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テクノロジーとビジネスモデルを“掛け算”
生成AIも宇宙技術も未来を見据えた事業戦略に

「テクノロジーとビジネスモデルを掛け算できる会社にする」NECでChief Technology Officer(以下CTO)を務める西原は、この言葉を何度も繰り返しました。この「掛け算」を加速させる西原に、最新のビジョンや戦略を尋ねます。ノーベル物理学・化学2賞ともAI分野に授与される2024年。NECの研究開発の可能性とは──。

事業部門が初任配属 経験を活かし研究開発をけん引

──NEC入社後に歩んできたキャリアが今につながっています。

初任配属は研究所ではなく、ハードもソフトもシステムも手掛けるネットワーク部門の装置開発技術職でした。20代半ばで大きな仕事を任され、バグ対応などに忙殺された経験もあります。ここで技術やビジネスの基礎を学びました。30代で社内公募に手を挙げて、計算機工学を学びに米国で修士を取ったのも節目の一つです。

帰国後には元いた事業部はなくなっていて、新規事業開発を担当しました。マーケティングも顧客ヒアリングも自ら行い、「これなら売れる」という領域を見つけ出す。データセンター向けのセキュリティ関連製品で先端技術大賞(文科省、経産省など後援)も受賞しました。それを機に中央研究所に異動したのですが、当時はこういった経歴の人は珍しかったですね。

──2018年にCTOに就任しました。研究と事業、変化はありましたか。

CTOは、客観的に技術の“目利き”をして、お金や人を投資するための方針を打ち出し、技術を事業につなげなければいけません。

そのために組織や人事にも手を入れています。世界に7つある研究所のうち、日本、北米、欧州の研究所とも連携して注力領域を見直し、例えば欧州研究所は、かつてはネットワーク研究しかやっていない部門でしたが、今ではAI創薬も含め、AIの主要研究開発拠点となりました。北米研究所も、事業化を常に意識した活動に変化し、さらには北米のビジネスにも主体的に関与しています。

国内の研究所も事業との連携をしっかり考える文化に変わりました。データサイエンス研究所も新事業部門と一緒の組織に移ってから、生成AI「cotomi」の製品化、研究者によるコンサルティング等、目覚ましい貢献が出始めています。インド研、イスラエル研は私が設立した研究所です。

全体の目標からすると道半ばではありますが、CTO就任当時にはかなり距離があった技術とビジネスの距離も近づきました。かつては社内向けだった研究開発成果の展示会や、研究開発指針である「技術ビジョン」を社外向けにも発信するようになり、事業部門と一緒にお客様との対話の場に同行することも増えました。事業部門からは、かつての研究所は全く付き合いが無かったので、今の姿は信じられないと言われます。

「技術ビジョン」研究指針だけでなくお客様との対話の軸に

──最新の「技術ビジョン」は研究開発・新規事業戦略説明会「NEC Innovation Day 2024」で発表されます。

技術ビジョンは、技術への正しい投資判断をするための指針です。昨今の技術革新に置いていかれない一方で、ブームに乗せられた過剰投資を防ぐためにも、技術のポテンシャルを正確に見極めるための指針が必要なんです。

研究者の自主性は大切ですが、「面白そう」だけで個々が勝手に動くのではなく、NECがPurposeに掲げる「安全・安心・公平・効率という社会価値を創造し、誰もが人間性を十分に発揮できる持続可能な社会」を実現するために同じ方向を向かなくてはなりません。そのため、社外の有識者と議論を交わしながら、NECグループのトップクラス、リーダークラスの研究者が中心になってつくり上げました。また、技術ビジョンはお客様と対話をする際の軸にもなり、有益なフィードバックをいただくことも少なくありません。

私たちは、生成AI、量子コンピューティング、宇宙技術、ライフサイエンス、これらすべての領域で、100年に1度起きるかどうかのイノベーションが起こる可能性があると考えています。4領域のすべてを手がけるNECは、今以上に冷静な目を持たなければならない。その観点からも、技術ビジョンの役割は非常に重要だと思っています。

──生成AIでは、AIエージェントが世界中で話題です。

AIエージェントは生成AIの進化系で、人間に置き換えられる可能性を持つ賢い存在です。注意点は、虚偽の情報をもっともらしい形で出力する「ハルシネーション」を起こすリスクがあること。AIエージェントは、記憶力抜群で処理能力が高いけれど、たまに答えを間違える。でも24時間働けて、サーバを増やせば10人にも100人にもなる──そんな“AIワーカー”が生まれてくる世界では、個々の仕事のプロが自分の業種でAIエージェントをどう使うかを考えなければなりません。

技術の専門家ではなく、業務の専門家がAIエージェントの使い方を考えることが重要であり、高い日本語性能を有する軽量なNEC開発の生成AI「cotomi」を強みに、幅広い業種と協力関係にあるNECグループが大きな可能性を持つテーマです。

研究開発の底力 イノベーション戦略に活かす

──NECの強みを、今後どう展開していきますか。

世界には、論文が採択されるのが大変難しい「難関国際学会」と呼ばれる学会が複数ありますが、NECは、AIや機械学習分野における難関国際学会での論文採択数が過去20年の累計で世界10位となっています※。日本企業で10位以内に入り続けているのはNECのみ。またバイオメトリクス系、画像認識系、分析処理系の一部領域の特許は、NECがそれぞれ世界で最も多く保有しています。

2018年に北米にNEC X、2020年に国内にBIRD INITIATIVEを立ち上げて新規事業開拓も強化しています。NEC Xは、NECの技術を活用したスタートアップを作る取り組みで、この6年間で20の新事業が誕生しました。事業自体はまだ小さいですが、種はまかれています。

スタートアップの経営者、活動資金は外部から調達されており、NECは技術を提供するかわりにスタートアップの資本の一部、技術利用のライセンス料をもらうことになります。成功したスタートアップの会社数が増えれば、NECには知財ライセンスが継続して入るしくみです。

NECのようなシステム技術の会社、SIを生業とする会社では、技術シーズだけで事業成功するというのは稀で、技術の軸だけではなく、もう一つ、もう二つの異なる強みの軸が必要です。同じ軸だと足し算的にしか価値は拡大しませんが、異なる軸が定義できれば、掛け算的に価値面積を拡大することができます。

そこで、私はもう一つの軸として「ビジネスモデル」を挙げたいと思います。技術を活用するビジネスモデルを育てるには、今のお客様のニーズを把握することは当然として、さらには、将来のお客様が目指すべきニーズをその時期の技術ポテンシャルと共に考えること、が重要です。そこでも技術ビジョンは必要でしょう。

「NECはテクノロジーがすごい。だけど、ビジネスモデルもすごい」と言われる会社にしたい。お客様のDXを推進し、社会に新たな価値を創るために、テクノロジーとビジネスモデルの掛け算を続けていきます。

  • NeurIPS、ICML、KDD、ECML-PKDD、ICDMの難関学会採択論文の2000年から2023年までの累積数での企業ランキング

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