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【法改正対応だけじゃない!】勤怠管理を「攻めの経営」に変えるデータ戦略
公開日:2026年3月4日(当記事の内容は公開時点のものです)
監修:社会保険労務士法人 ヒューマンリソースマネージメント
特定社会保険労務士 馬場栄

厚生労働省は、自己申告制に基づく割増賃金の不払いなど、労働時間の不適切な管理を是正するために「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を定めています。また、2019年の改正労働安全衛生法施行によって、原則全ての労働者に対して、タイムカードやPCのログイン記録などによる客観的な方法での労働時間把握が義務付けられました。
客観的な方法による労働時間の把握が義務付けられたことから、多くの企業が勤怠管理システムの導入によって、コンプライアンス違反の発生防止を図っています。しかし、ガイドラインや法で定められているからといって、ただ形式的な記録を行うだけでは、システム導入が単なる「コスト」になってしまいます。勤怠データを攻めの経営に活かす視点を持ち、システム導入を「投資」と捉えることが重要です。
●加速する法改正とアナログ管理の終焉
労働時間の把握は、「賃金計算」「36協定」「健康管理」「社会保険の適用拡大」の4つの視点から行うことが必要です。また、労働時間の把握には、時間外労働における「法定外」と「所定外」の区別が非常に重要となります。
1.賃金計算
労働者の労働に対して、適切に賃金を支払うためには、正確な労働時間の把握が不可欠です。正確な賃金を支払うためには、割増の対象となる「法定外労働」と、割増のない通常の賃金を支払えば足りる「所定外労働」の時間数を把握しなければなりません。両者の混同は、割増賃金の未払いにつながるため、正確な把握が重要となります。
2. 36協定
法定外労働や休日労働を労働者に対して行わせるためには、36協定を締結しなければなりません。36協定には、原則月45時間、年360時間の時間外労働の上限時間が定められていますが、この時間外労働は、所定外ではなく法定外の時間数です。両者を正確に把握していなければ、思わぬ上限超過につながってしまうでしょう。
3.健康管理
企業は、労働者に対して安全配慮義務を負っています。労働時間が長くなればなるほど、心身の健康を害する可能性は高まるため、所定内労働時間はもちろん、所定外労働時間、法定外労働時間を含めた総労働時間の把握が必要となります。医師による面接指導は、法定外労働が80時間を超えた者が対象となるため、所定外労働時間とは区別しなければなりません。
また、高度プロフェッショナル制度における健康管理時間は、対象労働者が「事業場内にいた時間」と「事業場外において労働した時間」を客観的な方法で把握した合計時間で見る必要があります。
4.社会保険の適用拡大
現在では従業員数51人以上の企業まで社会保険の適用が拡大され、今後も段階的な拡大が予定されています。規模要件を満たした企業におけるパートタイマー等の社会保険加入は、原則として契約上の週所定労働時間が20時間以上であることが条件のひとつです。
繁忙等を理由とする一時的な労働時間の増加は加入対象となりません。しかし、実際の労働時間が20時間以上の状態が2か月連続で続き、引き続き同様の状態が続くと見込まれる場合、社会保険への加入が必要です。加入の要否判断においては、実際の労働時間の把握が不可欠となります。
●アナログ管理の限界(システムの有用性)
アナログでの管理には、どうしても限界があります。たとえば、手作業による管理では所定外労働にも1.25倍の割増賃金を支払っているという理由で、36協定における時間外労働の管理に所定外労働の時間を含めてしまうミスが起き得ます。システムで管理している場合、このようなミスは起きないでしょう。
労働基準監督署は、賃金台帳などの帳簿を見て指導や勧告を行います。そのため、所定外労働の扱いを間違えたままでは、実際の違反はなくても、帳簿上では36協定違反や、面接指導未実施とみなされる恐れがあります。4つの視点で正確に集計・判別するには、アナログでの管理は困難であり、システムの活用が必要になるでしょう。
また、勤務間インターバル制度の義務化や、労働時間通算ルールの変更といった「労働基準関係法制研究会報告書」などで示された方向性を確認すると、労働時間管理は、今後さらに厳格かつ広範になることが予測されます。法に沿った対応をアナログ管理で行うことは、もはや限界であるといえるでしょう。
●経営を前に進める「データ掛け合わせ」6選
システム導入のコストを上回るリターンを得るためには、法違反の発生を防ぐ「守り」の運用では不十分です。従来の考え方を捨て、打刻データを単なる計算用として捉えず、「組織の行動ログ」と再定義しましょう。そうすることで、他データとの組み合わせによって、経営を前に進めるための施策に活用することが可能となります。
1. 勤怠データ × PC操作ログ = 「業務プロセスの断捨離・DX投資判断」
勤怠データでは、正確な労働時間は把握できても、「ムダ」の発見にはつながりません。把握した労働時間の中には、非効率的な作業時間が含まれている可能性もあります。このムダを見つけるためには、PCの操作ログを活用することが有効です。
ログを解析し、従業員がどの時間に何をどの程度行っていたのかを把握しましょう。そうすれば、業務効率化のためのIT投資において、何を優先すれば良いかという判断基準が得られます。たとえば、Excelへの転記作業に多くの時間を費やしている場合、RPAを導入し、転記を自動化します。ただし、いきなり全従業員を対象としてしまうと、負担が大きくなってしまうため、特定の部署や職種に限定してはじめると良いでしょう。
2. 勤怠データ × プロジェクト別利益 = 「案件別損益の精緻化」
勤怠データからは人件費を計算することが可能です。複数人が参加しているプロジェクトであれば、人数分の人件費がプロジェクトに掛かる人件費であるといえます。計算によって得られた人件費と対象者が参加するプロジェクトの利益を対比させれば、人件費をベースとした真の収益が判明します。
高い収益でも人件費が同様に高ければ、実際の収益は高いとはいえず、プロジェクトの縮小または撤退の検討が必要です。逆に人件費は低く、収益が高いプロジェクトがあれば追加で投資し、収益の向上を図ります。まずは、影響の少ない小規模プロジェクトから判断をはじめ、効果の確認後、大規模プロジェクトへ移行しましょう。そうすれば、仮に投資や撤退の判断を誤ったとしても、影響は最小限に留められます。
3. 勤怠データ × 個人業績 = 「ハイパフォーマー分析」
労働時間に対する成果は、勤怠データからは見えてきません。労働時間が短くても高い成果を上げる従業員がいる一方で、費やす労働時間に対して成果が低い従業員もいるでしょう。しかし、勤怠データと個人業績を掛け合わせれば、労働時間と比較して、高い成果を上げる「ハイパフォーマー」の存在が見えてきます。
ハイパフォーマーの存在が確認できれば、その従業員の行動パターンや思考を育成や業務マニュアルに落とし込みます。このようにすることで、従業員個人に依存せず、高い生産性を上げる組織が構築可能となります。最終的に経営を前に進めることができるのであれば、他社人材を参考としても構いません。まずはハイパフォーマーの行動特性を知ることが重要です。
4. 勤怠データ × スキルマップ・研修受講歴 = 「人的資本投資のROI測定」
勤怠データからは、従業員のスキルは判断できません。また、研修の受講歴なども通常勤怠データとしては残さないでしょう。しかし、スキルマップや研修受講歴と組み合わせれば、どのようなスキルの保持が効果的であるか、どの研修の効果があったかが見えてきます。
特定のITツールスキルを持つ従業員の労働時間が短いことが分かれば、そのスキルは効率化に効果的であるといえます。また、残業時間削減のための研修に参加後、残業時間が減ったのであれば、その研修は効果的だったといえるでしょう。そのようなスキルの取得や研修にどの程度のコストが必要かを割り出せば、人的資本投資のROI測定が可能となります。まずは、必要コストの低い研修などから掛け合わせをはじめてみましょう。
5. 勤怠データ × エンゲージメントサーベイ = 「離職予兆の検知・マネジメント介入」
勤怠データとエンゲージメントサーベイを掛け合わせることで、離職の予兆が見えてきます。時間外労働が多くてもサーベイのスコアの高い部署は、仕事にやりがいを感じており、離職する恐れは少ないでしょう。一方、同様の状況でスコアが低い部署は、やりがいの搾取が起きており、会社が介入をしなければ、離職者が発生してしまいます。
勤怠データから欠勤や遅刻、早退が多いことが分かる従業員がいれば、サーベイを実施してみましょう。スコアが高ければ、単なる体調不良等が原因となる一時的なものですが、低い場合には離職の準備を進めている可能性があります。何が原因で不満を抱いているのかを突き止め、離職を防止しましょう。サーベイ自体が負担となっては意味がないため、まずクローズドクエスチョンで実施してみてください。
6. 勤怠データ × 採用媒体・求人票 = 「採用ミスマッチ防止とファクトベース広報」
全従業員の勤怠データから会社の平均を出すことは簡単です。しかし、部署や職種によって繁忙の差は当然存在するため、求職者が入社後「こんなはずじゃなかった」と採用後のミスマッチを起こす可能性があります。このようなことを防ぐためには、平均ではなく、部署や職種ごとの実態に基づくデータを公表しなければなりません。
求人媒体や求人票に、部署や職種ごとの実態に即したファクトベースのデータが掲載されていれば、採用後のミスマッチは起こりません。採用競争が激化する昨今にあっては、ミスマッチによる早期離職は絶対に避けたい事態です。まずは、今現在掲載しているデータの修正からはじめましょう。
●さいごに
勤怠管理システムは、単なる事務処理のツールではなく、経営判断ツールでもあります。正しく導入できれば、法違反を自動で防ぐことができる守りの効果だけでなく、データ活用による攻めの効果も期待できるでしょう。システム導入で得られたデータを他データと連携させることこそが、攻めの経営への第一歩となります。当記事を参考に効果的なデータ活用を行ってください。
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