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人事担当者必見!フレックスタイム制の「落とし穴」10選と正しい運用法
公開日:2026年1月6日(当記事の内容は公開時点のものです)
監修:社会保険労務士法人 ヒューマンリソースマネージメント
特定社会保険労務士 馬場栄

働き方改革により導入が進むフレックスタイム制ですが、誤った認識のまま運用すると、未払い残業代などの法違反リスクにつながりかねません。本記事では「コアタイムの遅刻」や「残業代の計算方法」など、特によくある10の誤解を徹底解説します。正しい知識を身につけ、企業と従業員の双方にメリットのある、柔軟で適法な職場環境を実現しましょう。
【基本を押さえる】フレックスタイム制よくある誤解10選
誤解1:出社や退勤のタイミングは自由だが8時間は厳守してもらう
フレックスタイム制は、始業および終業の時刻を労働者の裁量に委ねる制度です。また、労働時間も清算期間における総枠内で労働者が自由に配分して働くことになります。そのため、始業・終業の時刻は自由だが、1日に必ず8時間働くことを義務付けるといった運用はできません。ある日は6時間働き、ある日は10時間働くといった労働時間の長さの裁量も労働者に委ねなければフレックスタイム制とはいえません。
なお、労使協定において「標準となる1日の労働時間」を定めますが、これは主に有給休暇取得時に何時間労働したかを算定するためのものです。最低労働時間のようなものではないため、誤解しないように注意してください。
誤解2:コアタイムを設けなかったら出勤するかしないかも委ねることになる
コアタイムを定めなかった場合、労働者はいつ出勤し、いつ退勤しても自由です。しかし、フレックスタイム制であっても、基本的には会社が定める所定労働日には出勤しなければならないと考えられます。
厚生労働省の手引きでは、コアタイムを設けない場合、働く日も自由にできる「フレックスデイ」が可能である旨の記述が見られます。しかし、フレックスタイム制であっても、週1日(または4週4日)の法定休日の確保は必要となるため、休日も含めて自由にできるわけではありません。フレックスタイム制であっても、法定休日労働には、割増賃金が発生するため、労働者との間で認識に齟齬が生じないようにしておくことが必要です。
誤解3:「労働者に委ねる」ため、会社側は管理負担がなくなる
フレックスタイム制は、出退勤の時刻を労働者の裁量に委ねる制度のため、どの程度働くのかも労働者の自由です。しかし、このことは会社側の労働時間の管理を不要とする意味ではありません。
フレックスタイム制であっても、労働時間の把握は義務付けられていますし、法定労働時間の総枠を超えた部分については、時間外労働として割増賃金を支払うことが必要です。また、時間外労働の上限規制はフレックスタイム制であっても適用されます。清算期間が1か月を超える場合には、「1か月ごとに、週平均50時間を超えた労働時間」も時間外労働となります。そのため、会社はフレックスタイム制の適用を受ける労働者であっても、正確に労働時間を把握しなければなりません。
また、フレックスタイム制であっても、休憩の付与は通常の労働時間制の場合と同様に必要です。一斉付与の原則も適用されるため、労働時間と併せて適切な管理が必要となります。
誤解4:どの時間帯であっても会議参加の業務命令ができる
フレックスタイム制を適用している労働者であっても、決まった時間の会議に参加してほしい場面はあると思います。しかし、フレックスタイム制では、自由に会議の参加を命令できるわけではありません。
フレックスタイム制が適用される労働者を会議に参加させたい場合には、会議が開催される時間帯をコアタイムとして設定することが必要です。たとえば、会議が10時から12時の間に開催されることが多いのであれば、その時間帯をコアタイムとして設定します。このようにすれば、10時から12時の間は出社の義務が生じるため、会議に参加可能となります。
なお、会議の開催時間が変動するからといって、1日の大半をコアタイムとして設定するようなことは制度の趣旨に反するためできません。
誤解5:コアタイムに遅刻・早退したら賃金控除できる
コアタイムを設定した場合には、その時間帯に出社義務が生じますが、その時間に遅刻したからといって、その時間分の賃金控除はできません。通常であれば、9時始業に1時間遅刻した場合には、1時間分の賃金控除が可能です。しかし、フレックスタイム制のもとでは、このような賃金控除は許されません。
フレックスタイム制では、労働時間の総枠を満たしているかどうかで労働時間の不足を考えます。例えば、1か月の所定労働時間が160時間である場合に、労働時間の合計が150時間であれば、不足する10時間分を控除することが可能です。1日8時間や1週40時間に満たないから控除するわけではないことに注意が必要です。
コアタイムへの遅刻を賃金控除の対象とすることはできませんが、会社が出勤を命じている時間に就労していないことから、就業規則に基づく懲戒処分や、人事評価への反映は可能であると考えられます。遅刻した労働者に何のペナルティもないのであれば、社内の規律保持や他の社員のモチベーションにも関わるため、適切な設定が必要です。
誤解6:深夜・法定休日の労働に追加支払いはいらない
フレックスタイム制は、設定された労働時間内で労働時間を柔軟に変更できる制度です。しかし、フレックスタイム制であっても、休憩や休日の規定は適用され、労働時間が6時間を超えれば最低45分の休憩が必要となり、法定休日も確保しなければなりません。また、深夜労働の規定も適用されるため、労働時間が22時から翌5時に及ぶ場合には、その部分について深夜労働の割増賃金の支払いが必要となります。
フレックスタイム制であっても、時間外手当や休日手当、深夜手当が必要であることは忘れてはならない要素です。この部分に誤解がある場合には、賃金の未払いにつながり、労働者のモチベーションを下げるだけでなく、最悪の場合は訴訟にも発展してしまいます。
誤解7:清算期間を3か月にすれば、残業代の支払いも3か月ごとになる
2019年4月の改正によって、清算期間が3か月まで設定可能となりました。この清算期間の延長によって、より柔軟な働き方が可能となっています。ただし、清算期間を3か月に設定すれば、時間外手当の支払いも3か月ごとになる、というわけではありません。
フレックスタイム制において清算期間が1か月を超える場合、「週平均50時間を超えた労働時間」については、その月ごとの支払いが必要です。例えば、ある月に集中的に業務を行い、その労働時間が週平均50時間を超えてしまった場合には、清算期間の終了を待たず、その月の給与として時間外手当を支払わなければなりません。
なお、月単位で見ると、「週平均50時間」は以下のとおりです。月ごとにこの時間を超えた部分は、その月に残業代を支払う必要があるわけです。「3か月ごとの清算だから、途中の月でどれだけ働いても支払いは3か月後でよい」というわけではないことに注意しましょう。
| 月の暦日数 | 週平均50時間となる 月間の労働時間数 |
| 31日 | 221.4時間 |
| 30日 | 214.2時間 |
| 29日 | 207.1時間 |
| 28日 | 200.0時間 |
誤解8:就業規則にフレックスタイム制と記載するだけで運用できる
フレックスタイム制は、就業規則または就業規則に準ずるものに、始業および終業の時刻を労働者の決定に委ねることを定めなければなりません。始業だけでも終業だけでもなく、始業と終業の時刻を自由に決定できるようにすることが必要です。また、フレックスタイム制を導入するためには、就業規則等の変更だけでなく、労使協定の締結も必要となります。
フレックスタイム制に係る労使協定は、清算期間が1か月を超えない場合には、労基署への届け出は不要です。しかし、清算期間の長短を問わず、労使協定の締結がなければフレックスタイム制を導入できません。
誤解9:週5日の勤務のうち2日だけフレックスタイム制を導入できる
「1日単位のフレックスタイム制」という制度を目にしたことがあるかもしれません。確かにそのような制度が紹介されている場合もあり、週5勤務のうち2日や1日だけフレックスタイム制を適用したいという希望も理解できます。
しかし、1日単位のフレックスタイム制は、法律上のフレックスタイム制ではなく、労働者本人の選択による自動的な始業および終業時刻の繰り上げ・繰り下げ制度を指しています。この制度は、私用外出などがあった場合には、自動的に終業時刻が繰り下がる旨を就業規則等に規定しています。しかし、この制度では、法律上のフレックスタイム制が求める始業および終業の時刻を労働者の決定に委ねるという要件を満たしていません。そのため、法律上のフレックスタイム制とは呼べないものです。
誤解10:半日単位や時間単位の有給休暇は付与できない
フレックスタイム制であっても、有給休暇の規定は適用されます。通常の労働時間制と同様に1日単位だけでなく、半日単位や時間単位を制度として取り入れることも可能です。ただし、時間単位の取得には注意が必要です。
たとえば、以下のようなフレックスタイム制で、コアタイムに時間単位の請求があった場合を考えてみましょう。
標準となる1日の労働時間:8時間
コアタイム:10時~14時(休憩12時~13時)
この例で、コアタイムに3時間分の時間単位年休の取得を許せば、実質的に丸々1日働かなくてよいことになってしまいます。時間単位の制度を導入する場合には、フレックスタイム制の適用者まで対象にするのか否かをよくよく検討する必要があります。
さいごに
フレックスタイム制は、労働者のワークライフバランスの充実や生産性の向上に資する制度であり、積極的な活用が求められます。しかし、適用される労働者に自己管理能力が求められる制度でもあり、安易な導入はかえって生産性を落とすことにもつながりかねません。また、通常の労働時間制とは異なるため、対象者を正しく管理し、評価できる制度の構築が会社に求められます。
業種や職種を問わず人手不足が深刻化し、人材獲得競争が激化する昨今にあって、ワークライフバランスが取りやすいフレックスタイム制の導入は、求職者への大きなアピールとなります。採用を強化するという面からも導入が勧められる制度といえるでしょう。
フレックスタイム制であっても、労働時間をはじめとする労務管理は必要となります。複雑な制度であるため、管理も難しいですが、労務管理システムを導入すれば、正確かつ効率的な管理につながるでしょう。ぜひ導入を検討してください。
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