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知っておきたい勤怠管理の話(後編)
これだけは知っておきたい経営者のための法律知識(勤怠管理篇)第2回
3.従業員の過労死等に対して会社の負う責任
過労死(過労自殺も同様)のケースでは、遺族は労災認定を受け、遺族補償年金を受給することができる一方で、従業員を過労死させたことについて、会社に過失がある場合、会社に対して損害賠償請求をすることもできます。遺族に対する慰謝料や、労災事故がなければ得られたであろう将来の収入等の逸失利益等を併せると、賠償金額が1億円を上回るようなケースも珍しくありません。このような多額の賠償により、正常な事業継続が困難となることは容易に予想されます。
また、企業のコンプライアンスへの意識が高まっている昨今の経済社会の中、従業員を過労死させてしまった企業には、世間から極めて厳しい視線が寄せられます。社会からの信用を大きく毀損した企業が、そのブランド力を回復し、再び社会から信用されるためには並大抵の努力では足りません。
なお、過労死等の業務上疾病を発生させた職場に労基関係法令違反が認められる場合には司法処分も含めて厳正に対処することが厚生労働省より表明されておりますので(平23.2.16 基発0216第3号)、刑事罰の適用事例は今後増加していくことが予想されます。他方で、過労死により、大事な家族を失った遺族の悲しみは計り知れないものがあります。この悲しみは、会社から損害賠償金を受け取ったとしても、癒されることはありません。
以上のように、過労死は、一旦発生すると取り返しがつきません。このような悲しい事態が発生することを未然に防ぐことが、何よりも大切になってきます。
4.悲しい出来事を回避するために
(1)従業員の労働時間を正確に把握すること
過労死、過労自殺といった悲しい出来事が発生することを予防するためには、まずは、自社の従業員がどれだけの時間働いているのかを正確に把握することが極めて重要です。勤怠管理を適切に実施していない場合には、従業員が過労死ラインを上回るような時間外労働に従事している場合であっても、そのような危険な状況に気付くことができません。
前述したX社の事例が自己申告であったことからもわかるとおり、自己申告制は実体と乖離した労働時間の申告を誘発することが多々あります。
また、前回お話した労働時間管理の通達(平成13年4月6日付け基発第339号)上も、例外的な管理手法として位置づけられておりますので、労働時間管理の手法としては、原則どおり、タイムカードやICカード等の客観的記録を用いる方法によることが望ましいと思われます。
(2)時間外労働を削減すること
その上で、長時間の時間外労働が明らかとなった場合には、そのような時間外労働が必要となる原因を究明し、具体的な時間外労働の削減策を講じていく必要があります。業務が非効率であることが原因なのであればそれに対する改善指導が必要となってきますし、特定の従業員に業務が集中していることが原因なのであれば、適切に業務を他の従業員に分配することが必要となってきます。
なお、従業員が裁量労働制の対象者であったり、管理監督者であったとしても、会社がこれらの労働者の健康を確保する義務を負っているとの点は同様です。36協定で定める延長時間の限度基準は、1か月当たり45時間とされていることから、最低限この範囲に時間外労働が収まるように目標を設定し、削減策を講じていくべきでしょう。
(3)年次有給休暇の取得を推進すること他
その他にも、過重労働による健康障害防止のための対策として、年次有給休暇の取得を推進するための環境整備や、定期健康診断及びその結果を受けた事後措置の適切な実施、産業医による保健指導・助言指導の実施等、様々な方面から、労働者の健康管理を徹底することが考えられます(「過重労働による健康障害防止のための総合対策」(H18.3.17基発第0317008号、H20.3.7基発第0307006号、H23.2.16基発0216第3号等参照))。
5.おわりに
勤怠管理の重要性を示す事例として、前回のA社従業員Bさんの事例と、今回のX社従業員Yさんの事例を2つ紹介させていただきました。いずれも、勤怠管理を適切に実施していなかったことが原因で、労務管理上の問題を早期に発見することができず、傷口が拡大し、問題が非常に大きくなってしまったケースです。
A社の事例も、X社の事例も、決して特別なケースではありません。勤怠管理を適切に実施していない企業であれば、どこの企業でも起きる可能性のある問題です。
大事に育ててきた会社や従業員を失うという取り返しのつかない事態になる前に、全ての企業で適切な勤怠管理が実施される日の来ることを切に願います。
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