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企業のカーボンニュートラル実現を支援するGXコンサルティング
Vol.76 No.1 2025年3月 グリーントランスフォーメーション特集 ~環境分野でのNECの挑戦~今後グローバルでのカーボンニュートラル実現に向けた市場環境の継続的な変化により、企業はGXに対する戦略的な対応が必要になります。
NECグループ全体では、企業のGXに伴う組織全体の課題解決を支援するため、「GXプラットフォーム」の提供による企業及び製品レベルでの温室効果ガス(GHG)排出の可視化支援から、「GXコンサルティング」によるGX戦略の策定支援、更に「GHG削減ソリューション」による具体的なGHG排出削減対策の実施支援まで、ワンストップで提供する体制を構築しています。
本稿では、NECグループの提供する「GXコンサルティング」の特徴について詳しく紹介します。
1. はじめに
昨今、財務情報と同様もしくはそれ以上に非財務情報開示が重視されるようになり、企業の担当者はグリーントランスフォーメーション(Green Transformation:GX)やサステナビリティ・トランスフォーメーション(Sustainability Transformation:SX)への対応が求められています。これには、次のようないくつかの要因があると考えられます。
- (1)SDGsの隆盛:2015年に国連で採択されたSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)による環境問題や社会問題への意識の高まり
- (2)ESG投資の拡大:ESG(Environment/Social/Governance:環境・社会・ガバナンス)への関心の高まり、ESG全般に関する非財務情報の重要性の高まり
- (3)製品ライフサイクルを通じた削減要請:原材料調達から製品の生産、使用、廃棄に至るまで製品単位でのライフサイクル全体にわたるCO2*1 排出量(Carbon Footprint of Product:製品CFP)の算定、開示を求める声の高まり
- (4)開示義務化の動き:サステナビリティ基準委員会(SSBJ)の開示基準草案(2025年3月最終化予定)における開示義務化の検討
- (5)エネルギー価格ボラティリティの高まり: 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)やロシアのウクライナ侵攻による一時的な影響のみならず、自然災害の激甚化や再生可能エネルギーへのシフト、化石燃料からの脱却などを踏まえた継続・拡大傾向
これらの状況から、企業は非財務情報開示や資材調達、エネルギー調達においてこれまで以上に戦略的な対応が求められることになります。
- *1CFP算定についてはGHG全体を対象にしており、CO2換算した値を見える化します。
2. 企業に求められる対応策
グローバルでのGX及びSXへの移行に伴い、企業(特にエネルギー需要家企業)において求められる対応には主に3つのポイントがあります。
2.1 組織横断でのPDCAサイクル構築
1つ目のポイントは、社内における関係部門横断でのPDCAサイクルの構築です。全社でのGHG(温室効果ガス)排出量削減の推進では、外部への企業レベルでの情報開示を推進するサステナビリティ部門だけでなく、製品を開発する開発/設計部門、現場にて製品を製造する生産部門、原材料等のサプライヤを管理する調達部門、お客様への製品CFP開示を対応する販売部門及び全社の事業計画、予算を策定する企画部門など、幅広い部門との連携が必要となります。
そのため、今後企業のGX推進に伴うリスクを最小化するためには、全社GX戦略に基づいて社内の関係各部門が個別の実行計画及びKPIを設定することが重要です。また、各部門だけでなく全社的に統合された進捗管理の仕組みを構築することにより、企業全体でのGHG排出削減目標の達成状況を可視化できます。これにより、迅速に課題を把握し、効率的にGHG排出削減目標を達成することが可能となります。
2.2 市場環境変化に応じたGHG削減ロードマップの見直し
2つ目のポイントは、市場環境変化に応じたGHG削減ロードマップの見直しです。グローバルでのGX推進に伴い、今後国内市場においても排出量取引や炭素税導入など新たな制度導入が想定されるとともに、再生可能エネルギー比率拡大に伴う電力卸市場価格のボラティリティや化石燃料価格高騰リスクなど、不確定要因も多く存在しています。つまり、企業がGHG削減ロードマップ策定時に想定した市場環境シナリオは今後も継続的に変化していくことが想定されます。そのため、企業においては、外部の市場環境の変化を継続的に情報収集し、それが当初策定した自社GHG削減ロードマップへどのように影響を及ぼすかを分析し、その結果に基づいて必要な修正をしていくことが重要です。これにより、企業全体での投資対効果の高いGHG排出削減対策を実現することが可能となります。
2.3 社外との連携によるGHG排出削減対策実施
3つ目のポイントは、社外との連携によるGHG排出削減対策の実施です。企業が2050年カーボンニュートラルを実現するためには、自社のGHG排出量(Scope 1、2)の削減だけでなく、サプライチェーン全体(Scope 3)からの削減が必要となります。
特に、製造業においてScope 3のうち原材料調達からの排出であるカテゴリ1の比率が高い場合、調達先であるサプライヤとの連携によるGHG排出削減対策の実施が重要となります。
そのためには、調達部門はサプライヤとのエンゲージメントを強化し、サプライヤからの一次データを効率的に収集する仕組みを構築するとともに、サプライヤ各社のGHG排出量の可視化、目標設定及び削減ロードマップ策定を支援し、協力してGHG排出削減を推進することが重要となります。
3. NECグループによるGX支援メニュー
3.1 NECグループGXサービス全体像
NECグループ全体では、企業のGXに伴う組織全体の課題解決を支援するため、「GXプラットフォーム」の提供による企業及び製品レベル(製品CFP)でのGHG排出の可視化支援から、「GXコンサルティング」によるGX戦略の策定支援、更に「GHG削減ソリューション」による具体的なGHG排出削減対策の実施支援まで、ワンストップで提供する体制を構築しています(図1)。


ここではGX戦略策定を支援する「GXコンサルティング」の具体的な支援内容について紹介します。
なお、「GXプラットフォーム」については本特集「社会のグリーントランスフォーメーションを加速するGXプラットフォーム」、「製品CFP」については同じく本特集「ABG(Activity Based GHG Emission)マネジメント実現にむけて」にて詳細を紹介していますので、併せて参照ください。
3.2 NECグループにおけるGXコンサルティング
3.2.1 GHG排出量可視化支援
GX戦略策定において最初のステップとして必要となるのがGHG排出量の可視化です。特に製造業では、投資家からの要請による「企業レベル」でのGHG排出量算定だけでなく、取引先からの要請による「製品レベル」でのGHG排出量(製品CFP)の算定が必要になります。
NECグループでは、Scope 3を含めた企業レベルでのGHG排出量の算定支援はもちろん、製品レベルでのGHG排出量(製品CFP算定)も支援しています(図2)。


製品CFPについては、将来的なGHG削減対策実施による製品CFPの低減効果の反映を考慮すると、売上高や取引量に基づく簡易的な「按分型」での算定だけでなく、精緻なBOM/BOP情報に基づく「積上型」での算定が必要となります。
そのため、NECグループでは、「積上型」算定に必要な情報ソースの管理状況の確認・整理による現状分析に加え、Pathfinder Frameworkなどの各種フレームワークやガイドラインなどに準拠した、効率的な製品CFP算定に必要なデータ収集プロセスやシステムの構築など「積上型」算定プロセスの構築に向けた伴走型支援を提供します。
3.2.2 GHG削減ロードマップ策定支援
企業がカーボンニュートラル達成に向けて、段階的にGHG排出量削減を実現していくためには、目標達成に向けたGHG削減ロードマップの策定が重要となります。
ただし、GHG削減対策については、省エネ対策(運用改善)やオンサイト/オフサイトPPA、燃料転換など各対策の投資対効果を定量評価したうえで、財務メリットの高い対策を優先的に選択し、GHG削減と財務パフォーマンスとの両立を図ることが企業経営の視点から重要となります。
NECグループでは、各社において実施可能なGHG削減対策のGHG削減コスト*2(円/tCO2)を定量評価し優先度を比較評価できる「GHG限界削減コストカーブ(MACカーブ)」の策定を支援するとともに、目標達成に向けて実施すべき削減対策の優先順位とスケジュールを定義する「GHG削減ロードマップ」の作成を支援します(図3、4)。加えて、社会動向や法令、各イニシアチブ(SBTやRE100など)による議論などを適時アップデートして削減対策の有効性を高めるための「GHG削減ロードマップの見直し」についても伴走型で支援します。




- *2GHG削減コストについてはGHG削減量をCO2換算したうえで算定します。
3.2.3 サプライヤエンゲージメント支援
企業のサプライチェーンを含めたGHG排出量削減では、Scope 3の削減対策の実施が重要となります。特に製造業ではScope 3のうち原材料調達による排出であるカテゴリ1が高い比率を占めており、原材料調達先であるサプライヤとの連携したGHG排出削減対策の実施が重要となります。
NECグループでは、すでに自社におけるサプライヤとの連携によるGHG削減対策実施ノウハウに基づく「サプライヤエンゲージメント」支援メニューを提供し、企業の調達部門において必要となるサプライヤとの連携によるGHG削減支援メニューの構築支援及び具体的な削減に向けた伴走型での支援について提供しています。これらのアビームコンサルティングで実施したノウハウに基づき具体的には図5のように、削減方針策定から排出量の可視化、削減目標設定、削減対策実行などサプライヤの進捗状況に合わせた段階からの支援を実施します。


3.2.4 再生可能エネルギー融通モデル構築支援
企業がカーボンニュートラル目標達成に向けて、GHG排出量削減を実現していくうえで、再生可能エネルギー環境価値の確保が重要となります。
特に、今後国内における再生可能エネルギー需要が拡大し、再生可能エネルギー電源の確保が難しくなる可能性を考慮すると、「追加性」のある再生可能エネルギー電源をCPPA(コーポレートPPA)にて早期に長期確保していくことが重要となります。
ただし、CPPAは一般的に20年の長期契約となるため、大企業しか採用できず、中小企業においては実質CPPAでの調達が難しい状況となっています。
NECグループでは企業における新たな「追加性」再生可能エネルギー電源の調達スキームとして、「再生可能エネルギー融通モデル」構築を支援しており(図6)、大企業が地元自治体や複数のサプライヤ企業と連携し、再生可能エネルギーを共同調達し複数企業間で融通できるモデルを構築することにより、大企業の追加性のある再生可能エネルギー電源の確保とともに、自社GHG排出量(Scope 1、2)だけでなく、サプライチェーン全体におけるGHG排出(Scope 3)削減の実現を支援します。


4. むすび
本稿では、企業が非財務情報開示やエネルギー調達においてこれまで以上に戦略的な対応が求められるようになった背景と、アビームコンサルティングが考える対応策を実施するうえでの3つのポイント、並びに、NECグループのコンサルティング支援メニューを紹介しました。
別稿でも紹介のとおりNECグループとしてはGXマネジメントツールや削減ソリューションも有しており、企業のカーボンニュートラル実現に向けて、さまざまな段階でグループ総力を挙げて貢献したいと考えています。
執筆者プロフィール
アビームコンサルティング株式会社
SCM改革戦略ユニット
ダイレクター
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