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医療現場での共創活動で見えてきたデザインの効果とは
医療法人社団KNIとNECの共創プロジェクト
現在、医療を取り巻くさまざまな問題が、日本社会の抱える大きな課題のひとつになっています。
そんな中、医療法人社団KNI(北原国際病院)は、『医療をツールとした社会改革』を掲げ、AIやICTを活用し医療の質向上と業務効率化目指す病院「デジタルホスピタル」、自然や動物、人とつながることで免疫力を高める空間「ヒーリングファシリティ」、基本医療情報や生活情報、様々な医療処置に対する承諾などを登録するデータベース「デジタルリビングウィル」と、デジタルリビングウィルで登録されたデータをもとに受けられる医療・介護・生活関連の支援サービス「トータルライフサポートサービス」の4つのシステムで構成される『八王子モデル』を提唱。超高齢社会でも市民が安心・安全・健康に生活できる社会の実現に向けた取り組みを進めています。
NECにとっては、病院のスタッフと共に『デザイン的手法と医療サービス』で共創する。という例を見ない試みとなり、各方面から注目されるプロジェクトとなりました。
およそ3年間にわたるNECのデザイナーとの共創活動を通じて、どのような気づきや効果が得られたのか? KNI 経営企画室 浜崎千賀室長と、理学療法士から広報部責任者として、幅広く活躍しておられる亀田佳一さんに、NECのデザインチームより田丸がお話を伺いました。
亀田氏:
僕は、広報と事業を動かす仕事両方に携わっているのですが、そのどちらにも役立つデザイン的手法を教えてもらっています。
例えばブレインストーミングですが、今まで独学で勉強して色々な手法を試してきましたが、進める時に停滞してしまったり、細部がうまくまとめられないということがよくありました。今ではNECのデザイナーに、「しっかりファシリテート」して頂いているおかげでアイデアをまとめやすくなったと実感しています。
医療スタッフだけで話していると煮詰まっちゃったりする。そんな時デザイナーと話していると、すごく刺激になって、新しい形になりやすい。
視点も多様ですし、実際にカタチに落としていくとか、どう進めていくとか。具体的に壁に描いてやるので、ビジュアル的にもこちらが理解しやすいですね。
僕はもともと理学療法士として、リハビリの仕事のみをやっていたのですが、2012年カンボジア で3年間仕事をやる機会があり、現地で多岐に渡る仕事をこなす中で、広報に携わるようになりました。広報では、見せ方に関わる部分が重要なので、デザイナーの考え方は、すごく勉強になってます。
浜崎氏:
私が最初にお会いしたのは、ベトナムの事業を、いちから提案する時ににジョインいただいたんですけど、普通の企業さんだったら、「マーケットはどのあたりで、データを見ると、こういう所にニーズがありそう」だから、「このくらいの規模の病院を作って、IT機器は何を入れましょうか」という議論になっていくんですけど、デザイナーと一緒に考える時は、ホワイトボードに絵を描きながら、「北原が実現したい社会って、どういう社会?」というところからはじまり、ゴール感や何を目指すかという所を、一緒に作って理事長にプレゼンするというのが最初でした。
経営者からすると、市場の今あるようなデータが欲しいんじゃなくて、ビジュアル的に「こういう世界を提案していくんだ」といった方が説得力があって、そのプロジェクトは、すごくいいカタチで提案できました。なによりも理事長が、そういうアウトプットが「すごくわかりやすい!」と。
数字の提示は誰でもできるんですけど、最終的なゴール感の共有がなかなかできない事が多い。
経営者って、そこを一番求めているだろうなって、最初のプロジェクトで気づきを得ました。「こういう手法があるんだな」と。 それから国内のプロジェクトでも一緒にやっていきましょうというカタチになりました。
(その後の活動を通じて)私が「いいな!」と思うのは、北原グループが、現在、世の中にない色々な新しいサービスを作っていくとか、海外事業を展開していく中で、お手本となる病院がなく、不慣れな領域もあります。
そこでデザイナーと一緒に考えていくと、医療従事者にとってもわかりやすく、「何のためにやるんだ?」とか、「何をゴールにしてやるんだ?」とか。その思考のプロセスがわかりやすい。
新しいプロジェクトを作っていくなかで、人によっては、企画書の字面に執着するというか、カッコいい事言ってたら、何となく出来た気になったりするんですけど、本当に私たちが目指している所はどこで、そのためには何をやっていかなければならないとか。そういう所が整理されやすいと感じました。
また、医療従事者として思うのは、デザイナーの皆さんと仕事をしていると、「人にフォーカスする」なあと。
顧客とか生活者が、どういう目線で何を求めているか? それが私たちにもすごく近い考え方なので、親和性がある。やっていてうまく行っている所かなと思います。
亀田氏:
ユーザー視点で物事を見ようとしているという事ですね。
研究者の方もそうですが、医療現場にべったり張り付いて、実際そこで何が起こっているか?というのを、色んな視点で見ようとしている。病院だったら患者さんの視点で見ようとしているとか。職員の視点だとか。
難しく考えすぎて見逃すような問題も、実際にそこに長くいることで、みんなが気を許している隙にぽろっと出てくる問題点を抽出したり(笑)。
「インタビューしますよ」と、面と向かって聞かれても、既にわかっている問題しか出てこないじゃないですか。それって「わかっているけど出来ていない」という難しい問題である事が多い。
一方で、簡単に解決出来る事があって、それが積み重なって本当の問題になっている場合もあったりする訳ですけど、そういう事を実際に抽出するには、この方法がいいんだろうな。と凄く感じましたね。
また、みなさん、すごく質問してくるんですよ。メチャクチャ聞いてくる(笑)
これには、答える側も気づかされることがすごくあって、「これって何でだろう?」って逆に考えさせられたりする(笑)。それがいっぱい出てくるんですね。
聞かれた事を説明するだけだと、こちらが考えている事しか出てこないじゃないですか?そういうのを超えた観察だったと思います。
浜崎氏:
2年前に多摩美術大と一緒にシナリオプランニングの手法をはじめてやってみたのですが、私たちの描く未来の社会をストーリーにしていく中で、普段目指している事や、言葉として出している事が、そのままカタチになっていくんですけど、違った言葉や、違った表現力で私たちの世界観を表現していくプロセスが、すごく良いきっかけになった。
伝えたい事が表現できているようで出来てない事って多いような気がするんですけど。「こういう風に表現すれば人に伝わる」という、気づきが得られました。
こうした問題は、自分たちだけでなくて、世の中にもあると思う訳で、2社でコラボレーションする時のメリットなのかなと思います。
あと、ウチのプロジェクトは未来的というか、「デジタルリビングウィル」とかまさにそうなんですけど、これを作る事で、未来の社会がどうなっていくか?という事が表現できないと説得力がない訳ですけど、私たちだけでやると、「ここが良いんだから良い」となっちゃうところを、未来の社会がどうなっていくかというワークや、ユーザー目線でどういう利益を得ていくかという事も一緒に整理してくれるのは有益でした。
田丸:
理事長の描いているビジョンを、第三者が理解するのではなく、このビジョンを当事者が自分事として受け止めてもらうにはどうすれば良いか?って、考えているというところがあると思います。
「いかに自分ごとにしてもらうか?」そのためには、ゲームをやるかもしれないし、様々な方法が考えられます。
浜崎氏:
本当にそうですね。世の中にないものを作っているので、プロジェクトスタッフと一緒にカタチを作っている感じじゃないですかね。
亀田氏:
もちろんロジカルではあるんですよ。数値とかも最終的には気にするんですけど、先ずは目指すべきポイントというのが合ってないと、その数値が何の意味も持たないという事です。なので、こちらのビジョン、ミッションのイメージを共有したい。
理事長は「医療はアートだ」と、ずーっと言い続けてます。
浜崎氏:
いちばん最初の「トータルライフサポート」の時かな。NECの共創ルームで壁全部を使ってグラフィックファシリテーションをやって、理事長がその絵巻物を見ながら、絵に、自分のアイデアを重ねていくという感じでした。「ここは、もっとこうなんだよ」とか。「ここは、こういうイメージだと」。すごくいい刺激を理事長も受けたと思います。
亀田氏:
しばらく、あの絵巻物が話題になってましたよね。
亀田氏:
これから、医療施設やサービスがどんどん変わっていく必要があるんだろうなと思いますね。
で、いずれ時代が変わっていくので、将来NECの手法とかも活きていくと思います。
浜崎氏:
北原のモデルというか、やっている事自体すごく注目されていて、感度の高い医療法人さんが月に何回も見学に来たりとか、あとは自治体の首長さんが見学に来て、 うちの取組み全体を自治体に持っていきたいと言っていただける所とかも出てきています。それって北原単体を見ているところもありますけど、企業との共創活動をしているところとかも注目されているのだと感じています。