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顔認証を世界に通用する「サイエンス」にする。
BluStellar Innovators 100 Interview02
2023年春 紫綬褒章 受章
顔認証のトップランナーとしてNECの生体認証・デジタルトランスフォーメーションを牽引する今岡仁。
BluStellar Innovators 100の一員としても活躍する「顔認証の顔」が、世界と戦える顔認証技術を確立するまでの経緯や開発者としての想い、今後の顔認証技術の可能性などについて語ります。
今岡 仁 Hitoshi Imaoka
NEC フェロー
顔認証技術に関する研究開発に従事し、NECの顔認証技術を応用した製品「NeoFace」の事業化に貢献。2009年より顔認証技術に関する米国国立標準技術研究所主催のベンチマークテストに参加し、世界No.1評価を獲得(2009年、2010年、2013年、2017年、2019年、2021年、2022年)。2019年、史上最年少でNECフェローに就任。生体認証にとどまらず、AI・デジタルヘルスケアを含むデジタルビジネスに関する技術を統括。
Interview Theme
脳でやっていることとコンピュータでやっていることを同じ理屈で考える。
20年近く前の話になりますが、顔認証の研究に携わる前の私は、筑波の研究所で「脳の視覚情報処理」について研究をしていました。今で言うと、ニューロンネットワークのような分野です。脳を学んできてすごく良かったと思うのは、「人間の脳がどうやってモノを見ているか?」という視点から、コンピュータのモノの見方を考えられるようになったことです。例えば、「今、人間の脳でいうと第一次視覚野が動いてるな」とか、「ここはこういうメカニズムで連動しているんだ」といった具合に、脳の仕組みと照らし合わせながら顔認証のメカニズムを解明していくことができたんです。それが顔認証における画像解析の最初の取り組みですね。脳でやっていることとコンピュータでやっていることを、同じ理屈で考える。その発想が私の研究のバックボーンになっていると思います。
実はディープラーニングとか深層学習とか、最近よく言われていますが、その分野で最初に進んだのは、顔認証のベースとも言える「コンピュータビジョン=画像認識」なんです。そういう意味では、顔認証はAIのど真ん中なんですよね。


顔認証は曖昧なもの。
それをサイエンスにするから面白い。
30歳を越えてから新たな研究分野に挑戦するということのはとても大変でしたし、苦しいこともありました。ですが研究を進めていくうちに、顔認証って意外と面白いと思ったんです。はじめは目の位置を撮ろうとすると眉の位置に飛んでしまったりだとか、失敗も多かったのですが、なぜか認証できるときもあれば、できないときもある。
「認識できるできないの差ってなんだろう?」というのを細かく分析していくとちゃんと理屈があるんですね。顔認証って、表情の変化や経年変化など、色々な変化に対応する必要性があるんです。それが研究当初は難しすぎたので、「この場合はこうだ!」とか「眼鏡をかけてるとこうなる!」という具合に、1つ1つアドホックに解こうとしてたんです。でも、このような組み合わせは無限にありますよね?そこで、学習というトータルな仕組みを使うことで、ちゃんと理論立てて解ける方法を確立しようと考え、それが少しずつわかるようになってきたんです。顔認識というすごく曖昧だったものがサイエンスになるとわかった瞬間からすごく面白いなと思いました。それがわかってからはむしろ、「自分がサイエンスにしてやるんだ」という気持ちで取り組むようになりました。

市場に認めてもらうには、世界で勝つしかない。
そのために、挑戦し続ける毎日が続く。
正直に言うと、NECの顔認証のレベルは研究開始当初はそこまで高くなかったんです。最初のエラー率は30%くらいでした。つまり、7割しか当たらないので、さっきは当たってたのに次の瞬間には当たらなくなる、ということの連続でした。国内のコンペで負けたり、上司に叱責されたり、悔しい思いも沢山しました。
だからこそ、なんとしてでも、世界で圧倒的に勝てるものを作って、市場に認めてもらうしかないと思いました。そこで、NECとしてNIST(米国国立標準技術研究所)が実施する顔認証技術のベンチマークテストにエントリーすることを決めました。私自身、「出るからには勝ってやろう」と思ったんです。世界相手に勝てるかどうかはわからない。だけど、自分にとってここが人生における1番のチャンスだと感じました。もう脇目も振らず、必死に研究開発に打ち込みました。昼間は研究をしてソフトウェアを書き、夜は論文を読んで、翌朝は思いついたアイデアを試す。前日の結果を見ながら調整をして、夜はまた論文を読んで…。そんな毎日を約2年繰り返しました。
大変でしたが、挫折せずにすんだのは良い仲間に恵まれたことが大きかったです。部下とは、「今日はお前のアイデアのほうがすごかったな!」とか、「今回は俺のアイデアの勝ちだな!」とか、どれだけ性能を上げられるかをゲーム感覚で楽しみながら切磋琢磨したこともありました。アイデアの優劣に部下や上司の序列など関係なく、性能が良かったほうがシンプルに勝ちですよね。世界に勝つために、「より良いもの」だけを求めてなりふり構わずチャレンジし続けました。開発に行き詰ってあまりにも辛くなったときは、ふらりと江の島の海を見に行ったこともありました。道中では「何か打つ手はないか」とひたすら考えていましたね。今となってはいい思い出です(笑)。


あらゆる変動にジェネラルに強くする。
実際に使われる際に困らないことが大前提。
NECとしては指紋認証の研究に1970年頃から取り組んでいますので、約半世紀の歴史があり、さまざまな生体認証のノウハウが開発部門に蓄積されています。
例えば、経年変化などを重要視する必要があることはかなり早い段階からわかっていましたし、解析の精度を上げるために他社とは違うアルゴリズムを使うなどの独自の取り組みも進めてきました。
最近の顔認証では正面顔で認証ができるのは当たり前になってきましたが、私たちとしては、角度、メガネ、マスク、経年変化などのありとあらゆる変動にジェネラルに強くしようというのが最重要ミッションです。「実際に使われるときに困らないようにしよう」というのがNECが目指す顔認証のあるべき姿です。NISTのベンチマークテストでは10年間で7回トップを獲得していますが(2022年4月現在)、それはあくまで性能を照らし合わせるためのファクトであって、NISTに勝つためだけにやっているわけではないんですよね。社会に貢献するという志を誰が言うわけでもなく、みんなが持っている。それこそが、NECの強みであり文化だと思っています。

「顔の祭典」で世界中の顔を認識。
多種多様なアスリートに対応できたことが、大きな自信に。
2021年夏には、東京オリンピック・パラリンピックが開催されました。この世界的一大イベントは、スポーツの祭典であると同時に、私たちNECにとっては「顔の祭典」でもあったわけです。スポーツ選手というのは、競技によって身長の高低差もありますし、地域によって肌の色や瞳の色が違う人たちが沢山いますので、人間の中でも非常にバリエーションが多いカテゴリーなんです。大会期間を通して、多くの選手たちにNECの顔認証システムをご利用いただき、すべての国の選手たちの顔をしっかりと認証することができました。そういう意味では、「これだけ多種多様なスポーツ選手の顔認証がクリアできたのでもう大丈夫だな」というある種の安心感はありますね。


生体認証は「入口」のようなもの。
そこにいろんな情報をつなぎ合わせることで、人間に寄り添えるAIをつくりたい。
顔認証の1番のメリットは、「顔は持たなくて済む・忘れることがない」という点だと考えています。それからあともう1つ大事なのが、災害時の本人確認にも役立つということ。自然災害など有事の際、本人が何も持ってない状態でも確実に認証できるという意味では、生体認証はとても有意義なテクノロジーではないかと思っています。
生体認証というのは、本人が誰であるかが分かるパスワードみたいなもので、いわば「入口」なんですよね。ロボットで例えると「こんにちは、どなたですか?」というのが最初に来て、「誰かわかること」によって、「誰とどういう会話をするか」という次のステップを考えられるようになる。そこに、環境やその人のデータなどのいろんな情報をつなぎ合わせていくと、より人間の行動に寄り添ったシステムやAIをつくれるんじゃないかと思っています。
コロナ禍の現在において、世界中の空港の感染予防対策として自分たちが手掛けてきた顔認証技術が役に立っているということは本当にうれしいことです。NECの顔認証システムが入った国は2022年4月現在で45か国あるのですが、いつかそのすべての国を妻と一緒にめぐることが私のひそかな夢でもあります。

Links:NEC 生体認証
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Bio-IDiom
日常のさまざまな場面(タッチポイント) を生体認証のIDでつなげるNECのコンセプト

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