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最新技術によるモダナイゼーション推進とIT運用の次世代モデル

Vol.77 No.1 BluStellar特集 BluStellarが牽引するDXの未来 ~AI・セキュリティ・データマネジメント・モダナイゼーションで拓く価値創造モデル~

本稿は、Google Cloudをはじめとする最新技術を活用した社内システムのモダナイゼーションと、それに伴うIT運用改革の実態について報告します。運用基盤の統一化や業務プロセスの自動化、全社員向けITダッシュボードによる可視化施策により、業務効率向上と課題の早期発見を実現しました。更に、生成AIやAgentic AIの導入が運用自律化とNoOps(No Operations)モデルへの展望を切り拓いています。今後は、これらの取り組みを持続的に発展させるための人材育成やガバナンス強化が重要な課題となります。

1. はじめに

近年、デジタル化の急速な進展により、企業の情報システムには従来の効率化やコスト削減を超えて、変化に迅速に対応する柔軟性や俊敏性、更にはビジネス変革を支える高度な戦略性が求められています。従来のオンプレミス中心のレガシーシステムは、複雑化や老朽化、ブラックボックス化により、企業活動の足かせとなるシーンが増えています。グローバルではデジタルトランスフォーメーション(DX)が企業成長の鍵と位置付けられ、その中核としてモダナイゼーション(既存システムの刷新)とIT運用の抜本的見直しが不可欠となっています。

本稿では、Google Cloudを基盤とした社内システムのクラウド化をはじめ、運用DX施策や運用基盤の統一(デジタルネイティブ運用モデル)、更に運用状況の可視化やAI技術の導入による自律化(No Operations、以下、NoOps)まで、最新IT運用モデルへの変革の実践例と今後の展望について述べます。

2. モダナイゼーション推進の意義と最新技術の概要

現代のビジネス環境では、レガシーシステムから脱却し、俊敏性(アジリティ)とセキュリティを強化することが不可欠です。Google Cloud、AWS、Azureなどのクラウド基盤の導入により、システムのスケーラビリティと信頼性を向上することが可能になりました。モダナイゼーションは、業務プロセスの柔軟化とセキュリティ強化を目的とし、NECでは社内DX基盤の整備により、経営の敏捷性と持続可能性を高め、変化の激しい市場環境での競争力の維持・強化を目指しています。

2.1 クラウド基盤移行の最新事例とその効果

社内システムのモダナイゼーションにおいて、Google CloudやAWS、Azureなど、複数のクラウドサービスを併用するマルチクラウドを採用しました。加えて、6R戦略(Retire/Repurchase/Re-Architect/Replatform/Rehost/Retain)により、既存システムの仕分けと最適化を行いました。これにより、社内システムの柔軟性と持続性が向上し、運用コストの削減と業務効率の向上を実現しました。

2.2 NECにおける具体的なモダナイゼーション事例

  • (1)
    基幹システムのクラウド移行 : 基幹システムをRISE with SAPを採用しAWS上で稼働するSAPのクラウドERP「SAP S/4HANA Cloud」に移行することで、運用コストを大幅に削減し、システムの可用性を向上しました。
  • (2)
    仮想基盤への迅速移行 : オンプレミスで稼働していた490台の仮想マシン(Virtual Machine:VM)をわずか70日でVMware on AWS(VMC)に完全移行し、移行コストを90%、インフラコストを20%削減しました。
  • (3)
    AI/SaaS活用の促進 : Google Cloudを積極採用しAI活用の促進、また、さまざまなSaaSアプリケーションを社内で活用することでビジネスの迅速な意思決定が可能となり、競争力強化を実現しています。

2.3 モダナイゼーション推進のための体制とガバナンス

本取り組みを持続的に推進するためには、推進体制とガバナンスの強化が不可欠です。特に技術選定、移行計画、プロジェクトマネジメントが重要な要素となります。NECでは、SaaSや共通サービスの活用を基本方針とし、全体最適なアーキテクチャを構築しています。また、運用プロセス標準の適用と統合監視ツールの導入により、運用管理の効率化とガバナンスの強化を図っています。

3. 運用DX施策と運用基盤の統一化(デジタルネイティブ運用モデル)

クラウド移行を通じて高度なIT運用モデルを実現するためには、技術的な刷新だけではなく、業務プロセスや組織体制の変革も不可欠です。「デジタルネイティブ運用モデル」とは、従来各部署が個別に設計・運用していた業務システムを1つの共通基盤に統一し、運用コストや手間の削減、ガバナンスの強化を狙うものです(図1)。

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図1 デジタルネイティブ運用モデル全体像

3.1 運用プロセスの標準化及び自動化

NECでは、運用プロセスの標準化を推進するため、ServiceNowを活用し、全社共通の運用プロセス標準を構築しました。これにより、部門ごとに異なっていた運用手順や承認フローを統一し、全社的なガバナンス強化と作業品質の向上を実現しています。更に、自動化共通基盤と連携することで、ServiceNow上で変更管理の承認を得た作業を自動化共通基盤で自動実行できる仕組みを導入しました。この取り組みにより、手作業による運用ミスの削減や業務効率の大幅な向上が期待できます。

3.2 運用データの横断的な可視化と業務システム間の連携強化

運用プロセス標準に基づき、運用データを横断的に収集し、一元的に可視化・分析する仕組みを構築しています(図2)。これにより、各業務システムの運用状況をリアルタイムに把握し、ダッシュボード上で全体傾向やボトルネックを可視化できるようになりました。こうした横断的なデータ活用により、業務プロセスの効率化や運用上の課題改善が加速し、部門を越えた業務システム間のシナジー強化を実現しています。

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図2 運用プロセスとダッシュボード連携

3.3 運用の効率化及び組織的なメリット

運用プロセスの自動化・標準化ツール導入により、運用担当者はルーチン業務から解放され、問題解決や新サービスの提案など、より付加価値の高い業務に集中できるようになりました。更に、属人的となりがちだった運用ノウハウもナレッジベース化が進み、全社一元的な運用力の向上が実現しています。

4. 運用状況の可視化と組織変革へのインパクト

運用基盤の統一と並行して、IT運用状況のリアルタイムな可視化にも注力しました。その最たる施策が「ITダッシュボード」の全社員への公開です(図3)。これにより11万人規模の社員が自社システムの稼働状況、インシデント情報、リソース利用状況などをいつでも参照できる環境を整備しました。本施策により、可視化を起点とした組織横断の改善活動が加速し、次の効果を確認しています。

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図3 ITダッシュボード

4.1 透明性向上と現場主導の課題発見

IT部門内に閉じていた情報を全社に可視化することで、現場のスタッフも自分たちが使うシステムの状態と課題を即時に把握できるようになりました。ユーザーから直接具体的な改善提案が挙がるようになり、組織全体で運用課題に向き合う土壌ができました。

4.2 組織文化の変革とエンゲージメント向上

数値や状況が可視化されたことで、現場とIT部門が一体となって問題解決に取り組む文化が醸成されました。これによりIT運用は単なる「裏方作業」ではなく、「全社員が参加する重要な企業活動」であるという認識が広がりました。

4.3 懸念とその対処策

一方で、情報過多による混乱や、情報漏えい・セキュリティリスクも懸念されました。これに対しては、アクセス権限の細分化やダッシュボードの匿名化、利用ログ監視の強化によって、ガバナンス面の課題を克服しました。加えて、段階的な情報開示とITリテラシー教育を組み合わせ、社員全体の情報活用能力の向上も図っています。

5. 生成AI・Agentic AIによるIT運用自動化と将来のNoOpsモデル

2023年以降、生成AIやAgentic AIによる業務自動化の波は、IT運用現場にも大きな影響を与えました。AI技術が運用自動化の中核となり、人とAIの新たな協働スタイルが生まれつつあります。

5.1 生成AI活用の現状

生成AIは、IT運用現場において日常的に活用されるようになっています。具体的には、障害発生時のレポートやナレッジ記事の自動生成、FAQや運用手順書の作成・更新、更にチャットボットによる各種問い合わせの自動対応など、さまざまな業務で導入が進んでいます。企業内の膨大な障害履歴からAIが要点を抽出・要約することで、従来は人手に頼っていた知見の共有やナレッジの蓄積が劇的に効率化されています。

5.2 Agentic AIによる自動対応の進展

Agentic AIは、システムログや監視データから異常を検出し、一次対応や修復まで自動で実施しています。リソース拡張やサーバ再起動、障害時の通知などもAI主導で行われており、監視から障害対応までの一連業務が大幅に効率化されています。加えて、Agentic AIにより運用状況の予測や異常発生時のトラブルチケット自動起票・進捗管理など、運用管理全体の最適化が進んでいます(図4)。

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図4 Agentic AIを活用したデジタルネイティブ運用モデル

5.3 NoOpsモデルの実現と今後の課題

NoOpsモデルとは、人的介在を最小限に抑え、AIなどによる自律的な運用体制を実現することです。この実現にはAIによる高信頼な自己判断や対処、意思決定プロセスの説明責任などが重要課題となっています。現時点ではAIの判断根拠の説明性や、イレギュラーな障害への柔軟な対応、アラート過多への対策など未解決の課題が多く残っています。そのため、IT運用部門ではAIと運用の双方に精通した人材の育成や機械学習モデルの改善、運用ガバナンス体制の強化が求められています。NoOpsを実現するためには、段階的な自動化の推進と現場の業務オペレーションとの調和、そして説明責任を伴うAI活用方針の確立が不可欠です。

6. まとめと今後の展望

本稿では、Google Cloudを基盤としたモダナイゼーションの実践例、統一基盤によるIT運用の変革、DX施策の推進、更にAI技術やNoOpsモデルの展望について紹介しました。これらの取り組みにより、運用担当者の役割は、単なるシステム保守管理から、テクノロジーを通じた業務変革や顧客価値創出へと大きく変化しています。特に、AIによる自律化の進展により、今後のIT運用は更なる効率化と品質向上、高付加価値化が進むと考えられます。

一方で、AIによる運用自動化が進むにつれて、新たな人材育成や運用ガバナンス、説明責任・透明性の担保、全社員のリテラシー向上といった課題も顕在化しています。現場部門・IT部門・経営層・AIが一体となった「全員参加型」の運用文化への変革とともに、持続的な技術革新と自律運用能力を両立するための人材育成や基盤整備を今後も進める必要があります。

今後のIT運用には、急速な技術進化へのキャッチアップと、経営変化への柔軟な対応力が求められます。本稿がモダナイゼーション推進や次世代IT運用モデルの実践を目指す多くの企業にとって指針となれば幸いです。

商標

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    Google Cloudは、Google LLCの商標または登録商標です。
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執筆者プロフィール

高津 正明
基盤運用統括部
シニア主幹
辻川 洋介
基盤運用統括部
ディレクター

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