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「AI For Everyone DX時代の人材戦略最前線」――AI・人工知能EXPOパネルセッション

第2回AI・人工知能EXPO
パネルセッション「AI For Everyone DX時代の人材戦略最前線」
開催日:2021年10月27日 場所:幕張メッセ

  • 登壇者:
    モデレーター=一般社団法人 日本ディープラーニング協会 理事/事務局長 岡田 隆太朗氏
    ゲスト=一般社団法人 日本ディープラーニング協会 人材育成委員/株式会社ZOZO NEXT 取締役 CAIO/株式会社ZOZO AI R&D推進本部 本部長 野口 竜司氏
    パネリスト=SOMPOホールディングス株式会社 デジタル戦略部 特命部長 川真田 一徳氏
    パネリスト=日本電気株式会社 AI・アナリティクス事業部 AI人材育成センター センター長 孝忠 大輔

きたるDX(デジタルトランスフォーメーション)時代に向け、全ビジネスパーソンがデジタルリテラシーを備えることが求められつつある中、「第2回AI・人工知能EXPO」にてパネルセッション「AI For Everyone DX時代の人材戦略最前線」が開催された。パネリストに、NEC AI・アナリティクス事業部 AI人材育成センター センター長の孝忠大輔が登壇。DX推進の鍵を握るAI人材の育成についてNECの取り組みを紹介し、デジタル活用に向けた組織の在り方について活発に意見を交わした。

時代が要請する全社員へのAI教育

パネルセッションに先立ち、DX時代におけるAI人材育成への取り組みについて、各パネリストによるプレゼンテーションが行われた。冒頭、NECの孝忠がDX推進に必要な3要素として掲げたのが、「ビジネスプロセス」「テクノロジー」「組織・人材」だ。

孝忠 大輔

「どれほどビジネスプロセスやテクノロジーを突き詰めても、企業のデジタルシフトを支えるためにはAI人材の存在が必要です。いまや全社員に向けたAI人材育成は必須と言えます。NECでは2013年からAI人材育成をスタートしましたが、そこには紆余曲折がありました」

試行錯誤の一例が教育プログラムだ。かつて座学研修が中心だったことで、現場で活躍するための実践力を身に付けるには不充分だった。その失敗を踏まえて、プログラムの内容を実践の場を提供する形に再構築したことで、2019年に開講するAI人材の超実践型育成プログラム「NEC アカデミー for AI」が生み出された。

「当初から取り組んでよかった点は、共に学ぶ仲間づくりの場を作ったことです。現在約6,000名が参加するこのAI人材コミュニティで業種を超えて交流し、情報共有を行うことが、変化の激しいAI領域において実践の壁を乗り越えるのにとても役立っています」

現在では、NECグループ全体で1,800名を超える人材がAI人材としての認定基準を満たしている。孝忠は、NECにおけるAI人材育成は3つのフェーズに変遷したと振り返る。

「まず黎明期が、AI活用を牽引する即戦力人材の育成に取り組んだ2013年~2015年。次に2016年~2019年が、AIをビジネス実装する人材育成に移行した発展期です。そして現在は、人材の持続的な育成とユーザー様の育成に取り組む成熟期にあたります。これを組織文化の面で見れば、黎明期にAI人材育成という新たなチャレンジを推進する文化を構築し、発展期にスペシャリスト育成のために一定の期間を許容する文化を浸透させ、現在は継続学習を習慣化する文化を醸成する段階にあります。時間もコストもかかるAI人材育成における鍵は、こうした段階を踏むことにあります」

2021年9月にはNECアカデミー for DXを開講し、DX専門人材の育成だけでなく、DX遂行の人材/全社員の育成にシフトしている。

「DX専門人材の育成だけではビジネスも社内のAI活用も前に進みません。本日のパネルディスカッションが‶AI For Everyone″と題されているように、これからは全社員がデジタル技術の基礎知識を習得し、データを適切に読み解き判断するためのDXリテラシー教育を推進する必要があるのです」と語った。

AI人材を内製化するためには

岡田 隆太郎氏

続いてパネルセッションがスタート。モデレーターのJDLA事務局長 岡田 隆太朗氏は、パネリストの両者に対して、AI人材育成への取り組みを始めた背景や課題意識について質問した。

孝忠は、「ビッグデータが『21世紀の石油』と社会的にも注目されてきた2013年、NECはユーザー企業のデジタル活用推進をご支援する立場として、速やかにAI人材の育成をスタートしなければという切迫感がありました。ようやく育成の効果が現れてきたのは2016年頃です」と回顧する。

野口 竜司氏

それを受けて、ゲストのJDLA人材育成委員 野口 竜司氏は、「中途採用で人材戦略を進めるのは難しいのでしょうか」と問いかけた。

「NECにおけるAI人材は1,800名いますが、結果的にこれだけの事業規模を中途採用だけで形成するのは不可能。NECでは中途採用を活用しつつ、早い段階で内製化に舵を切りました」と孝忠は話す。

AI人材を社内に置くことは、評価制度を新たに構築する必要もある。孝忠は、「AI人材を正当に評価する仕組みがないと、優秀な人材が流出する恐れがあります。NECでも当初はAI人材を評価する仕組みがなく、ゼロから時間をかけて整備しました。いまは参考事例がある一方で、よりクイックに体制整備が求められる難しさがあるかもしれません」と見解を示した。

重要なのはキーパーソンの育成

孝忠はAI人材育成を進めるにあたり、その最大の山場はスタート地点にあったと語る。「まず誰を育成するのか。育成のために優秀な人材をプロジェクトから外してよいのかというジレンマがあります。私はある程度トップダウンを下すしかないと考えます。デジタル時代の新しいリーダーを選抜して育てていくという気概を持って、英断を下せるかに最大の山場があると言っても過言ではありません」

そして全社教育に取り組むことの効果として、「どの組織においても、全社員教育で最初から‶全部″は変わりません。感覚的には、2割が早い段階から変われる人、6割が様子見の人、残りの2割が新しいやり方に変わりづらい人でしょうか。この早い段階から変われる2割のキーパーソンに事業ごとのトップアイコンになってもらい、まずは6割の様子見の人へと時間をかけて浸透させることが大切です」と話した。

デジタル活用が前提となる時代へ

いま大学教育では、文系理系を問わず数理・データサイエンス・AIの基礎的素養を学ぶ潮流が生まれている。孝忠は、デジタルの素養を持った新社会人が入社してくる時代がそこまで来ていると話す。

「2020年度から小学校でプログラミング教育が必修となり、5~10年後にはもっと状況が変わる可能性もあります。若い人たちの持つスキルをいかに解き放てるかは、私たち社会人にかかっています。デジタル活用が当たり前になる時代が目前のいまこそ、AI人材の育成は急速に求められているのです」

セッションの締めくくりに、野口氏から「AI人材育成にあたり一番大切なこと」について質問があった。

孝忠は、「最初のフェーズにおいて大事なのは、テクノロジーに関する知識やスキルもさることながら、自分が組織を変えていこうというパッションを持った人材をキーパーソンに育てること。そして、人材が育ってきたフェーズにおいては、実践経験、継続学習の場を用意することが大事です」と伝えた。

AI活用が前提となる時代に向けて、データサイエンティストだけでなく全社員がAIを学ぶ重要性と、その現実的な課題を考察する機会となった当パネルディスカッション。受講者に多くのヒントを投げかけて盛況のうちに幕が閉じられた。