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【全国で最低賃金1,000円超え!】過去最高の引上げに企業はどう対応するか

公開日:2025年9月1日(当記事の内容は公開時点のものです)
new window監修:社会保険労務士法人 ヒューマンリソースマネージメント
特定社会保険労務士 馬場栄

令和7年度の最低賃金が過去最高の63円引き上げられ、全国平均は1,118円となる見込みです。これにより、すべての都道府県で時給1,000円を超える時代が到来します。本記事では、この大幅な引き上げが企業経営に与える「人件費の増加」や「人手不足の深刻化」といった課題を整理し、具体的な対応策を分かりやすく解説します。単なるコスト増で終わらせないための、今すぐ取り組める実践的なヒントが満載です。

過去最高の引上げ額で全国平均1,118円に

令和7年度の最低賃金の全国加重平均は1,118円となる見込みで、引上げ額は過去最高の63円(対前年度引上げ率6.0%)となりました。これは昭和53年度に目安制度が始まって以来の最高額です。
この目安どおりに改定されれば、現在900円台の31県を含め、すべての都道府県で最低賃金が1,000円を超えることになります。都道府県別の目安は、A・Bランクが63円、Cランクは地域間格差是正のため64円の引上げが提示されました。

ランク 都道府県 金額
A 埼玉、千葉、東京、神奈川、愛知、大阪 63円
B 北海道、宮城、福島、茨城、栃木、群馬、新潟、富山、石川、福井、山梨、長野、岐阜、静岡、三重、滋賀、京都、兵庫、奈良、和歌山、島根、岡山、広島、山口、徳島、香川、愛媛、福岡 63円
C 青森、岩手、秋田、山形、鳥取、高知、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄 64円

最も高い東京都は現行の1,163円から1,226円に、最も低い秋田県でも現行の951円から1,015円になる見込みです。

過去10年間の全国平均最低賃金と引上げ額の推移は以下のとおりです。

年度 全国平均金額 引上げ額 引上げ率
令和7年(2025年) 1,118円 63円 6.0%
令和6年(2024年) 1,055円 51円 5.1%
令和5年(2023年) 1,004円 43円 4.5%
令和4年(2022年) 961円 31円 3.3%
令和3年(2021年) 930円 28円 3.1%
令和2年(2020年) 902円 1円 0.1%
令和元年(2019年) 901円 27円 3.1%
平成30年(2018年) 874円 26円 3.1%
平成29年(2017年) 848円 25円 3.0%
平成28年(2016年) 823円 25円 3.1%
  • 引上げ率は全国加重平均値の変動を含むため、数値が若干異なる場合があります

コロナ禍だった令和2年を除くと、令和4年までは、25円~30円(3%)程度の引上げ額でした。それが、令和4年から令和5年では約40円、令和5年から令和6年では約50円と、年々引上げ幅が上昇しています。令和7年度もこの流れは継続しており、政府目標を踏まえると、今後も同様の流れになるものと考えられます。

押さえておきたい最低賃金の基礎知識

●最低賃金の計算方法

労働者に支払う賃金は、最低賃金以上でなければなりません。最低賃金は、原則として時給で定められており、それぞれの賃金形態ごとの時給の求め方は以下のとおりです。

  • 日給制
    日給÷1日の所定労働時間
  • 月給制
    月給÷1か月の平均所定労働時間数
  • 出来高払い制その他請負制
    出来高払い制等によって計算された賃金総額 ÷
    当該賃金計算期間に出来高払制等によって労働した総労働時間数
  • 日給や時給、出来高払いが組み合わさっている場合
    ①、②、③の計算式により、時給換算した額の合算額

上記①~④により計算した額が最低賃金額以上でなければ、最低賃金法違反となり、50万円以下の罰金が科せられるおそれがあります。

●除外手当(賃金)

支払われる賃金が最低賃金額以上であるかを確認する際には、計算から除外すべき手当や賃金が存在します。計算の際には、下記手当等を除いたうえで計算を行いましょう。

  • 精皆勤手当
  • 通勤手当
  • 家族手当
  • 所定労働時間を超える時間の労働に対する賃金
  • 所定労働日以外の労働に対する賃金
  • 深夜労働に対する賃金
  • 臨時に支払われる賃金
  • 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金

●よくある適用ミスの例

最低賃金の適用について、ミスが起こりがちな例を紹介します。

本社と別地域の事業所で働く労働者

最低賃金は、本社がどの都道府県に存在するかを問わず、実際に働く場所が適用の基準となります。
そのため、東京都に本社を置く企業に雇用され、埼玉県の事業所で働く労働者には、埼玉県の最低賃金が適用されます。

在宅勤務者

テレワークやリモートワークによる在宅勤務者に適用される最低賃金は、自宅所在地ではなく、勤務する事業所の所在地である都道府県のものとなります。
そのため、所在地が東京都である企業に勤務する労働者が、千葉県の自宅でテレワークを行っている場合には、東京都の最低賃金が適用されます。

派遣労働者

派遣労働者に適用される最低賃金は、直接雇用する派遣元企業所在地の都道府県のものではありません。この場合、派遣労働者が実際に就業することになる派遣先企業所在地の最低賃金が適用されます。

最低賃金上昇が企業に与える実務的影響

基本的に、最低賃金の引上げは労働者にとっては歓迎すべきことです。しかし、企業にとっては良いことばかりではありません。企業への実務的影響を解説します。

●パート・アルバイトの雇用コスト増加

最低賃金が上昇すれば、当然人件費も上昇し、雇用コストが増加します。最低賃金付近の時給でパートやアルバイトを雇用することの多い飲食業や小売業では、その影響は極めて大きなものとなるでしょう。原材料費や光熱費の高騰などから、飲食業や小売業では、これまでどおりの利益を上げることが難しくなっています。最低賃金引上げによる雇用コストの増加は、その状況にさらなる追い打ちをかけることにもなりかねません。
パートやアルバイトの雇用コストに関しては、年金制度改正との関係も切り離せないものとなっています。年金制度改正によって、106万円の壁における賃金要件(月額8.8万円)が撤廃される予定です。
撤廃の時期は、法律の公布から3年以内で、全国の最低賃金が1,016円以上となることを見極めて判断するとされています(最低賃金1,016円以上の地域で週20時間以上働くと、年額換算で約106万円となる)。今回の目安どおりに引き上げられた結果、最も低い最低賃金額となる秋田県でも1,015円です。近いうちに賃金要件は撤廃されると考えられますが、撤廃されずとも、多くの都道府県で賃金要件を満たす状況になると予想できます。
賃金要件が撤廃され、アルバイトやパートが社会保険に新たに加入することになれば、企業が保険料を折半負担しなければならなくなり、その負担は雇用コストの増加につながります。
特定適用事業所における51人以上という規模要件も、2027年10月から段階的な撤廃が開始されるため、これまで以上に社会保険の加入義務が生じるケースが増えてしまいます。

●人手不足

アルバイトやパートは、社会保険料の負担を嫌って、扶養の範囲内で働くことが多くなっています。しかし、最低賃金が引き上げられれば、これまでと同様の労働時間であっても、扶養から外れてしまうケースが出てきてしまうでしょう。そのため、最低賃金が引き上げられた分、労働時間を減らし、扶養の範囲内に留まれるように就業調整を希望するパートが増えることが予想されます。
店舗や事業所で働く人数は変わらないまま、ひとり当たりの労働時間を減らす就業調整が行われれば、当然人手不足に陥ります。新たにアルバイトやパートを雇い入れ、人数を増やせば解決もできますが、雇用コストの増加が問題解決を困難なものとしています。営業時間の変更や、縮小営業などで対応せざるを得ない場面も増えてくるでしょう。

今すぐできる実践的対応策

最低賃金の引上げによる雇用コストの増加や人手不足への対応は喫緊の課題です。企業が今すぐ実践できる対応策を紹介します。

●賃金設計・勤務形態の見直し

労働時間を増やせば、収入が増えて税や社会保険の壁を超えてしまう場面が出てきます。最低賃金の引上げに伴い、税金や社会保険料の負担を避けるための就業調整を希望するアルバイトやパートも出てくるでしょうが、これは手取りが減ることを嫌っているからに他なりません。そのため、税金や社会保険料が発生しても、手取りを維持もしくは増やすことができるのであれば、就業調整を避けることも可能です。最低賃金の引上げ後、どの程度の労働時間であれば、手取りの維持向上ができるのかシミュレーションを行い、アルバイトやパートの活躍を促しましょう。
そのためには、パートやアルバイトに任せる仕事の質(時給)と量(労働時間)について見直し、再配置等を検討することも必要です。必要であったとしても、検討の結果として手取りが減ってしまえば、離職や転職を選択される可能性もあります。現在は、業種を問わず人手不足が深刻化しており、アルバイトやパートであっても、求人が容易ではない状況です。手取りを最大化できように配慮し、場合によっては正社員化も検討してください。
どのように説得をしても、絶対に税金や社会保険料を負担したくないという人が出てくることも考えられます。負担に関して誤解をしているだけであれば、社会保険のメリットなどを説明することによって解決できますが、ほんのわずかな額も払いたくない場合には、説得も難しいでしょう。
現在の社会保険や労働保険の制度においては、所定労働時間が週20時間以上であれば雇用保険に加入することになり、常用労働者数51人以上の企業であれば、社会保険にも加入することになります。そのため、社会保険料や雇用保険料を発生させずに働くためには、週20時間未満に労働時間を調整しなければなりません。
また、税金(所得税)に関しては、現在年収103万円以下であれば発生しません。そのため、税金を負担したくないのであれば、この範囲内に収まるように労働時間を調整することが必要です。
ただし、令和7年度税制改正によって、基礎控除と給与所得控除が引き上げられたことで、今後は160万円以下になるように調整すれば、所得税が発生しないことになりました。160万円では、扶養から外れてしまいますが、手取りを最大化する調整によって、社会保険料の負担発生を上回るリターンが得られることを説明しましょう。

●システム活用による管理効率化のポイント

手作業による管理では、計算ミスなどから最低賃金法違反の状態となったり、社会保険の加入条件を誤ったりするおそれもあります。このような事態を避けるためには、勤怠管理システムの活用がお勧めです。
特に人件費概算機能を備えたシステムであれば、時給や日給などの単価を登録することで、人件費の概算が計算できます。勤務シフトの調整や労働時間の管理を効率的かつ正確に行う大きな助けとなるため、ぜひ導入を検討してください。

おわりに

最低賃金の引上げは、企業にとって大きな負担です。しかし、引上げを単なる負担増と捉えては、企業の更なる成長は望めません。労働時間の短縮や、柔軟な働き方の導入、多様な正社員制度の構築など、働き方改革実践の契機として捉え、企業の更なる成長の糧としてください。

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