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COP29 における「デジタル技術を活用した気候変動適応の促進」発信レポート
Vol.76 No.1 2025年3月 グリーントランスフォーメーション特集 ~環境分野でのNECの挑戦~NECは2023年度よりCOP(Conference of the Parties:気候変動に関する国連気候変動枠組条約締結国会議)において、気候変動の緩和(Mitigation)に比較して投資が遅れている適応領域(Adaptation)における資金循環改善をもたらす「適応ファイナンス」をデジタル技術活用によって推進することを国際社会に提言しています。2024 年11月に開催されたCOP29は「Finance COP」と呼ばれ、気候変動のための資金目標が大きなテーマであったなかで、NECは前回のCOP28に続いて社会実装に向けたNECの取り組みとデジタル技術の活用イメージを発信、多くの賛同を得ました。本稿では、COP29でのNECの発信内容と成果について紹介します。
1. はじめに
NECは、中長期の環境目標として、「2050年を見据えた気候変動対策指針」を2017年に、「NEC環境ターゲット2030」を2021年に策定しました。また、カーボンニュートラルの取り組みを更に加速するために2022年に気候変動イニシアチブであるThe Climate Pledgeに加盟しました。これを契機に、カーボンニュートラル達成目標を2040年に前倒ししました。また、気候変動対策指針もそれに合わせる形で目標達成を2040年に前倒しし、未来に向けてNECの環境負荷やリスクの継続的低減を推進しています。
更にNECは、気候変動対策の「緩和」と「適応」の両面による環境事業を通じた価値提供に取り組んでいます。特に気候変動策の「適応」においては、『NECデジタル適応ファイナンス』の社会実装に向けた取り組みを押し進めています。
2. 気候変動適応促進に向けたアプローチ『NECデジタル適応ファイナンス』
NECは、2023年度から『NECデジタル適応ファイナンス』の社会実装に向けた取り組みを進めています。これは気候変動への適応に必要な情報をデジタル技術の活用によって迅速に把握し、その効果を科学的に測定・予測することで、経済的価値、社会経済的価値、温室効果ガスの排出低減という3つの総体的な価値を科学的理由付けに基づく定量効果として可視化することを目指すものです。
具体的には、リモートセンシング、AI、デジタルツインなどのデジタル技術を用いて、適応策の実施による経済的メリットを評価し、適応策に対する新たな資金提供の担い手と期待される民間セクターの投資家や金融機関などに必要な情報を提供します。また、金融機関と協力し適応価値の経済的メリットを価値評価した金融商品の開発・提供や、適応策の受益者と実施者を巻き込んだ適応プロジェクトの組成と投融資スキームを構築することによって『NECデジタル適応ファイナンス』の普及促進に取り組んでいます。
2.1 NECの『NECデジタル適応ファイナンス』への取り組み
2023年にドバイ(アラブ首長国連邦)で開催されたCOP28においてNECは、この主催団体であるUNFCCC傘下のGlobal Innovation Hubパビリオンで、NECの取締役 代表執行役社長 兼 CEOの森田隆之(以下、森田)が「Advancing Climate Adaptation with Digital Technologies」と題したキーノート講演を行い(写真1)、「適応策の推進には民間企業や金融機関、政府省庁、国際機関、アカデミアが協力し積極的に行動を起こす必要がある」と訴え、デジタル技術の活用による『NECデジタル適応ファイナンス』の事例づくりの共創を呼びかけました。

その後、NECは2024年3月15日に三井住友海上火災保険株式会社とともに、「適応ファイナンスコンソーシアム」を設立。デジタル技術を応用して適応価値(減災効果・環境効果)を予測・分析し、定量的に分かりやすく投資家に提供する仕組みを構築し、さまざまな適応策、価値評価手法に基づく保険や債券、融資スキームなどの金融商品組成を会員の皆様やグローバルパートナーと推進していくことを目標に活動を開始しました(写真2)。

2024年度はパートナー企業や団体と連携し、事例を使った『NECデジタル適応ファイナンス』のユースケースづくりに精力的に取り組み、2024年にアゼルバイジャンのバクーで開催されたCOP29にて発信を行いました。
3. COP29における論点と合意形成
国際社会は産業革命以前からの気温上昇を1.5℃未満に抑えることを共通の目標としています。しかし、これまでの議論では、温室効果ガス排出の急激な削減は多くの国々にとって多大な経済的負担となるため、途上国などすべての国を巻き込んだ1.5℃目標を実現する排出削減目標の設定と実行には至っていないのが実情です。COP29では、この1.5℃目標が中心議題として議論され、目標達成のために各国が取るべき具体的行動が問われました(写真3)。加えて、COP29は「Finance COP」として知られ、気候変動対策資金の規模拡大、特に途上国への資金支援を強化するための新たな枠組みの検討が主要な論点となりました。

COP29での議論の結果、2035年までに少なくとも多国間開発銀行による支援、先進国による支援を含む年間3,000億ドルの途上国支援目標が決定されました。また、すべてのアクターに対して、公的及び民間の資金源から途上国向けの気候行動に対する資金規模を2035年までに年間1.3兆ドル以上に拡大するため、ともに行動することを求めることも決定しました1)。これにより、特に気候変動の影響を受けやすい途上国に対する支援強化と、公的資金だけではなく、民間資金も併せて気候変動対策に活用する「Blended Finance」のコンセプトの推進が望まれることになりました。
また、パリ協定第7条で定められた、気候変動への適応をグローバルに促進するための目標「適応に関する世界全体の目標(Global Goal on Adaptation: GGA)」については「指標に関するUAEベレン作業計画」「GGAに関する全般的な事項」「変革的適応」の3項目に沿った議論が行われ、「指標に関するUAEベレン作業計画」について、COP30での作業計画完了に向けた一定の進展を見せ、GGA関連の取り組みを総称する形での「バクー適応ロードマップ(Baku Adaptation Roadmap: BAR)」の立ち上げも決定しました2)。
緩和策に関しては、新たな大きな合意は得られませんでしたが、国際クレジット市場の活用としてパリ協定第6条に基づいて国際的な協力による削減・除去対策実施の完全運用化が実現しました。これによって、削減・除去の量をクレジット化して分配するために必要になる締約国政府による承認及び報告のための項目や様式、クレジットの記録や報告に用いる登録簿間の接続性などの細目が決定されました。これにより、排出削減の国際的な取り組みが市場メカニズムを通じて推進されることが期待されます。
4. NECのCOP29での発信内容及び反応
NECは、COP29にて、気候変動対策に関する最新技術や取り組みを積極的に発信し、多くの賛同と反響を得ました。以降でその詳細について述べます。
4.1 現地パビリオンの様子と日本政府ジャパンパビリオンの位置付け
COP29では、多くの国が自国パビリオンを構えて自国の気候変動対策の紹介や、革新的技術、気候変動適応への必要性を発信しました。特に目立ったのが中国と中東諸国で、これらは資金と技術の両面から気候変動対策に積極的に関与していく意向を示す大々的な強いインパクトの展示を行い、来場者の注目を集めました。また、グローバルサウスに位置付けられる国々も展示ブースを構え、気候変動による深刻な影響と途上国支援の拡大を精力的に訴えました。国際機関や気候変動基金のブースでは連日、支援の規模拡大や官民連携に向けた論点が終日議論されていました。
日本国政府が運営するジャパンパビリオンは、パビリオンでの実地展示として計11社/団体が出展、Web上でのバーチャル展示では39社/団体が技術展示などを行いました(写真4)。パビリオン内では、展示の他に、ネットゼロ、気候変動における適応策、自然資本などのさまざまな環境課題テーマに関する約40のセミナーが開催され、100カ国を超える国々の人が来場するという盛況ぶりでした。

4.2 NECのジャパンパビリオン展示とセミナーへの登壇
4.2.1 展示出展
NECは適応ファイナンスコンソーシアムの立場でパビリオン出展を行い(写真5)、災害対策の経済効果を「適応価値」として可視化し、それに基づく投資を促進する事例を約150組の来場者に対して紹介しました。適応策導入による経済的効果を明らかにすることで、公共事業に民間資金を活用するビジネスモデルや、地域全体の被害リスク抑制による保険料低減の可能性を示しました。来場者からは「自然災害への適応対策を考えるうえで重要な取り組みだ」と肯定的な反応を集めた一方で現状の実績を問われることも多く、実地での実践への期待を実感しました。

4.2.2 UNFCCC(国連気候変動枠組条約)パビリオンでのキーノートセッション登壇
UNFCCCパビリオンで開催されたセミナーにNECの執行役 Corporate EVP 兼 CTO 兼 グローバルイノベーションビジネスユニット長である西原基夫(以下、西原)が登壇し、「Advancing Climate Adaptation with Digital Technology : Fostering Pilots of Excellence in Climate Resilience through Partnerships」と題するキーノート講演を行いました(写真6)。講演のなかで気候変動対策における適応の重要性、NECの『NECデジタル適応ファイナンス』の社会実装に向けた取り組みと、具体的な技術活用提案を示しました。技術活用提案では、衛星画像解析技術と大規模言語モデル(Large Language Model)とを組み合わせたソリューションを示し、世界規模で収集したデータを誰もが理解可能な情報に変換可能にすることで、世界規模で激甚化する災害情報をいち早くとらえ、迅速な対処が可能になることを示しました。

その後のパネルディスカッションでは、Tata Consultancy ServicesやIBMなどのグローバルITベンダーのパネリストとともに、グローバルで気候変動対策を推進していくための官民連携の重要性と各社の技術を活用した取り組みの事例をもとに活発な議論を行いました。国際社会が適応への国際支援メカニズムの高度化を模索しているなかで、気候変動リスクを定量化し評価していくことは資金へのアクセスを迅速化し、適応策の導入を推進していくことにつながるというNECのアイデアに賛同と共感を得ました。
4.2.3 ジャパンパビリオン 総務省主催「ICT×グリーンセミナー」への登壇
CTOの西原は総務省が主催したセミナーにも登壇し、NECの衛星・無線通信・海底ケーブルなどの幅広い事業について触れ、NECが世界の産業発展・持続可能な社会の実現に貢献してきたことを紹介するとともに、通信技術は進化の一途であり、5G無線技術の劇的な性能進化により、衛星やセンサーからの地上観測データが膨大化し、それらがリアルタイム処理されて活用される未来について言及しました。この講演では、これら技術のデモ動画を公開しましたが、聴講者のみならず、富士通、日立製作所、NTTなどの共同登壇者たちも振り返ってスクリーンに注目するなど、NECの技術を活用した気候変動対策提案への関心の高さがうかがえました(写真7)。

4.2.4 環境省主催「アジア太平洋地域における早期警戒システム(EWS)の更なる推進と新たな連携の可能性」セミナーへの登壇
環境省主催セミナーでは、日本、インドネシア、マレーシアの政府代表が地域課題や実践経験を共有し、NECをはじめ、ウェザーニューズ、Swiss Re Ltd.などの民間企業が技術やソリューションについて発表を行いました。NECの発表では、GX事業開発統括部の統括部長である佐藤美紀(以下、佐藤)が登壇し、早期警戒システムを中心とした防災・減災ソリューションの紹介や、『NECデジタル適応ファイナンス』の社会実装に向けた取り組みについて紹介しました(写真8)。このなかで、『NECデジタル適応ファイナンス』のユースケースとして、国内公共交通事業者とエネルギー事業者の適応策の取り組みとその適応価値の評価結果を紹介し、これらの適応価値をリスクプレミアムに反映した保険商品組成検討が金融機関とともに進められている進捗状況を共有したうえで、適応投資による経済メリットが『NECデジタル適応ファイナンス』の活用で新たな投資インセンティブ創出につながるモデルを提案しました。加えて、適応ファイナンスコンソーシアムで代表幹事を務める国際社会経済研究所 理事兼CTOの野口聡一(以下、野口)から、宇宙飛行士ならではの目線で、地球規模での防災・減災への取り組みの必要性、事前防災策導入のための適応ファイナンスの重要性をビデオメッセージで発信しました(写真9)。また、共同発表者のSwiss Re Ltd.から、気候変動による被害リスクを抑制するためにデータを活用したパラメトリック保険の開発事例が紹介され、グローバル保険機関が適応ファイナンスでNECの目指す方向と同じであることを認識しました。


4.3 NECの提案に対する反応
これらの会議やセッションを通じて、多くの政府・国際機関代表者が、気候変動を避けることは最早困難であり適応に目を向けるべきであると、繰り返し強調しました。自然災害が多い日本は、防災・減災対策先進国としての認知が既に国際的に定着しており、技術や知見を生かした適応策をグローバルに推進するリーダーシップが期待されています。NECがCOP29で発信した適応ファイナンスコンソーシアムや適応投資インセンティブのユースケース創出の取り組みについては、各国政府関係者や事業者などの多様なステークホルダーから課題解決型の具体的提案として、一定の賛同と評価を得ることができました。また、COP29の参加を通じて、現在の適応支援案件の定量評価について課題を感じているプレイヤーが数多く存在することも認識できました。気候変動対策資金の規模拡大には、国際支援の意思決定サイクルの高度化が併せて必要であり、気候変動基金や国際機関からはシミュレーション・AIなどのデジタル技術活用による根拠あるデータに基づいた適応価値可視化や効果のモニタリングについて関心が得られ、NECのデジタル技術への期待を実感しました。
5. むすび
COP29では、途上国への気候変動適応への国際的支援拡大の方向性が明らかとなりました。防災・減災分野において事前防災に長い経験と実績を持つ日本への期待は高く、国際社会に対し一定の役割を果たせると考えられます。NECはデジタル技術を活用した適応価値可視化により国際機関や基金の意思決定の迅速化及び透明性担保の面で貢献が可能だと認識を新たにしました。今後は適応ファイナンスコンソーシアムを通じた社会実装に向けた取り組みを継続するとともに、国際機関などとの連携を図り、事前防災のみならず、2025年にブラジルで開催されるCOP30で議論されるであろうグリーンインフラ・農業のサステナビリティも視野に入れ、幅広い視野で事業機会をとらえていきます。
- *IBMは、米国International Business Machines Corporation の商標です。
- *その他記述された社名、製品名などは、該当する各社の商標または登録商標です。
参考文献
執筆者プロフィール
GX事業開発統括部
統括部長
GX事業開発統括部
上席プロフェッショナル
GX事業開発統括部
ディレクター
GX事業開発統括部
主任
GX事業開発統括部
主任
関連URL
- NECデジタル適応ファイナンス
Advancing Climate Adaptation with Digital Technologies
Fostering "Pilots of Excellence" in Climate Resilience Through Partnerships, COP 29
ICT X Green Seminar at COP29 JAPAN PAVILION
Enhancing Early Warning Systems (EWS) Deployment & Further Collaboration in Asia-Pacific at COP29 JAPAN PAVILION
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