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NEC歩行分析技術で、より健康な歩行姿勢へ
歩行センシングインソール「A-RROWG」

NECの最先端技術

2020年2月21日

足元から美しい歩行姿勢をサポート 歩行センシングインソール「A-RROWG」

NEC、株式会社FiNC Technologies(注1)、株式会社マクアケ(注2)が共同で企画・開発している歩行センシングインソール「A-RROWG(アローグ)」は、アタラシイものや体験の応援購入サービス「Makuake」を通じてサポーターを募るとわずか数時間で目標を達成。すでに目標の8倍を超える応援購入総額を集めています(2020年1月時点)。「A-RROWG」とは、どのような製品なのか。研究者に話を聞きました。

いつまでも健康的に、美しく歩き続けるために

データサイエンス 研究所主任 福司 謙一郎
データサイエンス研究所
主任
福司 謙一郎

― 歩行センシングインソール「A-RROWG」は、どのような製品なのでしょうか?

福司:ユーザの「歩容≒歩行の質」を分析できるインソールです。歩行速度、歩幅、接地角度、離地角度、足上げ高さ、外回し距離を総合的に分析して、健康で理想的な歩容かどうかを判定することができます。
製品としては、専用インソールとスマートフォンアプリから構成されています。インソールに内蔵した加速度・角速度センサから収集するデータをスマートフォンアプリ経由でクラウドへアップロードし、歩容を高精度に分析できるという仕組みです。NEC歩行分析技術を核にして導き出される分析結果は毎日「歩行分析スコア」として点数化され、歩容改善のためのアドバイスや最適なトレーニングの映像とともにスマートフォンアプリへフィードバックされます。日常生活を送りながら歩行姿勢を改善し、より健康的なくらしを実現する製品です。歩容の判定やトレーニングのアドバイスには、株式会社 FiNC Technologies様にご支援をいただいています。

― 歩行姿勢の改善に取り組んだ目的やきっかけは何でしょうか?

福司:実はこの製品開発に携わる以前に、病院内のさまざまな診療科を見学する機会がありました。そのなかでとりわけ印象的だったのが、整形外科で出会った、歩くことができなくなってしまった患者の皆さんでした。病院の方からは、ご高齢の方は一度歩けなくなってしまうと、もう歩く意欲を失ってしまって寝たきりになってしまったり、認知症につながったりすることもあるという話もうかがいました。これを機に、ふだんの私たちの歩行がいかに重要かということに気づき、注目するようになりました。最近では「フレイル予防」(注3)という言葉も注目されていますが、歩行が困難な状況になる前に、健康な状態を維持できるようなヘルスケア・ソリューションを実現したいと考えたのがきっかけです。

超小型デバイスで高精度な分析を実現

データサイエンス研究所 エキスパート 梶谷 浩司
データサイエンス研究所
エキスパート
梶谷 浩司

― なぜインソール型のデバイスにしたのでしょうか?

梶谷:確かに、足のウェアラブルデバイスというと、靴のミッドソールに直接埋め混んでしまう方法や、靴の外側に装着する方法もあります。しかし、インソールという形態をとったのは、汎用的にさまざまなシューズに使えるようにすることが一つの大きな目的でした。また、もう一つ最大の目的としては、インソールの土踏まずのいちばん厚みのある部分に埋め込むことで、自然な歩行感覚のまま本デバイスを使えるようにしたいというねらいがありました。

黄:想像してみてください。本デバイスが目立つところに装着されていたら、常に計測を意識して緊張してしまいますし、逆に不自然な歩行姿勢になってしまうと思いませんか? 意識せず日常的に本デバイスを使っていただいて、ありのままの歩行姿勢を計測することにこそ意味があるというのが本製品のコンセプトだったので、インソール型という選択をとりました。

梶谷:無理なく、日常的に使っていただくということを考えたときに、充電の手間もできるだけ避けようと考えました。たとえば1~2週間ごとに充電しなければならなかったとしたら、はじめの2~3回くらいはもの珍しくて充電するかもしれませんが、そのあとは面倒になって靴の中で放ったらかしにしてしまうかもしれませんよね。だからこそ充電が不要で、靴の中に入れておくだけで自然に計測ができるようなデバイスをめざしました。
薄くて小さいサイズが前提となったことで、当然苦労も生じました。電池のサイズが小さいので、電池が切れるまでの期間も短くなります。今回のデバイスでは、徹底した省電力化を図ることで、充電不要で理論値として1年間使い続けられる性能を実現しています。

デーサイエンス研究所 主任 黄 晨暉
デーサイエンス研究所
主任
黄 晨暉

黄:省電力化には、歩行時とそうでない時を識別できるアルゴリズムをうまく活用しています。加速度や角速度のデータから安定歩行時の特徴をリアルタイムに検出し、歩行時だけ計測が起動されるように設計しています。座って足を動かしているだけのときや、階段を上っているとき、電車に乗っているときの動きなどを誤検知することはありません。逆に、歩行時以外は徹底してスリープ状態にすることで1年間という電池寿命を実現しました。

福司:省電力性能に加え、NECらしい高精度な分析ができることも特長です。一般的に加速度センサや角速度センサのデータは、誤差が蓄積しやすく、扱いが難しいとされています。

梶谷:収集された生の歩行時のデータだけをただ単純に見ると、歩きながら空に向かって飛んで行ってしまうようなデータだったりするんです。そのくらい誤差が生じるものなんですよね。

福司:そこで、私たちは足が接地しているわずか1秒未満の短いタイミングの周期的な動きに注目して、ノイズを良好に補正できる仕組みを設計しました。これは普通であれば研究者が研究用のPCにデータを取り込んで行うような処理です。しかし、今回はこの補正処理をインソールの中に内蔵したマイクロコンピュータ内で実現しています。ここまで高精度に歩容を分析できるデバイスは他に無いのではないでしょうか。

センサ波形と、自動的に1歩行周期が区分された結果zoom拡大する
センサ波形と、自動的に1歩行周期が区分された結果
実際に計算した歩行軌跡
実際に計算した歩行軌跡

さまざまな環境データとの連携や全身のセンシングによって広がる可能性

― 本技術のこれからの目標や展望を教えてください。

福司:まず一つの大きな目標としては「歳をとったら歩けなくなる」という常識を変えたいと思っています。ユーザのみなさんの歩容を改善し、より長く健康でいていただくということが最終的な目的ですから。ただ、そのための手段としては、インソールだけにこだわっているわけではありません。スマートフォンはもちろん、他のスマートウォッチなどのウェアラブルデバイスなどとも連携して、独自のデータベースを構築していくという方法も視野に入れています。

黄:そうですね。たとえば、路面の傾斜や雨で濡れていないかなどの情報やユーザの体調など、さまざまな種類のデータを総合的に組み合わせることができれば、もっと立体的に一人ひとりの生活像が見えてきますし、アドバイスもより正確でふさわしいものになります。

梶谷:同時に、今回のプロジェクトは、私たちが長く取り組んできた身体の動きをいかにセンシングするかというチャレンジの一環でもあります。インソールで得た知見を活かして、足だけにとどまらず、さまざまな部位をセンシングすることによっても、幅広い展開の可能性があると考えています。

黄:全身をセンシングすることができれば、スポーツ選手の動きを計測して可視化することもできますよね。子どもたちのトレーニングなどに役立てられるかもしれません。また、工場における熟練者のノウハウ継承にも応用できるのではないかと考えています。たとえば自動車や船舶の塗装には、高度なノウハウが必要だと聞いたことがあります。この場合は塗装する手の動きをセンシングする必要がありますが、熟練者の動きをデータとして可視化できれば、スムーズに技術を継承することができるようになります。

福司:これからの時代において自動化・機械化がさらに進んでいったとしても、人間の経験や勘となる場面は必ず残ると思います。そうした場面において、人に蓄積されたノウハウを可視化して継承していくことはさらに重要になってくるでしょう。今回のインソールを端緒として、これからも人体をセンシングして社会に活かせる技術の研究を進めていきたいですね。

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