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WiDS TOKYO @ Yokohama City University関係協賛団体プレゼンテーション「AIで作れ! カッコいいファッション~人とAIが協奏する未来を目指して~」

開催日:2020年3月18日 場所:ウイングアーク1st株式会社 登壇者:NEC AI・アナリティクス事業部 世良拓也

超スマート社会の実現に向け、ビッグデータを分析し、新たな価値を生み出す「データサイエンティスト」の活躍が期待される中、スタンフォード大学を中心として始まったのがWiDS(Women in Data Science)だ。性別に関係なく、データサイエンス分野で活躍する人材の育成を目的とした活動で、世界各地でシンポジウムなどを実施している。

2020年3月18日、ウイングアーク1st株式会社にて、日本における第2回シンポジウム「WiDS TOKYO @ Yokohama City University」が開催された(主催:横浜市立大学)。今回は、新型コロナウイルスの感染拡大防止のためインターネットによるライブ配信での開催となったが、学生から社会人まで男女を問わず幅広い関心を集め、常時150名前後の参加者を数えた。

関係協賛団体プレゼンテーションでは、NEC AI・アナリティクス事業部の世良拓也が、AIによるデータ分析を活用した取り組みについて講演し、データサイエンティストに関心を持つ人から多くの注目が集まった。

AIは、生活を楽しく便利にしてくれる

世良は関西の大学院で自然言語処理領域の研究に携わり、修了後の2018年にNEC入社。AI・アナリティクス事業部において、商品需要予測や営業効率化などAIをビジネスに有効活用するデータサイエンティストとして活躍するとともに、NECのAI『NEC the WISE』を用いたプロジェクトへの参画など、AIの可能性や面白さを発信する役割も担う。

講演の冒頭、「みなさんにとって、AIってなんでしょうか?」という参加者への問いかけをプロジェクターに映し出しながら、世良は次のように語った。

「これまでAIといえば、『ドラえもん』や『ターミネーター』のような近未来を彷彿とさせるワードでしたが、この5年ほどは家電製品にもAIが搭載されるなど、そのイメージが変わってきているように感じます」

そう話した上で世良が紹介したのは、チャットする女子高生AI『りんな』や『AI美空ひばり』、アイドルの画像生成AIなど、昨今メディアでも話題になったAIの活用事例だ。

「AIの目まぐるしい進化に伴って、実在のものと架空のものとの境目が曖昧に感じられたり、AIに漠然と不安を抱いたりする状況がある中で、NECがお伝えしたいメッセージは『AIはヒトのアシストをしてくれるテクノロジーである』ということ。AIを正しく使うことで、1人1人が輝ける社会に貢献したいと考えています」と熱弁をふるった世良は、AIの楽しさを伝えるために『NEC the WISE』を活用した3つの取り組みの紹介に移った。

「小説」や「時代」を舌で味わう?

「最初に取り組んだのが、2016年の『AI活用味覚予測サービス』です。これは、簡単な質問に答えると15種類の『うまい棒』からAIが好みの味を選んでくれるものです。正解率には、ちょっと疑問が残りますが…」と参加者の笑いを誘った世良。次に紹介したのは、‶小説をコーヒーとして飲む″取り組みだ。

「2017年に発売した『飲める文庫』は、小説を読んだ1万件以上のレビューをAIがコーヒーの味覚指標(苦味/甘味/余韻/クリア感/飲みごたえ)に変換し、それをレシピにブレンドしたコーヒー豆のこと。小説を読んだ感想を『ほろ苦い』とか『甘酸っぱい』と表現しますが、その感覚を実際にコーヒーで味わえるという商品として展開しました」

夏目漱石の『こころ』をはじめとしたすべての作品が完売するなど好評を博した『飲める文庫』。その技術を応用したのが、世良もプロジェクトに参画した2018年の『あの頃はCHOCOLATE』である。

「たとえばバブルが崩壊した1991年の新聞には、『株価暴落』『倒産』などのネガティブな言葉が頻出しますが、これを『飲める文庫』のようにチョコレートの味覚指標に変換すると、甘味がゼロで苦みや酸味が強い『絶望のバブル崩壊味』ができ上がります。みんなが共有した時代の空気を、チョコレートで再現したわけです。この『あの頃はCHOCOLATE』や『飲める文庫』は、AIにヒトの感性を学習させるという挑戦でもありました」

AIが未知のファッションを生み出す

そして、ヒトが思いつかないファッションの新概念に挑戦するという『さいたまコレクション』について説明。これは、さいたま国際芸術祭×しまむら×NECの共創でAIの面白さを伝える注目のプロジェクトである。カギとなるのは、AIによる「学習」。洋服とはどんなものか、どんなコーディネートが〝カッコいい″かAIに学習させることで、ヒトが発想しないファッションを創出する。

「最初に行ったのは、しまむらさんにご提供いただいたトップスとボトムスの大量の画像を、GAN(Generative Adversarial Networks)というAIに学習させることです」と話した世良は、GANの仕組みを「ニセ札の偽造者」と「警察」の関係に例えた。

「ニセ札が警察に見抜かれると、偽造者はより精巧なニセ札を作り、それをまた警察が見抜く…GANはこの〝いたちごっこ″のプロセスによって、最終的にとても本物に近い画像を生成するAIです」

そう話しながらプロジェクターに映し出したのは、GANが生成した大量のトップスとボトムスの画像。斬新なデザインや魅力的な配色のものもあれば、袖が4つあったり着丈が極端に短かったりするものも…。

「これは別の見方をすれば、GANがヒトにはない発想をしているということ。この段階が今回のゴールではありませんが、GANが生成したデザインにヒトがインスピレーションを受け、そこから新たなものを生み出す『ヒューマンオーグメンテーション(人間拡張)』の側面があることもAIの魅力の1つとしてお伝えしたいと思います」

データ学習でAIに〝ファッションセンス″を宿す

次のステップは、GANで生成したトップスとボトムスの画像から、RAPID機械学習というAIを使って〝最もカッコいい″コーディネートを作ること。NEC独自のAIであるRAPID機械学習は、人材マッチングにも活用されているもので、これを洋服のコーディネートに応用する。

「まずRAPID機械学習に『このコーディネートはカッコいい、カッコよくない』と覚えさせる必要があります。そこで、デザイナーなどファッションに精通した7名の方に、200組のコーディネートについて『カッコいい』1点、『カッコよくない』0点の2択で評価していただきました」

7名の合計で最高7点、最低0点で採点された200件のデータは、RAPID機械学習にとって〝カッコいい″‶カッコよくない″の判断基準となる。

「次にもう1つの機械学習のAIであるAuto Encoderを用いてGANで生成した洋服の画像データを圧縮し、先ほどのコーディネートの判断基準と結合すれば、RAPID機械学習はコーディネートを自動生成するようになり、〝カッコよさ″をスコアリングする『コーディネートAI』が完成しました」

では、コーディネートAIが選んだ〝最もカッコいい″コーディネートとは、一体どんなものだろうか…?

「さいたま国際芸術祭では、‶ある方法″で展示する予定です。ぜひ皆様にご覧いただきたいと思います」と、世良は参加者により期待感を募らせるかたちで講演を締め括った。

データサイエンティストの醍醐味とは?

最後に世良は、データサイエンティストという仕事の魅力を参加者に伝えた。

「自分の強みを活かして、新しいものを生み出していけることが、データサイエンティストの醍醐味。近い将来には、思いがけないものとAIを組み合わせることで、全く未知のものが生み出される時代が来るはずです。データサイエンティストに興味がある人の中には、『私がいま勉強している内容と関係なさそう…』という方がいるかもしれませんが、大切なのは興味を持ったことにチャレンジしていく姿勢だと思います」と熱いメッセージを残した。

オンライン上に投稿されたコメントとして、「小説や時代を味で共有できるのは素晴らしい取り組み」「科学技術が進歩しても、人間中心の世界であってほしい。問われるのは人間側の姿勢だと思う」などが寄せられ、ライブ配信を余儀なくされた今回も参加者を強く刺激する講演となった。