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インタビュー

Real Voice NECの知財活動紹介

生成AIを活用したNECならではの知財DXを推進

2025年9月29日

いまや社会のなかでの広く活用されるようになった生成AI。しかし、AIが導く回答の信頼性やセキュリティなどへの懸念、業務にあわせたAI開発にも多大な人的・経済的なコストがかかるという問題も無視できません。このようななか、NECでは2024年に知財部門内に、知財業務における生成AIソリューションを立ち上げるプロジェクトが発足。社内外の専門家と連携しながら、社内での運用まで実現したチームがあります。彼らがどのような「知財DX」をつくり上げ、これから何をしようとしているのか。チームの中心人物に詳しく話を聞きました。

プロフィール

写真:上田 健一さん

技術を大切にしながら海底ケーブルから宇宙、農業、創薬に至るまで幅広く事業を展開するNECに興味を抱き、2023年2月にNECへ入社。知財面から新規事業開発支援に携わる。その後、CEO、CTO、知財部門長からの後押しを受けて知財DXの推進に従事。社内で育てた技術の外販にも取り組むなど、社会に価値を残せる仕事をめざして積極的に業務を続けている。

知的財産&ルールメイキング部門
知的財産企画・戦略グループ
シニア知的財産アナリスト
上田 健一

専門的な知財業務にかかる時間を削減

NECが進めている知財DXについて教えてください。
インタビューの様子

生成AIを活用して知財業務を支援する取り組みです。知財業務はテキストを扱うことが多いので、現在生成AIの主流となっている大規模言語モデル(LLM)との相性が非常に良いという側面があります。実際、既に社内では業務時間を削減する3つのソリューションを実装して運用を進めています。

1つ目は、発明創発や明細書作成を支援するソリューションです。発明者が特許を申請する際には、簡易なアイデアシートを作成することがありますが、本技術ではそのアイデアシートをLLMに読み込ませたうえでAIと壁打ちをすることで、アイデアの幅を広げられます。例えば、発明者は当初、技術用途を空港のネットワークカメラでしか考えていなかったときに、AIは「病院や学校でもこうした工夫をすれば使えますよ」と返してくれます。このような示唆を得て権利の適用場面を広げられれば、出願する特許もより強いものになります。

2つ目は、先行文献調査を支援するソリューションです。発明は過去に同じものがあっては権利を得られないので、必ず出願前には先行した同様の知財が存在していないか確認する調査を行います。これによって、発明者は自身のアイデアが特許になり得るかどうか判断できるのです。しかし、これがかなり大変でした。調査は非常に専門的かつ高度な業務で、一般的な発明者が適切な先行文献を検討することは必ずしも容易ではありませんでした。こうした状況に対して、RAGの技術を用いて、過去の特許文献をベクトル化することにより、発明者が自然文で発明を入力するだけで、AIが自動的にベクトルが近い文献を調査するため、先行文献調査を効率化できます。また、特許庁の審査官の判断を学習したAIを構築しており、特許性の有無もその場で判別することが可能です。

3つ目は、出願後の審査官からのフィードバックである「中間処理」への支援ソリューションです。審査官の指摘事項が正しいかどうか、また、指摘に対する反論をどのように構築すればいいのかをアシストしてくれるAI技術です。
これらは、既に弊社内で運用し、業務時間の大幅な削減を実現しています。

未活用特許の活用用途を見つけ、スタートアップへ譲渡

AIを活用することで、知財業務の大幅な効率化を実現しているのですね。

はい。ただ、私たちとしてはAIをただ効率化に用いるだけではなく、知財部門の新たな貢献として、企業価値向上や社会課題の解決に繋がるような付加価値のある仕事もできないかということを模索し続けてきています。その結果、実現したのがAIによる未活用特許の用途探索です。これまでに3件、社内で活用されていなかった特許をスタートアップに譲渡することで社会実装を果たしています。

インタビューの様子

仕組みとしては、生成AIが未活用特許に対する新たな応用展開先を検討する一方、金融機関と連携し、金融機関が支援しているスタートアップのデータベースを構築し、その応用展開先とスタートアップとのマッチングを行うことで、効率的に未活用特許の活用先の探索を行っています。これにより、使われていない特許の番号を入力すると、その特許の活用候補となり得る事業アイデアとスタートアップを提示してくれるというものです。例えば、先ほど申し上げた2件のうちの1つでは「社内で使われていなかった画像認識の技術をヘルスケア領域で使えるのではないか」という示唆が出力されました。これまで社内では「製造工場で使えるかもしれない」程度に考えてきた技術なのですが、AIが提示してきたのは「ヘルスケアの領域でのリハビリテーションの評価に使えるのではないか」というアイデアで、全く異なる角度から価値が提示されたことには驚かされました。その後、Parrots Inc社というアルツハイマー病患者の方の行動を見守るシステムを開発されている会社様とマッチングして譲渡をすることで、活用されていなかった知財に新たな価値を見出すことができました。

共通基盤となるSaaSを構築し、他社の知財部門様の支援も進める

これらの知財DXは貴社内だけで進めているのでしょうか?

いえ、いまは他社の知財部門様とも連携しながら活動を拡大しています(20社超、2025年9月時点)。NECには自社をゼロ番目のクライアントとして最新技術の導入を実践する「クライアントゼロ」という考え方があり、まずは弊社内での推進を進めてきました。他社の知財部門様とお話していると、共通の課題を感じられていることが多く、当社が積み重ねた改善やノウハウを活かして、他社の知財部門様にもご提供しようと取り組んでいるところです。現在、PoCを複数社と進めさせていただいており、この中で、他社の知財部門様のご意見も踏まえて、改善を積み重ねていく予定です。

私自身もさまざまな会社様とお話をするなかでよく聞くのが、「知財のDXを進めたいけれども、それだけの投資が難しい」というお話です。おっしゃる通りで、人材投資や機材投資など知財DXを進めるためには多大なコストがかかります。そこで、自社でAIを開発し、ITソリューションを提供する私たちNECが、皆様がお困りである部分を共通基盤として構築することで日本の知財部門全体のDXを効率的に推進できるのではないかと考えています。

幸い、私たちには技術力と豊富な業界知見があります。技術力について言えば、自社で生成AIを開発するほどに生成AIの扱いには慣れていますし、実際、NEC製のLLM「cotomi」の研究所のメンバーとも週次でミーティングをしながら技術開発を進めています。加えて、社内だけでなく、社外のベンダ様とも広く連携しながら最先端のソリューションの実現に取り組んでいるところです。また、セキュリティについては特に強みがあります。知財という重要な機密事項をお預かりするわけですから、NECでは高度なセキュリティ基準に適合する運用体制を敷いています。開発から運用まで一貫して安全・安心な環境をご提供できることが特長です。また、今後の発展も見込めることも一つの強みです。例えば、NECは世界トップレベルの画像認識技術を多数保有していますが、知財ではテキストの他に図面も非常に重要な要素となります。こうした図面の解析についても現在研究をしている最中ですので、今後のさらなるAIの高度化にも手ごたえを感じています。

インタビューの様子

知財面からNECのパーパスを実現する活動へ

今後の目標を教えてください。

知財DXは、NECが掲げる「安全・安心・公平・効率という社会価値を創造し、誰もが人間性を十分に発揮できる持続可能な社会の実現を目指します。」というパーパスを知財面から実現する活動だと考えています。高いセキュリティで安全・安心に生成AIを活用し、自然言語を通じたAI対話による業務サポートによって誰もが公平に、より効率的に知財業務ができるようにするビジネスであり、より創造的で人間的な仕事を創出するものだと思うからです。

こうした社会価値を創造するために、これからも積極的に活動を続けていくつもりです。
もともと私がNECに興味を持ったのも、知財を活用して幅広い領域の新規事業の支援に携わりたいと考えたからでした。そういう意味でも、この知財DXを新たな新規事業ととらえ、他社の知財部門様にも新たな価値がご提供できるというのは、一般的な知財部門では経験できないような活動ですし、とてもやりがいのある仕事だと感じています。 

CEOやCTOまで含めた上層部の後押しもあり、全社一丸となって知財DXを進められる組織もなかなかないと思いますので、この環境を活かして社会に価値を残せるような仕事を続けていきたいと思っています。

  • 本稿でご紹介している知財DXソリューションは、法的なアドバイスにならない範囲で、業務をアシストすることを目的に設計されています。
  • 所属・役職名等は取材当時のものです。
写真:インタビューの様子