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【最低賃金引き上げで時給差が縮まる?】「最低ライン対応」で終わらせない時給見直しの実務

公開日:2026年8月24日(当記事の内容は公開時点のものです)
new window監修:社会保険労務士法人 ヒューマンリソースマネージメント
特定社会保険労務士 馬場栄

令和8年度も、最低賃金の大幅な引き上げの目安が示されました。背景にあるのは、業種を問わず続く人手不足と物価上昇です。

最低賃金改定時には、最低賃金額を下回る従業員がいないか確認することが重要です。ただし、それだけで対応を終えてはなりません。最低賃金付近の時給帯、新人採用時給、既存スタッフやリーダーとの時給差まで見直す必要があります。

令和8年度の最低賃金改定内容と着目ポイント

令和8年7月28日に令和8年度の地域別最低賃金額改定の目安が公表されました。その内容と着目ポイントを解説します。

・令和8年度最低賃金

令和8年度の最低賃金は、目安どおりに引き上げられた場合、全国加重平均で前年度より55円高い1,176円となる見込みです。令和7年度も過去最大となる66円の引き上げにより、全国加重平均は1,121円となっており、令和8年度も引き続き高い水準の引き上げが示されています。

都道府県別では、目安どおりに改定された場合、東京都が1,280円、沖縄県が1,079円となるなど、依然として地域差が見られます。

・着目ポイント

令和7年度の改定では指定日発効が急増しました。27府県が11月以降、うち6県が令和8年1月以降の発効となり、地域間で大きな差が生じています。このことを受け、厚生労働省中央最低賃金審議会は令和8年6月23日に「発効日について、大幅な引き上げ額を確保するための過度な交渉材料とするべきではない」との考えをまとめています。発効日を遅らせる府県が相次いだ昨年の状況を是正することが狙いです。

令和8年度は引き上げ額とあわせて、発効日がどのように定められるのか、指定日発効とする場合にどのような理由が示されるのかにも着目することが必要です。また、最低賃金が上昇すればするほど、最低賃金付近だけでなく、周辺の時給帯の従業員や採用時給にも影響が及びます。この点にも着目することが必要となるでしょう。

最低賃金改定時に押さえておきたいキホンとは

本項では、FAQ形式で、最低賃金を正しく判定するための基本ルールを解説します。

Q. 発効日が給与の締め日とずれる場合はどうしますか?

給与計算期間中に新しい最低賃金が適用される場合には、発効日前後の勤務分を分けて確認しましょう。同じ給与計算期間内でも、発効日前の勤務分には改定前、発効日以降の勤務分には改定後の最低賃金が適用される点に注意が必要となります。

複数拠点で勤務する場合、都道府県ごとに異なる発効日を確認することが必要です。拠点ごとの発効日や給与締め日、時給マスタの更新日、給与計算への反映タイミングにずれが出ないよう注意しましょう。

Q. 最低賃金は、どの地域の金額を確認すればよいですか?

原則として従業員に適用される最低賃金は、本社の所在地ではなく実際に勤務する事業所の所在地を基準とします。そのため、複数拠点勤務やヘルプ勤務では、勤務場所ごとの最低賃金を確認することが必要です。

Q. 時給者だけを確認すればよいですか?

最低賃金は、時給者だけを対象とした制度ではありません。日給者や月給者にも最低賃金は適用されます。そのため、月給等の場合には、時給に換算したうえで最低賃金を下回っていないか確認することが必要です。

Q. 最低賃金はどのように計算して確認しますか?

時給制の場合は、時給額を最低賃金額と比較します。日給制は「日給÷1日の所定労働時間」、月給制であれば「月給÷1か月の平均所定労働時間数」で計算し、確認します。

出来高払制などの場合は「出来高払い制等によって計算された賃金総額÷当該賃金計算期間に出来高払制等によって労働した総労働時間数」で計算し確認します。なお、時給や日給、月給、出来高払いなどを組み合わせている場合は、それぞれを時間額に換算したうえで合計し、最低賃金と比較します。

Q. 手当を含めて最低賃金を超えていれば問題ありませんか?

最低賃金の計算に含まれない手当等があるため、支給項目ごとに確認する必要があります。たとえば、通勤手当や家族手当、精皆勤手当、賞与、時間外・休日・深夜労働の割増賃金などは除外して判断しなければなりません。総支給額や全手当の合算額だけで判断しないように注意しましょう。

最低ライン対応だけでは足りない「時給差の圧縮」リスク

最低賃金改定時には、まず改定後の最低賃金を下回る従業員がいないか確認することが必要です。しかし、最低ラインの対応のみでは「時給差の圧縮」リスクが生じてしまいます。

新人の時給だけを引き上げ、既存スタッフやベテラン、教育係などの時給を据え置けば、時給差が圧縮され、経験や役割に応じた賃金の差が見えにくくなります。これではベテランが「新人と差がない」と感じたり、教育係が「指導をしているのに評価されない」と感じたりしても不思議はありません。

単純に最低賃金を上回るだけでは、法律上の問題はクリアできても時給バランスが崩れてしまう恐れがあります。どの層の時給差が縮まるのかを把握することが重要です。

時給バランスを見直す「チェック&アクションリスト」

最低賃金改定を単なる最低ラインの時給引き上げで終えてしまえば、時給バランスが崩れます。改定時に時給バランスを見直すために必要なチェックとアクションを解説します。

・チェックリスト

時給は役割や経験などに応じて、適切に設定されなければなりません。見直しの際には、シフトや人員配置にどのように影響するのかを把握することも必要です。また、時給バランスは、従業員の納得感にも影響するものです。

以下に改定時における時給バランス見直しのチェックリストを掲載します。ぜひご活用ください。

  チェック項目
最低賃金に近い時給帯の従業員がどれくらいいるか
最低賃金プラス50円、100円など、時給差が縮まりやすい層がどこにいるか
新人採用時給と既存スタッフの時給差が縮まっていないか
ベテラン、教育係、シフトリーダーなど役割を担う従業員との時給差が適切か
同じ職種・同じ業務内容の中で、時給差の逆転や過度な接近がないか
採用時給を引き上げる場合、既存スタッフやリーダー層との時給差にどう影響するか
扶養内勤務者の就業調整や人員不足への対応も、時給差の圧縮とあわせて確認できているか
時給バランスの見直しが、勤務時間の調整、シフト充足、人員配置にどう影響するかも確認できているか
改定額の公表後から発効日までの準備期間が限られることを踏まえ、発効日前に確認・判断が必要な事項を洗い出せているか
従業員から時給見直しについて聞かれた場合に、説明できる基準があるか

・アクションリスト

チェックリストを確認するだけでは、改善にはつながりません。見えてきた課題に応じた取り組みが必要です。

以下のアクションリストを参考に、適切な対応を進めましょう。

  具体的なアクション
改定後の最低賃金を下回る層、時給差の再調整を検討する層、就業調整で勤務時間が減る可能性のある層、説明基準の整理が必要な層などに分けて考える
一律引き上げを前提とせず、どの層の納得感に影響しやすいか、どの時給差を優先して維持するかを整理する
時給自体の見直しだけでなく、役割手当、リーダー手当、評価・昇給ルール、採用時給の設定方法なども含めて検討する
扶養内勤務者の就業調整が見込まれる場合は、時給改定後の勤務可能時間、必要人員、繁忙時間帯のシフト充足状況を確認し、賃金面とシフト面の両方から対応方針を検討する
改定対応に備え、勤怠管理システム等で設定変更が必要になる箇所をあらかじめ確認しておく
従業員からの質問に、どの基準で確認し、どのような考え方で見直し対象を判断したのかを説明可能とする

最低賃金改定を「年次時給バランス点検」にする

最低賃金改定への対応は「年次時給バランス点検」とすることも可能です。そのためには、チェックとアクションを単発で終わらせず、毎年同じ品質で実施できるようにすることが必要となります。

・点検カレンダー

最低賃金の発効日を10月1日と仮定し、「いつ・どのような観点で確認し、見えた課題をどう整理して、対応方針の確認や給与反映・記録までつなげるか」をカレンダー形式で解説します。

  • 実際の発効日は都道府県によって異なるため、各都道府県の発効日に合わせて日程を調整してください。
時期 点検内容
7月〜8月頃 最低賃金の改定情報を確認し、対象拠点・対象従業員の抽出準備を開始
8月 最低賃金に近い時給帯、新人と既存スタッフ、一般スタッフと教育係、リーダーと一般スタッフなど、確認する時給差の組み合わせを点検
あわせて、扶養内勤務者の就業調整見込み、時給改定後の勤務可能時間や繁忙時間帯のシフト充足に影響がないかも確認
9月上旬 チェックで見えた課題を分類し、見直し要否や対応方針、承認フロー、給与反映の締切を確認
時給差の再調整が必要な層と、就業調整により勤務時間が減る可能性のある層を分け、賃金面とシフト面の両方から対応方針を整理し、改定内容の反映に向けた準備を進める
9月中旬~下旬 時給マスタ、雇用契約書・労働条件通知書、求人票などへの改定内容の反映状況を確認し、更新漏れがないかを最終点検
10月1日以降の初回給与計算時 新しい最低賃金や見直し内容が正しく反映されているか確認
改定対応後 対応内容、判断理由、次年度への申し送りを記録し、翌年以降に引き継ぐ

勤怠データの活用

点検には、勤怠データが活用できます。たとえば、勤怠管理システムのCSV出力やアラート設定を使えば、勤務場所、所属拠点、雇用形態、複数拠点勤務、発効日前後の勤務実績を確認しやすくなり、対象者の抽出も効率化できます。

勤怠データを利用する際には、抽出条件や確認範囲、課題の共有先、判断結果、対応履歴などを毎年同じ形で残しておくことが重要です。このようにすることで、担当者が変わっても同じ基準で点検・対応しやすくなります。

さいごに

最低賃金改定は、単に最低賃金を下回らないようにする作業ではなく、時給バランスを見直す機会ともなります。新人と既存スタッフやベテラン、リーダーとの時給差が縮まると、役割による賃金差が見えづらくなり、正当な評価がされていないとの不満が生じやすくなります。適宜、勤怠管理システム等を活用して、勤務場所や発効日、対象者を確認して反映漏れを防ぎつつ、客観的なデータを基に、現場感覚だけに頼らない納得感のある改定対応を行うことが重要です。

▼Pickup 勤革時 情報

クラウド型勤怠管理システム「勤革時(きんかくじ)」の中で、最低賃金改定への対応に役立つ勤怠管理の機能をご紹介します。

拠点ごとの労働時間集計(移動集計機能)

1人の従業員が1日のうちに複数の拠点で勤務した場合、拠点ごとの労働時間を分けて集計・表示できる仕組みです。最低賃金は勤務する事業所の所在地を基準に判定するため、複数拠点勤務やヘルプ勤務がある場合の実態確認に活用できます。

月別データ/日別データのCSV出力(エクスポート機能)

打刻時刻や労働時間の集計結果、所属、雇用区分などの勤怠データをCSV形式で出力できる機能です。対象拠点や対象従業員の洗い出し、発効日前後の勤務実績の確認に活用できます。最低賃金付近の時給帯にいる従業員の抽出や最低賃金との比較は、出力した勤怠データと賃金・時給データを突き合わせて行います。

人件費概算出力機能

従業員または雇用区分ごとに単価を設定し、勤務実績に基づく人件費の概算を確認・出力できる機能です。時給を見直した場合の人件費への影響を把握し、時給バランスとシフトの両面から対応を検討する際に活用できます。

社会保険加入(実績)アラート

労働時間の実績を基に、社会保険の加入対象となる可能性がある従業員を確認できる機能です。最低賃金を判定する機能ではありませんが、時給改定後の勤務時間や就業調整への影響を点検する際の参考になります。

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