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研究開発について

2022年4月1日
(2022年4月1日更新)

プロフィール

日本電気株式会社 執行役員
山田 昭雄

1993年に工学博士号を取得後、NECに入社。メディア産業のデジタル化を支えるデータ圧縮理論を手始めに、映像認識からICTアーキテクチャまで幅広く手掛ける。JPEG/MPEGの名前で知られる国際標準化でも活躍。2度の北米勤務を経て、AI関連の活動を統括するデータサイエンス研究所を開設、初代所長を務めたほか、エンタープライズビジネスユニット理事などを歴任。研究とビジネスの両面から社会にアプローチしつづけてきた。

「すごい」よりも「ありがとう」と言われる研究を

社会全体の利益最適化をリードする研究所へ

NECの研究所は、いわゆる普通の「研究所」とはすこし違うかもしれません。当初は自社の事業に資するような先端的な技術を生み出す場として誕生しましたが、1990年代からは複数の技術やアイデアを組み合わせた社会ソリューションの提案に挑んできました。さらに近年では、従来の常識にとらわれない柔軟な事業化フローを設計して成果をあげています。例えば、研究者自身が事業をスピンアウトさせることもありますし、研究開発の初期段階からお客様と一緒に独立会社を起ち上げることもあります。社内の事業部を通じた製品化という固定概念にとらわれず、開発した技術の特性にあわせて柔軟にEXITパスを使い分けることで、研究成果の事業化をスピーディ―に実現してきました。こうした試みはコーポレート研究開発の新たなスタイルとして、経営学の世界でも注目されています。

事業化フローの改革、すなわち出口改革が一定の成果をあげたいま、私たちは研究テーマ設定、つまり入口改革にもう一度向き合っています。新たに見据えているのは、社会課題解決のための「全体最適」をリードする研究開発です。例えば、環境問題では近年カーボンニュートラルに向けた動きが加速し、さまざまな企業や国で懸命に取り組みが進められています。しかし、いまや逼迫した課題となった気候変動に対応するためには、一つの企業や組織だけでなく、さまざまな事業体や国家が連携し、一丸となった取り組みが必要不可欠です。さまざまな機関やタスクフォースなどがその舵取りを担おうとしていますが、私たちNECも同様に、ICTを軸として多種多様な産業へ非常にスムーズに貢献できる立場にあるプレイヤーです。さまざまな人々や企業、国に働きかけて「全体として」うまく機能させるにはどうすればいいのかを追求することができます。これは一つの大きな価値だと言えるでしょう。

思えば、これまで私たちNECを含めた多くの企業や組織が「生産性÷コスト」の最大化を求めて開発を進めてきました。しかし、いま時代が直面する地球規模の課題は、一つの企業が目の前にある製品やプロセスの改良を実現していくことだけでは実現できません。「生産性÷コスト」の追求を脱却し、たとえば「幸福÷環境負荷」のような新しい尺度をつくり出し、社会全体としての最適化を考えていく必要があります。しかし、当然のことながら、新しい取り組みを始めれば得する人も、損する人も出てくることでしょう。だからこそ、全体としての利便性や利益をみんなでシェアすることができなければ、根本的な問題解決は始まりません。

ここにこそ、私たちが生み出すAI技術やプラットフォームが役立てられるはずだと考えています。データをもとに世界を可視化し、私たち人間が納得できるかたちで施策を提示する。もちろん環境負荷を最小限に抑えたうえでです。ICTの力を使って、広い視点で社会・業務のDX・全体最適を進めることで、安心・安全や公平・効率をつくり出すことに貢献したい。私たちは、このような視点から地球規模の社会課題解決をリードする研究所をめざして活動を進めています。

NECが長年築き上げたアセットが最先端AIにつながっていく

社会課題解決を実現するために、「NEC 2030VISION」では「デジタルツイン」「協働するAI」「プラットフォーム」を軸とした「テクノロジービジョン」を三つ打ち出しています。

一つ目のビジョンは「未来を共創・試行するデジタルツイン」です。私たちが暮らす実社会は大規模かつ非常に複雑で、網目のようにさまざまな要素が入り組み、絡まり合っています。たった一つの小さな変化が、予想もつかないところで破滅的な変化を起こす可能性さえもあり得るのです。だからこそ、社会に実装する前には、実世界を写し取ったような空間<デジタルツイン>でシミュレーションすることに大きな意味があります。NECでは顔認証をはじめとした画像認識/映像認識で世界的にも高い精度と頑健性を兼ね備えた技術を開発してきました。これらを活かして実世界をセンシングして分析し、未来の予兆さえも捉えられるような高精度なデジタルツインの実現をめざそうとしています。

二つ目は「人と協働し社会に浸透するAI」です。いまAIの実用化を阻む障壁の一つと言われているのが「ブラックボックス問題」です。ディープラーニングは入力したデータから演算結果を提示するものの、私たち人間にはその根拠が理解できないという問題です。これでは、私たち人間が安心してAIを使うことはできません。しかし、NECは15-16年ほど前から、いち早くAIの解釈可能性に注目してきました。思えばこれは当然の話で、私たちがかねてより扱ってきたのは、工場や発電所のオペレーションなどの社会に大きなインパクトを与えるクリティカルなシステムです。当初から、最終的に人間が納得して判断できることはベーシックな前提条件でした。こうした背景もあり、NECには現在たくさんの説明技術があります。シーンやレベルにあわせて必要なものを組み合わせられるというのは、NECならではの特長かもしれません。先ほど述べたように、社会全体としての視点をもって取り組みを進めるうえでは利害関係が相反する人全員を納得させなくてはなりません。そういう意味でも人と協働するAIは重要なテーマになるでしょう。

三つ目は「環境性能・高信頼・高効率を可能にするプラットフォーム」です。AIなどのテクノロジーを動かすためには、それを支える基盤を創り上げることも等しく重要です。例えば社会活動で発生するCO2を10減らすAIを稼働させるために、100のCO2をICTシステムが使っていたとしたら意味がないですよね。冗談のように聞こえるかもしれませんが、実際、対話型AIを1回アップデートするためには、東京-ニューヨーク間を100回以上行き来できるほどの電力が必要になると言われています。これは、現実的かつ深刻なテーマです。NECでは、量子コンピュータの研究開発やネットワークをオープン化するO-RANなどの研究にも取り組んでおり、長期的な視点から柔軟で効率的な社会インフラの実現をめざしています。

課題はペーパーにはない、お客様の現場にある

私が社内外で繰り返し申し上げている言葉に、「課題はペーパー(論文)にはない、お客様の現場にある」というものがあります。社会的な価値が高い課題は、どれほど丁寧に最先端の学術論文を読んだとしても見つけることができません。日常生活や業務フローなど、お客様の活動・社会の現実を注意深く観察・議論してこそ、初めて見つけられるものです。

そのような局面において研究者に求められるのは、ある種のコンサルティング能力です。ファシリテーション能力と言ってもいいかもしれません。お客様の環境へ飛び込んで、私たちが生み出す技術が、どんな顧客価値を生み出し得るかを発見する。難しいのは、お客様自身の中で課題が顕在化しているとは限らないという点です。お客様との対話の中で、潜在的な課題・新しいアイデアを誘発するような双方向のコミュニケーションを実現できるか。そして、それを社内の事業部門に依存するのではなく、研究者が自ら取り組んでいくことに大きな意味があります。実際、大きな成果を出している研究チームはみな、お客様とうまく連携しているという実感があります。

こうした能力は、私たちが積極的に推進しているオープンイノベーションにおいても重要です。研究テーマの設定や課題解決・技術評価など、さまざまな場面において大学や研究機関、企業など多様なパートナーと共創をつづけています。「コラボレーションファースト」を掲げたこの取り組みを推進するのは、異なる分野の出会いこそがイノベーションを生み出すと信じているからです。いろいろな分野の専門家と出会い、幅広い興味をもって話をすることが、新しいアイデアにつながっています。

私たちの目的は社会実装です。学会論文で性能が何パーセント上がったということを発表することよりも、お客様や社会に価値を創り出すことのほうがずっと重要です。「すごい」と言われるよりも、幅広いステークホルダーの方から「ありがとう」と言われる研究をめざしています。

とはいえ、NECの研究者による論文は難関国際学会でも多数採択され続けていることもお伝えしなくてはなりません。現場で生まれた独創的な発想や技術が、世界的にも多く認められています。

社会課題に国境はなく、研究活動にも国境はありません。世界を代表する研究者の集団として、NECの研究所はこれからも進化し、社会に貢献し続けていきます。

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