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「地方自治情報化推進フェア2018」 出展レポート

AI・RPAなどの最新技術を活用した“未来の行政”を自治体職員が「語り」、NECが「提示」する

政府が掲げる「デジタル・ガバメント実行計画」や、人口減少社会の到来を踏まえ、地方行政のデジタル化推進が急務となっている。
こうした中、「地方自治情報化推進フェア2018」(*)が10月23日(火)・24日(水)の2日間にわたって東京ビッグサイトで開催された。NECは地方公共団体の直面する課題を解決し、AIやRPAなどを用いて「未来のあたりまえ」を創出する最新のソリューションを出展。各種講演では働き方改革やAIを活用した実証研究などの事例を紹介し、多くの行政関係者から注目を集めた。

(*)・・・主催:地方公共団体情報システム機構

自治体職員は2040年に半減・・・!?今後顕在化する課題の解決に向けて

NECではこれまで政府に対し、社会全体のデジタル化を官民が連携して加速させること、および企業と行政に分散するデータの共有・分析によって生産性を高め、新たなイノベーション創出を促す提言を行ってきた経緯がある。
そして2018年初頭、政府は行政手続きのオンライン化や利用者目線のサービス実現を盛り込んだ「デジタル・ガバメント実行計画」を決定。同年4月と7月には、2040年頃の地方公共団体のあり方に関して「自治体戦略2040構想」研究会(総務省)の提言が公表された。同会は、国内の人口減少や高齢化進展がピークとなる2040年に、今の半数程度の職員で行政を支える必要があるとし、広域行政や共助の法制化を提言。この提言により、地方公共団体の危機意識はさらに高まった。

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総務省の「自治体戦略2040構想」

こうした経緯から、NECではAIなどの最新技術とサービス・デザインを融合させることで、喫緊の行政課題を解決しながら、人にやさしいデジタルガバメントのしくみづくりを支援していく構想を持つ。この“人にやさしい”とは、住民と行政、および企業に所属する人々が日ごろ感じている不便をなくし、生産性の向上に寄与するという意味である。今後は、AI・RPAとマイナンバーカードや生体認証技術などを組み合わせたシステム/サービスの構築によって、持続可能な地方行政の基盤整備に幅広く貢献していく考えだ。

水戸市様とタッグを組み、AI技術を応用した実証研究に着手

職員数と予算が限られる中で、地方公共団体は今後いかにして業務を効率的に遂行し、行政運営の高度化を図るべきなのか――。その手法のひとつはAI技術の活用だ。
水戸市様では2018年8月より、財務会計業務にAI技術を応用した実証研究を、NECと共同で実施している。NECブースで開催した「特別講演」では、同市 情報政策課 課長の北條 佳孝 氏が、この実証研究のねらいや現在までの成果を紹介した。

水戸市 情報政策課
課長 北條 佳孝 氏
水戸市様とNECの実証研究テーマ

水戸市様は適正な予算額を推計するために、AIを用いた実験を行った。具体的には扶助費の予算について、財務会計システムに蓄積された過去の支出データをAIで時系列分析し、季節や傾向を考慮した推計金額を算出したのだ。「AIによる分析・推計金額は精度が高く、きわめて実績値に近い値となりました。予算編成業務と資金計画業務の効率化が実現することで、今後は根拠資料・配布資料の作成にかかっていた時間とコストの削減も見込めます。加えて全庁単位だけでなく、所属単位・事業別細節別で月別の予測値を提供することが可能になります。このように、各組織で予算の精度を高めることで、より効果の上がる施策に予算を配分し、市民サービスの向上にもつなげられると見込んでいます」と北條氏は語った。

予算見える化分析の研究内容

続いて水戸市様が試みたのは、内部統制へのAI技術の適用だ。内部統制は今後、地方公共団体の運営にとって不可欠な要素になる。同市は現在、帳票入力データなどの異常値をAIに検出させ、事務の誤りや不明瞭な支出を未然に防ぐ実証研究に取り組む。新たに作成した異常値検出モデルの性能と妥当性を、評価用のデータを用いて検証し、健全な事務運営につなげていくねらいがある。

水戸市様は、支出伝票の科目をAIによって推定する実験にも着手している。「この伝票はどの予算科目に振り分ければいいのだろうか・・・?」。地方公共団体の財務会計部門では、こうした場面がたびたび生じ、業務の効率化を阻害する要因になっている。「そこで、件名を入力すればAIが支出伝票の科目を自動で推定する判別モデルについて、NECの技術を活用し実験を行いました。AIの判別結果と、実際に職員が振り分けた結果を比較したところ、90%を超える適合率が得られました」と北條氏は説明した。

これらの成果を踏まえて水戸市様では、AIモデルを適用する業務範囲をさらに拡大し、更なる業務の高度化と生産性向上を目指す考えだ。具体的には、監査事務分野でのAI活用や、職員向けの先進ICT・AI技術の勉強会開催なども計画している。「AIやRPAはあくまで“手段”ですが、目的化してしまっているケースをたびたび目にします。大切なことは、情報化に携わる職員が各課の困っていることを自分事として考え、現場に足を運ぶこと」だと、北條氏は強調する。

一方、NECでは水戸市様との一連の実証研究の成果を活かしたソリューションの実現を目指している。今後は職員の生産性と、住民・企業の利便性双方の向上という二つの観点から、AIを用いたデジタル基盤の整備を幅広く提言していく考えだ。

窓口業務の100%デジタル化を実現する、NEC独自のRPA活用手法

今後、地方公共団体の現場に即した「デジタル・ガバメント実行計画」を推進していくには、RPAの適用も有効な策となり得る。今回のフェアで、NECは“紙申請書ありき”の従来型事務を改め、RPAとNEC独自のシステムを組み合わせることでデジタル革新を実現できる「NEC 窓口改善ソリューション」を紹介した。
転入手続きなどの際、住民によっては複数の申請書に何度も同じ内容を記入する必要があり、職員は申請内容を基幹システムに入力する作業が大きな負担になっている。転入/転出者が集中する年度末の繁忙期は、「100分程度の待ち時間は当たり前」という地方公共団体もある。窓口改善ソリューションは、住民がちょっとした空き時間などにあらかじめスマートフォンまたはタブレット端末で申請書への入力ができ、申請内容をセキュリティ機能付きのQRコードに変換するしくみを提供する。

住民は庁舎窓口に設置した専用リーダーにQRコードをかざすだけで手続きが完了する。職員は申請内容のデータ一式をRPAで取り込み、基幹業務システムへの入力を自動で実行できるようになる。これらの機能によって、窓口業務の100%デジタル化が実現し、職員が担っていたオペレーションの約9割が削減できる。

「基幹業務システムへの登録事務をRPA化するというアプローチは、すでに多くのICTベンダーが取り組んでいます。しかし、住民が行う申請書への記入から始まる一連の手続きを、デジタル化によってトータルで最適化した新しいフロー(特許出願中)を提示しているのはNECのみです。この部分は、実際に窓口業務の流れを観察し、地方公共団体様と一緒に課題の洗い出しをして作り込みました」と、製品担当の公共ソリューション事業部 橋本 利紀は強調する。とりわけ今回のフェアでは、申請業務の現場に即した機能を備えている点が行政関係者から高く評価された。実際に、「利用登録が不要なため住民は気軽に利用できる」、「セキュリティ面で安心」、「従来通り窓口での申請内容修正も可能であるため運用しやすい」といった来場者の声が聞かれた。

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「NEC 窓口改善ソリューション」の機能と運用イメージ

RPAを用いた業務の自動化は今後、より自律的で高度な判断が求められる分野へと拡大・進化していく。たとえば、愛知県碧南市様では現在、本ソリューションの一部、電子サインやRPAを活用した実証実験を実施している。また、愛知県一宮市様では市税業務においてRPAとOCRを組み合わせ、書類ごとの内容をロボットが自律的に判断して処理を行う業務フローを、NECとの実証実験によって確立しようとしている。ほかにも、福岡市様など複数の地方公共団体がNECと連携し、RPA適用の共同研究に着手している。

2040年、自治体職員の1日はこうなっている!

労働力減少などの課題を抱える中、今後は職員のワークスタイルも、変わらざるを得ない。今回のフェアでNECが実施した「ベンダープレゼンテーション」では、NECのグループ会社が実践する働き方改革の事例を交えながら、地方公共団体におけるワークスタイルの近未来像を提示した。具体的には2040年における自治体職員のとある1日を例に、人とAIが共存することによって実現する新しい働き方や便利な行政サービスをイメージしている。

2040年時点の自治体職員は、紙からほぼ完全に解放されている。重要な判断が求められる局面では、AIが職員に寄り添い、関連情報の抽出など適切なサポートをする。単純な定型業務はRPAへの代替が進み、職員の貴重なリソースは政策立案などに注力されている。さらには自宅、あるいは現場にいながらにして、庁舎の職員や住民、企業らとの意思疎通がセキュアな環境で行えるコミュニケーション基盤も整備されている。つまり時・場所・手段にとらわれない本当の意味でのテレワークが、大部分の組織で実現している――。これがNECの描く、地方公共団体における働き方の近未来像だ。

ベンダープレゼンテーションではNECネッツエスアイ働き方改革実践事例を紹介。壁が無く開放感に溢れるオフィスを社員が自由に行き交い、フラリと立ち寄ったカフェ風のスタンドテーブルで異なる部署の社員と立ち話をする。何気なく設置された壁面ディスプレイから、気軽に遠隔地拠点の仲間に声を掛ける。このように、場所や組織の枠を超えてコミュニケーションをより活発にし、イノベーションが起こる可能性を高める「共創ワーク」を実現している。それを支えているツールとして、「Zoom」というテレワークサービスを紹介。実践例の中では、月間の利用回数が4,500回を超え、目に見える効果を発揮していることも報告された。
Zoom」の実物もブースに設置され、来場者からは「簡易な装置で映像はもちろん、資料や動画の共有も想像以上になめらか」「離れた拠点とも、移動をせず気軽にコミュニケーションが取れそうだ」などのコメントが寄せられ、注目を集めた。

プレゼンターを務めた公共ソリューション事業部の平山 智章は、地方公共団体におけるこれからの働き方について次のような考えを述べた。「働き方改革とは、企業にとっては成長のための手段であり、従業員にはワクワク感や充足感を高める効果をもたらします。こうした要素は、地方公共団体の働き方改革においても参考にしていただけるはずです。これからの職員には、先例のない事態や新しい課題に対処できる余裕が求められています。だからこそ、“未来のあたりまえ”(人にやさしいデジタルガバメント)を目指すNECのソリューションがお役に立てると確信しています」。

NEC 公共ソリューション事業部
シニアエキスパート 平山 智章

公共ソリューションの分野で、「未来のあたりまえ」を創出し続ける

AI、RPA、クラウドなど、デジタル化の新たな動向を前にして、どの地方公共団体も固有の悩みを抱えている。これに対してNECは、公共システムの構築案件で培ってきた長年の経験と多様な成功事例から、最適な解決手法を提供していく。「情報システム部門の担当者が一人で課題を抱え込まず、まずは最寄りの支社/支店にご相談いただきたい」――。これが、NECからのシンプルなメッセージだ。そして今後も、公共ソリューションの分野で「未来のあたりまえ」を創出し続け、暮らし・社会をより良いものに変えていこうとしている。

[ 企業広報支援ライター  田村 直人 ]