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【この記事で総ざらい!】今後予定されている改正は人事労務の実務にどんな影響があるのか

公開日:2025年11月27日(当記事の内容は公開時点のものです)
new window監修:社会保険労務士法人 ヒューマンリソースマネージメント
特定社会保険労務士 馬場栄

2025年から2026年にかけて、人事労務を取り巻く法律が大きく変わります。カスハラ・就活セクハラへの対策義務化、ストレスチェックの対象拡大、扶養認定基準の変更など、企業に求められる対応は多岐にわたります。本記事では、これらの法改正について施行時期や実務への影響を詳しく解説。今から準備すべきポイントを押さえ、スムーズな対応を実現しましょう。

改正情報をまとめてチェック

2026年以降に施行される主な法改正は以下のとおりです。

各改正事項の詳細説明

本項では、前項でまとめた改正の中から特に重要なものについて詳しく解説します。

●カスタマーハラスメント(カスハラ)への対応

2025年6月に労働施策総合推進法が改正され、カスタマーハラスメント(以下、カスハラ)防止のための措置を講ずることが義務化されました。これまでパワハラやセクハラに対する対策は義務付けられていましたが、そこにカスハラが加わりました。本改正は、公布日である2025年6月11日から1年6か月以内に施行される予定です。
厚生労働省の資料によれば、カスハラとは以下の3つの要素すべてを満たすものとされています。

  1. 顧客、取引先、施設利用者その他の利害関係者が行うものであること
  2. 社会通念上許容される範囲を超えた言動であること
  3. 労働者の就業環境を害すること

改正により事業主は、カスハラについても「雇用管理上の措置」を講ずることが義務付けられます。また、事業主が講ずべき具体的な措置の内容等は、今後、指針において以下のような内容が示される予定です。

  • 事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
  • 労働者の相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備と周知
  • 発生後の迅速かつ適切な対応・抑止のための措置

カスハラは主に被害者の立場のものであり、適切な対策を講じなければ、正常な事業運営に支障が出るばかりでなく、従業員の離職や休職にもつながってしまいます。そのため、義務化前から従業員を守る行動を取ることが推奨されます。カスハラは、パワハラやセクハラと違い、業種業態によって多種多様なケースが考えられますので、まずは、自社の従業員に対するカスハラ現状の取りまとめや、対応マニュアルの作成、カスハラ対策の責任者を選任するなどして、前倒しの対応を行いましょう。
カスハラへの相談等を行ったことを理由とする不利益取扱いも禁止されています。そのため、カスハラに対する自社の方針等を周知するとともに、従業員が相談しやすい環境を構築することも重要です。

●求職者等に対するセクシュアルハラスメント(就活セクハラ)への対応

男女雇用機会均等法の改正により、求職者等に対するセクシュアルハラスメント(以下、就活セクハラ)への対応が事業主に義務付けられました。セクハラに関しては、これまでも男女雇用機会均等法によって、職場内でのセクハラへの対応が事業主に求められていました。改正によって同法に求職活動等の場における性的な言動に起因する問題に関する規定が新設されます。本改正は、公布日である2025年6月11日から1年6か月以内に施行される予定です。
業種や職種を問わず人手不足が深刻化する昨今、就活セクハラが行われるような企業では、人材の獲得は困難となるでしょう。改正法の施行に先立って、現在就活セクハラが行われていないかを調べ、もし行われていた場合には、関係者には厳しい処分を検討することが必要となります。
カスハラと同様に、就活セクハラについても雇用管理上の措置を講ずることが義務付けられます。講ずべき具体的な措置の内容等は、今後、指針において示す予定であるとされていますが、面談等を行う際のルールの設定や、面談を行う者への教育など、今から準備を進めておくことが必要です。
就活セクハラが行われた場合、事案の性質上、社内の相談窓口に連絡が来る可能性は低いと考えられます。被害者は、弁護士や専門機関などの第三者に連絡することが想定されますので、そういった第三者からの抗議の連絡で初めて事案が発覚するということも想定しておかなければなりません。就活セクハラが明るみに出た場合には、企業の信用が失墜するだけでなく、多額の損害賠償を請求されるおそれもあります。そのため、就活セクハラは予防が肝心であり、カスハラへの対応と併せて、あらゆるハラスメントを許さないという自社の方針を明らかとし、ハラスメントに対して理解を深める研修を行い、改正法の施行に備えましょう。

●ストレスチェック50人未満企業への義務化

2025年5月に労働安全衛生法が改正され、これまで従業員数50人以上が対象だったストレスチェックの実施義務が、50人未満の企業にも拡大されました。これまでは、小規模な企業であればストレスチェックの実施が義務付けられていませんでしたが、今回の改正によって、企業規模を問わず義務化されます。
改正法の施行は、公布日である2025年5月14日より3年以内が予定されています。時間的には余裕があるといえますが、全企業が対象となることもあり、影響は大きなものとなるでしょう。また、メンタル不調による離職や休職が後を絶たない現状にあっては、義務化前からストレスチェックを実施することが理想的です。
ストレスチェックは、社内で実施事務従事者を選任し、産業医を実施者とすることが一般的です。仮に外部委託する場合でも、産業医が共同実施者となり、中心的役割を果たすことが望ましいとされています。産業医を実施者とする理由は、産業医が社内の事情を把握しており、適切な判断ができると考えられるためです。
しかし、今回の改正によって対象となる従業員数50人未満の企業は、産業医の選任義務がありません。また、小規模な企業では従業員のプライバシー保護においても懸念点が存在し、人的なリソースも少ないことから、ストレスチェックの実施は外部委託を検討する必要もあるでしょう。
外部委託の際には、コストやセキュリティ体制など、複数の観点から比較検討することが必要です。また、外国人従業員を雇用している場合には、多言語対応か否かも重要な選定要素となります。なお、厚生労働省は、小規模企業におけるストレスチェック実施に向けたマニュアルを作成しており、2026年に公表される予定です。こちらのマニュアルを参考とすることも適切なストレスチェック実施の大きな助けとなるでしょう。

●被扶養者認定要件の変更

2025年10月より、健康保険における被扶養者認定の年収要件が変更となります。対象となるのは、被保険者の配偶者を除く19歳以上23歳未満の方です。現在、健康保険の被扶養者認定における年収要件は130万円未満ですが、対象者の年齢が19歳以上23歳未満である場合には、これが150万円未満まで緩和されます。
今回の変更は、令和7年度(2025年度)税制改正によって創設された特定親族特別控除などを受けたものです。大学生世代など、若年層の就業調整対策や、人手不足への対応などが背景にあり、働き控えを緩和することが目的となります。
年齢に関しては、扶養認定日が属する年の12月31日時点の年齢をもって判断されます。たとえば、認定対象者が2025年11月に19歳の誕生日を迎える場合には、2025年(暦年)における年間収入要件は150万円未満です。認定に関して留意すべき点としては、以下のような事項が挙げられます。

  • 2025年10月1日以降の届出であって、2025年10月1日より前の期間について認定する場合、19歳以上23歳未満の被扶養者にかかる年間収入要件は130万円未満で判定
  • 2025年9月30日以前に扶養認定済みである19歳以上23歳未満の被扶養者については、2025年10月1日以降の年間収入が、150万円以上となることが見込まれる場合、被扶養者の削除(非該当)の届出が必要

従業員にとって大きな関心事である扶養にかかわる事項であるため、対象となる年齢の家族を有する従業員への丁寧な説明が必要です。大学生の年代が対象ですが、学生以外も対象となるため、しっかりと説明しておきましょう。

さいごに

人事労務担当者は、常に法改正へ注意を払わなければなりません。誤った知識や古い知識のままでは、適切な対応ができず、大きなミスにつながってしまいます。当コラムを参考に知識を得るとともに、改正事項に対して、自動対応が可能な勤怠管理システムの利用も検討してください。

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