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データ利活用型都市経営を実現する情報プラットフォーム:FIWARE

シティマネジメント技術

2016年、官民データ活用推進基本法が施行され、国・自治体・民間企業が保有するデータを都市の課題解決に活用することが期待されるようになりました。しかし、これらのデータを活用しようとしても、データを流通させるための仕組みがないことが課題となっています。そこで、NECは、欧州で公共サービスを提供する自治体や企業などの業種を越えたデータ利活用やサービス連携を促すために開発・実装されたプラットフォーム:FIWAREについて、その開発に2011年から参加し、更に、都市経営やビジネスに利用できるよう、その品質を独自に検証し、セキュリティなどを強化のうえ、基盤サービスとして提供を開始しました。

1. はじめに

NECは、ビジョンとして、「安全」「安心」「効率」「公平」な社会を実現するために、スマートシティ事業を推進しており、社会価値の創造を目指しています。更に、スマートシティを実現するためには、多様なデータを組織や業界を越えて利活用することが重要であり、そのために、情報プラットフォームを活用することが大切になります。

NECは、情報プラットフォームとして、欧州で開発されたオープンプラットフォーム:FIWARE(ファイウェア)に準拠したデータ利活用基盤を構築し、自治体やエリア開発者などに向けたサービスを提供しています(図1)。

図1 FIWARE準拠の情報プラットフォーム

2. データ利活用プラットフォーム:FIWARE

2.1 FIWAREとは

FIWAREは、社会・公共分野におけるデータ利活用の実現を目的としたEUと民間企業による官民連携による取り組みの代表的な事例であり、その目的を実現するIoTプラットフォームの開発プロジェクトとその成果物です1)。NECは、欧州の大手企業が多く参画するなか、唯一の日系企業として、2011年からFIWAREの開発に参画してきました。

FIWAREは、次世代インターネット技術を支えるアプリケーション開発・普及を支えるソフトウェアモジュールの集合体であり、既存のオープンソースで実装されたモジュールを組み合わせることで、更には、新たにモジュールを開発することで、用途に合わせたプラットフォームを実現できます(図2)。

図2 基盤ソフトウェアとしてのFIWARE

モジュールの仕様は、Generic Enabler(GE)としてFIWAREによって規定されており、リファレンスとして実装されたモジュール:GEriも提供されています。GEのインタフェースは、モバイル事業者やベンダーによって構成される標準化団体:OMA(Open Mobile Alliance)によって標準化されたインタフェースであるNGSIで規定されており、NGSIに14ある規格のうち、データの所在を問い合わせるインタフェース:NGSI-9、データそのものを問い合わせるインタフェース:NGSI-10が採用されています(図3)。

図3 NGSI-9、10

従来のスマートシティ向けサービスは、個別の分野でシステムが構築され、街の効率化に限界があったのに対して、FIWAREは、オープンソースで構成されオープンなインタフェースで規定されるため、既存のサービスの構築だけでなく、分野や組織を横断したデータ利活用によって新たなサービスや価値の創出を加速されることが期待されます2)3)図4)。

図4 FIWAREが分野横断のイノベーションを加速

2.2 FIWAREの特長

FIWAREの特長として、次の4つがあるとNECは考えています。

(1)データモデルの標準化

FIWAREで扱われるデータは、個別の識別子や属性、関連する付加情報を含めたコンテキストとして、標準化された表現形式:データモデルで管理されます。この結果、FIWAREに含まれるあらゆるモジュールが蓄積されたデータを利活用できます(図5)。

図5 データモデルの標準化

(2)高度なデータ検索

FIWAREは、標準化されたデータモデルと標準化されたインタフェース:NGSIを利用しています(図6)。FIWAREを特徴づけるGEとして、Context BrokerとIoT Discoveryがあります。Context BrokerはNGSI-10に準拠したインタフェースを持ち、アプリケーションからのリクエストに従って、センサーからデータを取得します。このとき、どのセンサーから取得するべきかを決めるGEがIoT Discoveryになり、こちらはNGSI-9のインタフェースを持ちます。このように、FIWAREの統一されたデータモデルとNGSIを組み合せることで、高度なデータ検索を実現しています。

図6 Context BrokerとIoT Discovery

(3)分散データ管理

FIWAREは、IoTプラットフォームとして開発されましたが、アプリケーションやセンサーとのインタフェースがNGSIで規定されているため、同じインタフェースであれば、別のプラットフォームとの接続も可能です。この結果、分散されたデータの管理も可能となります。

(4)既存システムとの接続性

FIWAREは、データモデルを統一しつつも、従来のデータも扱えるように、データの表現形式を変換するGEも提供しています。今後も、対応するデータの形式を増やす計画があります。

2.3 FIWAREの普及とFIWARE Foundation

FIWAREのコミュニティには、既に、100以上の都市、1,000以上のスタートアップが参加しています。更に、FIWAREを普及させるために2016年に民間主導で設立された非営利団体:FIWARE Foundation e.V.(以下、FF)には、2018年時点で、180機関がメンバーとして参加しており、NECも、プラチナメンバーとしてFFに参画しています4)

FFの取り組みの一つとして、FIWARE開発者やそのアプリケーション開発者が利用できるクラウド環境を提供するFIWARE Labがあります。NECとNEC Technologies Indiaは、FIWAREを起点としたグローバルな共創活動を実現するため、インドにFIWARE Lab nodeの環境を構築し、2018年4月から提供しています5)

FIWAREの最新動向については、FFが運営するWebサイト“FIWARE” 6)の他に、毎年、春と秋に開催される“FIWARE GLOBAL Summit”7)(以下、FIWAREサミット)で知ることができます。2018年5月にポルトガルで開催されたFIWAREサミットでは、世界36カ国、135都市から500人以上の参加者、50件以上の講演がありました。日本からもFFメンバーであるNECの他、高松市などの地域・自治体からの講演もあり、発表件数は、欧州、インドに次ぐ規模となりました。テーマに関し、今回、FIWAREの農業、スマートシティ、インダストリ、更には、エネルギーへの応用について議論がなされ、特に、インダストリに関して、製造業を含めた多様な分野でのデータ流通を実現する基盤:Industrial Data Spaceを構想として打ち出しており、FIWAREサミットでも、実装やアーキテクチャ、今後の方向性などについて活発な議論がなされました。

3. Society 5.0実現に向けたFIWAREの活用

3.1 官民データ活用の動き

2016年、官民データ活用推進基本法が施行され、国・自治体・民間企業が保有するデータを都市の課題解決に活用することが期待されるようになりました。同法は、Society 5.0の実現に向けてデータ利活用を促進するために施行された法律になります8)。Society 5.0は、サイバー空間とフィジカル空間を融合させることで、経済的発展と社会課題の解決の両立を目指す、人間を中心とした社会(超スマート社会)のことです。Society 5.0では、このような社会を構成する11分野のシステムをサービスプラットフォームで連携させることを目指しています(図7)。この政策は、例えば、総務省 平成29年度予算 データ利活用型スマートシティ推進事業などの施策へと展開され、2017年が官民データ活用元年となりました。

図7 「超スマート社会」を構成する11分野

NECは、このサービスプラットフォームの実装として、FIWAREに準拠したプラットフォームを自民党に提言し(図8)、自民党のICT政策である「デジタル・ニッポン2016, 2017」にも掲載されました10)。更に、データ利活用型スマートシティ推進事業に採択された高松市、加古川市へのFIWARE導入を支援しました。

図8 FIWAREに準拠したプラットフォーム

3.2 FIWAREを活用したデータ利活用基盤サービス

NECは、FIWAREを、都市経営やビジネスに利用できるよう、その品質を独自に検証し、セキュリティなどを強化のうえ、基盤サービスとして提供しています11)

3.3 特長と機能

NECのデータ利活用基盤サービスの特長は、次の2点になります。

  • 分野・領域や地域を横断したデータの蓄積と連携による新サービスの構築
  • データ利活用に不可欠な強固なセキュリティとワンストップサポートの提供

この特長を生かして、都市のデータを本サービスに統合して収集・蓄積し、データを相互共有することで、分野を横断した新しいサービスの創出を実現します。これにより、収集したデータを一覧化するデータ公開サイトや都市の見える化に必要な地理情報など、スマートシティの実現に必要な各種機能を標準サービスとして提供します()。

表 機能一覧

3.4 適用事例

3.4.1 香川県高松市

高松市では、行政だけでなく市民や企業がオープンにデータ利活用できる共通プラットフォームを国内で初めてFIWAREで構築しました。更に、高松市、NEC、STNetは、産学民官の多様な主体が自由にデータを利活用できる共通プラットフォームの実証環境の構築を検討しており12)、高松市などが発起人として設立したスマートシティたかまつ推進協議会を構成する企業・団体が本実証環境を活用して多様な分野で新たなサービスを実証することが期待されています(図9)。

図9 高松市での実証環境のイメージ

3.4.2 兵庫県加古川市

加古川市では、地域の生活の利便性や快適性を向上させるとともに、官民協働による安全・安心なまちづくりの実現、経済の活性化や新規事業の創出、行政の透明性・信頼性の向上を目的として、複数分野のデータを蓄積し、オープンデータとして公開する基盤を、FIWAREを基にして2017年度に導入整備しました(図10)。

図10 加古川市のオープンデータ基盤

3.4.3 神奈川県川崎市

川崎市では、環境をテーマとした地域・産業振興も視野に入れ、地域の低炭素化を図る実証実験を、環境省の「平成28、29年度二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金(低炭素型廃棄物処理支援事業)」を活用して実施しました。その実証実験のなかで、病院から排出される廃棄物の量をセンサーで計測し、そのデータを基にして収集車のドライバーに対して最適なルートを提示するシステムを、FIWAREを活用して構築しました13)図11)。

図11 川崎市での実証実験

4. まとめと今後の動向

官民データ活用推進基本法の成立により、国内における官民協働によるデータ利活用の取り組みは2017年度のデータ利活用元年より、今後、更に本格化していくことが予想されます。データの利活用を促進するためには、産学官民のさまざまな主体が参加し、データ経済圏を実現するオープンなプラットフォームの存在が重要です。その実現には協調領域としてのオープンAPI、データ形式の標準化だけでなく、さまざまなデータがプラットフォームを通じて流通するにあたり、流通データの品質保証、データ所有者と使用者間でのセキュアなデータ交換方式、匿名加工情報または個人情報の取り扱いなど、ガイドライン化を進めるとともに技術面でもクリアすべき課題を解決していく必要があります。

欧州では2018年5月25日より、一般データ保護規則(General Data Protection Regulation:GDPR)が施行されました。個人データを扱う事業者は、個人が自身のデータをコントロールする権利を保障する必要があります。このような流れはデータの活用が深く進むほど顕在化する大きな課題ですが、避けては通れません。データの利活用は官から民、そしてグローバル視点の相互運用も見据えながら取り組んでいくことが重要となります。


* OMAは、Open Mobile Alliance Ltd.の登録商標です。
* その他記述された社名、製品名などは、該当する各社の商標または登録商標です。

参考文献

執筆者プロフィール

竹内 崇
未来都市づくり推進本部
主任
寺澤 和幸
未来都市づくり推進本部
シニアマネージャー

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