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インタビュー
時代と事業変化に合わせた積極的な知財活用
AIを中心とした技術がめまぐるしく進歩を続ける現在、知財活用のあり方は大きな変化を遂げています。特許権を中心とした事業防衛や単純なライセンス活動だけでは、市場の変化に追いつくことが難しい状況です。とりわけAIや通信技術など、幅広い範囲で活用される知財を多数保有し、事業創出型のビジネスを推進するNECにとって、それは大きな問題です。新しい時代に合わせた知財の新しい活用法を模索し、知財活用のための新たな仕組みづくりを続ける担当者に詳しい話を聞きました。
プロフィール
1999年にNECへ入社以来、知財業務に従事。2002年からはアメリカの法律事務所に1年間赴任し、業務研修を経験する。その後、2013年からはエネルギー事業部門を兼務しつつ、マネージャに就任。2018年からは知財部門の企画・戦略グループのエキスパートとシニアエキスパートを歴任しながら、CTO直属の技術戦略グループでシニアエキスパートを兼務。2023年4月から現職。弁理士。
グローバルイノベーションビジネスユニット
知的財産部門 訴訟&カウンセル統括部
ディレクター
西村 永子
埋もれた知財をもれなく掘り起こし、有効に活用
NECの訴訟&カウンセル統括部では、どのような活動をされているのでしょうか?
NECの事業に合わせて、知財の新たな活用方法を開発しています。「開発(develop)」という言葉を使っているのは、実際に社内で機能させることが重要だからです。社内インフラの整備も含めて構築し、知財をしっかり活用できる新たな仕組みづくりに取り組んでいます。こうした活動の背景には、社会の変化やNEC自身の事業形態の変化があります。モノ売りのビジネスが主体の時代では、その製品まわりの特許権をいかにおさえるかという点が重要でしたが、現在ではサービスやソリューションを提供するビジネスが増え、知財のあり方にも変化が生まれています。
NECでは、この変化に対応して大きく2つの軸を打ち立てています。1つ目の軸は、知財ポートフォリオのカバレッジを拡大することです。そもそも、事業を新しく立ち上げようとする際には、その事業にどのような知財が存在し得るかを明らかにしなくてはなりません。特許権や商標はもちろん、著作権などの知的財産権に加え、これまで可視化されていなかった研究者や技術者のノウハウやUIのデザインなどもしっかり知財として資産化することが事業の収益性を高めるうえで重要になります。
例えば、NECはAIにおいて世界トップレベルの技術を多数保有していますが、それらにはうまく機械学習を機能させるためのデータセットの作り方のようなノウハウが存在します。こうした潜在的なノウハウまで事業を構成するアセットとしてきちんと掘り起こし、知財としてポートフォリオに組み込むことが競争力確保のために必要だと考え、取り組んでいます。
2つ目の軸は、事業を推進するための知財活用です。近年ではビジネスモデルの多様化が進み、自社で何かをつくって売るだけでなく、他社とコラボレートしながらお互いの特許を活用するという手法も多く採られるようになりました。こうした時代には、事業防衛に注力するだけではなく、積極的に知財を活用して事業に活かす戦略が必要です。従来からあるライセンス手法にとらわれず、事業の創出や拡大のために最適な知財活用方法を実現することが理想ですが、このためには自社の知財の価値を合理的な根拠とともに算出することが鍵となります。NECと組むメリットを明確に提示できるだけでなく、収益性の向上や技術のブランディングにもつながるからです。お客様の課題を解決するというゴールに向けて知財を「どう使いこなすか」という視点に立ち、常に事業に資する活用方法を考える必要があります。
知財を起点として事業創出にも最上流から貢献
ノウハウを発掘する際には、具体的にどのようなことをしているのでしょうか?
現場の開発者や事業部門の担当者にインタビューして、NECならではの強みを徹底的に追求していきます。現場の人だからこそ見えていないノウハウというのも、往々にしてあるものです。現場の活動のなかで慣れてしまって、当然のことだと思ってしまっているわけですね。「お客様に喜んでいただけている点は何でしょうか」「なぜ他社ではできないのでしょうか」というように質問をしながら、「実はそこがポイントじゃないですか!」というノウハウを掘り出していきます。私たちのチームは事業領域を横断して取り組んでいますので、「あちらの事業領域ではこういったノウハウがありましたよ」というような示唆ができるという特長も持ち合わせています。
知財だけでなく、幅広い事業や最新技術の動向などにも詳しくなる必要がありそうです。
そうですね。自社の事業についてはもちろん、他社のビジネスも含めてさまざまなことに興味を持って勉強する必要があります。加えて、知財部門の業務としても、特許権の権利化から契約やトレードシークレットの保護に至るまで、幅広いスキルをカバーする必要があります。学ばなければならないことがたくさんあるので大変ではありますが、とても楽しい仕事です。
おかげさまで最近では、事業部門との関わり方も変わってきました。以前は契約時に困ったときに相談を受けたり、特許の取得時に依頼を受けたりするのみでしたが、近年では事業を立ち上げる初期の段階から相談を受けるようになっています。事業に使用する知財の適切な価値を算出したり、知財ポートフォリオを意識した売り方を考えたりするなど、最上流から連携するようになっています。
定性的な知財評価から定量的な知財評価へ
今後の目標を教えてください。
これまでお話ししてきた活動は、まだまだ定性的なものだと思います。今後の課題は、ノウハウだけでなく特許も含む広い知的財産全般のはなしとしてですが、これらの活動をいかに定量化していくかです。例えば、何か新しい技術情報があったときに、それがどれだけNECの事業に役立っているかを評価し、数値化することができれば事業の収益性等に大きく貢献できるはずです。また、知財のカバレッジを定量的に表現できるような仕組みもあると事業創出時に大いに役立つはずです。このようなインフラも現在準備を進めているところです。
また、私のチームではNECが良い技術やソリューションを社会に提供していく際に、知財という視点を起点にイチから事業創出に貢献することを目指しています。いわばビジネスコンサルテーションのようなかたちですね。事業部門や研究者・開発者と一緒になって新しい事業を創出していけるような存在となれるよう、これからも活動を続けていきたいと考えています。