竹内 俊樹
― 端末移動予測に基づくアンテナ制御技術とは、どのような技術なのでしょうか?
竹内:基地局に備えたAIが、移動端末の現在位置から今後の移動位置を予測し、最適なアンテナを選択して自動で切り替える技術です。電波が遮蔽されたあとに切り替えるのではなく、遮蔽される前にアンテナを切り替えることで、電波が途切れることを防ぎます。2022年10月までにNTT様とドコモ様と行った共同実証実験でも、本技術の有効性を確認することができました。これにより、ミリ波でも安定した通信が実現できるようになるので、5Gで使用している28GHz帯や6Gで使用が想定されるミリ波の普及にも貢献できると考えています。
NECは、無線システムの事業に長く取り組んできた企業です。そのなかで無線信号処理や実装技術、ノウハウを蓄積しつづけてきました。さらに、近年ではAI領域においても世界トップクラスのコア技術を多数保有しています。今回の技術は、通信とAIという2つの強みをもつNECだからこそ実現できたアプロ―チであったと思います。
また、本技術の研究においては、事業部が分散MIMOの実証実験装置を早期に開発していたことも大きなアドバンテージになりました。
丸田:事業部としては、2014年頃から無線基地局に多数のアンテナを搭載したMassive MIMO技術に着目し、研究所と連携しながら研究開発、製品化を実現させてきたという経緯があります。2019年には、このノウハウをミリ波にも活かすために、学会等で注目されていた分散MIMOの検討をいち早く進めるための実証実験システムを開発しています。今回は、本システムに研究所の端末移動予測に基づくアンテナ制御技術を適用し、実証実験を行いました。また、NTT様やNTTドコモ様と連携し、要素技術の開発を分担できたことも、研究を加速させることができた大きな要因になったと思います。
村岡:分散MIMOは一つのシステムなので、端末移動予測に基づくアンテナ制御以外にも数多くの要素技術によって成立しています。たとえば、NECが開発している技術の一つに「干渉を回避する技術」があります。
式田:分散MIMOではエリア内に多数のアンテナを配置するため、互いの干渉が起きやすくなるという短所があります。そこで、私の方ではアンテナ間で連携して干渉を回避する技術を開発しました。各アンテナからの電波の受信品質などを測定し、そのデータを使って、どのアンテナ同士を組み合わせれば干渉しにくいかを判断していきます。干渉を回避する技術は、他にもさまざまなアプローチから研究が進められていますが、私たちの技術は分散MIMOの利用シーンを想定して、遮蔽物に遮られていても高精度に機能するものになっています。本技術はモバイル通信分野の難関国際会議VTC 2022-fallで採択され、発表をしています。

主任
式田 潤
28GHz帯5Gから早期の活用をめざす

シニアB5G・6Gエンジニア
丸田 靖
― 今後の展開について、どのようなことを考えていますか?
村岡:まずは何より、分散MIMOシステムをより実用的なものにしていきたいと思っています。ミリ波の大容量通信が、ストレスなく当たり前に使えるようになることが一つの理想です。そのためにも社内の他チームや社外パートナーとの連携を深め、研究開発をさらに推進させていきたいと考えています。
丸田:本システムは6Gの実現に向けて開発を進めてきたものですが、5Gにもミリ波は使われ始めています。まだ数は少ないですが、5Gでも28GHz帯のミリ波を使用するものがトラフィックの高いエリアなどに設置されつつあります。また、ローカル5Gにおいて、28GHz帯を使うということもあり得るかと思います。こうしたミリ波活用を加速させる材料として、今回の私たちの技術を6Gに先駆けて展開していくことも視野に入れて、研究と開発を進めているところです。


分散MIMOは、1つの基地局のエリア内に多数のアンテナを配置し、それらと移動端末との間でMIMO伝送を行う技術です。高速・大容量通信が可能なものの遮蔽に弱いというミリ波の性質を補う有効な手法として、かねてより注目を集めてきました。しかし、課題となっていたのが、アンテナと移動端末の間に遮蔽物が生じた際の通信です。ミリ波の電波は直進性が極めて高く遮蔽物の後ろまで回り込むことができないため、端末との通信はその時点で途切れてしまいます。分散MIMOは、接続していたアンテナとの通信が途切れてしまった場合には、他の分散アンテナと接続できるシステムですが、ミリ波は電波の変動が急なため、遮蔽されたあとに事後的に切り替え処理をするのでは遅く、通信が一時的に切断してしまいます。これに対し、今回NECでは基地局側に搭載したAIによって、接続端末の少し先の移動位置を予測して最適なアンテナを割り当てる技術を開発し、世界で初めて実証実験に成功しました。5Gの28GHz帯や6Gのミリ波の普及に貢献すると期待されます。
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