NEC、ベクトル型スーパーコンピュータ「SX-ACE」が独キール大学、海洋学研究機関、計算センターで研究利用開始
2015年11月30日
日本電気株式会社
NECは、ベクトルスーパーコンピュータ「SX-ACE」を、ドイツのキール大学、アルフレッドウェゲナー極地海洋研究所、シュツットガルトハイパフォーマンス計算センターに納入し、「SX-ACE」を活用した本格的な研究が開始されました。
「SX-ACE」は、超高速な並列処理を要する科学技術計算や大規模なデータ解析を伴う高度なシミュレーションに最適で、キール大学では気候変化や海洋現象のシミュレーションに利用します。また、ドイツ研究センターヘルムホルツ協会の一つである、アルフレッドウェゲナー極地海洋研究所では、特に地球の極域を中心とした海洋物理・化学や気候変化に関するシミュレーションに利用します。研究機関や民間企業に幅広く計算リソースを提供し、高性能計算に関する欧州有数の拠点でもあるシュツットガルトハイパフォーマンス計算センターでは、自動車、素材、化学分野などの研究開発、産業応用に活用します。
NECは社会ソリューション事業に注力しており、超高速な並列処理が可能なスーパーコンピュータを、官公庁や研究機関、民間企業に提供することで、社会や企業活動を支えるICT基盤の高度化や、地球環境を踏まえた資源の有効活用に貢献します。
SX-ACE (最大8ラック構成の筐体)
SX-ACEの特長
「SX-ACE」は、マルチコア型ベクトルCPUを搭載し、CPUコア当たりで世界トップクラスの演算性能(64ギガフロップス)およびメモリ帯域(64ギガバイト/秒)を実現したベクトル型スーパーコンピュータです。単一ラック当たりの性能は前機種に比べ10倍(注1)のラック演算性能16テラフロップス(以下、TFLOPS)(注2)、メモリ帯域16テラバイト/秒で、科学技術計算や大規模データの高速処理を得意とし、気象予報、地球環境変動解析、流体解析、ナノテクノロジーや新規素材開発などのシミュレーションにおいて高いアプリケーション性能を実現しています。
また、NEC独自の最先端LSIテクノロジ、高密度設計、高効率冷却技術などにより、従来機種と比較し、消費電力を10分の1、設置面積を5分の1に低減(注1)しています。
キール大学(Christian-Albrechts-Universitat zu Kiel)
キール大学は、同じくキールに設立されているドイツの主要な海洋研究所であるGEOMARと緊密な協力関係を有しており、高性能計算環境も提供しています。GEOMARでは、海洋循環・気候ダイナミクス,海洋生物地球科学,海洋生態学,海洋底ダイナミクスなど、海洋科学全般にわたる学際的な研究を推進しています。
今回導入した「SX-ACE」256ノード(最大理論性能65.5TFLOPS)は、地球温暖化に伴う海洋気候の変化などのモデル計算に利用されます。
GEOMARの研究者であるAndreas Lehmann氏は、次のように述べています。「SX-ACE導入により、複雑な物理、生物地球化学を伴う地球システムの高解像度モデリングが、アプリケーションの最適化などのチューニングを行わずに実行可能となり、実行時間の短縮、高い実効性能が得られています。」
また、キール大学の計算センター長Holger Marten氏は次のように述べています。「「SX-ACE」は、商用ソフトウェアGaussian(注3)による複雑な量子化学シミュレーションや、数千年の長期間にわたる古気候シミュレーションが、アプリケーションの修正なく実行可能で、理論物理や天体物理などの分野の新規利用者の獲得にもつながっています。「SX-ACE」による演算処理当たりのエネルギー消費は、前機種「SX-9」の20分の1以下に削減されました。どこの計算センターでも全体の運営コスト低減が課題である中、これは本質的な前進です」
キール大学による高解像度全球海洋シミュレーション
(海洋表面における流速を表現。ORCA3重極格子を使用)
アルフレッドウェゲナー極地海洋研究所(AWI)
ドイツ研究センターヘルムホルツ協会の一つであるアルフレッドウェゲナー極地海洋研究所は、地球の極域を主な対象として、海洋物理、海洋化学・生態、さらに気候変化などの研究を行う機関です。
今回導入した「SX-ACE」32ノード(最大理論性能8.2TFLOPS)は、カップリング地球システムモデルによる古気候、海氷の生成・消滅、また、地球規模あるいは地域レベルでの気候変化との相互作用の数値モデリング等で活用されます。
AWIのDirk Barbi氏は、「複数世代にわたるベクトル計算機に対して、多くのモデルが最適化され、古気候などの科学研究分野では、ベクトルプロセッサは超並列システムよりも適合しています。そこで当研究所では、前機種「SX-8R」の更新にあたって、MPPクラスタ(注4)に加えて「SX-ACE」の導入を決定しました。32ノード構成の「SX-ACE」は、14ノードの「SX-8R」と比較して、コア当たりおよびシステム全体で2倍の演算能力を有する一方で、20%以下の消費電力で稼働します。また500テラバイトの分散・並列ファイルシステムScaTeFSワークファイルシステム(注5)により、有効なディスクスペースは5倍以上に拡大されました。研究者は、アプリケーションコード移植の手間をほとんど必要とせずに、研究業務の継続が可能でした。」 とコメントしています。
異なる二酸化炭素濃度に対して計算したグリーンランド氷床の厚さ
(アルフレッドウェゲナー極地海洋研究所)
シュツットガルトハイパフォーマンス計算センター(HLRS)
シュツットガルトハイパフォーマンス計算センターは、大学・研究機関に加えて、多様な分野の民間企業向けに計算リソースを提供するとともに、産学連携プロジェクトを通して、高性能計算機の工学への活用を推進する欧州の主要機関です。
今回導入した「SX-ACE」64ノード(最大理論性能16.4TFLOPS)は、自動車設計向けの流体シミュレーション、新規素材開発に必要な計算物理モデリング、さらに創薬やバイオインフォマティクスの基礎をなす計算化学など、先進的な産業応用での活用が期待されます。
HLRSのUwe Kuster氏は、「性能向上と消費エネルギー低減を目指す将来パラダイムも鑑みるに、HLRSではシミュレーションとデータ解析のためのベクトル計算機の利用継続が、重要であると認識しています。技術計算で大切なのは、システムレベルでの高い実効メモリバンド幅です。今回導入した「SX-ACE」は、様々な領域の複雑なアプリケーションの改良に役立つもので、将来のより効率的な計算機にも期待しています。」とコメントしています。
またNECは、今後もベクトル技術を活かし、従来のスーパーコンピュータ領域に加え、産業応用領域や大規模データ解析をターゲットとした次世代高性能サーバの開発を検討し、最先端開発に貢献していきます。
NECグループは、「2015中期経営計画」のもと、安全・安心・効率・公平という社会価値を提供する「社会ソリューション事業」をグローバルに推進しています。当社は、先進のICT技術や知見を融合し、人々がより明るく豊かに生きる、効率的で洗練された社会を実現していきます。
以上
参考
- ベクトル型スーパーコンピュータ:
ベクトルプロセッサという科学技術計算向きの高速プロセッサを搭載し、一つのベクトル命令で配列要素を一括処理することにより大規模・複雑な計算を高速処理できるスーパーコンピュータ。気象、航空宇宙、環境、流体解析、物性計算などに適している。 - スカラ型スーパーコンピュータ:
汎用的なプロセッサを多数並列接続することで高速処理を実現する方式のスーパーコンピュータ。遺伝子解析など多数の業務の同時処理や粒子計算など並列化が容易な計算に適している。
SX-ACEに関する情報
本件に関するお客様からのお問い合わせ先
NEC ITプラットフォーム事業部
TEL:03-3798-7229
E-mail: info@hpc.jp.nec.com
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