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AIで熟練者の暗黙知を形式知へ
行動模倣学習技術

NECの最先端技術

2022年10月19日

少子高齢化の進展に伴い、いま多くの業界で人材確保が深刻な課題となっています。退職する熟練者のスキルをどう継承するか。新しく獲得した人材のスキル習熟や共有をいかに効率的に行うか。NECの「行動模倣学習技術」は、こうした課題解決に貢献する技術です。いったい、どのような技術なのか。研究者に詳しく話を聞きました。

過去データを学習し、現状に最適な施策をレコメンド

デジタルテクノロジー開発研究所
ディレクター
外川 遼介

― 行動模倣学習とは、どのような技術なのでしょうか?

熟練者の暗黙知をAIが学習し、そのスキルや行動を模倣する技術です。例えば医療現場での処置と患者の症状経過データを学習すれば、経験豊富な医療従事者のスキルを模倣することが可能です。学習したAIに現在の症状に対応する処置を問えば、過去データと照合して最適な方法を提案することができます。暗黙知の可視化や属人化したスキルの共有に効果を発揮する技術です。
現在、さまざまな業界で人材不足が進んでいます。特に人口減少や高齢化に伴って熟練者の退職が続く業界では、スキルの継承は深刻な課題です。NECでは、この問題に対応するために主にロボティクスの分野で扱われてきた「模倣学習」の技術に注目して研究開発を進めてきました。
模倣学習は、AI自らがトライ&エラーを繰り返して学習する「強化学習」とは異なり、過去の事例データをインプットして学習していきます。そのため、満足な精度を出すには成功事例を大量に収集しなくてはならず、この点が実装へのボトルネックとなっていました。従来活用されてきたロボティクスではなく、人間のスキルに適用するとなればなおさらです。
そこで今回、NECでは成功事例だけではなく、従来手法では活用することができなかった失敗事例からも学習できる仕組みを開発しました。これにより、成功と失敗の両面から相補的にAIの精度を上げることが可能になり、実際の現場でも十分な精度を出すことに成功しています。

高精度なAIをスピーディにつくりあげる

― 具体的には、どのような仕組みなのでしょうか?

シミュレータを使ってAIの学習を進めていくのですが、その際「成功事例を模倣するAI」「成功事例を見分けるAI」「失敗事例を見分けるAI」という3種のAIを組み合わせています。これは、主に画像生成などの分野で使われる「GAN(敵対的生成ネットワーク)」を応用したものです。GANでは「データを模倣して作り出すAI(Generator)」と本物のデータを学習した「本物かどうかを見分けるAI(Discriminator)」の二つを競合させることで、より高精度な模倣データが作り出せるように学習させていきます。両社が敵対して競合することで、GeneratorはDiscriminatorを欺く高度なAIに成長していくわけです。
行動模倣学習では、GANと同様に「成功事例を模倣するAI(Generator)」「成功事例かどうかを見分けるAI(Discriminator)」を活用しつつ、もう一つのDiscriminatorである失敗事例を学習した「失敗事例かどうかを見分けるAI」を導入しています。成功事例を模倣して作り出すAIは、失敗事例を見分けようとするAIと協力し、より失敗事例と判断されないような高精度な模倣データ(=模倣された成功事例)をつくり出していきます。このように成功と失敗の両面からアプローチすることで、学習に必要なデータ量や精度の問題を解決することに成功しました。

― ほかに特長はありますか?

行動パターンを「点ではなく、線でとらえられる」ことも大きな特長です。行動を模倣するということだけにフォーカスするならば、その場面(点)だけを考えても成立します。この場面では、統計的にこういう行動する確率が高いと提示すれば事足りるからです。しかし、それだけでは最終的な目的を達成できるかどうかはわかりません。例えば医師が患者の血圧を下げる行動を考えた場合、血圧降下剤をたくさん投与すれば、当然血圧は下がります。しかし、それでは患者さんは、当然健康を害してしまうでしょう。あくまでも目標は、患者さんの健康状態が改善することです。たとえ薬剤を投与して短期的に良くなったとしても、その後悪化してしまうようであれば意味がありません。ですから、行動データは単純な点ではなく、連続的な線として捉えてアプローチしていくことが重要です。私たちの行動模倣学習は、こうした視点に立って構築されています。
また、もう一つ挙げるとするならば、扱うデータが数値やテキストなどの軽量なデータであるということも特長です。スキル継承のためにはさまざまなアプローチがあると思いますが、私たちの行動模倣学習技術では、カメラの設置や映像データ、画像処理などは必要ありません。既にある数値やテキストなどのデータをそのまま使うことが可能です。そのため、導入もデータ学習も非常にスピーディです。

医療・大規模プラント・セールス領域での実証を検討中

― 現在、技術はどこまで完成しているのでしょうか?

医療機関を中心に実証を進めているところです。たとえば北原病院グループ様にご協力をいただいた実証では、リハビリテーションの計画策定を支援するスマートフォンアプリを作成しました。約2年にわたる実証を経て、北原病院グループ様からは計画を作成する際の正当性が46%向上したとのご評価をいただいています。また、新人の方にこのアプリケーションを提示することで理解や考えも深まり、リーダーや先輩への質問もより鋭く的確なものになったとの話もいただきました。
他にも、東北大学 医学部様と協力して糖尿病の患者さんへの投薬量をレコメンドする技術の研究を進めています。血糖値のコントロールは、熟練の専門医でしか行うことのできない非常に繊細な医療行為です。ここにAIが適用できないかと考え、検証を進めてきました。現在は、かなり高い精度で数値を提示できるという手応えを得られたところです。
他にも、熟練者の退職による人材不足が深刻化しつつあるプラント・工場運営での応用も検討していますし、少し毛色の変わったところではトップセールスのスキルを学習することで営業全体での売上向上をめざすというセールス領域への応用も考えています。
行動模倣学習は、さまざまな領域に活用できる可能性をもった技術です。さらにアルゴリズムの洗練を進めながら、幅広い現場での社会実装をめざして応用を進めていきたいと考えています。

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行動模倣学習は、一般的に「模倣学習」と呼ばれている技術をもとにNECが開発したものです。主にロボティクス分野で扱われてきたこの技術ですが、NECでは私たち人間のもつ暗黙知の学習へ応用することに着目し、研究を続けてきました。また、成功例だけでなく失敗例からも学習できるようにしたことで、AIの精度向上を実現できたことにNECならではの独自性があります。

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