プリント基板ノイズ対策セミナー 2021年6月
講演への質問と回答
2021年6月2日開催「プリント基板ノイズ対策セミナー 2021年6月」では、プリント基板におけるEMI対策や、ノイズ対策ツールDEMITASNXに関して、さまざまな質問が寄せられました。セミナーでいただいたご質問と、講師からの回答を掲載いたします。
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セミナー講演資料(テキスト)は、6月2日開催「プリント基板ノイズ対策セミナー」にお申込いただき、セミナー後アンケートに回答していただいた方に配付しております。
株式会社トーキンEMCエンジニアリング 原田 高志 氏の講演への質問と回答
対象の講演 |
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(13:30 ~ 14:20) 株式会社トーキンEMCエンジニアリング |
- Q1
カットオフ周波数は-3dBのところで見るとのことですが、どのような場合でもS21すなわち電力で-3dBと考えて良いのでしょうか?電圧や電流で言う場合は無い?
- A1カットオフ周波数は電圧[V]、電流[A]の振幅が1/√2、電力[W]は1/2(どちらも-3dBです)となる周波数です。なお、S21 のような散乱行列の要素を決める入射量a、反射量bは電力の平方根、すなわち電圧、電流と同じディメンジョンをもちます。
- Q2
疑似分布定数型ラインフィルターを使うと漏れ電流に影響しませんか?
- A2商用周波数では全く影響ありません。高周波で漏れ電流生じますが同様な減衰効果をコンデンサとの組合せで実施した場合に比べて漏洩電流を抑制可能です。
- Q3
磁気飽和のお話がありましたがコモンモードチョークコイルでも大電流が流れる場合は磁気飽和によるコモンモードに対する減衰特性の低下がありますか?
- A3コモンモードの大電流が流れれば磁気飽和による減衰特性の低下の可能性は有ります。
- Q4
ノイズ抑制シートは粘着性はどのくらいの期間維持されるのでしょうか?環境調査(chemSHERPA)の対応はできますか?
- A4経時変化で粘着性は僅かに低下します。到着後半年以内に使用してください。
取付後の粘着性は経時変化で強くなる方向です。環境調査は対応可能です。 - Q5
NSSはなぜ金属筐体のほうが効果が大きいのでしょうか?
- A5NSSはシート面に沿った磁界成分に作用してノイズを抑制します。金属の表面では面に沿って磁界が集中しますので、NSSの効果が最大限に発揮されます。
- Q6
磁性体の効果はシミュレーションで確認できますか
- A6
レイアウトや電磁界を設定してシミュレート可能です。
- Q7
リターンルートは低周波では最短、高周波では信号配線直下という事ですが、周波数はどれくらいから高周波となるのか?また、信号の立ち上がり時間が短い場合は周波数が低くても高周波同様の扱いになるのでしょうか?
- A7低い周波数で立上り時間が短い信号は、低周波から高周波までの広い周波数スペクトルを持ちます。一つの信号でも含まれている周波数の成分によリターン電流の経路は異なります。
- Q8
グラウンドの分離について、イーサネットのコネクタ(RJ45)の下のリファレンスプレーンを抜く設計も同様の考え方で良いのでしょうか。必要の無い設計手法でしょうか?
- A8
インピーダンスコントロール(インピーダンスが下がらないようにする)やESDの影響を低減するためにコネクタ部のベタを抜くことがあるようです。この場合には効果がスポイルされないような配慮が必要となります。
- Q9
グラウンディングの項でリターン電流ルートは周波数に依存するとのことで周波数依存は10kHzがしきい値とお話されていましたが、1MHzや1GHzといった高周波では同様と考えてよいのでしょうか?ギガ帯では表皮効果等の影響もあるかと思われますがそのあたりはいかがでしょうか?
- A9電流ループのインピーダンス(R+jwL)を最小にするように電流の経路が決まります。表皮効果によるR(周波数の平方根に比例)よりもω(周波数に比例)の影響の方が顕著ですので高周波ではこの傾向はより強くなります。
- Q10
シングルエンド信号に対してのコモンモードチョークコイルの使用はEMI抑制の効果を期待できるでしょうか。ケーブル前後への配置を検討しています。対象信号とペアのGNDのみ他のGNDと結合しにくいよう配置予定。(ケーブルからコモンモードチョーク間のみ、ベア配線。コモンモードチョーク後はベタGNDに接続)
- A10シングルエンド信号に対するノイズがコモンモードであるならば効果は期待できると思いますが、実際の配線やレイアウトに大きく影響する可能性が有ります。
- Q11
GND分離に関して質問です。
筐体のフレームGNDと回路のシグナルGNDが分離されることがあると存じますが
これらも分離はしない方が良いのでしょうか?
何らかの理由で分離が必要な場合、推奨する対策はありますか?
例えば、1点接地、多点接地、あるいは、FG-SG間をR、L、Cなどで接続するなど。 - A11一般にESDの影響を低減する観点からはFGとSGの結合を小さくする必要があります。一方、FG(シャシ)と基板のベタグラウンドが平行平板線路として作用し、その共振周波数においてレベルの高いEMIを発生することがあります。この場合、適切な間隔でグラウンドポストを配置し、両者を短絡して共振の発生を抑制します。抵抗を介して接続すると共振が抑制されるとの報告もあります。
- Q12
スリットまたぐ配線があるとコモンモード発生原因になるとおっしゃってました。
その理由としては、その直下にGNDプレーンがなくなるからということでしょうか? - A12GNDプレーン上にスリットが存在するとリターンの経路が分断されます。その結果、スリットの両辺間に高周波の電圧が生じ、ノイズ放射の原因となります。余談ですが、スロットアンテナはこの現象を積極的に利用したものです。
- Q13
リバブレーションチャンバーによるイミュニティ試験は規格試験として認めれているのでしょうか?規格外試験になるのでしょうか?
- A13ISO 11452-11(車載電装品)、CISPR 35(マルチメディア機器)で試験規格に採用されています。
- Q14
3m,10mの暗室間相関の所で、各周波数事のハイトパターンはどうやって算出していますか?(理論式ですか?)
- A14送・受信アンテナの距離を3m法、もしくは10m法にしたがって設定します。送信アンテナ高を1m(他に水平偏波では2m、垂直偏波では1.5m)に固定し、受信アンテナ高を1~4mの範囲で変化させ、直接波とグラウンドプレーンによる反射波の合成による電界強度を計算します。送受信にはダイポールアンテナを仮定し、その指向性も考慮します。
- Q15
プリント基板のEMI対策のP27にある「3m距離⇒10m距離の変換におけるレベル変化」について、理論値による最大受信レベルのグラフがありましたが、どのようにしてこの理論値を求められたのか教えていただけないでしょうか?
- A15送信アンテナ高を1mとし、受信アンテナ高を1~4mの範囲で掃引した際の各周波数(本報告では1MHz間隔)における受信レベル(電界強度)を計算します。グラフはそれぞれの周波数における、距離3mでの最大値から距離10mでの最大値を引いた値のプロットです。計算方法はA14をご参照ください。
- Q16
リバブレーションチャンバーを放射ノイズに適用する事は可能でしょうか?
- A16現在、最終測定には適用できませんが、ノイズ対策の効果を見る測定に適用できると考えています。CISPRでは測定方法を検討していますので今後、議論が進むと考えられます。
- Q17
ノイズ制御シートを筐体に貼る場合、シート自体は電位を固定する必要はあるのか?
また、固定する/しないで効果に差は出るのか? - A17
「電位を固定する」の意味を適切に理解できているかどうかわかりませんが、ノイズ抑制シートは、金属筐体の表面やケーブルの外皮を流れる電流に直接作用してノイズを低減するものであり、SGやFGに接続する必要はありません。
NECプラットフォームズ 平川様、およびDEMITASNX開発チームへの質問と回答
対象の講演 |
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(14:20 ~ 14:50) DEMITASNX活用事例の紹介 NECプラットフォームズ株式会社 DEMITASNX最新機能のご紹介 NECソリューションイノベータ株式会社 DEMITASNX開発チーム |
- Q1
AI学習の適用前後での課題発生の推移を教えてください。
- A1
課題発生=疑似エラー発生と想定し回答いたします。
サンプル基板による評価において、AI学習適用前に発生していた疑似エラー約15%は、適用後にはほぼ発生しなくなりました。実際の運用では学習データに無い様なケースのエラーも考えられるため、ゼロとは言い切れませんが、大幅に改善していると考えます。 - Q2
信号により対応レベルが異なると思います。例えばリターンは低速信号と高速信号で異なると思いますが、判断は区別されているのでしょうか?
- A2
リターンパスエラーに関しては、低速信号と高速信号で対応レベルを変える必要があると思います。製品や回路の特性によって判断して、パラメータをうまく使い分けることが必要ではないかと考えます。
- Q3
AIへの学習はその機能自体もDEMITASNX内にあって容易にできるものなのでしょうか。追加する判断基準は定量的な指示にするなどノウハウありましたか。
- A3
AIへ与える情報は、PCB内の情報からDEMITASNXが自動で抽出しますので、あとは検出結果に対して熟練者としての判断(OK/NG)を与えるだけで学習することができます。
学習する際の"判断"は人が行いますので、複数名で判断する際は、予め判定者の中で認識合わせをしておいた方が良いと思います。 - Q4EMIチェック疑似エラーの発見率は、設計者の経験値によって違ってくると思われます。よって、EMIの経験値の高い技術者であれば、AIの発見率と比べて5%以下程度ではないかと思われます。よって、35%程度も削減できるということは設計者の経験が浅いのではないかと思われますが、設計者の経験値との相対的な比較は実施されましたでしょうか。
- A4削減した35%は疑似エラー(EMC的に対処不要なエラー)です。DEMITASNXのデフォルト設定状態でEMIルールチェックを実行した結果を分析すると、EMC的に対処不要なエラーが全エラー中35%程度ありました。従いまして、この疑似エラー35%は、設計者の経験やスキルとは無関係と考えます。一方、疑似エラー選別については、当然設計者の経験値により差分は発生すると思いますが、その差分を極力無くすためレビューを実施し、社内統一見解をAIに学習させることで標準化を図っております。
- Q5
AI判定にあたっての判定条件を1項目で良いので教えてください。(どのようは判定条件をinputしてAIが判断しているか知りたいです)
- A5基板端チェックであれば基板端を並走する配線の長さ、リターンパス不連続チェックであればリターン電流の回り込む長さなど、をAIへinputしています。
各デザインルール毎にinputの情報は異なりますが、定性的にEMCに寄与する情報を自動的に数種類抽出してinputします。 - Q6EMIチェック工数削減について、設定値のチューニングは各社で実施することで効果が出るのか、ツールのデフォルト設定をチューニング完了したと考えて良いのでしょうか?
- A6ほぼ同様なシリーズ製品を開発してゆく場合、基板サイズや層構成、回路の信号周波数や動作条件などにより、チェック設定を調整することで工数削減効果が出ると考えます。弊社における特定製品シリーズ向けのチューニングは完了しています。
- Q7バスの束配線間のクロストークはチェックできますか?
- A7はい、クロストークをチェックすることが可能です。ネットに対して、バスグループごとにグループ設定を行うことで、グループ間のクロストークをチェック致します。
- Q8EDIF200が出力可能な回路CADを教えてください。
- A8以下の回路図CADはEDIF200が出力可能です。
図研CR-8000 DG / CR-5000 SD
Mentor Dx Designer:VX2.3
Cadence OrCAD:V17.2 - Q9AI絞り込み機能や、回路図とのクロスプローブ機能はオプションですか?
- A9Ver6以降にご購入いただいた方、またはTBL(タイムベースライセンス)をご利用の方は標準機能です。またVer5以前にご購入いただいた方でもAI有償アップグレード版をご購入いただいた方、または年間保守費と同額でTBLへ乗り換えを行った方はご利用可能です。詳細は販売窓口までお問い合わせください。
参考:AI絞込み機能、回路図連携機能
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