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dotData社インタビュー

従来比10倍の圧倒的成果の実現! エコシステム型研究の事業化で業界をリードするdotDataの今、そして未来

2019年9月24日

dotData社インタビュー

2018年2月、1つのユニークな成り立ちを持つスタートアップ企業が、シリコンバレーに設立されました。NECデータサイエンス研究所で最年少の主席研究員となり、AI応用のコアテクノロジーとなる予測分析自動化技術を開発した藤巻遼平を創業者とするdotData, Inc.(以下、dotData)です。その技術は、あらゆる企業のビジネスの成長に欠かせないデータサイエンスのプロセスを大幅に自動化し、迅速に結果をもたらせることから、第三者機関である米国の市場調査会社、Forrester Researchによる機械学習ソリューション評価でも、自動化分野のリーダー的存在であると認められました。
dotDataは、NECが擁する「人材」と「技術」を社外に出して、外部の知見や資金と融合する「エコシステム型研究」を進め、迅速な事業化と従来比10倍の圧倒的な成果を目指す弊社として「戦略的カーブアウト」スキームに基づく最初の企業として、短期間に特筆すべき成長を見せています。
これからの研究開発と事業化の走る実験室ともいえるdotData設立から1年余り。この試みを推進したNEC執行役員常務 兼 CTOの西原基夫をはじめ、藤巻遼平を中心としたdotDataのコアメンバーがシリコンバレーのオフィスに集まり、これまでの軌跡と今後の抱負について語りました。

参加メンバー

西原基夫(にしはら もとお)
NEC 執行役員常務 兼 CTO

藤巻遼平(ふじまき りょうへい)
dotData CEO

浅原理人(あさはら まさと)
dotData Principal Software Architect

楠村幸貴(くすむら ゆきたか)
dotData Principal Research Engineer

村岡優輔(むらおか ゆうすけ)
dotData Senior Data Scientist

成田和世(なりた かずよ)
dotData Senior Software Engineer

限界を打ち破る新たな研究開発と事業化の形

西原:研究成果を企業内に閉じて実用化する従来型の手法は、時には限界があります。一つは、大企業の内部にいると組織への依存が強すぎて、新たな課題に取り組もうとするコミットメントや当事者意識が弱くなるためです。特にdotDataのような革新的な技術を迅速に世の中に出していこうとするなら、中途半端なやり方では難しい。最適な形で成功させるには、100%のコミットメントが必要といえます。もう一つはスピード感です。特にAIのような先端領域では競争が激しく、重要です。たとえ2年程度の遅れでも致命的なものとなります。大企業のプロセスは非常に洗練されていますが、スピードの面で十分でない。一方、そのやり方を急に変えることは難しい。とすると、こうした技術を実用化する最も良い方法は、それにコミットできる優れたエンジニアを揃え、その可能性を理解してマーケティングできる専門家も雇い、技術や事業を自由設計できる環境を整えることです。そのためには、外に出て独自の資本を得て進めることが有効です。そうすることで、当事者たちにオーナーシップの意識や不退転の決意も生まれ、最高のチームを作り上げることができると思います。

もちろん、何でもこの方法で進めれば良いということではなく、当人たちが、あえてリスクを冒す意識と、世界で勝負できる強い技術を持っていることが大前提です。そういうプロジェクトがあれば、これまでとは違う形であってもNECとしてサポートしたいと思ったことが、dotDataのような戦略的カーブアウト企業を生み出すきっかけでした。

藤巻:dotData設立の準備には1年ほどかかり、その間、NECの社内で動いていたときには、なるべく早く外に出るほうが良いと考えていました。しかし、今思い返してみると、それは良い1年だったと思います。目的は出ることではなく成功することにあり、dotData設立後に弊社の投資家となり最大のパートナーにもなるNECと同じゴールを共有して100%の信頼とサポートを得られなければ、うまくいかないわけです。
ところが現実には、私と西原さんが意気投合してNECの本社に提案したときには、なかなか認めてもらえませんでした。それは、我々が外に出ることの意義ばかりを強調していたからです。dotDataの設立がNECにとってどのような意味を持ち、メリットがあるのかを説明するようにしてから、同じ意識を共有できるようになりました。その意味からも、NECとの信頼関係を築くために十分な対話の時間を持てたことが重要だったのです。
もちろん、どのタイミングで出るのが最善だったか、その結果、何が起こっていたかということはわかりません。初めてのことなので綿密な計画が求められる一方、我々にも知らないことが色々とありましたし、マーケットについて調べたり、最初のお客様に向けてのプロダクトを作る時間も必要でした。そういう期間が持てたという意味で、1年かけてdotDataの設立に至ったことは良かったと感じています。
また、私はNECのシリコンバレーの研究所で、7年間に渡って日本のマネジメントから離れた環境の中で、ある程度自由に動くことができました。ただ、やはり同じシリコンバレーでも、NECの研究所でできたことと、独立した組織として研究開発を行う現在の状況でできることは大きく異なるので、まだ始まったばかりという感が強く、新たに学んでいることも多いです。

西原:一昨年の夏に社内幹部間の会議があり、私と、新事業開発を進める藤川執行役員が、本件を付議しました。その席上でも人と技術を外へ出すことの是非が議論となりました。企業にとっての1丁目1番地ともいえる貴重なリソースをなぜ流出させるのか、ということです。
NECの北米研究所の研究者には、NECを離れて成功した人が多くいます。それで、そういう外で成功した人たちにヒアリングをした結果、「世界で勝負してみたい技術があったのだけれど、特に新しい領域は、大企業の中に居ては難しいと気づいた」という声を多く聞きました。そうであれば、その人たちをNECとの関係の中でどのように活性化するかを真剣に考えていかないと、宝の持ち腐れになってしまいます。優秀な人をそのままにしておけば、結局は外に出てしまうわけですね。
私は社内の会議で、dotDataのような展開は一過性のものではなく、ずっと続けていくべきものだと主張しました。そうしない限り、いくら研究段階で優れた技術があっても、実用化に繋がらず、結局、NECの事業貢献にもつながらないからです。こういう話をしたことで、社内にも賛同者やサポートしてくれる人たちが増えて、戦略的カーブアウト戦略を推進する後押しになりました。
そして、dotDataの技術はNECのビジネスにも役に立つわけですから、実際に藤巻が外に出る段になったときにはNEC側もその受け皿を作り、セールス部門の人たちも販売に協力してくれるようになったのです。つまり、両者にとってのWin-Winの関係が生まれたといえるでしょう。その結果、私を含めたNECの幹部も、こういうビジネスのやり方があることを学んだと思います。

藤巻:この1年で、私たちとNECの双方にノウハウが蓄積されましたね。こういうことができたのは、外に出る我々だけではなくNECの内部に本社を粘り強く説得できる人が居たからです。この戦略的カーブアウトの仕組みには非常に可能性を感じていて、NECだけでなく日本のR&Dの新しいやり方の1つになると思っています。

急ピッチで進められた開発とプロダクトへの自信

藤巻:dotDataの技術の大元の話をしますと、2015年に楠村、浅原、村岡の3人を北米に呼び寄せて、そのときに、3つの研究テーマを一緒に立ち上げたんです。その中で、楠村と一緒に取り組んだテーマが、今の技術の基礎になっています。「関係データから特徴量を自動的に作る」というものでした。
浅原と一緒に立ち上げたのは、ビッグデータ分析のためのApache Spark基盤上で異種混合学習の学習・予測処理を大規模化するというものです。村岡とは、ソリューション系の研究をしましたが、結果的には全てのテーマがdotDataの基礎技術となりました。
2016年6月に、三井住友フィナンシャルグループの谷崎専務の訪米中にプレゼンテーションを行うチャンスがあり、そこでPoC(概念実証)を実施することになりました。PoCが決まってからは、単なるコンセプトではなくお客様の環境で動作・実証するためのプロトタイプを作成するために、他のプロジェクトを全部止め、1つに集中して開発を進めましたが、そこからの3ヶ月はもう大変でした。
結果的にトライアルは成功したのですが、そのときの興奮といったら、まさに研究の醍醐味そのものだったといえます。あのトライアルは人生に一度しかないと感じるほどで、そこから、この技術を少しでも早く何とか世に送り出さなくてはという思いが生まれました。

楠村:実は、私がお客様環境でこの作業を担当したのですが、私からトライアルのことを振り返ると、本トライアルは時間制限尽きのブラインドテスト形式で実施されました。これは、分析用のデータが与えられてから1週間で予測値を提出する必要がある、さらに、正解データはこちらが予測値を提出するまでもらえない、という真剣勝負です。しかもそのプロセスはすべて自動で実行され、追加のチューニングは許されません。当時は使いやすいGUIなどなく、スクリプトベースでの実行でしたので、たった一つの入力ミスも許されない。すべてのプロセスが問題なく動作し、精度の良いモデルを作るための準備や確認作業は大変でした。
最終日にお客様と結果を確認し、非常に良い成果が得られたときの興奮は、未だに心に焼きついています。この経験が、これを早く世の中に出さなくてはいけないという確信に変わりました。思いはあるのに、どうしたらよいかわからない。何か方法はないだろうかと、直接、藤巻に相談したところ、彼自身も色々と考えていて、なかなかこれはというものがなかったのですが、ある日、後のdotDataへとつながるアイデアを聞かせてくれたのです。

浅原:私も初期からのメンバーですが、研究プロトタイプをPoCに向けて仕上げていく中で、やはり単にテクノロジーがあるだけでは会社にも社会にも貢献できないし、モチベーションが続かないということに気づきました。当時は、本当にPoCで忙しかったのですが、次のステップはどうするかと考える中で、戦略的カーブアウトもオプションの1つとして出てきました。

楠村:私は、自分たちの技術がエポックメイキングだと信じていましたから、どんなやり方であれ、これを世に出す上で最短な経路であれば、その手段を取るべきと思っていました。そして、その方法を聞いたときにはすぐに正しい、と感じました。

村岡:私も同じで、藤巻と一緒に出る覚悟でしたね。それよりも、藤巻が大変なハードスケジュールで動いていたので、健康状態が心配でした。

藤巻:楠村、浅原、村岡の3人は、この技術を一緒に作りあげると決めていたので、途中段階では、共に一喜一憂してたよね。私から、もしかしたら、会社を辞めることになるかもしれないと聞かされたりして。成田は日本であとから耳にしたので、気を揉まずに済んで良かったともいえるけれど…。

成田:私は、日本からプロジェクトに参加していたのですが、新会社を作るという話は、2017年の秋ごろに知りました。知ったときには、驚きましたね。設立に向けて動いているよと…。

藤巻:やはり、チャンス掴むうえでのベストなタイミングというものがあると思います。我々の知識や経験のレベル、そして、マーケットの状況などが整ったのが、ちょうどそのときだったんです。1年遅れたら、ダメだったでしょうね。
2019年に入って、機械学習の自動化分野が北米マーケットで急速に広がっており、ちょうど我々の製品も市場に投入されていて、その良さを理解できる人が居るという状況になってきました。
市場調査会社のForrester Researchのグローバルな調査でも、機械学習の自動化分野において急成長しているスタートアップのランキングにおいて、dotDataはトップ3に入りました。これは北米マーケットでとても大きな意味があります。ランキングが作られるというのは、この分野が企業の間で認知されていることを意味しています。もし、ここに乗り遅れていたらアウトでした。

マグ

マインドセットを共有するdotDataの開発スタッフ

浅原:シリコンバレーで仕事するということについてですが、日本で研究していたときと比べて、やはりIT分野のテクノロジーの最先端にいることを感じます。勉強会やミートアップに参加すると、すごいエンジニアたちが話しているわけです。そういう人たちが、同じタイムゾーン、同じ場所にいて、高度なテクノロジーと未来を語っている。そこから、良い刺激も受ける一方で、危機感も煽られます。
日本の居酒屋などが恋しいかと訊かれれば、私の場合には、こちらで最初に住み始めたアパートの目の前にたまたま日系のスーパーがあったので、それでしのいだりしました(笑)。

藤巻:個人的には、シリコンバレーだからできるとか、できないということはあまりないと思います。
北米でやることの意義、何が一番日本と違うかというと、競合の多さでしょうか。北米には資金が集まっているため、ともかく、山ほどスタートアップがあり、実際には全く違う製品なのに、似たようなことを言っている競合が多数います。結果として、お客様がスタートアップと話すのに疲れていたり、ノイズが大きい。日々の競合の多い北米では、競合との比較やポジショニングを特に気にしていると感じます。
たとえば、製品を売り込みに行く場合でも、我々が何をやっていて、他とどこが違うのかを30秒で説明できないと、興味を持ってもらえずに、それ以上は話は聞いてもらえない。特に、後者の、他と何が違うのかというところが重要で「こういう風に違うから、あなたは私の話を聞く必要がある」と説得できる必要があり、日本よりもお客様の目線が厳しいと感じます。一方で、その中で競合と切磋琢磨することで、我々自身も進化していくことができます。

浅原:あとは、スピード感でしょうか。私は、Databricksという会社が主催するApche Spark関連の最大イベントSpark Summitに参加していますが、最初の年はホテルの会議室のような狭いところで行われていました。そのときもすでに参加者であふれていたのですが、翌年から毎年1000人ずつ増えていくような状態で、Databricksのビジネスも年ごとに倍、またその倍とスケールアップしています。そんな風に1年、2年でまったく世界が変わってしまうようなことが、ここでは起こっており、我々もそのスピードについていく必要があります。

藤巻:人材に関しては、北米でも日本でも優秀な人材を雇うのはとても難しいです。チームを作るのに重要視しているのは、チームのマインドセットの共有です。dotDataの現在のステージにおいては、それぞれの領域でデキる人で、かつ、我々の価値観にフィットする人を集めることが大切です。ビジネス・技術のメンバー問わずに、dotDataが自分たちのプロダクトであり、本当にスゴイものを作っているんだと感じることが大事だと思います。
各人のロール(役割)についても、日本とは少し違いがあるかもしれません。例えば、村岡はこのプロジェクトの共同創業者の一人ですが、dotDataで初めに採用したのは彼の上司でしたが、上司だから偉いという訳ではなく、ジョブが違うというだけです。村岡のことは、データサイエンティストとしてみんなが非常に尊敬していますし、役割やマネジメント能力、エンジニアとしての特性は、それぞれ異なっていて当然だと考えています。

人材については、NECから独立する大きな利点の一つといえます。NECはソフトウェアの会社ではないので、dotDataが必要とするエンジニアを採用するのは非常に難しいからです。また、NECのような大企業だと同じ大企業のGoogleなどと同じ土俵で戦わないといけません。一方で、スタートアップとしてのインセンティブ、ストックオプションはわかりやすいですが、それだけではなく個人の仕事が製品に対して大きなインパクトを出せるというようなことによって、優秀な人材を惹きつけることができます。

西原:その意味で、既存事業におけるNECという看板や、大企業であるNECという看板が、新事業領域ではかえって邪魔をしてしまうことが、あり得るんだね。スタートアップに来る人は、そこに自分の夢や成功パターンを投影するわけですから。藤巻も、NECにいたら、そのやり方に合わせる必要もあるし、NECの時間軸や情報に左右される可能性もあったでしょうしね。やはり、思い通りにはできなかったと思います。

藤巻:実際のところ、GoogleやFacebookからもオファーがあったけれども、我々のところに来てくれた人も結構いるんですよ。それで、ビジョン、マーケット、技術、スタートアップとしての利点など、理由は人それぞれですが、dotDataを選んでくれています。

浅原:そうですね。結構本気で、自分が倒れたら会社も倒れると思っていますよ。

成田:私はNECも大好きだったので、こちらに来ることは、かなり迷いました。

藤巻:我々もNECは好きですよ(一同、大爆笑)。

成田:それでもdotDataに移籍したのは、まさに自分の責任の大きさが、よい意味での刺激になると思ったからです。それから、自分の成長が会社の成長につながり、dotDataが成長すればNECにも貢献できるということですから、自らの研究内容を考えたときに、dotDataに移って続けるほうが適していると感じたということもあります。

達成した成果とズレた予想

西原:私は、社内のキックオフにて、ムーンショット的な、つまり、これまでなかったような10倍の成果を上げるんだといって、研究者たちを鼓舞しました。実際にdotDataは、そのレベルの成果を上げていると思います。たった1年で、これだけの製品を作って、フォレスターの評価でリーディングのポジションにいるわけですからね。日本人によるスタートアップでそこまで行くというような話は、ほとんど聞いたことがありません。それに伴って企業価値もあがっていますしね。
そういうことをNEC側から見たら、大ヒットなんですよ。重要なのは、こうしたスタートアップをNECが邪魔せずに見守るということです。この技術を社内に留めていたら、こういった成果はどれも達成できなかったでしょう。この成功が、今後のNEC内部のR&Dの在り方に大きな影響を与える可能性もあります。もちろん、NEC内部のR&Dの在り方に関しては、他にもいろいろな施策や改革を進めようと考えていますが。
あとは、dotDataの事例に続く挑戦をどうするかですが、dotDataの場合には、藤巻とこのチームだったから達成できたという面が確かにあるわけです。第2弾、第3弾は、そういう体制がなくても、dotDataの6割くらいの成果は出したいですし、そうならないとマスプロダクション的な成功とは呼べません。もちろん、それはNEC側の課題となりますが…。

藤巻:もともとの予想からズレているところも色々とありますね。特に、マーケットの立ち上がりは思っていた以上に早い。半年から一年くらいずれていると思います。
また、予想通り難しく、ある意味、予想よりも難しかったのは、北米でのセールスです。北米、そしてスタートアップにおけるセールスのやり方を知らなかったんですね。それも、ようやくよい雰囲気になってきて、フォレスターで認知されたこともいい後押しになっており、市場でのプレゼンスは確実に高まっていると感じています。
採用は予想以上に苦労しました。良い人は引く手あまたですし、1年前はまだNECの中にオフィスを間借り状態の得体の知れないスタートアップで、インタビュー(面接)に来ても日本人が4人いるだけでしたから、今思えば北米の優秀な人材がそんなところに就職したいのかという話です。
特に、ソフトウェアエンジニアの採用は、北米のソフトウェアエンジニアのコミュニティへのコネクションも乏しかったため、インタビューを繰り返しても、優れた人が来てくれないという状態が続きました。
こちらのエンジニアは、チームとマネジメントの質や、自分がパフォーマンスを発揮できる環境かという点を非常に重視するので、単に報酬が良くてポジションを用意しましたというだけでは、来てくれません。最近は、市場でのプレゼンスが上がるとともに、オフィスでもローカルメンバーが多数派となり、現地のスタートアップとして見てもらえるようになったので、1年前のように苦しむことはなくなりました。

浅原:私は、今、エンジニアリングのリードのポジションにいるので、採用希望者のインタビューも最初に行うのですが、候補者はやはり給与よりも、ビジョンと開発プロセスのほうをとても重視しますね。実際に、最終的にうちに来てくれる人ほど、そのあたりはシビアです。そういう質問に、しっかり答えられなければ、来てくれません。

dotDataの展望と日本型R&Dの改革

楠村:今後の展望という意味では、やはり世界に技術を早く届け顧客を幸せにしdotDataを成功させていきたいということにつきます。短期的な観点からは、効率的な組織やワークフローを構築することも必要です。高い視点を持って改善のサイクルを定常化するような工夫を続けていきたいと思っています。

浅原:私の立場からは、製品の機能開発には終わりがないので、エンジニアリングのチームをうまくスケールしていって、それらをいち早く作り上げることが課題です。そして3年から5年で、我々の製品が企業内でExcelやWordのような存在になって「分析するならdotDataだよね」といわれるようになりたいと思っています。

村岡:私は、dotDataに入る前から、色々なデータ分析のプロジェクトに関わってきたのですが、分析自体はうまくいっても、その後の運用に向けた調整などの問題でなかなかビジネスに結びつかなくて悔しい思いをしていました。dotDataの技術は、分析を精度良く実現するのはもちろんのこと、前処理から運用までを自動化でカバーするため、ビジネス部門との連携、運用も非常に容易になります。振り返ってみて、dotDataがあれば、昔のプロジェクトも成功に導けたのではないかと思っています。分析をビジネスに活かす技術としてとても革新的な素晴らしい技術と自負しているので、企業の皆さんにはぜひ使っていただきたいですね。

成田:私は、日本のNECにいたときからこのプロジェクトに遠隔参加していたのですが、特徴量自動設計という、dotDataにとって非常に重要な技術を手がけています。これからも、この技術の強化を責任持って行っていくと共に、セールスの担当者やデータサイエンティストの方など、専門分野の異なる人たちとのコミュニケーションも積極的にとるようにして知見を広め、自分も成長してdotDataに貢献できればと考えています。

藤巻:私としては、NECとの約束でdotDataを大きく成長させることが短期的なゴールですね。 最終的にIPOするのか、どこかに買収されるのか、あるいはNECに買い戻されるのか、それはわかりませんが、3年では難しくても5年あれば1つの結論は出せるかなと思います。まあ、 それまでにまだ3つか4つの非常に大きな山があって、まずUSのセールスをきちんと立ち上げるとか、そのスケールに見合う仕組みづくり、競合とのコンペティションなどに対応していくことになるでしょう。
私はあまり長期的な予想や計画は信じないのですが(笑)、3年くらいすると、dotDataの文脈の中で、また面白いことが起こっているはずです。プロダクトも成熟しているでしょうし、そのときにスタッフが100人、あるいは200人規模になっていても、現在のスタートアップスピリットを忘れずに、成長し続ける会社でいたいと思っています。
あと、これは全員の思いでしょうけれど、プロダクトが世界中のお客様に使われていくことが嬉しいですね。その点が、純粋な研究のコミュニティとスタートアップとの最も違う点かなと思います。
イノベーション経営を阻む3つの関門として、魔の川(研究から製品開発に移る際の障壁)、死の谷(開発から事業化を行う際の障壁)、ダーウィンの海(他企業との競争に晒される障壁)というものがありますが、dotDataのような小さな組織では、研究・開発・事業を一つのビジョンと意思決定系統のもとで進めることができる。大企業のR&Dの一つの形として、この仕組みがうまく回ることを望んでいます。
第2、第3のdotDataについては、この仕組みをフレームワーク化してリピートするとともに、最も重要な人の問題もあると思います。我々が成功することができたら、何らかの形で還元していけたらと考えています。

西原:人材に関して、実は日本の優秀な研究者や技術者というのは、大企業や大学、国立の研究所にいるんですよ。R&D指向のスタートアップの市場が、米国ほど成熟していないですからね。しかも、彼らは組織の奥の院にいて、そこから出てこようとしないのですが、新事業を立ち上げるということを考えると、その人たちをビジネスやマーケティング側の人間とつなげて、化学変化を起こす必要があると感じています。
一方で、アメリカ型のスタートアップのパターンには2つあって、1つは、エンジニアのやりたいことが企業にとってはノンコア事業で、それならば外に出なさいと会社の側から促すケースです。もう1つは、やりたいのはコア事業だけれども、今いる会社では面白い仕事ができそうにないと感じて、仲違いする形で出て行ってしまうというものです。いずれにしても、そのようなスタイルは、日本の組織人材を掘り起こす目的には合わず、日本のビジネス環境にも合わないと思います。
ただし、外に出たあとも元の企業がサポートしてくれるなら、話は別でしょうと。その代わり、最大限の成果を上げてもらって、その果実の一部を元の企業も得られるような仕組みを作る。そういう風にすれば、シリコンバレーのようなものがない日本でも、イノベーションを起こせると考えて試みたのが、dotDataでした。
これを根付かせていく上で、第2弾、第3弾が難しいという話はしましたが、それができるチーム作りの支援を企業として行うことが求められますね。日本の優秀な研究者や技術者の中からチームスピリットをうまく引き出し、さらにかれらに大企業を「場」として利用させることで、かれらが自ら欲するインパクトのある仕事ができるようになるでしょう。
こういう戦略的カーブアウトの話は、スタンフォード大学でも講演して、学生や起業家、投資家にも驚かれました。アメリカのスピンアウトに見られるノンコア事業や、仲違いではない形で、コア事業の人材と技術を外に出すことが、果たして可能なのかと…。しかし、それこそが、日本ならではの和のスピリットを重んじながら、共同でエコシステムを構築し、拡大するやり方ですよね。
それを継続的に行うためには、「場」である企業がもっと魅力を増すと共に、戦略的カーブアウトした企業の実績が重要です。その意味からも、dotDataには成長を続けてもらうとともに、NECとのエコシステムの共有を継続し、このスキームを根付かせる原動力になってもらいたいと思っています。

(取材・文/大谷 和利)

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