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データセンターのグリーン化と省エネ技術
Vol.76 No.1 2025年3月 グリーントランスフォーメーション特集 ~環境分野でのNECの挑戦~IT社会を支えるデータセンター。NECは長年のデータセンター運用経験を生かし、2024年5月にNEC神奈川データセンター二期棟及びNEC神戸データセンター三期棟を開設しました。本稿ではデータセンターを取り巻く環境への要求とグリーン化に対するさまざまな施策を主軸に紹介します。両センターは省エネ性を追求し、データセンターの省エネ性の主たる指標である“設計pPUE”をトップクラスの1.16に抑えました。昨今ではAIに対する期待が高まり、AIを支えるGPUサーバなどの収容に伴う技術動向などを踏まえて、NECの考えるデータセンターの将来像を紹介します。
1. はじめに
IT社会インフラを支える重要な基盤であるデータセンター(以下、DC)。東日本大震災を境に、企業のITシステムを守るための設備が整っているDCはますますその重要性を増しています。加えて、台頭するAIのための学習用演算機器、サービス用高処理能力機器などの要求電力は年々非常に高い伸びをみせています。多くの電力を消費するDCは効率化を追求するとともに、どのように環境負荷を抑えるかが喫緊の課題となっています1)2)。
NECでは40年のDC運営経験を生かし、2024年5月NEC神奈川DC二期棟(神奈川県、図1)、NEC神戸DC三期棟(兵庫県、図2)を開設しました。両DCは高い可用性、コネクティビティとセキュリティを通じ、安定してクラウド基盤を支えると同時に、その高度なインフラをハウジングサービスとしてお客様へ提供しています。DCインフラ、クラウドサービス、ハウジングサービスを統合し、自動化を組み合わせて全体を最適にマネジメントすることにより合理化、省力化を図っています。環境配慮についてもDCのエネルギー効率指標PUE(Power Usage Effectiveness)を業界トップクラスの1.16(設計pPUE)とするなど、高効率を追求することでCO2排出を抑えています。しかし、多くの電力を消費するDCは現状でNEC全体の40%の電力消費を占めるに至り、昨今のAI向けGPUサーバなどの導入も踏まえると、今後も環境負荷は増大する見込みであり、根本的な対策が急務といえます。


2. データセンターを取り巻く環境課題
DCの環境負荷低減のゴールはNEC全体としての環境コミットメントへの適合です。NECの環境目標はSBT(Science Based Targets) Net Zero目標として、2040年カーボンニュートラル達成をコミットしています。また、RE100(Renewable Energy 100%)に加盟し再生可能エネルギーの普及拡大に貢献する宣言を行っています。その実現のためには次の3つの課題への対策が必要と考えます。
- (1)DCの設備消費エネルギーの省エネ
- (2)100%再生可能エネルギーの採用
- (3)IT機器自体の消費電力の省エネ
まず、根本的なDCの消費エネルギーを徹底的に抑えたうえで、最小限の再生可能エネルギーで効率的にドライブする必要があります。DC管理者においては冷却などの設備の管理権限はありますが、IT機器の選定、運用状態には権限がないのが実情です。そのため、80%以上を占めるIT機器の電力についても対策が必要と考えます。
3. 環境施策
3.1 DCの設備消費エネルギーの省エネ
DCのIT機器以外の設備消費エネルギーは次に分類されます。
- (1)熱源・空調消費エネルギー
- (2)事務所、共用部照明・監視機器、セキュリティ機器など、管理施設消費エネルギー
- (3)配電ロス
ここでは設備消費エネルギーの大半を占める熱源・空調消費エネルギーの対策のうち特徴的な設計について紹介します。
3.1.1 空調方式
NECの空調方式は半導体工場のクリーンルーム技術を応用した独自設計となっています(図3)。この方式の採用により、空調機動力電力消費は従来の床上げ空調方式と比較し12%以上削減されています(床下設置電線などなしの条件で比較)。


3.1.2 熱源方式
(1)間接外気冷却
熱源においては冷却塔を利用した間接外気冷却(フリークーリング)を採用し、冷凍機の消費電力を削減しています。外気のエネルギーを最大限利用するため20℃の高温冷水を採用し、年間のフリークーリング期間を15℃比2カ月延長し、消費電力量を28%効率化しています。
(2)磁気軸受方式空冷チラー
熱源は従来型のターボ冷凍機のほか、先進的取り組みとして高効率空冷チラーを採用しています(写真1)。ターボ冷凍機は冷却塔に散水し、蒸発熱でIT機器に供給する冷水を生成しますが、空冷チラーは散水をせずに空気との熱交換のみで冷水を供給する機器となります。今回採用の本機器の特徴として、磁気により軸受けと軸が接触しない磁気軸受を採用しており、非常に低摩擦で高効率運転が可能な設計となっています。年平均COPが約12をマークする、空冷としては非常に効率の良いものとなります。

3.2 100%再生可能エネルギーの採用
再生可能エネルギーの調達方法はさまざまです。NECでは、一部検討・交渉中ですが次の異なる種類のソースからの調達を組み合わせてグリーン電力ポートフォリオを形成し、安定的な供給に努めています。
- (1)構内発電所
- (2)オンサイトPPA
- (3)オフサイト(フィジカル)PPA
- (4)オフサイト(バーチャル)PPA
- (5)非化石証書市場からの調達
- (6)グリーン証書
市場調達やFIP制度(市場連動型の導入支援)によるバーチャルPPA(Power Purchase Agreement)調達は常に価格変動があります。構内発電やオンサイトPPAについては場所に限りがあるため、調達量に制限があります。オフサイト(フィジカル)PPAについては託送できる範囲が限られており直近の発電所からしか実情として供給できません。それらの特徴を踏まえ、DCの立地、設備状況に応じたベストミックスで調達を検討する必要があります。更にRE100では15年以上経過の再生可能エネルギー発電所や大型水力発電所は環境負荷が高いため認められないなどさまざまなレギュレーションに合致したエネルギーが求められます。
今後はAI用IT機器電力が非常に高まることが予測されるため喫緊の対策が必要となっています。
3.3 IT機器自体の消費電力の省エネ
IT機器の消費電力について前述のとおり、DC側に管理権限がないため直接の削減は不可能な状況です。
しかし、経済産業省が実施するベンチマーク制度などでハウジング利用者電力使用量の測定・報告が推奨されるなど、測定を実施することで間接的に利用者へ電力使用量の削減を促す方法で対策が可能であると考えます。
NEC神奈川DC二期棟・NEC神戸DC三期棟では、計量法に合致した検定付き電力量計をラックごとに設置することを可能としています(写真2)。使用電力量を計測したうえで使用量に応じた非化石証書を発行するサービスも展開しています。

4. 今後の展望
近い将来、高負荷・高集積AI用IT機器類(60kW/ラック~)の設置要求が非常に高まると予想されます。このような高集積度になると空気を介した冷却が難しくなります。そのため、冷水またはその他の冷却液を利用して直接発熱部分を冷却する方式のIT機器が増えてくると予測しています。高集積の液冷機器類は既存冷却設備の流用が難しい反面、効率は良く、フリークーリングも年間を通して可能になります。環境面では絶対量は増えるものの、無駄のない効率的な運用が可能になると考えます。
また、電力使用量の絶対値は飛躍的に高まるため、再生可能エネルギーの調達方法を十分検討のうえ、立地や気候条件などを吟味しDCの企画設計を行う必要があります。
NECでは高電力消費の機器を設置する際、企画段階から再生可能エネルギーの調達を考慮して行うことにより環境負荷の低減に貢献していきます。
5. おわりに
現在、DCに対する要求は急速に変化しています。高セキュリティ、高アクセシビリティ、高効率といった既存DCの安定運用のみならず、新しい技術を取り入れ、高集積・高負荷に対応しながらも環境への負荷を低減するという課題に挑戦していきます。
NECのDCでは、AIやクラウドなどの最先端技術を提供することで社会の効率化に貢献します。また、環境価値の提供をユーザーの皆様とともに実現していきます。
参考文献
執筆者プロフィール
データセンターサービス統括部
ディレクター
NEC技術士会 幹事 技術士(総合技術監理・電気電子)
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