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【勘違いは法違反の元!】年次有給休暇を正しく運用できていますか
公開日:2025年11月10日(当記事の内容は公開時点のものです)
監修:社会保険労務士法人 ヒューマンリソースマネージメント
特定社会保険労務士 馬場栄

年次有給休暇(年休)の運用、正しくできていますか?「パートは年休なし」「取得理由は必ず確認」といった勘違いは、気づかぬうちに法違反につながる危険な落とし穴です。本記事では、年休に関する“よくある10の誤解”を一つひとつ丁寧に解説します。さらに、今後の上限緩和が検討されている「時間単位年休」の最新動向も紹介。自社の労務管理を見直し、従業員が安心して働ける環境を整えるための第一歩として、ぜひご活用ください。
●時間単位年休の見直し
内閣府の規制改革推進会議による「規制改革推進に関する答申(令和7年5月28日)」には、時間単位年休の見直しに関する項目が盛り込まれています。
時間単位年休は、労使協定の締結を要件として、年5日を上限として取得可能な制度です。5日という制限は、心身の疲労回復に必要なまとまった暦日による年休の取得を妨げないようにするという考え方が根拠となっています。そのため、上限となる5日を使い切ってしまった場合には、1日または半日単位で年休を取得せざるを得ません。
しかしながら、通院や介護、子どもの学校行事など、労働者ごとに利用目的は様々であり、上限が5日のままでは、ニーズにマッチしていないということも考えられます。また、同様に時間単位での取得が可能な子の看護等休暇は、原則として無給です。子の看護等休暇を取得すると収入が減少してしまうことから、時間単位年休の柔軟な運用を望む声も上がっています。
そのため、厚生労働省は、時間単位年休の上限緩和を労働政策審議会において検討し、結論を出すとしています。答申内では、まとまった日数の年休の取得を妨げないという前提を維持しつつ、付与日数の50%程度に緩和することが例として挙げられています。
答申内における時間単位年休の見直しは「令和7年度結論」となっており、今後関係法令を改正することが予想されます。
●年休のよくある誤解10選
年休は、重要な制度であるにもかかわらず、その運用には多くの誤解が存在します。ここでは、年休のよくある誤解について解説します。
よくある誤解1:会社の許可があって初めて年休が使える
年休の利用には、会社の許可が必要であるという誤解は、労使双方に多く見られます。しかし、年休は、6カ月の継続勤務と全労働日における8割の出勤率という条件を満たせば、当然に付与される制度です。
そのため、会社の許可などを権利発生の要件とすることはできません。
よくある誤解2:パート・アルバイトに年休はない
パート・アルバイトに年休は発生しないというのも、よく見られる誤解です。しかし、年休は雇用形態を問わない労働者共通の権利です。そのため、パート・アルバイトであっても要件を満たせば、所定労働日数や勤続年数に応じた年休が付与されます。
また、管理職には年休が存在しないという誤解も見られますが、仮に労働基準法上の管理監督者に該当する場合であっても、労働者である以上、年休は発生します。パート・アルバイトとともに、正しく管理しなければなりません。
よくある誤解3:育児介護休業などは「欠勤した」ものとして出勤率を計算している
年休付与の対象かどうかを判定する出勤率8割の算定において、育児・介護休業を取得した期間を欠勤したものとして扱っているケースが見られます。同様の誤解として、年休取得日や業務上の負傷による休業期間を欠勤扱いとしている場合もあります。
しかし、出勤率算定において、以下のような休業日は出勤したものとして扱わなくてはなりません。
- 業務上の負傷・疾病による休業期間
- 育児・介護休業期間
- 産前産後の休業期間
- 年休取得日
- 労働者の責めに帰すべき事由によるとはいえない不就労日(不可抗力による休業日など、全労働日の算定から除外される不就労日を除く)
よくある誤解4:忙しい日の有給申請は却下できる
「その日は忙しいから年休の申請は許可できない」など、業務の繁忙を理由に申請を却下する例も見られますが、このような扱いは許されません。
ただし、事業の正常な運営を妨げる場合には、年休を取得する時期の変更が可能です。単なる業務の繁忙を理由に申請を却下することはできず、他の労働者と取得日が重なるという理由での却下も、事業の正常な運営を妨げる客観的な事情がない限りは許されません。
よくある誤解5:取得理由の記載を必須にしている
年休の申請に取得理由の記載を義務付ける企業も存在します。しかし、年休の取得理由は自由であり、理由を告げることも不要です。そのため、取得理由の記載を欠くことだけをもって申請を却下するような扱いはできません。また、取得理由が自由であることから、取得理由の内容によって却下することも同様に許されません。
よくある誤解6:取得できなかった有給は買い取ることができる
年休は、労働者の心身の疲労回復のための制度であり、原則として買い取ることはできません。そのため、年休を買い取るからといって、有休を取得したことにするようなことはできませんし、買取を前提に本来よりも少ない日数を付与することは法違反となります。
ただし、退職する場合に退職日までに消化できない有給など、その権利を買い取っても労働者の不利益とならないような場合には、例外的に認められます。
よくある誤解7:労働者の申請に基づかずに欠勤を年休に変更している
欠勤日を年休として振り替える会社は多く存在します。しかし、欠勤を自動的に年休として振り替えているのであれば、不適切な処理となります。年休の取得は労働者の申請によることが必要であり、会社が勝手に処理することは許されません。これは欠勤だけでなく、遅刻や早退による場合であっても同様です。
よくある誤解8:すべての年休取得日を会社から指定する
労働者が自ら年休を取得しないからといって、すべての年休を会社が指定した日に取得させていないでしょうか。労使協定の締結によって、年休を計画的に付与することが可能ですが、その日数は5日を超える部分に限られます。最低でも5日は、労働者が自ら時季指定できる日数を残さなければならないため、年休のすべてを計画的付与により処理している場合は、誤った運用となります。
計画的付与自体は、パートやアルバイトを対象とすることも可能です。しかし、5日を残さなければならないことも同様であるため、付与日数が少ない場合には、指定する日数には注意が必要です。
なお、計画付与と混同しやすい制度として「時季指定義務」があります。これは、年10日以上の年休が付与される労働者を対象に、付与日から1年以内に、年休の日数のうち年5日について、会社が時季を指定して取得させなければならない義務です。労働者が自ら申し出た取得日数や計画的付与の日数を含め、すでに5日以上年休を取得済みの労働者に対しては、この時季指定は不要となります。会社は時季指定を行う際には、労働者の意見を聴取し、その意見を尊重するよう努めなければなりません。
よくある誤解9:年5日取得義務は、事業年度内で満たせばよい
労働者に対して、年間10日以上の年休が付与されている場合、年5日の取得義務が課せられます。この取得義務の期間を自社の事業年度に合わせているような場合には、注意が必要です。
年5日の取得義務は、10日以上の年休が付与されてから1年以内に履行しなければなりません。たとえば、2025年4月1日に入社したのであれば、2025年10月1日に10日の年休が付与されます。この時点から1年以内に5日以上消化しなければならないため、期間は会社の事業年度と一致するわけではありません。
わかりやすく「1月1日から12月31日までの暦年」を取得義務の期間としているケースも見られますが、多くの場合、年休が付与されてからの期間とはずれがあるため、注意が必要です。
よくある誤解10:時間単位の取得も含めて年5日取得義務を満たすようにしている
年5日の取得義務の判断に時間単位年休を含めてしまっていないでしょうか。年5日の取得義務は、時間単位年休を含まずに満たすことが必要であり、このような運用は取得義務を果たしたことにはなりません。取得単位が1時間であれ、2時間であれ同様です。
ただし、半日単位の取得は取得義務の算定に含めることが可能であるため、混同しないように注意しましょう。
●勤怠管理システムを導入することのメリット
年5日の取得義務や時効など、年休の管理は複雑です。法違反とならないためには、勤怠管理システムを導入することが有効な手段となります。システムのメリットを紹介します。
休暇付与、残数管理が楽になる
年休は、継続勤務や出勤率といった要件を満たした場合に付与されるため、いつ権利が発生したか正確に把握しなければなりません。また、取得した場合には残日数も正確に把握することが必要です。
紙やExcelによる管理では、手計算が必要であるだけでなく、転記の処理も必要となります。この場合には工数が多くなるだけでなく、ミスも増えてしまうでしょう。しかし、システムを利用すれば、期間や出勤率、残日数などは自動で計算され、ミスを減らせます。また、システムに入力するだけでよいため、工数も削減可能です。
年次有給休暇管理簿をシステムから出力できる(法令遵守)
2019年4月の年5日取得義務導入に伴い、年次有給休暇管理簿の作成が義務付けられるようになりました。管理簿には、付与日や日数、取得時季といった法定の事項を記載することが必要です。また、内容が正確であることも必要となるため、手作業で作成するよりも、システムで出力するほうが、法令遵守の観点から望ましいでしょう。
女性活躍推進法「情報公開」項目のひとつである「有給休暇取得率」が容易に算出できる
女性活躍推進法では、一定規模以上の企業に対し、「有給休暇取得率」を開示項目のひとつとして指定しています。取得率は手計算でも可能ですが、手間がかかるうえにミスが発生するおそれもあります。省力化や正確性の向上という観点からもシステムの利用が望ましいでしょう。公表する数値に誤りがあれば、企業の信用も失われてしまいます。
さいごに
年休は、労働者にとって重要な権利ですが、その運用には誤りが多く見られます。現在では、年休取得率といった給与以外の待遇面も求職者にとって、大きな関心事となっています。当コラムを参考に正しい運用を行うとともに、年休が取得しやすい環境構築に努めましょう。
▼Pickup 勤革時 情報
クラウド型勤怠管理システム「勤革時(きんかくじ)」の中で、年休の管理に役立つ機能をご紹介します。
「有給休暇付与機能」の設定方法
年休の付与日と付与日数を自動計算する機能です。
【年5日有休取得義務機能】設定方法
年10日以上の有給休暇を付与された従業員が、年5日以上の取得をしていない場合に、管理者に通知できます。
【エクスポート】年次有給休暇管理簿データの出力方法
年次有給休暇管理簿データをExcel形式で出力できます。
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