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【副業解禁時代の「新労働時間管理術」】攻めの「健康管理」で優秀な人材の確保へ

公開日:2026年3月27日(当記事の内容は公開時点のものです)
new window監修:社会保険労務士法人 ヒューマンリソースマネージメント
特定社会保険労務士 馬場栄

2040年問題による労働力不足や、政府の副業・兼業の推進などを背景に副業解禁の動きが企業で加速しています。副業を禁止する企業も未だに多いですが、隠れ副業による健康リスクは避けられません。また、副業における労働時間通算管理義務の見直し、健康管理重視への移行といった労働基準法改正議論も副業解禁を後押ししています。なぜ今副業を解禁・促進するべきなのか、その理由を解説します。

●副業時代を先取りした「クリアな労働時間管理」が未来を拓く!システム活用で隠れリスクを解消し、健康管理で優秀な人材を確保

2040年問題や政府の副業に対する姿勢などを背景に、副業人材の活用が重要視されています。来るべき副業時代に向け、重要となる「クリアな労働時間管理」について、その背景や問題、解決策について解説します。

1.副業「解禁」「促進」が不可避となる社会的背景

団塊ジュニア世代が現役を退くことで、労働力不足がより深刻化する「2040年問題」への対応として、副業による労働力のシェアリングという概念が注目され、解禁の動きを加速させています。また、副業人材は通常の労働者とは異なる対応が必要な外国人人材や、シニア層に比べて即戦力として活用可能です。AI活用による労働力不足解消も期待されていますが、導入には大きなコストが掛かってしまいます。コスト面における優位性も副業解禁の社会的背景といえます。

政府の副業を原則自由とする姿勢も解禁や促進を後押ししています。副業の一律禁止による訴訟リスクも解禁に踏み切る理由となるでしょう。また、仮に禁止したとしても「隠れ副業」による健康問題発生のリスクは避けられません。一律禁止はもはや経営リスクとなっており、解禁により副業の労働時間を管理する方が企業にとってメリットが大きいといえます。

2.「労働時間管理」の見直しが急務なワケ

副業が普及したことにより、現行の制度による労働時間管理は限界に達しています。具体的な問題点を解説します。

現行「通算ルール」が引き起こす管理不全

現行の労働基準法では、本業と副業の労働時間は通算し、管理しなければなりません。また、労働時間は原則1分単位で把握しなければなりませんが、副業先と合わせて正確に管理することは至難の業となっています。そもそも従業員が副業を申告していなければ、把握することはほぼ不可能です。

現行の通算ルールは、人事担当者や現場の負担をいたずらに増加させるだけであり、制度の形骸化につながっているともいえます。形骸化による日常的な管理不全が起きれば、担当者は無力感に苛まれ、業務に対するモチベーションを喪失してしまいます。

「意図せぬ未払い」というコンプライアンスの落とし穴

本業と副業の合算によって、法定労働時間を超えた場合にも割増賃金の支払いは必要です。この場合、後に雇用契約を締結した側が割増賃金の支払い義務を負います。しかし、副業をおこなっていることを知らない、もしくは知っていても他社における労働時間を正確に把握できなければ、支払い義務があることも把握できません。

従業員が副業を申告しない、または申告していても労働時間が正確でないという事態は往々にして起きることです。このような場合、意図しない割増賃金の未払いが生じてしまうこともあります。副業先での残業や、契約変更も考慮しなければなりませんが、従業員が申告しなければ担当者は把握する術を持ちません。現行の通算ルールでは、このような意図せぬ未払いによるコンプライアンス違反がいつ発生してもおかしくないのです。

「安全配慮義務」の境界線が曖昧になるリスク

労働契約法や労働安全衛生法では、企業に「安全配慮義務」を課しています。過労死ラインに達するような長時間労働をおこなわせないことは、安全配慮義務に基づく企業の義務です。しかし、自社における労働時間は適正であっても、副業先を通算すると過労死ラインを超えることもあり得ます。副業をおこなっている場合には、どこまでが自社の安全配慮義務の範囲なのかが曖昧になりがちです。

副業先の労働時間を把握しながら、長時間労働を課したのであれば、安全配慮義務違反に問われることはやむを得ません。しかし、副業先における労働時間を知らずに長時間労働となった場合でも、企業が責任を問われることもあります。把握の難しい副業先の労働時間を考慮しながらの管理は、担当者にとって非常に大きなプレッシャーとなるでしょう。

管理の厳格化が招く「隠れ副業」のパラドックス

副業先を含めて正確に労働時間を管理するために、厳格な申告体制を敷く企業も存在します。確かにそのような体制であれば、申告がおこなわれている限り、正確に労働時間の把握ができるでしょう。しかし、正確な把握を優先する場合には、手続きが煩雑になりがちです。そのような場合、手続きの煩雑さを嫌い、隠れ副業をおこなう従業員が出てくる恐れがあります。

正確な労働時間の管理を目的としているにも関わらず、真逆となる隠れ副業を発生させ、結果として無管理状態となっては元も子ありません。副業を把握できないまま無管理状態が続いてしまえば、ある日突然従業員が自社での勤務中に倒れる、などといった最悪の形で隠れ副業が表面化してしまう恐れもあります。

3.実効性と柔軟性を両立させる「副業解禁時代の新労働時間管理」

労働時間管理が限界となっている今、労働基準法改正を見据えた「副業解禁時代の新労働時間管理」が必要となります。実効性と柔軟性を両立させた労働時間管理を紹介します。

労働基準法改正議論が示す「労働時間管理のパラダイムシフト」

労働基準法改正議論では、労働時間の通算に関し、通算による割増賃金の支払いは不要としつつ、健康管理のために通算自体は残すという方向で検討中です。このような方向性で改正がおこなわれた場合、自社の労働時間のみで割増賃金の支払いの有無が決定されることになります。

もし副業に関する割増賃金について、労働時間の通算が不要となるなら、労働時間管理がこれまでの「時間の足し算」から「健康状態の把握」へフォーカスを移すことにもつながります。これは「労働時間管理のパラダイムシフト」とも呼べるものであり、労働時間管理の大きな転換点となるでしょう。

副業解禁時代における労働時間管理は、従業員の健康を守る基盤となり、無理な働き方の是正や生産性の向上につながります。また、適正な時間管理は、結果として不必要な割増賃金の抑制にもつながる施策であり、一石二鳥の効果が期待できるでしょう。

システムを軸とした「自社完結型」の堅実な管理モデル

割増賃金における通算は不要になったとしても、健康管理をおこなう必要は残ります。そのため、副業先を含めた労働時間の把握は今後も必要になると考えられます。その際に重要となることは、勤怠システムによる「正確な打刻データ」を管理証明の基盤として利用することです。システムを軸とし、他社に頼らない自社完結型の堅実な管理モデルを構築することが必要となります。

なお、割増賃金の支払いが不要となった場合でも、安全配慮義務自体は依然として課されたままであるため、自社が従業員の管理を適正におこなっている証拠を残すことは重要です。また、安全配慮義務が課されることは副業先も変わらないため、勤怠データの提出が求められる場合もあります。正確な勤怠データを副業先への証明に活用できる運用体制を築くことが重要となるでしょう。

デジタル活用による「セルフマネジメント」の促進と証跡管理

勤怠システムには、割増率の上がる月60時間超の時間外労働など、一定の時間を超過した場合にアラートで知らせる機能が備わっていることが多くなっています。これまでは、主に割増賃金や時間外労働の上限時間の関係でアラートが用いられていました。しかし、これからの副業解禁時代においては、健康管理にアラートを用いることが推奨されます。

健康問題発生に至らない早期の段階でアラートにより通報し、更に警告の段階で知らせるように設定すれば、健康管理もより万全のものとなるでしょう。また、自社のみのアラートであっても、それを副業状況確認の契機(面談のトリガー)として利用できる体制を構築することが大切です。

「隠れ副業」を防止する、簡易的な申告フローの整備

副業を解禁する場合であっても、申請や申告のフローが複雑であれば、手続きの煩雑さを嫌った隠れ副業や未報告が発生する恐れがあります。既に運用済みであるチャットツールなどで労働時間を申告できれば、申告漏れも減らせるでしょう。また、副業の許可申請自体も事細かに記載を求めるのではなく、就業先や期間、日時など、最低限の情報で済むようにすれば、心理的なハードルも下がり、隠れ副業の発生を防ぐことにつながります。

蓄積されたデジタルデータによる「安全配慮義務」の履行証明

労働時間を含めた自社における勤怠情報は、勤怠システムでデジタルデータとして記録されます。しかし、副業先の労働時間は、自社では自動的に把握できません。そのため、従業員からヒアリングをおこなうことになりますが、このヒアリングをおこなったという事実を把握した労働時間とともに記録することが重要です。自社に蓄積された勤怠情報のデジタルデータとヒアリングの記録は、自社が副業先における労働時間を含めて、安全配慮義務を果たしているという証明になります。

●さいごに

副業を禁止している企業と、副業を解禁し、自由な働き方を認める企業では、後者の方が求職者にとって魅力的に映ります。多様な働き方が普及した現代では、副業を一律禁止するような柔軟性に欠けた企業では、キャリア自律心の高い優秀な人材から選ばれる可能性が低くなってしまう恐れがあります。

副業先の企業で学んだ知識やスキルは、自社に還流し、組織のイノベーションにつなげることも可能です。副業を含め、外部の知見を活かすオープンタレント戦略は、今後ますます重要性も増していくでしょう。

「自由な働き方」と「従業員の健康」の両立を図れる企業こそが、来るべき副業解禁時代の勝者となります。ただ副業を認めるだけでなく、ウェルビーイングを経営の核に据えることで、従業員の健康を守り、持続可能な成長を果たしましょう。

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