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【師走を乗り切るカギは事前準備!】「年末調整・賞与支給」対応の転ばぬ先の杖
公開日:2024年11月7日(当記事の内容は公開時点のものです)
監修:社会保険労務士法人 ヒューマンリソースマネージメント
特定社会保険労務士 馬場栄
12月が目前のいま、大きなトピックは「年末調整」と「賞与」でしょう。今回は、前回に引き続き、年末調整で「従業員からのスムーズ・正確な書類提出」を叶える施策を紹介します。賞与では、今更聞けない基本と、知っておかないとトラブルになる減額時の注意点を重点解説します。師走を乗り切るための必見情報をお見逃しなく!
年末調整の効率的な進め方
前回は、年末調整の基本を振り返りつつ、定額減税や提出書類など令和6年度の変更点を解説しました。今回は、年末調整を効率的に進めるためのアイディアを紹介します。自社に合うものはないかチェックしてみましょう。
●社内勉強会の実施
年末調整に関する社内勉強会を実施することで、従業員の理解が深まり、書類提出等の手続きがスムーズかつ正確に進むことが期待できます。改正が多い分野なので、単なる記入例の紹介に留まらず、担当者の勉強にもなる内容にしましょう。担当者は年末調整の変更点に関するキャッチアップが求められるので、従業員に対する勉強会の開催は一石二鳥になるといえます。また、勉強会では、年末調整でいくら還付されるかを仮の事例などを用いて説明すると、従業員の興味をより引きやすくなります。
●評価への反映
年末調整書類を早めに提出した従業員には、評価上のプラスを与えるなどの制度を設けることも有効です。逆に、提出が遅れた従業員にはマイナス評価を与える制度にすることで、書類回収が早く進むでしょう。評価制度の見直しなどが必要であり、取り入れるためのハードルは高いですが、書類提出の期日を守ることは、意識さえすれば誰にでも簡単にできることなので、その意識付けには効果的だと考えられます。
●アウトソーシングの活用
年末調整を自社だけで行う必要はありません。年末調整代行サービスや外部の税理士に業務をアウトソーシングすることも検討してください。アウトソーシングにより、効率化を図ることだけでなく、コア業務に集中できるようにもなります。
●電子化
年末調整の手続きを電子化することも可能です。手書きで行っていた場合、ペーパーレス化により申告書作成が簡素化され、従業員の作業効率が向上します。企業側も、従業員が年末調整ソフトで作成した申告書データを利用することで、控除額の検算が不要となり、効率化が図れます。
賞与の基礎知識と支払時に押さえておきたい手続き
まずは正確な支払いのために賞与の基本を押さえましょう。
賞与とは、本来の給与とは別に特別な報酬として支給される金銭を指し、多くの企業では、夏季や冬季に賞与が支給されています。
賞与の支給は法的に義務付けられていないので、賞与を支給するか否かは企業の自由です。
●社会保険上の賞与
社会保険では、賞与を「賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が、労働の対償として受ける全てのもののうち、3月を超える期間ごとに受けるもの」と定義しています。
このため、年に4回以上支給されるものは、名称が賞与であっても、社会保険上の賞与とはなりません。また、夏季と冬季に年2回賞与を支給すると定めている企業が、賞与の他に手当金等を支給した場合、その性質が労働の対償であれば、賞与とみなされます。賞与に該当するか否かの具体例は、以下の図をご覧ください。
賞与の対象となるもの | 賞与の対象とならないもの | |
---|---|---|
金銭によるもの | 現物によるもの | |
賞与、ボーナス、期末手当、年末手当、夏(冬)季手当、繁忙手当、年末一時金、期末一時金など賞与性のもの、年3回以下支給されるもの その他定期的に支給されるものでなくとも一時的に支給されるもの |
自社製品など金銭以外で支給されるもの(金銭に換算する必要があります) |
|
●賞与計算のポイント
賞与も月々の給与と同様に、社会保険料や税金の控除が必要です。
- 厚生年金・健康保険
控除すべき社会保険料は「標準賞与額×保険料率」で算出します。
賞与の社会保険料は、保険料率や企業と従業員が折半負担する点については月々の給与と同様ですが、「標準賞与額」を基礎とする点が異なります。
なお、年4回以上支給される賞与は、社会保険上の賞与とはならず、標準報酬月額の対象となります。
標準賞与額には、以下のとおり上限が定められています。これを超える賞与が支給された場合には、「上限額×保険料率」で計算します。
厚生年金 | 1か月あたり150万円 | 月2回以上支給される場合は合算額で考える |
---|---|---|
健康保険 | 年間の累計額573万円 | 4月1日から3月31日までの累計額で考える |
- 雇用保険料
賞与から控除する雇用保険料額は「賞与の総支給額×保険料率」で求めます。
- 税金(所得税・住民税)
賞与には所得税がかかりますが、住民税はかかりません。
納めるべき所得税は「(額面賞与額-社会保険料-雇用保険料)×所得税率」で算出します。このときの税率は、「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」に記載されているものを使用します。算出する際は、前月の給与額を用いるため、育休明け等で前月の給与がないなど、この表が使えない場合には「給与所得の源泉徴収税額表」を用いて計算します。
参考:賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表|国税庁
参考:給与所得の源泉徴収税額表|国税庁
●提出書類
賞与を支給した場合には、支給日より5日以内に「被保険者賞与支払届」を年金事務所または健康保険組合に提出しなければなりません。この届出によって、標準賞与額が決定されることになります。また、登録された支払予定月に賞与が不支給の場合には、「賞与不支給報告書」の提出が必要です。
なお、令和3年4月1日以降提出分から「被保険者賞与支払届総括表」の添付は不要となっています。
賞与支払いから保険料納付までの手続きについては、以下の図を参考としてください。
提出時期 | 賞与支払日から5日以内 |
---|---|
提出先 | 事務所所在地を管轄する年金事務所 |
提出方法 | 電子申請、電子媒体、郵送、窓口持参 |
保険料の納付方法 | 社会保険料:納入告知書(口座振替の場合、納入告知通知書) 所得税:納付書 |
保険料納付時期 | 社会保険:賞与支払月の翌月末まで 所得税:翌月10日まで |
月々の給与と同様に賞与に関する社会保険料も、産休や育休期間中は申請により免除されます。ただし、免除されていても賞与支払届の提出は必要となるため、忘れずに提出してください。なお、雇用保険料や所得税については免除制度が存在しないため、混同しないように注意が必要です。
賞与支払月に退職した場合には、退職日によって、その月の社会保険料が徴収されるか否かが異なります。これは、退職日の翌日が社会保険の資格喪失日となり、保険料は資格喪失日が属する月の前月分まで納める必要があるためです。月末以外に退職した場合、その月の保険料は徴収されません。月末に退職した場合、翌月1日が資格喪失日となり、その前月(つまり、退職月)まで保険料を納めることになります。
賞与の減額や不支給に関する注意点
賞与の支給は、法の義務ではなく企業の任意となっています。そのため、賞与額の減額や賞与そのものを支給しないことも可能です。ただし、無制限に減額や不支給が許されるわけではありません。支給額を決めるのは、評価を行う管理職者になりますが、トラブルを防ぐためにも一担当者としても注意点を把握しておきましょう。
●賞与の支払い義務
賞与の支給は企業の任意ですが、就業規則の記載内容によっては義務となる場合もあります。たとえば「毎年7月10日と12月15日に基本給〇月分の賞与を支給する」と就業規則等に記載があった場合には、企業業績等にかかわらず、決められた額の賞与を支払う義務が生じます。一方で、「賞与は年2回支給する」と記載されていた場合には、額の変更は可能ですが、やはり支給自体は義務となります。
現在のビジネス環境は、目覚ましいスピードで変化を続けています。経営的な判断の遅れが、業績を大きく下げてしまうことも考えられるでしょう。そのような状況下で毎年必ず賞与を支給していては、企業にとって大きな経済的負担となってしまいます。
「賞与は業績に応じて支給を決定する」等の規定を置かなければ、従業員から就業規則の規定を根拠に満額の支払いを求められることも考えられます。そのため、賞与は企業業績等によって不支給となる場合もある旨を記載しておくことが推奨されます。
賞与の支給・不支給は従業員のモチベーションに大きく関わるため、出来る限り支給することが望ましいでしょう。しかし、企業を守るためにも裁量の幅を設けておかなければなりません。
●評価基準の明確化
企業業績の悪化によって、全従業員の賞与を一律カットしなければならない状況に置かれることも考えられます。就業規則に根拠があれば、一律カットも企業の裁量権の範囲内と認められる場合が多くなっています。しかし、特定の従業員のみを対象として賞与をカットもしくは不支給とする場合には注意が必要です。
以下のような規定があれば、本人の期間内の成績に基づいて賞与の支給・不支給や支給額を決定することが可能です。
- 賞与は本人の勤続年数、業務成績を考慮してその支給を決定する
- 賞与の査定期間は、〇月〇日から〇月〇日までとする
こうした記載が就業規則等になく、評価項目として周知されていない項目を考慮したり、評価期間以外の成績や言動に基づいて評価したりした場合には、問題となる可能性があります。そのような評価を行うと、不当な査定として従業員から損害賠償を請求される恐れもあります。評価基準が明確であるか就業規則等をしっかりと確認しておきましょう。
●懲戒処分を受けた従業員
有効な懲戒処分を行うための考え方の1つに「二重処罰の禁止」があります。例えば、勤務態度不良等で懲戒処分を受けたのであれば、その後は同一の事案に基づいて行う懲戒処分は無効なものとなります。
では、懲戒処分を受けた従業員に対して、賞与を減額することは二重処罰に該当するのでしょうか。
仮に、「賞与は基本給の2か月分を支給する」と就業規則に記載されていたとすると、2か月分の賞与の支給は企業の義務となります。このような場合に、懲戒処分を受けた従業員に対して、さらに賞与を減額することは、1つの事案に対して「懲戒処分」と「賞与減額」を行うことになり、二重処罰となる可能性が高くなるといえます。
一方で、「賞与を支給することがある」としている場合であれば、そもそも支給は義務ではなく、企業の人事評価の範囲内で支給・不支給や支給額を決定しているに過ぎません。このような場合には、企業の裁量権の範囲内に留まっているため、二重処罰の禁止に抵触する可能性は低くなります。
●産休・育休と賞与
下図のように産休中や育休中の従業員に対する不利益取扱いは禁止されています。
以下のような事由を理由として | 不利益取扱いを行うことは違法です |
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妊娠中・産後の女性労働者の…
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不利益取扱いの例
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- ※厚生労働省のリーフレットをもとに作成
図表内では、「賞与等における不利益な算定」が例として挙げられています。ただ、休業期間中の労務提供がなかった期間を不就労期間として日割等の計算によって減額することは可能です。
また、育休明けで時短勤務を行っている場合には、時短の割合に応じて減額することも差し支えありません。例えば、8時間から6時間へ勤務時間を短縮したのであれば、25%の減額を行うことは認められると考えられます。他に事由がないにもかかわらず、時短勤務というだけでこれを下回る額にしたり、そもそも支給しなかったりするのは不利益取扱いに該当します。
また、賞与の支給条件として「9割以上の出勤」等の規定を設ける会社もあることでしょう。こうした規定を置くことは企業の裁量の範囲内ですが、賞与の支給条件を見る際に、産休・育休期間中は欠勤扱いとする場合は問題があります。実際に、産休等を取得したことのみを理由として、賞与が不支給となる可能性が高いことから、公序に反し無効であると最高裁が判示しています。
おわりに
賞与は従業員のモチベーションに大きく関わる報酬です。それだけに曖昧な基準での運用や、計算ミスなどは許されません。当記事を参考に正確な賞与支払いに努めてください。また、賞与は年末調整にも関わってくるため、正確かつ効率的に支給しなくてはなりません。そのために、システム等の活用を検討することも必要になってくることでしょう。
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