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ともに学び、競う ― AI人材育成としての「分析コンテスト」

AIやデータを活用して新しい価値を生み出せる「AI人材」への期待が高まりつづけており、社内での人材育成に取り組む企業も多い。そうしたなかNECではAI人材育成の一環として、2017年度から分析コンテストを社内開催している。

2020年1月から2月にかけて開催した4回目となる分析コンテストは、TwitterオフィシャルパートナーであるNTTデータ、そしてTwitterの協力を得て、Twitterデータを分析対象としたコンテストとなった。挑戦者は、専用のデータ分析プラットフォームで3週間にわたり、提示されたTwitterデータからビジネスアイデアを競うタスクに取り組んだ。

2月末には、参加者のなかから上位に選ばれたファイナリストによるプレゼンテーションをオンラインで開催。審査には、特別審査員としてNTTデータとTwitterも参加した。

今回Twitterデータを題材としたことで、どのような発見があったのか。分析コンテスト主催であるNEC AI・アナリティクス事業部 AI人材育成センター 孝忠大輔、そしてコンテスト開催に協力したNTTデータ 伊東大輔氏、Twitter Japan 後藤和枝氏に語ってもらった。


孝忠大輔
NEC AI・アナリティクス事業部 AI人材育成センター センター長


伊東大輔
NTTデータ ITサービス・ペイメント事業本部 SDDX事業部 マーケティングデザイン統括部 デジタルマーケティング担当 課長代理


後藤和枝
Twitter Japan Developer and Enterprise Solutionチーム・⽇本&アジア地区のデータパートナー事業リード


開催4回目にして初のテキストデータ分析

―― 分析コンテストの開催は今回が4回目で、分析対象としてテキストデータが初めて取り上げられました。Twitterデータを分析対象に選んだ理由を聞かせてください。

孝忠:
NECグループのAI人材育成を目的に開催してきた分析コンテストですが、これまで分析対象としてきたのは数値として扱いやすい構造化データでした。そこで、今回は打って変わって非構造化データであるテキストデータを取り上げました。非構造化データには、ほかにも「画像」と「音声」がありますが、テキストデータを選んだのは、ビジネスと人材育成の両方の場で注目されているデータだからです。

現在、世界の名だたるIT企業がテキスト分析の技術開発に力を入れています。また、今後日本の大学教育に組み込まれる「数理・データサイエンス・AIリテラシー教育」のなかにもテキスト分析が登場します。そうした時代の流れを背景に、NECとしてもテキストデータを扱える人材の育成に力を入れなければと考えたのです。

ただ、テキストデータを題材と決めて企画を始めたものの、利用できるデータの少なさに直面しました。すぐに思いついたのは、著作権が消滅した文学作品のテキストですが、分析コンテストの参加者に若手社員が多いことをふまえると、もっとなじみのある、SNS系のテキストデータの方が好ましいのではと考えていました。

そんな折、NECがNTTデータとTwitterデータのビジネス活用で連携する話があり、さっそく相談したのです。話をするうちに、NTTデータとTwitterは、これまでにTwitterデータの分析コンテストを開催した経験があると知り、であれば、企画や審査も一緒にできたらおもしろいだろうと協力をお願いしました。


―― では、分析コンテストの企画検討もNEC、NTTデータ、Twitterの3社で意見交換しながら、ということですか。

孝忠:
両社の意向を聞きながら、基本的にはNECで検討を進めました。分析コンテストの目的は人材育成ですから、タスクが難しくて参加者があまりに少なくなるようではいけません。また、参加者が途中で脱落してしまわないように、最後まで興味を持ってデータ分析にチャレンジしてもらう必要があります。

そこで参加者にとっても身近なテーマである「スポーツイベント」を題材とすることに決めました。ちょうど2019年は、世界的なスポーツイベントが日本で開催された年だったので、その期間のTwitterデータを分析するのがおもしろいのでは、ということになりました。そこで、参加者には該当期間のTwitterデータを対象として、課題の発見とその解決に向けたアイデア検討に取り組んでもらうことにしました。

挑戦者はコンテスト専用のデータ分析プラットフォーム「NEC Advanced Analytics Platform」でタスクに取り組んだ

これは、日本において世界的なイベントの開催が続くなかで、Twitterデータの活用が生み出す価値を探り、イベントの成功、ひいては日本の持続的な成長に貢献していきたいという、NTTデータとTwitterの想いに共感したからです。


――データ選定には、そうした背景があったのですね。さて、今回NTTデータとTwitterは分析コンテスト用のTwitterデータ提供にとどまらず、特別審査員としても協力しています。NECからの依頼をどのように受け止めましたか。

伊東:
話を聞いたとき、まずこうしたデータ分析の社内コンテストを継続的に開催していることに驚きました。全社規模でのコンテストというのは、私たちNTTデータでもあまりないものですから。また、Twitterデータのような新しいデータに着目して、それを実際に取り込んでいく姿勢に、技術力を高めること、AI人材を育成することに活発なNECの企業風土を感じました。なので、コンテストへの参加はとても楽しみでしたね。

後藤:
私たちTwitterは、米国を中心にデベロッパーコミュニティを強化していて、日本においてもTwitterデータを活用できる開発者の養成に力を入れています。その取り組みの1つが、NTTデータ社と開催しているTwitterデータを活用したITイノベーションコンテストです。今回、NECの社内AI人材コミュニティがコンテスト開催にご興味があるとの話をいただいたことがきっかけで、私たちとしても、審査員としての参加を大変光栄なことだと受け止めました。

実は、こうしたパートナーとのコンテスト開催を実施しているのは、世界のTwitterのなかでも日本だけなのです。ですから、米国チームも含めてこの取り組みには関心がとても高く、次世代のデータビジネスのあり方を見出す貴重な機会と考えています。分析コンテストという形で、企業に所属する開発者のスキルアップを応援できることをうれしく思います。

Twitterデータが持つ分析対象としての魅力と可能性

―― ファイナリストによるプレゼンでは、「スポーツ新規ファン獲得に向けた“にわかファン”分析」「スポーツイベント開催時の鉄道乗り換え困難度の分析」「イラストと連携したTwitterトレンド可視化」など全部で5つのアイデアが披露されました。特別審査員として、プレゼンを聞いていかがでしたか。

伊東:
どのアイデアも「どうやってビジネスにつなげるか」という視点を強く感じました。データを分析して、その結果を考察して終わりではなく、その結果をどう提案としてお客様へ届けるのか、というところまで考えてプレゼンされていた点がよかったですね。アイデアの着眼点だけでの勝負ではないというのが、ビジネスの現場を知る方々が参加する社内コンテストならではと思います。

後藤:
データ分析のコンテストというと、ロジックの精度のような技術的な面に偏りがちですが、今回は「ビジネスにどう活用するか」「どれくらいのビジネス効果が見込めるか」といった点を含めて語られていたのがとても印象的でした。

これまでTwitterデータについては「きっとビジネスに使えるけど、でもどうやって?」と、「What」は描けても「How」がうまく思い描けない、という声が寄せられていました。今回の分析コンテストは、その「How」について考えてもらう機会にもなったと思います。特に、顧客の声を聞く仕組みとビジネス業務の課題解決を連動させるべくフレームワークの活用などが印象に残りました。

Twitterデータをビジネスのイノベーションにどう活用するか。私たちはTwitterエコシステムの展開と戦略パートナーシップを通じて、企業とともに常にこのテーマに取り組んでいます。コンテストで提示されたビジネスアイデアはユースケースを示すとともに、パートナーシップの重要な役割と成果につながっていくと考えています。

また、Twitterデータに限らず、データ分析のような新しい技術をビジネスに活かすには、開発者だけでなく業務課題を解決するエキスパートとの連携が必須といわれています。データサイエンティストと業務エキスパートとをつなぐ取り組みとしても、分析コンテストは有効な事例だと拝見しています。

NECおよびNECグループ会社から選出されたファイナリスト5チームが最終審査プレゼンに挑んだ

―― 分析コンテスト主催としてはいかがでしたか。これまでとは違った発見などはありましたか。

孝忠:
今回のコンテストには、約200名のNECグループ社員が参加してくれました。数値予測ではなく、テキスト分析を題材としたコンテストにここまで人が集まってくれたことをうれしく思います。テキストデータの分析スキルに対する重要性の認識を、みんなと共有できていると感じられたからです。

伊東さんと後藤さんも触れていたように、NECはさまざまな国際的なスポーツイベントに協賛している背景もあり、自身の携わる事業と結びつけてアイデアを考えた参加者が多かったのが特徴です。ビジネスの課題に対してTwitterデータがどう活用できるか、「さっそくやってみようよ」というような、具体的で地に足の着いたアイデアが多いことが印象的でした。

Twitterデータを題材にしたことについて、参加者からの反響もよかったですね。身近なサービスのデータなので親しみがあり、より多くの人がコンテスト参加やデータ分析に興味を持ってくれたのではないかと思います。その一方で、コンテストの主催としては、Twitterデータの量が想像以上に大きくて取り扱いに苦労したり、「リツイート」のようなTwitterならではの機能の扱いに悩んだりと、難しい局面が多々ありました。今後もTwitterデータを題材にした取り組みは続けていくので、今回の経験で得たノウハウを活かしていきたいです。

AI人材育成で日本の成長に貢献を

―― 2019年度の分析コンテストは終了しましたが、今後の展開について聞かせてください。

孝忠:
ここまで話してきたのは、NEC社内のAI人材育成という、1つの企業に閉じた取り組みについてです。一方で、AI・データサイエンス領域の人材育成については、日本という国のレベルで転換期を迎えています。先に触れた、大学教育におけるカリキュラムもそうですし、小中高の教育においても同様に数理・データサイエンス・AIの教育が強化されていきます。

私たちNECは、こうした時代の要請にさまざまな形で応えていきたいと考えています。今回のNTTデータ、Twitterとの連携をはじめとして、これからはさまざまな企業や教育機関と協力しながら、広く社会に向けておもしろいイベントを展開していく予定です。どうか期待してほしいですね。

伊東:
孝忠さんからは「非構造化データのなかでNECが一番得意なのは『画像』」と聞きました。今回のコンテストではテキストデータを選定しましたが、Twitterデータには画像もありますし、数値的なデータも含まれています。ですから、NECの得意領域も活かして、例えば複数の種類を組み合わせたデータを使ったコンテスト企画やビジネスアイデアの検討ができたら、きっとおもしろいと思います。

分析コンテストをはじめ、AI人材教育のコンテンツとしてTwitterデータを活用する取り組みは、まだ例の少ない、新しいものです。NEC社内の人材育成だけでなく、社外へと展開されていくとのことですから、未来につながる取り組みとして、私たちNTTデータとしても期待していますし、ぜひ引き続き支援していきたいと考えています。

後藤:
「日本として転換期にある」とありましたが、私たちTwitterは、日本企業のビジネスモデルのイノベーション、そして日本の国力の増大に、ぜひTwitterデータを役立ててほしいと考えています。

Twitterデータは「顧客の今の声」を集約しています。昨今のトレンドでは、顧客の声から近未来のニーズを予測し、素早く対応する機動⼒が求められています。難しいのは、顧客の声を業務活⽤するための仕組み化です。特にテキストデータ分析者の⼈材育成に注⽬が集まっています。NEC社で取り組まれているような、⼈材育成や教育分野でのTwitterデータ活⽤は世界的にもユニークですので、私たちも期待しています。少しでも多くの開発者の⽅にTwitterデータを使って、最新技術を習得いただけるよう連携を強化していければと思います。

孝忠:
「日本の国力の増大」は、私も同じく願うところです。さまざまな企業・機関の協力を得て、NECという場を通じてAI人材を育てる。人を育てることが、そのまま日本の成長につながると考えています。なんだか壮大な話に聞こえるでしょうが、そうした志があることを知ってもらえたらうれしいです。

(2020.3.16 オンラインにて取材)