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NEC技術支える「顔認証の顔」と若き研究者たち さまざまな“顔”の力で磨いた強みとは
世界ナンバー1の評価を獲得している顔認証技術で、NECは、「科学技術分野の文部科学大臣表彰」(令和4年度)における科学技術賞(開発部門)を受賞しました。受賞メンバーはNECの顔認証をリードしてきた今岡仁NECフェロー(52)と、NECバイオメトリクス研究所の主任研究員、早坂昭裕(39)、森下雄介 (38)、高橋巧一 (34)、シニアリサーチアーキテクトの橋本博志 (33)の5人。NECの顔認証の強みの背景には、若い研究者たちの成長がありました。
かつては精度7割 今は世界ナンバー1
受賞の業績は「世界の安全および安心に貢献する高精度な顔認証技術の開発」です。
そもそも、NECの顔認証の技術は何がすごいのでしょうか。
2001年の米国同時多発テロ事件をきっかけに、生体認証パスポートの導入をはじめ、顔認証への要請は飛躍的に高まりました。それから20年がたち、顔認証は空港だけでなく、スマートフォンの個人認証やイベントの入退場管理など、様々な場面で活用されています。
これらの発展に大きく貢献したのがNECです。
今岡は、「『経年変化』と『顔の向き』に対応できる技術力こそがNECの強み」と語ります。
NECは、精度に加え速度も上げ続け、アメリカ政府機関のNIST(米国国立標準技術研究所)が主催する顔認証技術に関するベンチマークテストで過去5回、世界ナンバー1の評価を獲得しました。今や世界45か国で採用されています。牽引してきたのは今岡さんでした。
「私がNECの研究所で顔認証研究に加わったのは2002年。その頃の精度は7割程度で、研究所のメンバーも少ない時では2人だけでした。それが今ではエラー率が1%を切り、世界の競合他社と比べてもダントツになりました。
そんな時代と苦労を経ての今回の受賞です。長年の研究の成果が認められたこと、そして4人のメンバーとともに受賞できたことが、何より嬉しいです」
「検出は絶対に間違えるな」事業ならではの使命感
NECの「顔認証の顔」のもとでは、若き研究者が育っています。今岡以外の受賞メンバーの年齢は、いずれも30代。この4人の功績をひもとくと、NECの顔認証の強みの源がうかがえます。
顔認証の第一段階は、画像の中でどこに顔があるのかを見つけ出す「顔の検出」です。森下が担当しているのがこの領域。森下は2008年に入社後、いきなり顔認証のベンチマークのプロジェクトチームに入りました。その後10年以上、研究に携わっています。
「大学の時は、顔認証の技術は最先端の研究ではないといわれていました。でもNECに入社してみると、実社会で生かすには、まだまだ克服すべき課題があることがわかりました。
当時でも顔検出率は99%。でも、1000万枚でテストして1%のエラー率なら、10万枚は間違えることになります。これでは事業では使えない。
『検出は絶対に間違えるな』。この言葉を胸に、日々改善に取り組みました。今では、0.00000……%のエラー率で、ほぼゼロに近い。今回の受賞でも、チームの一員として貢献できていると思えた。それがとても嬉しいです」
敬遠していたはずが…リーダーのバトン受け継ぐ
早坂も10年以上、今岡のチームにいます。担当しているのは「顔検出」の先の段階の「顔の特徴量の抽出」です。これによって、同一人物か他人の判定をすることができます。
「実は学生のころ指紋認証の研究をしていたことがあり、そのときNISTのベンチマーク参加に関わったことがありました。あまりにきつかったので、最初は敬遠していました。
NECでもベンチマーク参加はやっぱり大変でした。2か月で3000人の顔データを集めたことも。顔照合の改良で世界一に貢献できたことには手ごたえを感じています。
最初は嫌がっていた自分が、今やこんなに長くかかわっているのも不思議な感じ。今回の受賞で、胸をはって、新しい目標に向かいたいです」
2021年のベンチマークから今岡は直接的な開発リーダーから一歩引き、早坂にリーダーを、森下にサブリーダーを任せました。
当初は「自分でいいのか」と不安もあった早坂ですが、2人が率いたチームは2021年も世界一に。森下は「橋本、高橋など強いメンバーがいるので、ちゃんとやれば大丈夫だと信じていた」と語っています。
「とんがっている」自分でも力を活かせる
早坂、森下が信頼を寄せる後輩の一人、橋本は2016年入社。「顔の特徴量の抽出」の領域で、深層学習(Deep learning)を活用して世界一の精度まで高めました。
「私が入ったころはまだチームは10人程度。若手にチャンスを与えてもらえたのは、ありがたかったです。
深層学習は2010年代から注目を浴び始めました。社内外における進化をリアルタイムで経験したことで、様々な技術を複合的に採り入れることができました」
2018年のベンチマークから「いきなり力を発揮してくれた」と今岡も太鼓判を押します。
「深層学習と数学とプログラミングが得意分野ですが、逆にその部分だけとんがっていて、自分はバランスがいい研究者ではない。でも、先輩たちが積み重ねてきた土台があり、それぞれの領域に頼れる人がいる。だから、とんがっている自分でも力を発揮することができた。それはNECならではだと思います」
自分が面白いだけじゃなく、使ってもらえる喜びがある
顔認証では、目・鼻・口といった特徴点(特徴となる部分)の位置や顔領域の大きさを分析する「特徴点の検出」も重要なステップです。この領域で活躍しているのが高橋です。
高橋は学生時代から特徴点の検出を研究しており、一度今岡に「スカウト」されたことも。大学院に進学後、インターンを経てNECに2015年に入社しました。
特徴点の検出は、先輩である森下も一時担当していました。しかし、「高橋の手法の方が優れている」と、この領域を高橋に任せることにしました。
高橋は、NECの強みでもある「顔の向き」において、横向きなど難しい角度からの認証で、力を発揮。動画の認証性能アップに大きく貢献しました。
「学生の頃は、自分でつくって面白いということが大事でした。でも今は、いろんな人に使ってもらえるものをつくるのが面白い。世の中に貢献できることが、NECでやる面白さだと実感しています」
マスク顔認証 チームワークの力
NECの顔認証は、コロナ下でもスピード感ある技術力を発揮しています。
マスクをすると顔の3分の2近くが隠れて見えなくなり、これまでの技術では認証に支障が出てしまいます。しかし、2020年以降の感染拡大で、マスク着用時の精度向上は、世界中で「待ったなし」の状況になりました。
この年の5月ごろから着手し、実質2か月ほどで研究開発を終了、10月には製品販売を始めました。マスク着用時の認証率は社内評価で99.9%以上を達成しています。
通常なら年単位で製品化を計画するところ、社会のニーズに応えて猛スピードで展開。これは、世界的に見てもかなり早いタイミングでした。
「これだけのスピードでできたのは、チームワークとメンバーの頑張りがあったから」と今岡は振り返ります。
「受賞の知らせをきいて、いろんな人の“顔”が浮かびました。メンバーだけでなくチームのみんな、支えてくれた事業部、関連会社、海外現地法人……。その方々への感謝を伝えたい」と今岡は力を込め、こう続けます。
「世界中の国々で、安全・安心で便利な世界をつくり、人々の日常に貢献していくこと。それが、私たちの目標です」
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