Japan
サイト内の現在位置を表示しています。
NECの「クライアントゼロ」戦略による共感創出型DXの実践
Vol.77 No.1 BluStellar特集 BluStellarが牽引するDXの未来 ~AI・セキュリティ・データマネジメント・モダナイゼーションで拓く価値創造モデル~NECは2021年より「クライアントゼロ」戦略を推進し、自社を“ゼロ番目の顧客”として位置付けることで、真の顧客価値創出を実現しています。社内DX(デジタルトランスフォーメーション)で直面した5つの壁(経営層の本気度への疑念、部門間の利害対立、現場からの机上の空論批判、グローバルパートナーとの文化的違い、変革疲れ)とその突破方法により、成功だけでなく失敗や挫折といった「生々しい経験」を共有し、お客様との共感を創出しています。これにより従来のSIモデルから伴走型課題解決へとアプローチを転換し、2024年発表のBluStellarの基盤となっています。
1. はじめに
NECは「クライアントゼロ」戦略を推進しています。これは、NEC自身を“ゼロ番目の顧客”と位置付け、社内DX(デジタルトランスフォーメーション)を単なるITシステム導入によるデジタル化にとどめず、“コーポレート・トランスフォーメーション(CX)”として徹底的に実践し、そこで得られた知見をお客様や社会に還元する戦略です(図1)。

拡大する従来のビジネスモデルであるSIモデルでは、お客様の要求仕様に基づいてシステムを構築・納入することが中心でした。しかし、真のDXを実現するためには、技術やサービスの提供だけでなく、実践を通じて得られる「うまくいかなかったこと」も含めた「活きた」知見が不可欠です。クライアントゼロ戦略では、NEC自身が最先端の技術やサービスを徹底的に検証し、実践を経なければ分からない課題や解決策を洗い出すことを重視しています。
1.1 戦略の核心思想
クライアントゼロ戦略の核心は、「自分たちがゼロ番目の顧客(クライアント)として、最先端の技術やサービスでDXを実践し、それによって得られた「活きた」知見をお客様や社会に還元していく」という思想にあります。
この戦略により、NECは次の価値を創出します。
- 実践に基づく具体的な課題解決ノウハウの蓄積
- 変革プロセスにおける現実的な課題と対応策の理解
- 継続的な改善サイクルの確立
- お客様との共感を生む実体験に基づく提案力の向上
2. CXで直面した壁と突破の軌跡
2.1 第一の壁:経営層の本気度への疑念
2021年4月のトランスフォーメーションオフィス設立時、最初に直面したのは社内からの「また新しいお題目か」という冷ややかな反応でした。過去にもさまざまな改革の取り組みがありましたが、結局は既存のやり方に戻ってしまうという経験を多くの従業員が持っていたためです。
突破のアプローチ:CEO直下の組織としてトランスフォーメーションオフィスを設立し、記者会見を通じて退路を断つ決意と「本気でやり切る」姿勢を社内外に表明しました。
2.2 第二の壁:利害関係の対立
全社横断的な変革を進めるなかで、各部門が既存の権限や情報を手放すことに強い抵抗を示しました。特に、データの統合や標準化において、「現場の事情を理解していない」「部門固有の業務に支障をきたす」といった反発がありました。
突破のアプローチ:NECのDXアジェンダとして設定した「9 Drivers(9つの変革ドライバー)」の考え方を徹底し、個別最適やDXビジョンだけではなく、カルチャーやエコシステムなどを含めた全体最適の必要性を明確化しました(図2)。また、NEC本社(東京都港区)の24階を「社内DX特区」と位置付け、社内外を問わず最先端のテクノロジーやソリューションを試行する場を提供しました。この特区を通じて、変革の具体的な効果を体感できる環境を整備し、各部門の理解と協力を促進しました。

拡大する2.3 第三の壁:トップダウン型の変革に対する抵抗
トップダウンで進める変革に対し、現場からは「実業務を知らない」「現場の負担が増える」という批判が寄せられました。特に、従来のやり方に慣れ親しんだ従業員からの抵抗は、変革の実行段階で大きな障壁となりました。
突破のアプローチ:Quick Win(迅速な成果)の可視化を徹底的に行いました。具体例として、経営コックピットを導入し、社長が毎日確認する情報を従業員にも共有することで、透明性の高いマネジメントを実現しました。こうした取り組みにより、小さな成功体験を積み重ね、現場に「やってみたら実際に効果があった」という実体験を提供することで、批判から協力へと意識転換を促しました。
3. 実践知の蓄積と共感創出のメカニズム
3.1 「生々しい経験」から学ぶ価値創造
クライアントゼロ戦略の真価は、成功事例だけでなく失敗を認め、生々しい経験を包み隠さず共有することにあります。NECが社内DXで直面した課題と解決プロセスを「活きた」知見として蓄積し、お客様との対話における共感の源泉としました。
例えば、デジタルID導入時には「マスク着用時の精度向上」「利用可能な場所の拡大」といった具体的な課題に直面しました。こうした実体験から得られた知見は、同様の悩みを持つお客様に対する説得力のある解決策提案につながっています。
3.2 お客様との共感を生む対話の実現
お客様の経営課題の解決に向けた提案活動のなかで、「NECではどうしているのか?」と尋ねられる場面が多くなりました。自社の変革経験を共有することで、お客様からの共感をいただくことが多くなり、NEC自身の改革の経験が、お客様にとって価値のあるものであることを改めて認識しました。これにより、従来の技術中心の提案から、共感に基づく課題解決型の提案へとアプローチが変化しました。
4. 顧客価値への転換と社会実装への道筋
4.1 実践知の体系化と外部展開
NECは、自らの変革が不可欠であったからこそDXを推進してきました。しかし、その取り組みを社内にとどめるのではなく、直面した具体的な課題とその解決プロセスを体系化し、お客様や社会のDXに還元することを目指しています。
重要なのは、「技術やサービスでDXを実践し、実践を経ずには分からない課題や解決策を徹底的に洗い出す」ことです。単なる技術提供にとどまらず、変革プロセス全体にわたる伴走支援が可能になったのは、NEC自身が同じ苦労を経験したからに他なりません。
4.2 BluStellarにおけるクライアントゼロの価値
クライアントゼロ戦略の実践知は、2024年5月に発表されたNECの価値創造モデル「BluStellar」の重要な基盤の1つとなっています。BluStellarが提供する「ビジネスモデル」「テクノロジー」「人材・組織」の3つの価値は、クライアントゼロによる社内実践とお客様との共創事例を型化したモデルとして構成されています。
特に重要なのは、BluStellarが単なる技術提供ではなく、変革プロセス全体にわたる「価値創造の循環」を実現している点です。
- (1)自社実践:NEC自身がゼロ番目の顧客として最先端技術を徹底検証
- (2)知見蓄積:成功・失敗を含む生々しい経験の体系化
- (3)共感創出:お客様との対話において実体験に基づく提案を実施
- (4)価値提供:BluStellarによる、従来のSIを超えた変革パートナーとしてのポジション確立
- (5)継続改善:お客様との協創により新たな知見を獲得し、自社実践にフィードバック
この循環により、BluStellarは単なるサービスブランドにとどまらず、クライアントゼロの実践知に裏打ちされた真の価値創造モデルとして機能しています。
5. クライアントゼロが生み出す継続的変革力
5.1 社内DXの3つの柱と横串機能による全社変革
クライアントゼロ戦略により、NECは次の3つの柱で継続的な変革を実現しています。
- (1)働き方のDX:デジタル活用で人の可能性を引き出し、全従業員の働きやすい環境とモダンワークを実現します。ここにはNEC開発の生成AI「cotomi」やOpenAI、Microsoft Copilotなどの活用による業務効率化・意思決定支援・ナレッジ活用が含まれ、AI活用の社内実践の場となっています(図3)。

拡大する
- (2)基幹業務のDX:データドリブン経営を実現し、ファクトに向き合いビジネスの根幹をなすプロセス変革を推進します。経営・ファイナンスプロセス刷新プロジェクト(KFP)による経営コックピットの実現など、データマネジメントの実践が含まれます(図4)。

拡大する
- (3)運用のDX:デジタルネイティブ統合運用モデルを実現し、人手に依存していたIT運用をデジタルの力で統合します。セキュリティ強化とモダナイゼーション推進の実践の場となっています(図5)。

拡大するAIを活用したインテリジェント運用プラットフォームやクラウド化の取り組みについては、本特集「最新技術によるモダナイゼーション推進とIT運用の次世代モデル」で運用自動化と効率化の具体的な実践を紹介します。
これらの3つの柱を次の3つの横串機能で支えています。
- 1)統合エクスペリエンス:従業員の業務効率化や体験向上のため、共通ツールや自動化、統合ポータルなどを全社で展開し、働きやすい環境を実現
- 2)DATAプラットフォーム:「One Data/One Place/One Fact」を軸に、全社データを一元化。リアルタイム分析や経営判断の迅速化、データ活用の高度化を支援
- 3)ITインフラ&セキュリティ:ハイブリッドIT基盤とゼロトラストセキュリティを導入し、安定した業務運用と高い安全性を両立
クライアントゼロ戦略は、これらの領域すべてにおける社内実践の統合的な推進エンジンとして機能し、各論文で詳述される専門領域の取り組みの基盤と方向性を提供しています。
5.2 BluStellarを支える社会価値創造への道筋
クライアントゼロ戦略は、BluStellarが目指す社会価値創造の基盤となっています。自社での徹底的な実践により得られた知見を、BluStellarを通じてお客様や社会の変革に活用することで、真のデジタル変革を実現し、持続可能な社会の実現に貢献していきます。
BluStellarが「夜空で最も明るく輝く星のように、人々と社会が進むべき目印となる」という理念を実現するためには、クライアントゼロによる実践知が必要です。重要なのは、この戦略が「やれることを考える」マインドセットに基づいていることです。AIのリスクを理由に活用を避けるのではなく、リスクを管理しながら価値創出を追求する姿勢こそが、BluStellarを支えるクライアントゼロ戦略の本質です。
クライアントゼロ戦略は、個別の技術領域を超えた全社変革の統合的なフレームワークとして、BluStellarの価値創造を支えています。
6. むすび
クライアントゼロ戦略は、自社実践から始まり、知見蓄積、共感創出、価値提供、継続改善という循環により、真の顧客価値を創出する継続的変革力を生み出しています。この戦略が「やれることを考える」マインドセットに基づき、BluStellarを支える実践知として、個別の技術領域を超えた全社変革の統合的なフレームワークとなっています。
NECは、クライアントゼロ戦略をベースに挑戦と学びを循環させることで、BluStellarを通じ顧客価値と社会価値を創出し続け、未来の変革をリードしていきます。
商標
- *Microsoft Copilotは、米国 Microsoft Corporation の米国およびその他の国における登録商標または商標です。
- *ServiceNowは、ServiceNow, Inc.の米国およびその他の国における商標または登録商標です。
- *Google Cloudは、Google LLC の商標または登録商標です。
- *その他記述された社名、製品名などは、該当する各社の商標または登録商標です。
執筆者プロフィール
執行役Corporate EVP 兼 CIO
コーポレートITシステム部門
上席プロフェッショナル
