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インタビュー

Real Voice NECの知財活動紹介

戦略的なライセンス活動で企業価値の向上を実現

企業が保有する特許を他社が対価と引き換えに使用することを可能にする「ライセンス」は、IoT化の進展とともに異業種間の技術が交差する昨今、さらに重要性を増しています。IoTの要となる技術に関する数多くの特許を保有するNECでも、これまで数多くのライセンス契約が取り交わされてきました。NECでライセンス業務を直接担当する知財部門の「渉外」の現場では、一体どのようなねらいのもとで、どのような活動が行われているのか。担当者に詳しい話を聞きました。

プロフィール

写真:蔵杉 俊康さん
蔵杉 俊康

1996年にNECへ研究者として入社。ネットワークシステムの性能評価やコンテンツデリバリーネットワークの研究開発などに携わる。その後、幅広い最新技術への興味から弁理士の資格を取得し、2007年に知財部門へ異動。2010年にはNEC Europe Ltd.へ出向し、セルラー通信の標準必須特許創出活動の支援に従事する。2013年にNECへ戻り、マネージャーとして知財部門の渉外活動に携わる。2021年に現職となり、ライセンス活動や契約業務に従事している。

グローバルイノベーションビジネスユニット
知的財産部門渉外統括部
ディレクター
蔵杉 俊康

国内トップクラスとなる1000超の標準必須特許を保有

NECの知的財産部門の渉外担当は、どのような活動をされているのでしょうか?

大きく分けて三つの活動をしています。一つ目は、特許等、ノウハウや著作権(ソフトウェア)含む知財のライセンス活動です。NECが保有する特許等を他社が使用する際(ライセンスアウト)の交渉や、逆にNECが他社の特許等を使用する際(ライセンスイン)の交渉ですね。ライセンスアウトについては、個社との直接の交渉だけでなく、特許プールと呼ばれる、複数の企業等の特許をまとめて、複数者の企業等で使用できるようにする仕組みを活用することも多いです。

二つ目は、契約業務です。ライセンス契約の他 、事業を進める上で必要となる契約において、知財条項の検討を行っています。具体的には事業部門や研究開発部門における購買契約における知財補償条項の検討や共同出願/共同開発契約における知財の取り扱い条項の検討などが多いでしょうか。また、三つ目として、特許等知財の購入や売却の交渉を行う場合もあります。

色々な活動があるようですが、今回はライセンス業務、特にライセンスアウト業務に絞って紹介して貰えますか。

ライセンスアウト業務の中で特に多いのが、標準必須特許に関するライセンスアウト業務です。標準必須特許とは、標準化団体によって定められた世界共通の規格を実施するために必要不可欠な特許のことを指します。例えばモバイル通信を実装するためには、数千、数万におよぶ標準必須特許が必要であると言われています。私たちNECでも、4G/5Gなどのセルラー通信技術や音声/映像のコーデックに関する標準必須特許を多数保有しています。数でいうと、1000ファミリー※1は超えるでしょう。これは国内でもトップクラスの規模だと思います。

インタビューの様子

また、NECは、多大な投資を積み重ねて得られた知的財産を重要な経営資源と位置付けており、昨今は特許の他、ノウハウ、ソフトウェア等も含めた知財ミックス的なライセンスアウトの活動も行っており、自分のグループでも、モバイル通信技術に関してのノウハウ、ソフトウェア等のライセンスアウトの活動も行っています。

ライセンスアウト業務の中で特に多いのが、標準必須特許に関するものとのことですが、それは多くの標準必須特許をNECが保有するからだと思います。なぜ、NECはそれほど多くの標準必須特許を保有できているのでしょうか?

セルラー通信の領域においては、NECは基地局などのインフラ事業を長年続けてきました。放送映像の領域についても長く事業を続けています。これらの領域の最前線で事業を進めるためには、ワールドワイドな規格に準拠した技術を研究開発することが不可欠であり、そのためには標準化活動も必要であり、研究開発と標準化活動を連携して進める過程で、自ずと標準必須特許の数は積み上げられたのだと思います。これらの事業領域で収益を上げていくポジションを維持するためには、標準規格をフォローするだけでは十分ではなく、標準化活動をリードしていくことも必要です。NECでは、これまでR&Dに関わる技術者が標準化活動に参加してきましたし、その技術者本人が知財部門の権利化担当者と連携して特許の創出、獲得を行ってきました。これにより、世界の標準に適合した標準必須特許を多数保有できているのだと思います。標準化活動を行う技術者と知財部門とが密に連携することで、数だけでなく「質」も担保できていると思っています。実際、第三者によるレポートでも標準規格との適合度が高いという評価をいただいています。

  • ※1
    特許は出願後、他国に同様の出願ができるため一群を指してファミリーとして計上することが多い。

知財収益を次のR&Dや知財への投資へ

質の高い標準必須特許を多数保有することは、企業活動においてどのような価値があるのでしょうか?

まずは、先述のとおり当該領域での事業では標準規格に適合した技術を使うことが不可欠ですから、自社で多数の質の良い標準必須特許を保有することは市場において大きな価値があります。対外的な技術力の証明になるとも言うことができるでしょう。

インタビューの様子

一方で、標準規格の普及と健全な競争による技術革新を推進するために、標準必須特許の権利者には、非差別的・合理的な条件で保有する標準必須特許をライセンスし、広く使わせることが求められます。
NECでもこの理念に則って標準必須特許のライセンスを取り扱っています。NECはこれらの標準規格に準拠する製品の事業も行っているため、標準必須特許の権利者と言う立場に加えて、標準必須特許の実施者としての立場もあります。そのため、他社のライセンスを使用する立場になることもあるわけですから、ライセンスインであってもライセンスアウトであっても、同等のポリシーで公正に扱うことは事業会社として徹底しているところです。

ただ、特許はR&Dや権利化などにおいて多大な投資を積み上げて獲得するものです。その投資に見合うだけのリターンは、企業としてきちんと回収していく必要があります。つまり、知財からも計画的かつコンスタントに収益を上げて、きちんと次のR&Dや知財への投資に回せるような体質を目指す必要があるということです。そのためにも、まずは標準規格に適合する質の高い特許を多数取得し、それらを合理的な条件でライセンスアウトすることで収益を上げていくということは、より重要になってくると考えています。

継続的な知財収益獲得に向けて

すると、今後の目標は、収益化を図るということでしょうか?

そうですね。技術者と権利化担当者とが獲得した価値の高い特許をライセンスアウトすることでコンスタントに収益化していくことは、引き続き目指していきたいところです。個社との直接のライセンス交渉も行っており、実際に収益を計上できています。

また、個社との直接交渉だけではなく、特許プールへ参画することもライセンスアウトの手段として考えています。これまでも動画圧縮コーデック「HEVC」の特許プールではコンスタントに収益をあげてきましたし、コネクテッドカーの時代を見越してAvanci社が設立したセルラー通信の権利者と自動車会社を結ぶAvanci Vehicleというプログラムにも参加して、ライセンスアウトすることで収益をあげてきました。特許プールは、多くの権利者をライセンサーとして集められた場合は、条件交渉や契約手続きをワンストップ化できることから、多くの実施者をライセンシーとして集めることができるため、効率的なスキームとなりますが、ライセンサーを集められない場合はワークしません。特許プールを活用するべきか、直接交渉で自力でライセンスアウトを行うべきかを見極めながらライセンスアウト活動を行っています。

ライセンスアウトの活動を通じて継続的に知財収益獲得し、それを次のR&Dや知財への投資に回すというサイクルを実現できるよう全力を尽くしたいと思います。

写真:インタビューの様子