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インタビュー

Real Voice NECの知財活動紹介

NECの生体認証技術を、特許でも世界No.1へ

顔認証、虹彩認証、指紋認証などが米国国立標準技術研究所(NIST)による第三者評価で世界No.1を獲得するなど、その高い技術力を認められているNECの生体認証。この陰には、長期的な視野に立って市場や技術の将来を考え、独自技術の権利を守り、事業を加速させる特許の力が存在しています。いったいどのような活動をしているのか。担当者に詳しい話を聞きました。

プロフィール

写真:吉岡 章夫さん
吉岡 章夫

1999年NEC入社。ソフトウェアのエンジニアとしてキャリアをスタートする。その後、2005年に中央研究所専属の知的財産チームに異動し、技術の権利化に従事する。2012年にマネージャーに就任後、海外事業や公共サービスなどの事業に関わる。2019年に知的財産の渉外部へ異動。ライセンスや紛争解決などの業務に取り組む。2023年に現職となり、生体認証領域の特許取得とポートフォリオ管理に従事している。

グローバルイノベーションビジネスユニット
知的財産部門開発推進統括部
ディレクター
吉岡 章夫

国内No.1の生体認証特許ポートフォリオ

NECの生体認証領域の特許管理者として、どのようなことに取り組まれているのでしょうか?

NECの顔認証をはじめとした生体認証は、NISTによるベンチマークテストで世界No.1の評価を何度も継続して獲得していることが実証するように、非常に力のある技術です。私たち知財部門では、こうした技術群の優位性・独自性を保持するとともに、特許という面からもNECの生体認証はNo.1だとお客様や社会から広く認めていただくことができるように知財創出に取り組んでいます。NECしか扱うことのできない世界No.1の技術を多数保有していると認知いただけることが、今後成長が見込まれる生体認証市場で事業を推進するうえで非常に有利になるからです。

インタビューの様子

オーソドックスな活動としては、顔や虹彩、指紋などの認証方式(モーダル)ごとに特許状況をまとめて可視化し、全社的な技術戦略と照らし合わせながら強化すべき領域を特定し、特許数を増やしたり個々の特許の質の向上を図ったりするなどの取り組みをしています。

幸い、株式会社パテント・リザルトが2022年11月に発表した「生体認証関連技術におけるID連携またはカスタマーエクスペリエンス(CX)に関する技術」の特許調査では、特許の質を示す「権利者スコア」と特許の量を示す「有効特許件数」で他社を大きく上回るスコアを獲得し、No.1の評価を受けることができました。

これは、私たちNECが世界に先駆けて生体認証に長年取り組んできたことの一つの成果であると考えています。1年や2年ではNo.1になれる件数を積み重ねることや、No.1になれるスコアを取ることはできません。実際、私たち知財の担当者は一つの技術分野に長く取り組むことが多いため、担当分野の専門知識や用語に対する知識やノウハウが蓄積されています。10年近く取り組むメンバーもいます。この専門性が、高度なAIやデータサイエンスを駆使した生体認証技術の特許取得に一役買っているのではないでしょうか。

また、NECでは各業界・領域のビジネスユニットに知財担当を配置するだけでなく、技術を切り口として部門横断的に知財を扱う専門家を配置しています。実は私もその一人で、生体認証を担当しているのです。このような横断的な体制によって、「他のビジネスユニットで似たようなことをやっていますよ」であるとか「研究所で同じようなアプロ―チの研究をしていますよ」などというような各ビジネスユニット間や経営層・研究所間とのコミュニケーションのハブ機能を担うことができます。こうしたNECならではの仕組みも、特許の評価につながっているのではないかと考えています。

特許でNEC独自のコア技術を堅守

NECでは生体認証について、どのような知財戦略をとっていますか?
インタビューの様子

現在のNECにおいて、生体認証はいわば「ど真ん中」の技術の一つです。世界No.1の技術を多数保有している本流の技術であり、これから市場が大きく成長することが見込まれる領域でもあります。だからこそ、いまは競合相手を分析しながら、どうすればNECの生体認証技術を社会へスムーズに実装できるかという観点で特許ポートフォリオを構築しています。

というのも、現在のように市場全体が広がっているときは大きな問題はないかもしれませんが、これから先、競合とパイを奪い合うような事態も当然起こり得ます。このような事態にどのような対抗手段を備えておくべきか、またそれが発生し得るのは一体いつなのか……さまざまな要素を想定しながら私たちNECの生体認証がもつ独自性や競争力を保持するための特許網をつくりあげているところです。

つまり、いま最も重視していることは、大事なコア技術が競合に使われないようにしっかりと守るということですね。ここは多少地味かもしれませんが、教科書通りのことをしっかりとした精度をもって確実にやり続けることが何よりも重要です。

もちろん、一方では知財を活用したライセンスアウトやオープンイノベーションという可能性も常に考えています。世界的にも極めて高い競争力を保有している生体認証領域であるので、事業のライフサイクルを鑑みながら、全体感をもって検討を進めていく必要があると考えています。

事業に役立つ特許で世界No.1へ

今後の展開や目標を、教えてください。

冒頭で、株式会社パテント・リザルトのレポートにおいてNECの生体認証特許網がNo.1の評価を得たという話をしましたが、これはあくまでも日本国内の話です。いま私たちは、日本という枠を飛び越えて、世界No.1の評価を得られるような戦略を立てて、さまざまな施策に取り組んでいるところです。実際、数年前から生体認証関連の特許は全件PCT出願を行うようにしてきましたが、それだけでなく世界規模の競合分析の精度を上げたり、特許の質の分析を踏まえたりしながら、事業の推進に役立つ特許ポートフォリオ構築をめざしています。
世界No.1の特許ポートフォリオの実現と事業に役立つような特許をうまく両立させるというのは、私たちの腕の見せどころです。

また、事業への貢献という意味でいうと、知財の担当者は長期的な視点で事業を捉えることができる立場にいるものです。これに対して事業のリーダーは、長期的な視点に加えて、短期的な業績も考えなくてはなりません。こうしたリーダーに対し、知財担当者は長期的視点から「競合にこんな動向があるから、こういうことが起こりそうですよ」と助言することもできると思います。ただ権利化などの知財活動には励むだけでなく、このように事業のリーダーと伴走できるような関係を構築することも私たち知財担当者の重要な役割だと考えています。NECの生体認証事業の推進に向けて、これからも活動を続けていきたいと考えています。

写真:インタビューの様子