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ABG(Activity Based GHG Emission)マネジメント実現にむけて
Vol.76 No.1 2025年3月 グリーントランスフォーメーション特集 ~環境分野でのNECの挑戦~日本における二酸化炭素(CO2)排出量の3分の1は、製造業を中心とした産業領域から排出されています。社会的責任の観点から、日本の製造業はCO2排出量の削減活動を継続する必要があります。
製品ごとのCO2排出量を正確に管理するためには、調達や生産などの製品の各プロセスで発生するCO2排出量を詳細に集計する「製品カーボンフットプリント」(製品CFP)が有効です。この方法は、活動基準原価計算のように、プロセスごとに発生するCO2排出量を積み上げて管理する手法であり、NECではABG(Activity Based GHG Emission)と呼んでいます。
本稿では、製品CFP開示の規制動向、ABGで改善サイクルをマネジメントするあるべき姿、その実現に向けた想定課題と、NECがどのように価値提供しようとしているかを紹介します。
1. はじめに
カーボンニュートラルは、地球温暖化に着目して、その影響要因であるCO2の排出量の削減と、植林や技術的な吸収手段で相殺し、実質的なCO2排出量をプラスマイナスでゼロにすることを目指した活動です。
実際、日本政府も2050年までにカーボンニュートラルを達成することを目標に掲げています1)。また国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)において当時の内閣総理大臣である岸田文雄氏は、「2030年までに2013年度比で温室効果ガス(GHG)を46%削減し、更に50%削減を目指す」ことを約束しています。
図1のとおり、環境省・経済産業省の2022年度GHG排出量を集計した結果によると、日本のGHG排出量は11.4億トンで、そのうちの約3割は、製造業を中心とした産業領域から排出されています。


すなわち日本の製造業は、社会的責任の立場からカーボンニュートラルを強く推進する必要があります。そのために、個々の製品ごとに、図2のライフサイクル全体でどのくらいのGHGを排出しているかを定量的に算出して、排出削減につなげる製品カーボンフットプリント(製品CFP)の考え方に注目が集まっています。


これを実現するためには、自社だけではなく、サプライチェーン上でかかわりのある企業間で情報を共有する必要があります。
本稿では、製品CFPの開示に関する規制や標準化動向、製品CFPマネジメントのあるべき姿、その実現に向けた課題、その課題に対するNECの価値について紹介します。
2. 製品カーボンフットプリント開示に関する規制や標準化動向
SDGsに関連する、例えば水(H2O)、酸性雨の影響物質である硫黄酸化物(SOX)など環境影響物質のなかでも、CO2排出量の情報管理のルール標準化やデータ流通基盤、法規制の整備活動は、特に先行しています。
2.1 製品カーボンフットプリントの情報管理のルール標準化の進展
CO2排出量については、ISO14064を中心に標準化の中身がまとめられていますが、企業間情報共有の考え方など、補いきれていない事柄についても国際標準ルールの整備が進んでいます。
Pathfinder FrameworkやPathfinder Networkは、世界的な民間企業のCEOや幹部が主宰する持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD:World Business Council for Sustainable Development)が主導するイニシアチブの1つである炭素の透明性のためのパートナーシップ(PACT:Partnership for Carbon Transparency)のなかで提唱された国際的な技術仕様です。
Pathfinder Frameworkは、製品CFP算定方法と、サプライチェーン上でかかわりのある企業間でその結果を共有するためのガイダンスに当たります。一方でPathfinder Networkは、これらの企業間で情報を取り交わすためのデータフォーマットやAPIの方式、情報の機密性を確保するための考え方を規定したものになります。
このようなかたちで、単一企業の枠組みを超えた製品CFPの管理をするためのルールの標準化が進んでいます。
2.2 欧州におけるデータ流通基盤整備と法規制
更に欧州では、インターネットやIoT技術の進展と相まって、GAIA-Xと呼ばれる企業間データ流通基盤の整備が進んでいます。
受発注システムでEDI(Electronic Data Interchange)という言葉を聞いた方は多くいると思いますが、企業間でデータ交換が必要になるケースは、それ以外にもさまざまあり、製品CFPに関する情報もその1つです。欧州では、そういったさまざまなユースケースの検討を行い、具体的に企業間でどのようにデータを取り交わすかの整備が進んでいます。
特に自動車業界がこれに敏感に反応しています。Catena-Xと呼ばれるデータ流通基盤を構築、その運用を開始しています。
製品CFP管理は、前述のとおり企業間でのデータ交換が必須となります。その適用においては、前述のPathfinder Framework/Pathfinder Networkに準拠したかたちで、データ流通基盤を介した企業間連携が始まっています。
併せて欧州では、電気自動車に搭載する電池について、2025年2月から製品CFPの申告義務が必要になるといわれています。申告できないと、欧州内での製品取引について、高税率や罰金、取引停止といったペナルティを受ける可能性があります。
またこの先、産業機械やスマートフォン、パソコンなどの携帯機器に用いられるバッテリー、家庭用蓄電池などにも申告義務の規制が広がるといわれています。
電池規制以外では、エコデザイン規則(ESPR:Ecodesign for Sustainable Products Regulation)も2014年7月18日から既に施行されています。こちらは鉄鋼・アルミニウム・繊維(衣服)・家具・タイヤ・洗剤・塗料・化学品など、非常に多岐にわたる素材や製品が対象になります。
前述のとおり、これらはサプライチェーンにかかわる企業全体に当てはまります。また、製造業における欧州との取引は当たり前のものになっています。日本のさまざまな製造業においても、こうしたことを「隣の畑で起きていること」などとはいっていられない状況になってきています。
2.3 日本における製品カーボンフットプリント情報の企業間流通動向
日本でも、自動車業界を中心に経済産業省と協力して、日本版企業間データ流通基盤であるOuranos Ecosystem(ウラノス・エコシステム)の整備が始まっています。最初の実現ユースケースとして、蓄電池トレーサビリティ管理システムが構築され、そのなかで製品CFP情報の開示・共有が推進されています。
すなわち、製品CFPを管理するための情報基盤やビジネスルールが、日本や欧州で整ってきています。
3. 製造業における製品カーボンフットプリントマネジメントのあるべき姿
製品CFP情報の算定方法としては、大きく2つあります。1つ目は按分型で、次の算定式になります。
該当製品のCFP=自社の総CO2排出量×(該当製品の出荷量/全製品の総出荷量)
(出荷量:出荷金額または出荷製品重量)
この計算式の利点は、そろえやすい情報での算定が可能なところです。製品CFP算定機能を持った多くのツールは、ほとんどこの算定方式を採用しています。
2つ目は、図3のとおり調達・製造などプロセスごとに原単位と活動量(使用量)を掛けて、それらを積み上げる方式になります。


例えば、各プロセスの活動量×原単位は次のとおりとなります。
- 調達プロセス=部品・材料1つごとのCO2排出量×製品1つ当たり員数
- 製造プロセス=製品1つを製造するのに設備で発生するエネルギー量×そのエネルギー量に対するCO2排出原単位
この方式は、製品構成情報や活動実績、品目や活動ごとの排出原単位を把握する必要があるため、実現のハードルが高くなりますが、現場実態を把握しCO2削減のための活動につなげるためには有効と考えます。また、Pathfinderでも、このレベルの管理が強く求められています。
間接費の管理手法で、ABC(Activity Based Costing:活動基準原価計算)の考えがあります。各プロセス≒活動ととらえれば、計算の考え方は類似していると考えます。NECとしては、これをABG(Activity Based GHG Emission:活動基準GHG排出量)と名付け、提唱しています。
3.1 ABGマネジメントシステムのアーキテクチャ
製造業のお客様のCO2排出量削減という課題に応えるため、ABGマネジメントの「改善につなげやすい」ことを重視し、図4にある(1)~(4)のアーキテクチャを考えています。


- (1)製品と部品・材料構成、製造ライン設備構成情報管理:PLM(Product Lifecycle Management)
- (2)設備ごとの必要エネルギー量や生産数量実績の収集:MES(Manufacturing Execution System)及びERP(Enterprise Resource Planning)
- (3)PLMやMES、ERPから収集した情報の集計・単位変換、Pathfinder Network規定のフォーマット変換機能、企業間データ流通基盤を介した取引先との連携:GXプラットフォーム
- (4)GXプラットフォームから、部品・材料構成や製造ラインの設備構成情報を取り込み、ABGを見える化・分析できる機能
3.2 ABGマネジメントシステム実現に向けた課題・対応策
ABGマネジメントの実現に向けては、システムはもちろん、業務変革が大きな課題になります。
例えば、サプライヤから部品・材料ごとのCO2排出量を入手する際、彼らにもABGマネジメントの仕組みが必要ですが、すべてのサプライヤに対応してもらうのは容易ではありません。特に組み立て製造業は調達品のCO2排出比率(Scope3カテゴリ1)が大きく、NEC自身でも課題になっています。
また現場設備のエネルギー情報(Scope1、2)でも、電力測定機器などに投資が必要、混流生産がABGマネジメントを複雑にしているなど、難しい事情もあります。 NECは業務変革コンサルティングや前述の(1)~(4)のソリューションによりABGマネジメントシステムを提供し、これらの課題解決を支援します。
- (1)製品と部品・材料構成、製造ライン設備構成情報管理:Obbligato
- (2)設備ごとの必要エネルギー量や生産数量実績の収集 :NEC Industrial IoT Platform、IFS Cloud
- (3)PLMやMES、ERPから収集した情報の集計・単位変換、Pathfinder Network規定のフォーマット変換機能、企業間データ流通基盤を介した取引先との連携 :GXプラットフォーム(仮称、開発中)
- (4)GXプラットフォームから、部品・材料構成や製造ラインの設備構成情報を取り込み、ABGを見える化・分析できる機能:GreenGlobeXなど
4. むすび
本稿では、ABGマネジメント実現のあるべき姿とそこに向けての課題を述べました。
カーボンニュートラルの実現に向けては、ABGマネジメントシステム導入に加え、再生可能エネルギー設備の電力購契約(PPA:Power Purchase Agreement)やリソースアグリゲーションなど、さまざまな取り組みも必要です。
NECも更にサービス整備を進めていく予定です。
参考文献
執筆者プロフィール
スマートインダストリー統括部
シニアプロフェッショナル
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