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活用事例からみた
VRが変える近未来のビジネス
その最新動向とNECの取り組みについてご紹介します。
エンターテインメントからビジネスへ。軸足がシフトするVR市場
エンターテインメント領域を中心に活用・導入が進んだVRですが、近年、ビジネスに活用する動きが活発化しています。
「ゲームでのVR活用の広がりもあって、2016年を境にVR機材の小型化が加速。ハードウェアの価格も、数千万円から数十万円単位と劇的に低下しました。また、企業における活用に期待が高まっています。例えば、人材育成の研修用途に活用すれば、危険な状況も仮想空間で再現できるだけでなく、設備投資も大幅に削減され、時間と場所に制約を受けずに実施することができます。さらに、現実には存在しない世界を体感できるとあって、よりインパクトの高い訴求が可能となることも、VRの費用対効果が高い理由の1つといえます」と、NECの野中 崇史は解説します。
NECは企業向けに数多くのVR導入実績を重ねてきました。
そのうちの1つ目の事例が、全日本空輸様(以下、ANA様)の新入客室乗務員育成の機内訓練のVR活用です。従来、ANA様では機内の様子を再現した実物大の模型を使い、訓練を行っていました。しかし、この方法では模型内部のスペースに限りがあるため、毎年約800人もの新入客室乗務員全員を訓練するには、多大な時間と労力を必要としていました。
そこで、ANA様では2018年にNECの「法人VRソリューション」を活用し、研修をスタートさせました。当時プロジェクトマネージャーを務めた、NECソリューションイノベータの柳澤 尋輝はこう語ります。
「このプロジェクトにおける最大のポイントは、研修の中でも特に重要な部分を抽出することで、コストの最適化を実現した点にあります。さらに、VRの特性を活かして、『離陸後の作業ミスで、格納した機材が飛び出してきた』というように、通常のトレーニングでは体験できない状況を再現し、研修に組み込んだことです。訓練の中でも重要な部分を押さえつつ、VRならではの表現を入れる。この2つが、今回の研修コンテンツ制作のポイントでした」
VRを活用した研修の開始後は、客室乗務員にVRゴーグルを配布して、機内訓練を実施し、反復実習によって業務手順の定着が高まる、といった効果も出始めています。何より、VRがもたらした“非常事態”の仮想体験は、研修生に大きなインパクトを与えました。
「火災や急減圧が起こった時の怖さは、実際に体験しなければわかりません。自分の作業ミスによって、どのような緊急事態が引き起こされるのか。その怖さを疑似体験して理解を深められたことが、大きな評価につながったと感じています」(柳澤)
2つ目の事例は、ワクチン製造の無菌操作研修にVRを活用した、武田薬品工業様のケースです。ワクチン製造は、無菌室での繊細かつ慎重な作業をともなうため、正しい無菌操作ができる人材の確保が欠かせません。しかし、無菌操作研修は無菌室で行う必要があるため、「ワクチンの製造中は研修が行えない」というジレンマがありました。さらに、無菌操作研修に高額な材料を使わざるをえないことも悩みの種でした。
「VRの導入以前は、ワクチン調合に使う高額な原液を、研修の資材として使っていました。このため、操作に失敗するたび、廃棄ロスが発生してしまう。また、薬品の合成自体、有毒ガスの発生をともなう危険な作業であることもあって、『安全にトレーニングできる環境を作りたい』というのがお客様からの強い要望でした」(柳澤)
そこで、武田薬品工業様はVRの活用を決断。NECの人間工学の専門家もメンバーに加わり、「失敗につながる可能性の高い操作」を抽出し、適切な対処法を学ぶことができるVRシステムを構築しました。
さまざまな分野で広がるVR。その意外な活用例とは
VRの活用は、機内訓練や無菌室操作研修といった、特殊なケースにとどまりません。低コスト化とともに、幅広い分野での活用が始まっています。
その一例が、「人事分野におけるVR活用」です。2019年4月、NECは、学生向けの会社説明会で、VRゴーグルを装着してオフィス内を仮想体験するVRツアーを実施。入社してからどういう風に勤務するかをイメージしてもらいました。さらに、アバターを使って会議を行う「VRコミュニケーション」の取り組みも開始しています。
「テレワークの普及にともない、テレビ会議の限界を実感する人が増えています。それを解決する手段の1つが、アバターを使ったVRコミュニケーションです」(野中)
例えば、テレビ会議で参加者の顔を映す代わりに、アバターを画面に表示し、あえて発言者を特定せずに、忌憚のない意見を交換する。あるいは、経営者のアバターが会議に出席し、現場に思いを伝える――という具合に、会議を活性化させるためのさまざまな活用が実践されています。
「現在、NECでは、アバター・コミュニケーションを使った実証実験に取り組んでいます。その可能性を見極めた上で、お客様にご提供していきたいと考えています」(野中)
このように、産業界ではさまざまな分野でVRの活用が進んでいます。しかしその一方で、「期待していたほど効果が上がらない」といった声があるのも事実です。
「仮にVRを導入しても、現場の悩みにフィットするような使い方をしなければ、思ったような効果を生み出すことはできません。効果を上げるためには、『VRは課題解決のための技術』である、という発想の転換が必要です」と柳澤。一方、野中も「我々も、現場の課題解決につながるVRソリューションを提供すると同時に、『仮想現実が今後の経営にどのようなインパクトを与えるか』という観点から、提案活動を展開していきたい。それが、VRを価値につなげるカギだと考えています」と続けます。
「業務プロセス」「テクノロジー」「人」が
VRの成果を最大化する三種の神器
それでは、VRの成果を最大化するためのポイントとは何でしょうか。それは大きく、①業務プロセス、②テクノロジー、③人という3つに分けられます。
まず、1つ目が業務プロセスです。VRの活用を、業務の高度化や新サービスの創出につなげるためには、業務を理解して課題を発見し、「業務プロセス」を見直した上で、どのようにVRを組み込むかを検討する必要があります。
ここで肝要なのは、システムありきの業務設計ではなく、「人間中心設計」に基づく業務設計を行うこと。「人間中心設計とは、『人間がシステムに合わせる』のではなく、『人間にとって最も使いやすいシステムとは何か』を中心に考える設計手法です」と、自らも人間中心設計の専門家である柳澤は説明します。
VRの活用で付加価値を生み出すためには、人間が仮想現実を体験した時に、「何を感じ」、「どのような行動変容を起こすか」についての知見が不可欠となる。そこで、NECでは、人間中心設計の専門家がプロジェクトに参加し、顧客の業務を実地に見学・体験しながら、課題を抽出。「現実」と「仮想現実」を融合させることにより、業務上の効果を最大化するための取り組みを行っているのです。
「仮想現実を活用することで、お客様がビジネスをどう変えられるのか。それも含めてご提案するのが、我々の提案ポリシーです。お客様と共にVRの費用対効果を考え、他社事例もご紹介しながら、課題解決のパートナーとしてお手伝いさせていただきたい、と考えています」(野中)
2つ目は、「テクノロジー」です。VRをビジネスに活用するためには、業務とシームレスに連携させることが必要となります。そのためには、VRデバイスに加えて、コンピュータ、ネットワーク、アプリケーションなど幅広い領域での知見と総合力が欠かせません。
「NECグループでは、5Gや画像認識、生体認識など、すべての社会インフラにつながる技術を保有しています。また、これらの技術を束ねるデジタルトランスフォーメーション(DX)においても、コンサルティングやアプリケーション開発など、さまざまな分野の専門家がいます。こうした全方位に人材を抱え、ご提案できることこそ、NECの最大の強みです」(野中)
NECの強みはそれだけではありません。外資やベンチャーなどあらゆる企業と連携し、顧客にとって最適な提案ができるのも強みです。米国ベンチャーのバクソー社が開発した「VRから香りを出す」技術を活用し、仮想店舗の中で食品に近づくと、VRゴーグルから香りが出るシステムを開発したのはその一例です。
「パートナー企業と連携しながら、NECのお客様と市場を先取りした評価を行い、そのユースケースを提供できるのが我々の強み。パートナーとの共創によって、VRの分野でも新しいものを生み出していけると考えています」(柳澤)
そして3つ目は「人」です。VRシステムを現場に浸透させていくためには、人材教育が重要なカギを握ります。VRの操作に習熟するだけでなく、VR活用の意義を現場に理解してもらい、企業文化として根付かせる必要があるからです。
そこで現在NECでは、VRをテーマにした営業研修を頻繁に行っています。研修企画を担当する、NECマネジメントパートナーの久保井 博子は次のように語ります。
「従来、当社の営業スタイルは、『お客様の中に既にある課題を発見し、それを解決するためのご提案をする』というのが基本でした。しかし、これからは『お客様自身が気付いていない課題について、私たちもお客様と一緒に考え、一緒に未来を語り合う』営業スタイルに変えていく必要がある。それを実現する上で、VRは非常にわかりやすいツールだと感じたのです」
そこで、久保井は、VRを使った営業研修を企画。VRを活用しながら、営業担当者に、「どうすれば顧客の役に立てるか」を考えてもらうことにしました。「受講者がVR機材を使いながら、ワークショップで意見を出し合うことによって、大きな可能性を秘めた提案が生まれつつあります。VRは、営業担当者がお客様との間でコミュニケーションを深め、信頼関係を築くためのツールになると期待しています」。
この成果をベースとして、NECでは新人研修にもVRを活用。架空のお客様に提案を行うケーススタディを実施しています。今後は、営業のロールプレイやリモート研修など、さまざまな場面でVRを有効活用したい、と久保井は期待を込めます。
仮想現実とリアルな空間をつなぐVRが描く未来
現在、世の中ではAIやIoTの活用が急ピッチで進められていますが、データ収集にかかるコストや負荷も大きく、リアルな世界でのデータ収集には限界がありました。一方、仮想現実の世界では、データの取得が格段に容易になります。今後、生体認証やIoT、AIによるデータ収集・分析の結果を、自動化やロボット活用につなげる上で、VRは重要な位置付けを担うことになるでしょう。
「2023年以降、5G対応機器が普及すれば、“VRデバイス1人1台”の時代が到来し、あらゆる業界で仮想現実を活用したビジネスが生まれるでしょう。その時、これまで収集してきたデータやAIの分析が、アウトプットとして大きく役立つことになります。VRを軸とした高度なサービスや業務革新が可能となり、まさに真のDXを実現できると考えています」(野中)
2023年には本格的な5G時代が到来し、設備シミュレーションやトレーニング、コミュニケーションなどさまざまな分野でVRをはじめとしたxRの活用が進むと予想される。
これまでNECは、独自のコア技術であるAIや生体認証、クラウド、セキュリティ、5Gなどの分野で、多くの実績を積み重ねてきました。その技術的基盤をベースとして、今後は、仮想現実とリアルな空間を融合させた、新しいビジネスや業務の創出を支援し、真のDXの実現をサポートしていきます。