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光ファイバセンシングによる洋上風力発電の送電用海底ケーブルモニタリング

Vol.76 No.1 2025年3月 グリーントランスフォーメーション特集 ~環境分野でのNECの挑戦~

カーボンニュートラル実現施策の1つである洋上風力発電において、電力を洋上から陸上に供給する送電用海底ケーブルは非常に重要な設備であり、常時モニタリングによる損傷リスクの早期発見が期待されています。NECでは、送電用海底ケーブルに内包される光ファイバケーブルを使用し、光ファイバセンシング技術による送電用海底ケーブルの状態モニタリングに取り組んでいます。光ファイバセンシング技術の強みであるセンシングの長距離性・高い距離分解能性と高い環境ロバスト性を生かし、常時モニタリングを低コストに実現します。本取り組みをきっかけに洋上風力発電の普及課題を解決し、2050年のカーボンニュートラル実現に貢献します。

1. はじめに

2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、電源の脱炭素化や水素化などさまざまな取り組みが行われています。電源の脱炭素化には再生可能エネルギー(以下、再エネ)の活用が不可欠であり、洋上風力発電への注目が高まっています。洋上風力発電は、再エネ電源における期待されているエネルギーミックスの1つであり、その普及と拡大が求められています。

洋上風力発電では、海底に敷設する送電用海底ケーブルを通して洋上の風車で発電した電力を陸上に供給します。送電用海底ケーブルは、船舶の錨や網との接触、潮流による海底面との衝突や摩擦などさまざまな損傷リスクにさらされており、電力の安定供給を実現するためには送電用海底ケーブルの維持メンテナンスが重要になってきます。NECでは、風車の通信・制御用途として送電用海底ケーブルに内包されている光ファイバケーブルに着目し、光ファイバセンシング技術を活用した送電用海底ケーブルの状態モニタリングに取り組んでいます。光ファイバセンシング技術で常時モニタリングを低コストに実現することで、送電用海底ケーブルの損傷リスクを早期検知し、送電用海底ケーブル損傷の未然防止への貢献を目指します。本稿では、第2章で洋上風力発電における電力安定供給に向けた課題について説明し、第3章で光ファイバセンシング技術を活用した送電用海底ケーブルの状態モニタリングを紹介、第4章では期待効果を説明します。そして第5章で本稿をまとめます。

2. 洋上風力発電における電力安定供給に向けた課題

洋上風力発電設備は建設後、約20年の稼働が見込まれていますが、洋上という過酷な環境下での稼働のため、設備事故の発生リスクが常に伴います。なかでも特に事故が多いのが海底に敷設される送電用海底ケーブルであり、図1に示すとおり、海外の事例では事故全体の58%が送電用海底ケーブルに関連するものとなっています。洋上風力発電事業者は、これらの送電用海底ケーブル事故を防ぐためにソナー調査船や水中ドローンを使って海中点検を実施し、送電用海底ケーブルの状態を確認しています。しかし、1回当たりの点検コストが高く、かつ海象条件によって点検可能な時期に限りがあることから、実態としては年に1回程度しか点検を実施できていません。その結果、送電用海底ケーブルの損傷リスクにすぐに気付けない場合があるため、送電用海底ケーブルの常時モニタリングが期待されています。

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図1 海外における洋上風力発電の事故発生部位別の内訳

洋上風力発電における送電用海底ケーブルの敷設状態は、図2に示すように埋設区間と非埋設区間の2種に大別できます。それぞれの区間が抱える送電用海底ケーブルの損傷リスクと期待されているモニタリング項目は次のとおりです。

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図2 洋上風力発電における送電用海底ケーブル敷設状態
  • 埋設区間:埋設深度の推定
    船舶の錨や網などの漁具による損傷を防止するため、大半の区間で送電用海底ケーブルは海底数mの深さに埋設されます。しかし、潮流の影響で海底面が削られて埋設深度が浅くなり、最終的には海中に露出する可能性があります。そうすると前述の損傷リスクにさらされることになるので、送電用海底ケーブルの埋設深度をモニタリングすることが重要となります。
  • 非埋設区間(風車周囲):送電用海底ケーブルの動揺
    風車本体の周囲は送電用海底ケーブルの埋設が構造上難しく、海中に露出する区間が存在します。この区間においては、潮流により送電用海底ケーブルが動揺し、海底面との摩擦により送電用海底ケーブルが損傷するリスクが存在します。そのため、送電用海底ケーブル周囲にプロテクターを装着するとともに、送電用海底ケーブルが動揺しないよう周囲を大きな岩石で固定しています。しかし、潮流の影響で岩石が流され、動揺によりプロテクターが破損・脱落することがあります。そうすると前述の損傷リスクにさらされることになるので、送電用海底ケーブルの動揺をモニタリングすることが重要になります。

3. 光ファイバセンシング技術を活用した送電用海底ケーブルの状態モニタリング

第2章の課題に対する解決策として、NECでは風車の通信・制御用途として送電用海底ケーブルに内包されている光ファイバケーブルに光ファイバセンシング技術2)を適用することで、送電用海底ケーブル埋設深度推定や非埋設区間の動揺など送電用海底ケーブルの常時状態モニタリングを行います。

NECの光ファイバセンシング技術3)の特徴は次の2点で、これにより低コストな送電用海底ケーブルのモニタリングを可能とします。

  • センシングの長距離性/高い距離分解能性:海底の光ケーブル通信で培った光信号の増幅技術と感度を向上させる光送受信技術を応用することで、数十kmの長距離を数mの高い距離分解能で検出することを可能とします。1台のセンシング装置でカバーできる距離が長いことは、送電用海底ケーブルが洋上で広域に展開されるほど強みになります。
  • 高い環境ロバスト性:光ファイバセンシング装置で取得したデータをAI(Artificial Intelligence:人工知能)で分析し学習することで、環境ノイズの分離や詳細な事象の識別を可能とします。これにより、必ずしもセンシング用途に光ファイバケーブルを新設する必要はなく、送電用海底ケーブルに内包された通信用の光ファイバケーブルをセンサーとして活用したセンシングが可能となります。

次に、光ファイバセンシング技術の基本原理とシステム構成を図3に示します。情報の伝達媒体である光ファイバケーブルをセンサーとして機能させるため、光ファイバケーブルの片端にセンシング装置を接続します。センシング装置から光ファイバケーブルに対して、短い時間幅を持つレーザー光を入力すると、光ファイバケーブル上のすべての位置から微弱な戻り光が生じます。センシング装置は、その微弱な戻り光を時系列に観測します。光ファイバケーブル上で、振動/歪みや温度変化などの環境変化が発生した場合、その環境変化によって光ファイバケーブルを構成する石英ガラスの構造及び特性パラメータが変化します。それに伴って戻り光の品質(位相状態や光強度など)も、生じた環境変化に依存して変化します。環境変化の発生場所は、レーザー光を入力してから、品質が変化した戻り光を観測するまでの往復時間から算出し特定します。このように観測場所は時間で分離されるため、光ファイバケーブルに沿った多数の地点の同時検知が可能です。更に、光ファイバケーブル最遠端からの戻り光と次の入力光が混在しないように一定の繰り返し周波数でレーザー光を入力することで、同じ場所における環境変化の推移を観測できます。

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図3 光ファイバセンシングの基本原理とシステム構成

光ファイバセンシング技術により取得したデータから送電用海底ケーブルの埋設深度や非埋設区間の動揺などを分析するためには、分析の前処理として実世界の位置と光ファイバケーブル上の位置を補正する位置補正処理を実施します。位置補正処理のイメージを図4に示します。これは、送電用海底ケーブルに内包されている光ファイバケーブルはセンシング目的で敷設されたものではないため、光ファイバケーブルの余長などによって実世界の位置と光ファイバケーブル上の位置との間に位置の相違が生じるためです。この位置の相違に対しては、特徴的な振動パターンが観測される複数の風車を補正点として、各風車間の位置の相違をスケーリングすることで、実世界の位置と光ファイバケーブル上の位置を補正します。

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図4 位置補正処理のイメージ

送電用海底ケーブルの埋設深度の推定や非埋設区間の動揺などは、送電用海底ケーブルに対して均一な外力となる波浪に注目し、この波浪に対して光ファイバセンシング装置で観測される振動の変化に着目して分析します。分析の処理フローを図5に示します。まず、センサー装置で取得したデータから波浪に起因する低周波領域の信号を抽出し、光ファイバケーブルの長手方向に沿った多数の振動情報をもとに、光ファイバケーブル上の単点の継時変化や光ファイバケーブルに沿った観測点間の類似度を算出します。これにより、波の振動の伝わり方の微小な差から埋設深度を推定し、風車下の非埋設部分の送電用海底ケーブル振動の継時変化から動揺状態を推定します。

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図5 分析の処理フロー

4. 期待効果

光ファイバセンシング技術により送電用海底ケーブルの状態を常時モニタリングすることで、送電用海底ケーブルの損傷リスクの早期検知・対処が実践でき、送電用海底ケーブル損傷を未然防止するという効果が期待できます。送電用海底ケーブル損傷により洋上風力発電事業者が被る損害は、長期間の稼働停止に伴う販売機会ロスや送電用海底ケーブル修繕費用など数十億円に上る場合もあり、未然防止できれば非常に大きな効果といえます。また、送電用海底ケーブルの状態がモニタリングできれば、前述したソナー調査船や水中ドローンによる海中点検の実施頻度や範囲の最適化にも活用できる可能性があります。現状は送電用海底ケーブルの状態が把握できていないため、定期的に全範囲を点検するケースがありますが、送電用海底ケーブルの状態が分かれば状態に応じた点検範囲や頻度を最適に意思決定できるため、海中点検コストの低減が期待できます。

5. むすび

本稿では、洋上風力発電における電力安定供給に向けた課題とNECの光ファイバセンシング技術を活用した送電用海底ケーブルの状態モニタリングの取り組みについて説明してきました。NECでは実験施設での技術検証を経て、現在、国内の複数の洋上風力発電プラントにおいて現地実証を行い、モニタリングの実現性評価を進めています。現在は振動に着目したモニタリングを先行評価していますが、将来は温度も加えたマルチモーダルな解析を行うことでモニタリング精度の向上を狙っています。将来的には、送電用海底ケーブルの状態モニタリングに加えて、送電用海底ケーブル周囲の波浪状況の推定や船舶航行の検知にも取り組み、風車点検船の安全航行のサポートや、不審船の検知といったサービス拡充につなげていきたいと考えています。

NECでは送電用海底ケーブルの状態モニタリングをきっかけに洋上風力発電の普及課題を解決し、2050年のカーボンニュートラル実現に貢献します。

参考文献

執筆者プロフィール

水口 弘司
スマートILM統括部
プロフェッショナル
美島 咲子
アドバンストネットワーク研究所
主任
DING Yangmin
NEC Laboratories America
Researcher

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