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私傷病休職制度の再点検を
これだけは知っておきたい経営者のための法律知識 第3回
レイズ・コンサルティング法律事務所
弁護士(東京弁護士会) 石田 達郎氏
慶應義塾大学経済学部、中央大学法科大学院卒業。
日本労働法学会所属弁護士。
経営者の側から労務問題を取り扱うことを専門分野としており、一般の労使紛争のみならず、労働災害、外国人労務問題についても造詣が深い。
1.Yさんのケース
Yさんは、A社で働くシステムエンジニアでしたが、ある頃から仕事を休みがちになり、その後Yさんの主治医が作成したうつ病との診断書が提出されたことから、YさんはA社就業規則所定の私傷病休職制度を利用することとなりました。
ところが、Yさんは非常に優秀な従業員であったため、A社としては病気が治癒すれば是非とも業務に復帰して欲しいと考え、Yさんに対して、会社へいつ頃復帰できそうかを手紙やメールで問い合わせていましたが、一向に連絡が返ってきません。
うつ病の場合、外出ができなくなったり、連絡が返ってこなくなるのは仕方のない部分があるので、休職期間の満了が近づいているのに返事がないことから、まだYさんはうつ病が治っていないのだろうとA社社長は考え、新たな従業員の採用の準備を開始しました。
ところがある日、Yさんは突如として職場に現れ、A社社長に主治医作成の「就労可能」との診断書を提出してきました。
A社社長としては、突如Yさんが出勤したことに驚いたものの、また前のように働いてくれるならよいかと思い、Yさんに前と同じ部署で働いてもらうことにしましたが、Yさんは1か月ほど、A社の業務に従事した後、また会社に来なくなり、その後連絡がとれなくなりました。
A社の就業規則においては、業務外の傷病による欠勤が引き続き1か月を超えたときに、6か月間の休職期間を設けていましたが、休職期間満了前に「就労可能」との主治医の診断書が出てきており、1か月とはいえどもYさんはA社で実際に働いていたことから、A社社長はYさんの今後の処遇も含め、採用計画を検討しなおさなければならなくなりました。
2.メンタルヘルスに不調をきたす従業員の増加
近年、高度情報化社会における急激な就労環境、就労形態の変化等を背景に、メンタルヘルス不全を訴える労働者が急増しています。
厚生労働省が発表した平成24年度「脳・心臓疾患と精神障害の労災補償状況」によれば、平成24年の精神障害に係る労災請求の件数は1257件であり、支給決定件数は475件と、過去最高を更新しました。
Yさんのようなケースは、経営者の方にとっても、従業員の方にとっても、他人事ではありません。実際に皆様の周囲で、Yさんと同じようなケースを目の当たりにされた方は少なくないのではないでしょうか。
本稿では、A社のYさんのケースを具体例として、休職制度を整備するに際してのチェックポイントとなる事項をお話ししたいと思います。
3.休職制度とは
本稿では休職制度のうち、私傷病休職制度について特に取り上げたいと思います。
この私傷病休職制度は、ある従業員の私傷病(業務に起因する疾病等でないもの)を理由とする長期欠勤が、一定期間・程度に及んだときに行われるもので、使用者がその従業員に対し雇用関係そのものは維持させながら就業を免除もしくは禁止すること等と説明されます。
定められた休職期間満了時までに当該疾病等が治癒しない場合には、就業規則の定めに従い自然退職もしくは解雇となり、雇用関係が終了します。
この制度の趣旨としては、本来、私傷病を理由として就労不可能な状況が継続しているのであれば、雇用関係が終了となるところもやむを得ないところを、長期雇用を前提に多くの時間とコストをかけて教育・訓練してきた従業員を、一時的に就労が不能になったからといってすぐに退職させることは、経営者にとっても痛手であること等があげられます。
また、従業員にとっても、傷病から治癒さえすれば自身の就労先が確保されているということで安心して治療に専念することができますし、健康な従業員についても、私傷病の際に直ちに解雇される恐れのあるような環境下では安心して働くことはできないでしょうから、私傷病休職制度は従業員の福利厚生制度としての一面をも有するものといえます。
なお、同制度は、業務に起因する疾病、たとえば発症の主たる原因が業務における過重な負荷にある場合等には適用がなく、このような場合には労基法19条により、原則として休業期間中及びその後30日間は解雇してはならないと定められています。
メンタルヘルスの不調を理由とする休職の場合、不調の原因が業務にあるのか私生活上の理由であるのか不明確な場合が少なくありませんので、不調の原因が不明である場合には、自分で判断せずに早めに専門家に相談してください。
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