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【労働保険の年度更新】手順と注意点が一目でわかる!申告準備から納付まで網羅した「実務カレンダー」

公開日:2026年4月27日(当記事の内容は公開時点のものです)
new window監修:社会保険労務士法人 ヒューマンリソースマネージメント
特定社会保険労務士 馬場栄

労働保険(労災保険・雇用保険)では、前年度の保険料の清算と新年度の概算保険料の申告及び納付のために「年度更新」を行うことが必要です。年度更新は、面倒な事務作業のイメージが強いかもしれません。しかし、年度更新は単なる事務作業ではありません。当記事では、年度更新を「前年度の決算と次年度の予算を確定させる重要な節目」と捉え、実務のポイントや申告結果の活用術などを紹介しています。

●令和8年度申告書の留意ポイント

申告の際には、前年度からの変更点などがないか確認することが必要です。令和8年度におけるポイントを解説します。

1.一部の事業場に対する「紙の申告書」郵送廃止

令和8年度から、資本金額1億円超など、労働保険の電子申請が義務付けられる事業場に対して、申告書の送付がなくなる代わりに、電子申請に必要な情報を記載した通知書等が送付されます。該当企業は注意が必要です。

2.労働保険料率の確認と検算

令和8年度の労災保険料率は据え置きですが、メリット制適用事業所であれば、個別通知の確認が必要です。

令和8年度の雇用保険料率は、0.1%引き下げられ、一般事業の場合1.35%になります。最新の料率を確認するとともに、令和7年度の料率が、1年間の給与・賞与計算において正しく反映されているか、集計段階で確認しましょう。

3.概算保険料(令和8年度)の算定

概算保険料は、前年度の賃金総額に保険料率を乗じて計算します。ただし、賃金総額の見込みが前年度の2分の1未満又は2倍を超える場合、前年度の賃金総額は利用できません。また、業種区分の変更があった場合などは料率が変更となるため、併せて注意が必要です。

●【賃金計算前の下準備】労災・雇用保険料の「最終検算」

賃金計算の準備として、保険料の検算を行うことが必要です。ポイントを解説します。

1.給与計算システムからのデータ抽出と集計ロジックの見直し

賃金集計は締め日基準となるため、賃金台帳や労働保険集計表を出力する際に「支給日」ではなく「支払義務が発生した月(給与計算月)」で正しく抽出できる設定になっているか確認しましょう。

新たにインフレ手当や在宅勤務手当などを設けた場合、新設手当が計算対象外になっていないか確認することが必要です。また、併せて慶弔見舞金や出張旅費など、対象外となる項目の混入がないか確認することも必要となります。

非課税という理由から、通勤手当を労働保険料の計算に含めていない例が見られます。通勤手当は、名称を問わず労働保険において全額算入されることに注意しましょう。

2.賞与・臨時給与の「支払い履歴」総点検

業績連動の決算賞与や期末手当などを支給している場合、年度内に支払い義務が生じた賞与等に漏れがないか確認しましょう。また、給与計算とは別のルートで報奨金などを現金支給している場合にも、漏れがないか確認することが必要です。

3.対象者区分と台帳の照合

兼務役員は「労働者としての賃金部分」のみが雇用保険の対象であることに注意しましょう。併せて昇進・昇格による役員の変更も確認してください。

出向者の労災保険については、出向者が出向先に組み入れられ、指揮命令を受ける場合、出向元で賃金が支払われていても出向先の賃金に含めます。雇用保険は、出向者が生計を維持するために必要な主たる賃金を支払っている事業所の賃金に含めることになるため、支払元の賃金に含めることが必要です。出向先と認識を共有しておきましょう。また、年度途中の退職者や他拠点への異動者の賃金が、その拠点に在籍する期間分だけ切り出されているかも確認します。

4.集計締切日による「月ズレ」の補正

締切日による「月ズレ」を補正する必要もあります。対象となる期間を明確にしておきましょう。たとえば、「月末締め翌月10日払い」であれば、前年5月10日~4月10日支給分の給与額を計上します。「末日締め当月25日払い(残業代のみ翌月25日払い)」のように残業代のみ翌月支給の場合には、前年4月25日~3月25日支給分の給与額を計上し、残業代に関しては、前年5月25日~4月25日支給分を計上することになります。

5.確定保険料不足額の予測(キャッシュフロー対策)

賃金総額が増加した場合、前年度概算との差額と新年度の概算保険料の2つを納めることが必要です。このように例年よりキャッシュアウトが増大する場合には、財務部門と早期連携を取らなければなりません。早めに集計を終え、納付額の概算を財務部門へ共有することで、7月の資金繰り計画に反映させましょう。これは延納を選択する際にも重要な判断材料となります。

●【申告書作成~提出・納付】労働保険年度更新の実務カレンダー

申告書を作成する前に確認すべき重要事項が存在します。実務カレンダーと併せて解説を行います。

1.書類が届いたらすぐに行う「4つの重要確認」

  • 口座振替設定の有無
    申告書右上に「口座振替」と印字されていれば、口座より自動で引き落とされますが、印字がなければ窓口納付や電子納付の準備が必要となります。
  • 住所・名称変更の反映確認
    住所や名称を変更した場合には、申告書にそれらが反映されているか確認することが必要です。住所変更が反映されていない場合には、管轄の労働基準監督署に問い合わせを行ってください。
  • 複数事業所における確認事項
    事務所(継続事業)と現場(有期事業・二元適用事業)を別々に管理している場合、労働局から複数の封筒や通知が届くことになります。このような場合には、労働保険番号の末尾を必ず突き合わせ、集計データの取り違えや、一方の事業所のみの申告漏れ、あるいは二重提出が発生しないように注意しましょう。
  • 電子申請用「アクセスコード」の有無
    アクセスコードとは、申告書の右上に記載された8桁の英数字を指します。電子申請の際に必要となるものであり、電子申請を行う場合には確認が必要です。電子申請は、24時間受付可能なだけでなく、計算ミスの発生も減らせます。また、修正も容易であるため、是非活用してください。

2.労働保険の年度更新業務カレンダー(令和8年度版)

令和8年度労働保険の年度更新期間は6月1日(月)~7月10日(金)です。
余裕をもって業務を進めるためには、以下のカレンダーを参考としてください。

時期 項目 内容
5月下旬 通知の到着確認 封筒(又は通知)が到着。下記事項をチェック。
  • アクセスコード
  • 口座振替印字
  • 保険番号末尾
6月上旬 賃金集計・データ精査 決算賞与などに漏れがないかとともに、対象者区分を確認。
6月中旬 申告書の作成・財務共有・延納要否を決定 申告書の作成を進めるとともに、財務部門と納付額を早期に共有し、延納の要否を決定。

令和8年度における延納(3回分割)の場合、納期は以下のようになる。
  • 第1期:7月10日
  • 第2期:11月2日
  • 第3期:翌2月1日
口座振替の場合、納期は通常よりも余裕があるが、口座引落日は残高不足による引落不能に注意。
6月下旬 申告書の提出・保険料の納付 電子申請でない場合、申告書を管轄の労働局等へ提出。事業主控えに受付印が必要な場合、事業主控えと返信用封筒を同封。

電子申請の場合、以下のステップで提出。
  • 「労働保険年度更新申告」を検索
  • 申請書入力画面へ進む
  • 申請書入力画面に申請者情報や申告情報などを入力し、添付書類ファイル、電子証明書を選択
  • 「提出」ボタンをクリックして申告完了
口座振替や電子納付を行わない場合には、納付書を使って金融機関等で納付。

●申告結果のチェックと活用術

年度更新は単に保険料の確定・納付の手続きであるだけでなく、申告結果を採用計画などに活かすことも可能です。申告結果のチェックと活用術を紹介します。

1.賃金集計表から読み解く変動要因

賃金集計表では、正社員とパート等の人数、給与と賞与は区分されています。ここに前年度と大きな乖離がある場合、原因の特定が必要です。人員に変動がないにも関わらず、賃金総額が増えている場合、給与計算システム等で残業代や休日手当の推移を確認しましょう。売上比で残業代だけが突出していれば、業務効率の低下や人員不足のサインとなります。

集計過程で抽出したデータも活用可能です。4月分給与の月割計算など、申告時に行った年度またぎの給与調整データを正確な月次人件費推移の把握に活かしましょう。

2.雇用ポートフォリオと採用計画への活用

給与や賞与の増加傾向からは、売上と人件費の比率を確認可能です。人件費の比率が想定よりも高い場合、部署別の人員・支給状況を併せて確認し、採用計画を見直すきっかけとしましょう。また、学生アルバイトなどは雇用保険の対象外ですが、労災保険の「臨時労働者」としては集計されます。この比率が急増している場合、現場のナレッジ蓄積が疎かになっている恐れがあるため、次年度の正社員採用の必要性を検討する際の根拠としましょう。

雇用保険については、令和10年10月より「週10時間以上の労働時間」まで対象が拡大されます。現在対象外の短時間労働者も、将来的に法定福利費の対象となるため、以下の視点でポートフォリオを再考することが必要です。

  • コストシミュレーション
    社会保険料負担を見越した収益構造の再設計が必要なため、増加が見込まれる社会保険料を織り込んだコストシミュレーションを行います。
  • 採用戦略の転換
    「短時間労働者の多数雇用」から、生産性の高い「少数精鋭の正社員・フルタイムへのシフト」を検討しましょう。
  • 早期着手の重要性
    施行直前又は直後の体制変更は現場の混乱を招くため、施行前の早い段階から徐々に雇用形態の構成比を見直すことが重要です。

分析には、給与計算システムの段階で「雇用形態別」「基本給・諸手当・賞与」が項目分けされていることが必要です。もし集計に苦労した場合、次年度に向けたシステム設定や給与体系を見直す良い機会と捉えましょう。

●さいごに

「年度更新は手間が掛かる作業」といったネガティブイメージを持つ担当者も多いでしょう。確かに年度更新は集計すべき項目も多数に上るため、手間の掛かる作業です。しかし、年度更新は単なる事務作業ではなく、企業活動の振り返りから未来予測へつなげるレポートとしての側面も持ち、そのデータは業務の効率化に繋がるヒントが隠されています。当記事を参考に正確な年度更新を行い、そのデータを企業の成長へ活かしてください。

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