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近年、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するためのメソッドの1つとして「デザイン思考」が注目を集めています。デザイン思考とはその名の通り、製品デザインの分野で長年培われてきた思考法や方法論を、ビジネスやシステム開発など広範な領域に適用しようというものです。後述するように旧来の手法と根本的に異なる新たな発想や切り口が特徴であり、イノベーションを創出するための方法論として、既に多くの企業がDXの取り組みの一環として活用しています。
「デザイン思考(Design Thinking)」という用語の言葉尻だけをとらえると、「製品の表面的なデザインを重視して改善するための取り組み」というイメージを持たれる方も多いかもしれません。しかし、「思考(Thinking)」と銘打っている通り、デザインの分野で長年採用されてきた「思考法」や「方法論」をビジネスやシステム開発に適用することで、新たな成果を生み出すことを狙ったものがデザイン思考です。
このデザイン思考の第一人者が、米国のデザインコンサルタント会社IDEOの会長を務めるティム・ブラウン氏です。同氏の以下の言葉が、デザイン思考の本質を端的に言い表していると言えるでしょう。
「デザイン思考という表現は、デザインを民主的にして誰にでもアクセス可能にするためのものです。そもそもデザイナーが持っている姿勢や方法論であり、人間中心的なデザインに沿うものです」(※1)
ブラウン氏の言葉にある通り、これまで工業製品のデザイナーが当たり前のように実践してきた「人間中心的なアプローチ」を、デザイン以外の分野の専門家が容易に取り入れられるよう、そのコンセプトや方法論を言語化・体系化したものがデザイン思考だと言えます。
裏を返せば、これまでのビジネスやシステム開発の方法論には、人間中心的なアプローチが幾分欠けていたと指摘することも可能でしょう。かつては製品やサービスの作り手側が「これには価値がある」と考えた機能を盛り込み、その魅力を宣伝すれば製品・サービスは売れました。しかし製品・サービスが市場にすっかり行き渡り、コモディティ化が進んだことで、製品・サービスの差異化を図ることは年々難しくなってきています。
そんな中、製品デザインの分野でこれまで当たり前に行われてきたように、ユーザーの声に徹底的に耳を傾け、「ユーザーにとって価値の高いものとは何か?」「本当に求められているのは何か?」「使いやすさとは何か?」といった地点から製品・サービスの在り方を模索していくのがデザイン思考の考え方です。実践にあたってはプロトタイプを作り、関係者がアイデアを視覚化しながらゴールをたぐり寄せる作業が伴います。
このように使い手側起点を重視する姿勢と、価値の本質を追究する実践手法によって、従来の手法では思い付かなかった新たな発想を得て、その結果イノベーションを実現しようというのがデザイン思考の目指すところです。
デザイン思考は、DXをはじめとするデジタル化の取り組みや、そのためのシステム/サービス開発に適用することで大きな力を発揮します。経済産業省が発表した「DXレポート」においても、DX人材に求められる要件の1つとして「ユーザー起点でデザイン思考を活用し、UX(ユーザーエクスペリエンス)を設計し、要求としてまとめあげる人材」が挙げられています。
IPA(情報処理推進機構)が2023年2月に発表した「DX白書 2023」においても、DX実現に必要なシステム開発手法として「アジャイル開発」「DevOps(デブオプス)」「ノーコードツール/ローコードツール」と並んでデザイン思考を挙げています。アジャイル開発とDevOpsは、サービスに細かな改善を加えながら短い間隔でリリースを繰り返していくシステム開発・運用手法として、DXのビジネスモデルと極めて親和性が高く、多くの企業で採用されています。また、こうした機敏性(アジリティー)を確保する開発体制として、「内製化」への移行を検討する企業も増えています。
世の中の価値がハードからソフト、サービスへと移行し、ユーザーの嗜好が速いスピードで移り変わっていく今日においては、変化をいち早く察知して、それに対応したサービスを素早く開発して競合他社に先駆けてリリースすることが求められます。このようなスピード感にマッチした手法として、アジャイル開発やDevOps、内製化とともにデザイン思考が注目を集めているのです。
デザイン思考は、まずユーザーに直接要件をヒアリングしたり、現場で業務が行われている様子をつぶさに観察したりするなどして、ユーザー起点で要件や課題を発掘することが取り組みの第一歩となります。その後、ヒアリングや観察の結果を基にシステムやサービスのプロトタイプを開発・テストし、実際にユーザーに使ってもらってフィードバックを得ます。さらにその内容を基に、設計やプロトタイピングをさらにブラッシュアップし、再びユーザーからのフィードバックを得ます。
デザイン思考の具体的な手法やプロセスを定義したフレームワークは複数存在しますが、どれも基本的な考え方は上記の通りです。例えばスタンフォード大学のd.schoolでは、上記のプロセスを「Empathise(共感)」「Define(問題定義)」「Ideate(創造)」「Prototype(プロトタイプ)」「Test(テスト)」という5段階のステップとして定義しています。
これら一連のサイクルを繰り返す作業によって、ユーザーやマーケットのニーズに即応したサービスを短期間のうちにリリースすることができます。同時に、ユーザー起点の発想を絶えず取り入れてイノベーションの種を発掘することで、旧来のプロダクトアウトの発想から脱却し、イノベーティブなシステムやサービスの実現を目指していく形となります。
また、少数の専門家だけが集まって進めるのではなく、システム/サービス開発に携わるさまざまな立場のメンバーが広く参画して、互いに状況を共有しながら進めていくことも大事です。多様な知見や価値観を持つ人々が闊達な意見交換を行うことで、ユーザーの行動から思わぬニーズや欲求を見いだすことが可能になります。そのためには、職位や立場を超えて自由に議論できるフラットかつオープンなチームビルディングが望まれます。
初めてデザイン思考を取り入れようとする企業にとって、まずは自社の従来のやり方や業界の慣習からいったん離れて、自身がとらわれている認知バイアスを相対化することで自由な発想の準備をするのがよいでしょう。その手助けをしてくれるフレームワークが幾つかあります。よく知られる「SWOT分析」を用いてあらためて自社の強み・弱みやリスクを客観的に分析したり、あるいは「共感マップ」を用いてユーザーの行動をより深く理解したりすることを目指すといいかもしれません。
一方で、こうしたフレームワークや繰り返しプロセスの枠組みに囚われすぎるのも考えものです。デザイン思考はただ単に決められた手順を遂行すればいいというものではなく、現実の効果を見ながら随時適切な地点まで戻って検討し直したり、繰り返したりといったように、状況に応じた柔軟な対応が求められます。基本的な手順をメンバー全員で共有することはとても重要ですが、形式主義や手続き主義に陥ってしまっては本末転倒です。
デザイン思考へのアプローチとして、ITベンダーや教育機関が提供しているデザイン思考のワークショップを体験してみるのも有効です。例えばNECでは、自社におけるデザイン思考の実践を独自のフレームワークにまとめ上げており、その知見を「NECアカデミーfor FCD」と呼ばれる教育プログラムで提供しています。こうした支援を受けてみるのも、デザイン思考のための企業カルチャー醸成の第一歩となるはずです。
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