Japan
サイト内の現在位置を表示しています。
【控除関係の改正が目白押し!】令和7年度「年末調整」の変更点と効率的な進め方
公開日:2025年10月1日(当記事の内容は公開時点のものです)監修:社会保険労務士法人 ヒューマンリソースマネージメント
特定社会保険労務士 馬場栄

令和7年度の年末調整は、基礎控除や扶養控除の大幅な見直しなど、例年以上に変更点が多く、担当者の皆様は対応に追われることでしょう。「何がどう変わるのか?」「実務で注意すべき点は?」といった疑問や不安はありませんか?本記事では、複雑な税制改正のポイントを分かりやすく整理し、担当者が間違いやすい点や業務を効率化するコツまで具体的に解説します。本記事を読めば、令和7年度の年末調整を正確かつスムーズに進める準備が整います。
令和7年度の年末調整の変更点
令和7年度税制改正は、基礎控除や給与所得控除における控除額の変更や、新たな控除の創設など、控除関係に大きな変更が加えられています。まずは税制改正を踏まえた変更点について解説します。なお、これらの改正は、原則として令和7年分以後の所得税について適用されるため、令和7年11月までの源泉徴収事務(給与計算)に変更は生じません。
●基礎控除の見直し
令和7年度税制改正では、基礎控除の見直しが行われました。具体的な改正後の基礎控除額は、以下のようになります。
合計所得金額 (カッコ内は給与収入だけの場合) |
基礎控除額 (改正前48万円) |
---|---|
132万円以下 (200万3,999円以下) |
95万円 |
132万円超 336万円以下 (200万3,999円超 475万1,999円以下) |
88万円 (令和9年分以後は58万円) |
336万円超 489万円以下 (475万1,999円超 665万5,556円以下) |
68万円 (令和9年分以後は58万円) |
489万円超 655万円以下 (665万5,556円超 850万円以下) |
63万円 (令和9年分以後は58万円) |
655万円超 2,350万円以下 (850万円超 2,545万円以下) |
58万円 |
●給与所得控除の見直し
令和7年度税制改正では、基礎控除に加えて給与所得控除も見直しが行われ、控除額が変更されています。改正によって、55万円だった給与所得控除の最低保障額が65万円となり、10万円上乗せされた形です。なお、給与の収入金額190万円超の場合の給与所得控除額に改正はありません。この改正に伴って、令和7年分以後の「年末調整等のための給与所得控除後の給与等の⾦額の表」および令和8年分以後の「源泉徴収税額表」が改正されています。
また、基礎控除と給与所得控除の見直しによって、所得税が非課税となる「103万円の壁」が「160万円の壁」に変わっています(基礎控除95万円+給与所得控除65万円=160万円)。パート従業員等への十分な説明が必要となるでしょう。
●特定親族特別控除の創設
令和7年度税制改正で、「特定親族特別控除」が創設されました。居住者が特定親族を有する場合、総所得⾦額等から特定親族1⼈につき、特定親族の合計所得⾦額に応じ、最⾼63万円を控除する制度です。
特定親族とは、居住者と⽣計を⼀にする年齢19歳以上23歳未満の親族で、合計所得⾦額が58万円超123万円以下の方を指します。ただし、配偶者、⻘⾊事業専従者として給与の⽀払いを受ける方および⽩⾊事業専従者は、親族とはなりません。なお、親族は、児童福祉法の規定によって養育を委託された、いわゆる里子を含むものとされています。
特定親族特別控除の控除額は、以下の通りです。
合計所得金額 (カッコ内は給与収入だけの場合) |
控除額 |
---|---|
58万円超 85万円以下 (123万円超 150万円以下) |
63万円 |
85万円超 90万円以下 (150万円超 155万円以下) |
61万円 |
90万円超 95万円以下 (155万円超 160万円以下) |
51万円 |
95万円超 100万円以下 (160万円超 165万円以下) |
41万円 |
100万円超 105万円以下 (165万円超 170万円以下) |
31万円 |
105万円超 110万円以下 (170万円超 175万円以下) |
21万円 |
110万円超 115万円以下 (175万円超 180万円以下) |
11万円 |
115万円超 120万円以下 (180万円超 185万円以下) |
6万円 |
120万円超 123万円以下 (185万円超 188万円以下) |
3万円 |
上記の通り、親族の合計所得金額が58万円以下の場合は、特定親族特別控除の対象とはなりませんが、扶養控除の対象となります。年齢19歳以上23歳未満の親族は、特定扶養親族に該当し、その控除額は63万円です。
●扶養親族等の所得要件の改正
基礎控除額の見直しに伴って、扶養控除等の対象となる扶養親族等の所得要件も併せて改正が行われています。改正後の所得要件は、以下の通りです。
扶養親族等の区分 | 所得要件 (収入が給与だけの場合の収入金額) | |
---|---|---|
改正後 | 改正前 | |
扶養親族 同一生計配偶者 ひとり親の生計を一にする子 |
58万円以下 (123万円以下) |
48万円以下 (103万円以下) |
配偶者特別控除の対象となる配偶者 | 58万円超133万円以下 (123万円超201万5,999円以下) |
48万円超133万円以下 (103万円超201万5,999円以下) |
勤労学生 | 85万円以下 (150万円以下) |
75万円以下 (130万円以下) |
●書類の変更予定箇所
令和7年度税制改正に伴って、以下の様式が前年度分以前から変更される予定です。
- 令和7年分
「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 給与所得者の特定親族特別控除申告書 兼 所得金額調整控除申告書」
特定親族特別控除の創設に伴い、名称が変更され、該当欄が設けられています。 - 令和8年分
「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」
特定親族特別控除の創設に伴い、特定親族に関する項目が設けられているほか、控除対象扶養親族(※)が源泉控除対象親族に変更されています。
「従たる給与についての扶養控除等(異動)申告書」
特定親族特別控除に関する変更がされているほか、控除対象扶養親族が源泉控除対象親族(※)に変更されています。
「公的年金等の受給者の扶養親族等申告書」
特定親族特別控除に関する変更がされているほか、控除対象扶養親族が源泉控除対象親族(※)に変更されています。
「給与所得に対する源泉徴収簿」
扶養控除等申告・各種控除額欄に特定親族欄が設けられ、年末調整欄に特定親族特別控除欄が設けられた結果、全体のレイアウトが変更となっています。
- ※:控除対象扶養親族または合計所得金額が一定額以下である特定親族
なお、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」「従たる給与についての扶養控除等(異動)申告書」「公的年金等の受給者の扶養親族等申告書及び給与所得に対する源泉徴収簿」について、令和7年分の様式に変更はありません。
●令和7年分の年末調整における留意事項
令和7年分の年末調整においては、改正によって新たに扶養控除等の対象となる親族等がいないか、確認が必要です。所得要件が変更となったため、これまで要件を満たさなかった親族等が要件を満たすことが考えられます。
改正により、新たに扶養控除等の対象となった親族等がいる場合には、「扶養控除等(異動)申告書」の提出が必要となります。また、特定親族特別控除の適用を希望する従業員からは、「給与所得者の特定親族特別控除申告書」を必ず提出してもらう必要があります。
控除額が改正されたことによる影響にも留意しなければなりません。基礎控除と給与所得控除の控除額が改正されたため、合計所得金額に応じた改正後の控除額が適用されているか確認することが必要です。
また、年末調整の計算をするうえでは、改正後の「年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」を使用しなければなりません。改正後の表は「令和7年分年末調整のしかた」を確認しておきましょう。
国税庁「令和7年分 年末調整のしかた」
年末調整のスムーズな進め方のコツ
年末調整をスムーズに進めるためには、どうしたらよいのでしょうか。いくつかのアイディアを紹介しますので、自社に合うものを採用してください。
●勉強会の実施
年末調整について社内勉強会を実施することは、従業員の制度への理解を深め、書類提出等がスムーズに進む効果が期待できます。理解が深まれば、記入ミスも減るため、再提出や修正の手間も省けるでしょう。また、勉強会は年末調整担当者の知識の確認にも役立ちます。
●評価への反映
年末調整書類を早期に提出した従業員には、プラスの評価を与えることも効果的です。単に義務としてではなく、評価につながる行動と考えれば、自ずと提出も早まるでしょう。評価制度の見直しが必要となりますが、提出率向上に有効な施策の一つと考えられます。
●アウトソーシングの活用
年末調整には、税務や社会保険に関する専門的な知識が必要となります。自社内に年末調整業務を適切にこなせる人材がいればよいですが、一から教育することは大変な労力となります。一方で、外部の専門家や代行企業へアウトソーシングすれば、自社で年末調整業務を行う必要はありません。アウトソーシングによって創出されたリソースを自社のコア業務に集中させることで、業績向上も期待できます。
●電子化
年末調整の手続きは電子化することも可能です。年末調整ソフト等を用いて電子化すれば、申告書作成も簡素化され、従業員の作業効率が上がるだけでなく、控除額等の検算の手間も省けます。
年末調整に必要な控除証明書等は、紙媒体ではなく電子的交付によることも可能です。従業員に電子的交付を活用してもらえば、オンラインでの書類提出が可能となり、収集や保管の手間が大きく削減されます。また、ペーパーレス化は、SDGsの達成にも大きく貢献するため、持続可能な社会の実現という意味でも推進が推奨されます。
さいごに
年末調整は、正確な納税のために欠かせない作業です。令和7年度の税制改正は、年末調整への影響も大きく、専門的な知識を持ったスタッフのいない企業では適切な対応は難しいでしょう。当記事の解説を参考にするだけでなく、法改正に対応した勤怠管理・給与計算システム等を活用することも視野に入れてください。
お問い合わせ・無料トライアル