2018年6月29日
日本電気株式会社

NECは、データセンターにおけるサーバの冷却効率を2倍にさせる低圧冷媒を用いた圧縮放熱技術を開発しました。本技術は、NEC独自の「相変化冷却システム」(注1)を高度化するものです。これにより、夏場の高温環境でも、データセンター全体の消費電力を最大20％削減します。

本技術は、地球温暖化係数(GWP、注2)が小さいとされる低圧冷媒を用いて、サーバラックから排出された熱を、外気温が高温でも、直接屋外に輸送し放熱できる流路設計技術です。長年、パソコンやプロジェクターなどの電子機器で培った緻密かつ洗練された冷却技術の知見を、空調システムに応用しました。　
本技術により、他の空調機を設置することなく、「相変化冷却システム」だけでデータセンター内のサーバを高効率に冷却することができるため、電力効率指標PUE(注3)の向上に貢献します。また、空調機の追加が不要となるため、既存のデータセンターにも、導入しやすくなります。

今回、インド南部のデータセンターにおいて、通常のデータセンターのラックより2倍の発熱量となる、7.5kWのラックにて実証を行いました。本技術により、外気温35℃の状況で、既設の空調機と比べて、空調電力を半減させ、実証ラックの総電力量20%削減できたことを確認しました。
    
今後、NECは本技術の向上を行い、2020年度までに製品化を目指します。

背景

近年、あらゆるモノがインターネットに繋がるIoTの進展や、仮想通貨の採掘といった新たな計算能力の需要増により、データセンターの消費電力は、年々増加しています。現在、国内総電力の約1～2%をデータセンターが消費しており、例えば、2018年には仮想通貨の採掘などで世界の電力消費量の0.5％に達するとも言われ、今後ますます、その割合が増加することが予測されています。

データセンターの消費電力の内訳を見ると、サーバを冷却するための空調電力がデータセンター全体の1/3～1/2を占めており、空調電力の削減は重要な要素となっています。気温が低い冬においては、サーバルームに外気を取り入れることで空調電力を削減するなどの施策がある一方で、気温が高い夏場において、効果的に空調電力を削減することは困難でした。

今回開発した技術は、GWPは小さいものの空調としては適用が困難だった低圧冷媒を使用し、サーバルーム内に排気熱を放出するサーバラックの背面から吸熱し、建屋外に放熱します。熱輸送効率が高い冷媒を循環させることができるため、サーバルーム内で空気を循環させる空調機のファン電力を大幅に削減します。

新技術の特長

1. 冷媒の円滑流路技術により、空調機のファン電力を削減　
   低圧冷媒は、高圧冷媒と比べて安全性が高い(注4)一方、潜熱(注5)や圧力勾配(注6)が小さいため体積流量が大きくなり、冷媒をスムーズに流す配管設計が非常に難しいとされています。そのため、冷媒を圧縮する空調用途への適用は進んでいませんでした。今回、低圧冷媒の物理現象を把握し、円滑に流せる緻密な流路技術を開発しました。これにより、冷媒をサーバルーム内に引き込み、サーバラックからの排気熱がサーバルーム内に拡散する前に吸熱させ、建屋外まで運んで放熱することを可能にしました。従来必須であった空調機のファンが不要となり、空調電力の大幅な削減を実現しました。
2. 冷媒を均一分配する流路技術により、冷却システムを小型化
   低圧冷媒は体積流量が大きくなるため、データセンター内に敷設する配管(配管径)が太くなることから設備工事が困難となり、さらには冷媒温度を上げるための圧縮機が大規模化する課題がありました。今回、既存の施設にも敷設しやすい複数本の細い配管(細径銅管)を適用し、長さを変えた流量の調節などにより、冷媒を均一に分配させる流路技術を開発しました。これにより、従来の小型圧縮機を複数台、同じ負荷での並列運転が可能になることで、システム全体の小型化を実現しました。

なおNECは、データセンターを効率よく運用できるようにするため、本冷却技術のさらなる改良と実証を進めています。

NECグループは、安全・安心・効率・公平という社会価値を創造する「社会ソリューション事業」をグローバルに推進しています。当社は、先進のICTや知見を融合し、人々がより明るく豊かに生きる、効率的で洗練された社会を実現していきます。

以上

• (注1)相変化冷却システム：液体から気体に変化する(相変化する)際に大きな熱が移動する現象を利用した冷却技術。アルコールで腕を消毒した際に「冷やり」とするのと同じ現象による。
• (注2)地球温暖化係数(GWP)：Global Warming Potential。二酸化炭素を基準にして、ほかの温室効果ガスがどれだけ温暖化する能力があるか表した数字。
• (注3)PUE：Power Usage Effectiveness。データセンター(DC)の電力効率を示す指標。DC全体消費電力÷DC内IT機器消費電力で、1に近いほど良い。
• (注4)現在の圧縮ガス(常用温度で1MPa以下)、および液化ガス(35℃で0.2MPa以下)の非該当。
• (注5)潜熱：冷媒が相変化する際に移動する熱量。これが小さいと、流す冷媒量を多くする必要がある。
• (注6)圧力勾配：配管に冷媒を流すための入口と出口の圧力差。坂の勾配と同じで、これが小さいと冷媒が滞りやすいので、配管径(道幅)を拡大するなどスムーズに冷媒を流れるようにする必要がある。

NECの最先端技術
夏場の空調電力を半減するデータセンターの冷却技術
URL：https://jpn.nec.com/rd/technologies/datacenter_cooling/index.html

NEC　研究企画本部 研究プロモーショングループ
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