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顔認証と位置情報を活用した建設現場における現場作業員の入退場管理サービス
Vol.71 No.2 2019年3月 バイオメトリクスを用いた社会価値創造特集建設現場では、現場監督が現場を管理し、その配下で多様な専門技術を持った人々が集まり、工事を推進していきます。工程により必要な技術が異なるため、工事期間中はさまざまな会社に所属する作業員が出入りします。現場では危険を伴う作業もあるので、現場監督は一人ひとりの安全を確保するために現場で作業を行っている作業員を特定し、作業員情報を管理する必要があります。これらの管理業務を、機器の設置をせずに顔認証による本人確認と位置情報を活用することで、手軽に入退場情報を取得し、それらの情報を元に、作業員の資格情報の確認や入退場記録データの集計結果を出力することが可能なサービスを実現しました。本稿では、本サービスの特徴について紹介します。
1. はじめに
昨今、建設業界では労働力不足が大きな課題となっています。例えば、技能労働者(職人)の年齢構成から算出すると、2015年には320万人いた技能労働者のうち、110万人が2025年までに高齢化などを理由に離職します。また、15〜64歳の生産年齢人口は、2015年では7,883万人ですが、今後の予測では2060年には4,418万人まで大幅に減少することが見込まれています。そのため、技能労働者だけでなく工事を管理したり技術開発を担う建設技術者の確保も、難しくなっていくと考えられます。これらの課題に取り組むため、建設現場では生産性向上に対する取り組みが加速しています。製造業などの生産性がほぼ一貫して上昇したのとは対照的に、建設業の生産性は、1990年代後半から低迷を続け、かつては同じような生産性であった製造業とは約2倍の差が生じています(図1)。

近い将来にほぼ確実に訪れるであろう深刻な労働力不足に向けて、生産性向上は急務な課題であり、そのため国や民間問わず生産性向上に力を入れています。
2. 建設業界へのIT/ICT活用
建設業界で生産性を向上させるには、IT/ICTの活用は必要不可欠です1)。これまで国内の主要産業であるにもかかわらず、他業種に比べIT/ICT化が遅れていた建設業界ですが、遅れていた分IT/ICTの導入により効率化ができる余地が多岐にわたってあるといえます。昨今、IT/ICT化を加速させている背景が2点あります。まず1点目は、国土交通省が2015年11月に「i-Construction(アイ・コンストラクション)」と呼ぶ施策を打ち出し、建設業、とりわけ土木分野の生産性向上を強く後押ししています。「i-Construction」のコンセプトは、建設プロジェクトの全工程に一貫してIT/ICTを導入し、建設生産活動の飛躍的な効率化を図ることです(図2)。

2点目は、国土交通省が「建設キャリアアップシステム」(図3)を推進しており、技能労働者の労働環境改善を目指し準備を進め、これを2019年4月よりスタートする予定です。具体的には、技能労働者の現場における就業履歴や保有資格などを、業界統一のルールでシステムに蓄積することにより、技能労働者の処遇の改善や技能の研さんを図ることを目的としています。

これら建設業で加速化するIT/ICT導入を背景に、NECでは、2017年12月にNUA建設ユーザ会共創WGとして「現場生産性向上分科会」を立ち上げ、建設現場の生産性向上に資するサービス案を共創してきました。そのなかでも現場ニーズとシーズがマッチングし、かつ、早期提供可能なサービスとして立ち上げたのが、本稿で紹介する2018年度にリリース予定の建設現場顔認証入退管理サービス(出面管理サービス)です。
3. 建設現場顔認証入退管理サービス
これまで建設現場へのIT/ICT導入を阻害してきた要因として、(1)「単品受注生産」発注者の要望に応じて毎回異なる構造物を建築する、(2)「屋外生産」環境を一定に保ちにくい、(3)「工事プロジェクトの有期性」現場ごとに規模や施工環境が異なるため資産を保有しても他の現場で転用できず短期利用となる、などの建設業の特殊環境が挙げられます。これらの課題に着目し、本稿で紹介している建設現場顔認証入退管理サービスは、機器の設置は行わず、スマートフォンやタブレットなどのスマートデバイスにアプリケーションを入れることで、作業員の入退場を管理することを可能にしました。現場での運用としては、現場状況や入退場する作業員に合わせ、現場事務所にタブレットを共用端末として置いて入退場することも、作業員が持つスマートフォンにアプリケーションを入れて入退場することも可能にしています。
また、サービスの申し込みを現場単位で行うことを実現しているため、現場規模や特徴に応じて導入の決定を行うことができます。このように、現場の状況に応じてすぐに始めることが可能となり、さまざまな専門技術を持った人々が集まり工程により作業員が入れ替わる工事現場でも導入が可能となります。
4. 建設現場顔認証入退管理サービスの特徴
建設現場顔認証入退管理サービスの特徴について、次の3点を紹介します。
(1)顔認証と位置情報でなりすましを防止
入退場時には、作業員は入場する現場を指定したうえで入退場記録を行います。クラウドサービス「NeoFace Cloud GPS連携サービス」を活用することで、顔認証で正確な本人確認ができることはもちろん、顔認証情報とともに位置情報と時刻を合わせて記録します。あらかじめ現場情報には位置情報が設定されていますので、入退場記録を行った位置情報と現場情報により不正な場所で入場されていないかの確認を行うことができ、これらを組み合せ、なりすまし防止としています。
(2)保有資格情報をいつでもどこでも確認
入場した作業員は計画された各作業を行いますが、作業員の数が多い、また、入れ替わりが激しい現場では、その作業に従事する作業員が持つ正確な資格情報を把握するのが困難となります。作業現場で確認するためには、口頭確認、または、その作業員を管理する協力会社に尋ねるなどその場その場で対応し、明確な確認手段がありませんでした。本サービスでは、タブレットで顔情報と資格情報を確認することが可能なため、現場監督が知りたいタイミングで作業員の資格情報を確認することが可能になります。
(3)建設キャリアアップシステムとの連携の実現
本サービスは、第2章でも述べた国の取り組みの1つである「建設キャリアアップシステム」への連携にも対応します。作業員の所属、資格情報を「建設キャリアアップシステム」から取得、また、入退場記録したデータを、就業履歴として「建設キャリアアップシステム」へ連携します。
5. 導入効果
本サービスの導入により、次の3点の効果を実現します(図4)。

(1)入退管理コストの低減
事前に入場予定の作業員情報を登録しておくことで、本人確認は入退場と同時に完了しているため、タブレットやパソコンで入退場リストを参照すれば入退場者が一覧で確認でき、入退管理チェックの手間を軽減することが可能となります。また、記録した入退場記録は作業員別、協力会社別の入退場記録として日別にCSVにて出力可能なため、月報や月末に実施する協力会社への支払いのための各種報告書などにおいても、作成の手間を省略化することが可能となります。更に、これまでカード配布などにより正確な作業員管理を目指してきた現場などでは、現場ごとの配布するカードの管理、忘れてきた場合の対応、紛失などのリスクや再発行のコストなどさまざまな課題がありましたが、これらも生体認証を活用することで削減できます。
(2)正確な入退管理の実現
作業員の入れ替わりが工程ごとに発生する現場では、日々新規入場者や、作業終了に伴った退場者が発生します。このような状況下においても、危険を伴う現場では安全面から作業員の正確な入退管理チェックは必要不可欠です。しかし、実際に現場では日々の確認は非常に手間がかかるため、資格情報を含む本人確認は協力会社に任せてしまうなど、毎日実現できていないという現状もあります。本サービスは、手間をかけずに正確な入退管理を実現しますので、現場監督が自らの責任のもと、現場の安全を確保することができ、また、正確な入退記録による労務費の支払いや社会保険料の抑制に貢献することが可能となります。
(3)作業員の安全管理へ貢献
資格情報を現場ですぐに確認できることにより、危険を伴う現場作業に従事している作業員が、適切な資格を持って配置されているかのチェックを容易にします。また、万が一の災害の際も、現場入場者の状況が把握できることで作業員の安全確保に努めることができます。
6. むすび
建設業界での人手不足の深刻化というもはや待ったなしの状況のなか、これまで難しいとされてきた業界の特殊環境下においても、省力化を推進していくことはすべての現場において必要不可欠です。建設現場でIT/ICTを中心とした技術革新により省力化を図ることができる領域は、多数存在すると考えています。
NECでは、本稿で紹介した建設現場顔認証入退管理サービスをファーストサービスとして、現場の省力化を目的としたサービスを立ち上げて行く予定です。2017年度に発足した「現場生産性向上分科会」は2018年度も継続しており、このようにNECは、最新のICTと経験、現場の声を組み合わせ、それぞれの課題に応じたサービスを提供しています。
今後もNECは、建設業界における課題解決を通じて、労働力不足解決に向けた省力化に取り組んでまいります。
- *i-Constructionは、国土技術政策総合研究所の商標または登録商標です。
- *建設キャリアアップシステムは、一般財団法人建設業振興基金の商標または登録商標です(申請中)。
- *その他記述された社名、製品名などは、該当する各社の商標または登録商標です。
参考文献
- 1)木村 駿:建設テック革命 アナログな建設産業が最新テクノロジーで生まれ変わる,日経BP社,2018.10
執筆者プロフィール
第三製造業ソリューション事業部
バリュークリエーション部
マネージャー
第三製造業ソリューション事業部
第七インテグレーション部
マネージャー
第三製造業ソリューション事業部
第七インテグレーション部
エキスパート
第三製造業ソリューション事業部
バリュークリエーション部
主任