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環境負荷を最小限にする弧状推進工法による洋上風力発電ケーブル敷設
Vol.76 No.1 2025年3月 グリーントランスフォーメーション特集 ~環境分野でのNECの挑戦~2050年のカーボンニュートラルの実現に向け、再生可能エネルギーとして洋上風力発電の導入が拡大しています。
洋上風車で作られた電気は洋上から陸上への電力ケーブルによる送電が必要になりますが、風などの発電環境が洋上風車の設置位置決めで重要視されるため、特に陸揚げ部での既設構造物や沿岸漁業などの障害物への対応が課題となっています。
それらの障害を回避する手段として、護岸の既存構造物を壊さず、かつ海底面を開削せずに設置可能な、環境問題にも対応できる弧状推進工法が注目されています。
本稿では、環境負荷を最小限にし、洋上風力発電ケーブルを敷設できる非開削工法の弧状推進工法を紹介します。
1. はじめに
弧状推進工法は、1970年代に米国で各種パイプラインの河川横断などの施工目的で開発された工法で、垂直に掘削する石油掘削技術を水平方向に応用した掘削技術です。更に、発進点から到達点に向けて弧状で推進することができ、また比較的自由な線形で埋設管路を敷設できることが大きな特長です。従来工法(開削)では不可能であった、既存構造物(護岸など)を壊さずに下をくぐって管路を設置することが可能です。更に弧状推進工法は、一般的な推進工法とは異なり1,000mなどの長距離の施工も可能であり、石灰岩・砂岩といった岩盤から砂・粘土といった軟弱地盤まで多様な地盤にも対応できます。
昨今、地球温暖化や再生可能エネルギーの需要が加速しているなか、環境負荷の軽減にも寄与し、また陸揚げ部を埋設ではなく海底面下に設置するためメンテナンスフリーとなり事業者のコスト低減につながることから、非開削工法である弧状推進工法が多くの海底ケーブルの陸揚げに採用されてきています。
2. 弧状推進工法の施工方法
第2章では、弧状推進工法の掘削原理について説明します。弧状推進工法の掘削編成は、掘削管であるドリルパイプの先端に装着されたドリルヘッド、マッドモーター(泥水ポンプにより圧力を加えた泥水がらせん状のシャフトと管を通ることで先端が回転する装置)及び位置測定器から構成されています。泥水ポンプから送られた泥水を先端からジェット噴射しながら、ドリルパイプを回転させ、推進機によって推力を加えてドリルパイプを送り出すことで掘削を行います。
そして、測定器で掘削孔の位置を確認しながら掘削を進め、計画とおりの孔に仕上げていきます(図1)。


海底到達直前まで掘削が完了したらドリルパイプを引き戻し、設置する管(本管)に交換し、計画とおりに掘削された孔に本管を押し入れていきます。
その後、パンチアウト(海底面に管が露出)が完了したら先端部をダイバーが切断し、管内にケーブル引き込み用のワイヤーを設置して管路設置が完了します(図2)。


3. 弧状推進工法の洋上風力発電への展開
3.1 国内における洋上風力発電の状況
再生可能エネルギーの拡大が掲げられているなか、洋上風力発電は重要な役割を担っています。日本国内の洋上風力発電プロジェクトは、現在「ROUND2」が進行中で、秋田県男鹿市・潟上市・秋田市沖で21基、新潟県村上市・胎内市沖で38基、長崎県西海市江島沖で28基の設置が予定されています。これらプロジェクトは、2028年から2029年にかけて運用を開始する予定です。また「ROUND1」では、秋田県能代市・三種町・男鹿市沖で38基の風力発電機が設置され発電設備出力は47.88万kW、秋田県由利本荘市沖で65基の風力発電機が設置され発電設備出力は81.9万kW、千葉県銚子市沖では31基が設置され発電設備出力は39.06万kWとなっており、導入が着実に進んでいます。「ROUND3」も開始されており、青森県、山形県の2海域での公募が進行中です。
国内の将来目標として2030年までに10GWと2050年のカーボンニュートラル社会の実現に向けた目標に着実に進展していますが、目標達成に向けては案件の形成の加速化、開発期間の短縮が喫緊の課題となっており、同時に環境負荷の低減が求められています。
3.2 洋上風力発電用ケーブル陸揚げ
洋上風力発電で生成された電力を陸上に送るためには、ケーブルの陸揚げが必要不可欠です(写真)。洋上風力発電ケーブルにおいても通信ケーブルと同様に日本国内で陸揚げを行う際にまず考えられる工法は、ケーブル敷設船、ダイバーを使用して海底を開削し、ケーブルを埋設する方法です。ただし、この開削工法を利用するにはいくつかの課題があります。例えば、次の点が挙げられます。
- (1)敷設船が海岸線から一定距離まで近づけること
- (2)海岸線及び海岸線付近に陸揚げの障壁となる護岸の構造物などがないこと
- (3)陸揚げ地付近にケーブルが環境問題となる珊瑚礁や漁業設備がないこと

また、洋上風力発電の設置場所は風況により決定されるため、陸揚げケーブル設置では場所の自由度が限られてしまう課題があります。しかし、弧状推進工法は、護岸の既存構造物などの下をくぐって迂回することで、環境負荷を最小限に抑えることが可能なため、多くの案件での適用が期待されています。
3.3 弧状推進工法による洋上風力発電ケーブル陸揚げ
NECネッツエスアイが多くの施工実績を持つ弧状推進工法で施工した通信用海底ケーブルの陸揚げ管路においては、通信ケーブルの直径が約30㎜であるため(図3)、設置される管の直径はほとんどが200㎜以下です。通常、1つの陸揚げ地点で行われる管路掘削は1~2条です。


しかし、洋上風力発電用の電力ケーブルの直径は100~200㎜となるため(図4)、通信用の管路よりも大きな直径300㎜以上の施工となり、同地域に数十台の洋上風車が建設されるため、必要な陸揚げ管路も6~10条ほどになり工事も大規模となります。


弧状推進工法において、大口径の管路設置では、より高度な技術が必要となります。通信ケーブル用の200㎜以下の管路設置では、パイロット掘削のみの施工となりますが、300㎜以上の管路の設置ではパイロット掘削の後、拡孔工程が必要となります。通常の弧状推進における河川横断管路などの設置でも拡孔は一般的に実施されますが、その際の拡孔は到達側に拡孔用リーマーを取り付けて発進側に引き込んで施工をします。一方、洋上風力発電ケーブル用管路の場合は、到達側が海となるため、発進側から到達側への拡孔となり、押し込みでの施工が必要となります(図5)。押し込みでの拡孔では、リーマーにより拡げた孔内でドリルパイプに軸方向応力を加えるため、ドリルパイプが座屈する可能性が高まります。そのため、掘削中の推力と回転トルクの状況に細心の注意を払い慎重な施工が必要となります。また、電力ケーブルの埋設では地中の熱抵抗によりケーブルの温度上昇が起き送電容量が低減することから、掘削コースの深度をより浅く保つ必要があります。一般的に地盤は深度が深くなるほど安定するため、浅い地層では安定が難しく掘削孔が崩壊する恐れがあり難易度が高い施工となります。


3.4 海外における洋上風力発電ケーブルの陸揚げ状況
2023年末時点で、世界での洋上風力発電市場の導入状況は、約75.2GWに達しています。そのなかでも特に欧州と中国が市場を主導しており、導入が進んでいます。これに対し、2023年末時点での日本の洋上風力発電の導入状況は0.2GWです。いまだ国内の風力発電の数量や供給量は現状、海外と大きくかけ離れています。海外での実例としては、英国で100基以上の風力発電ケーブルの陸揚げに弧状推進工法を適用し施工されるなど、最も一般的な方法として活用されています。また、海外では送電による管路の腐食対策としてHDPE管(高密度ポリエチレン)を採用することがあります。海外においては、HDPE管の設置がかなり一般的に行われていますが、HDPE管は、鉄管のような強度がないため、海側からHDPE管を引っ張って設置する必要があります。この施工方法は、大がかりな海上設備の準備が必要となるため、国内での導入には工夫が求められます。
3.5 現状と今後の課題
現在、日本国内の洋上風力発電事業において、富山県入善町沖の発電事業に対し、弧状推進工法による海底送電ケーブル陸揚げ管路工事をNECネッツエスアイで施工しました。本工事は、非常に崩壊しやすい緩い礫層においてパイロット掘削を行わずに本管設置を実施しました。このように、さまざまな環境下で現場状況に即した方法での施工実績を積み重ね、施工力・技術力を蓄積してきました。今後、日本国内でも洋上風力発電の需要が高まっていくなかで高い施工力や技術力が求められていきます。
また、洋上風力発電における電力ケーブルは、長距離にわたって電力を送るため、長期的視野に立った施工では、前述したHDPE管を使用した施工を実施することも検討課題となります。
4. むすび
本稿では、弧状推進工法の施工方法から洋上風力発電への適用まで説明しました。今後、カーボンニュートラルの実現に向け、国内の洋上風力発電は2030年までに10GW、2040年度までに30~45GWの導入を目指しています。
NECネッツエスアイは、これまでの施工実績で培った経験やノウハウを生かし、高い施工能力をもってさまざまな状況に対応します。これにより、重要な建設工事の早期竣工を実現することを目的として当事業を展開し、カーボンニュートラルの実現に貢献します。
執筆者プロフィール
NECネッツエスアイ株式会社
海洋通信システム部
NECネッツエスアイ株式会社
海洋通信システム部
技術課長
NECネッツエスアイ株式会社
海洋通信システム部
技術課長
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