Japan
サイト内の現在位置
トピックス
2025年10月16日
標準化・ルールメイキングの最前線で活躍する中村祐一主席技術主幹を紹介します
~ 量子技術に関する国際標準化委員会ISO/IEC JTC3 国内審議会委員長
グローバルイノベーションBU研究開発部門 中村祐一主席技術主幹 ~
量子技術がめざましく進展する現代。技術開発だけでなく、「ルール」や「標準化」の推進が、未来の産業や社会を大きく左右する重要な要素として注目されています。グローバル競争の舞台で日本の技術力と信頼性を世界へ示すため、国際標準化への取り組みも着実に進められています。
今回は、ISO/IEC JTC3の国内審議会委員長として活躍する、中村祐一主席技術主幹に量子技術に関する標準化の現状や今後の展望について話を伺いました。
■本記事の概要
- 量子技術は内閣府「新たな国際標準戦略」において国の戦略領域の1つに指定
- 量子技術の国際標準化を議論する委員会ISO/IEC JTC3が2024年1月に発足
- 初代国内審議会の委員長にNEC研究開発部門の中村祐一が就任
- 政府の標準化戦略とも歩調を合わせた国際標準化活動を推進
- 2025年5月には日本会合招致に成功し、国際標準化検討体制の整備に貢献
プロフィール

1988年NEC入社、以来半導体設計ツール、組込みシステム、HPC、海底光ケーブルなどのハードウエア、ソフトウエアの研究開発に従事。2013年よりグリーンプラットフォーム研究所長、システムプラットフォーム研究所長、中央研究所理事などを歴任。
現在研究開発部門主席技術主幹。内閣府量子イノベーション戦略委員など量子技術系の政府関連の委員を多数務める。
研究開発部門
主席技術主幹
中村 祐一
標準化活動の経験が少なくても技術の専門性と熱意があれば活躍できる
これまでの“標準化活動”に関する経験をお聞かせ下さい。
量子技術分野では、国際標準化の議論が始まったばかりのため 、世界的に見ても標準化の専門家はほとんど存在しません。私自身もこれまで標準化活動に関与した経験はほとんどありませんでしたが、量子技術の知見や組織運営の経験を評価されて、政府や国の研究機関をはじめ関係各位の協力が得られ、国際標準化の議論を進めることができました。
標準化はサービスや製品の選定に際しユーザーに透明性の高い情報提供を可能とする
ISO/IEC JTC 3における量子技術の国際標準化ではどのようなことが行われているのでしょうか?
そもそもISO/IEC JTCとは、国際標準化機構(ISO)と国際電気標準会議(IEC)が共同で運営を行う国際標準化合同委員会(Joint Technical Committee)のことであり、JTC3は三番目に設置された合同委員会です。標準化の範囲は、主に量子コンピューティング、量子シミュレーション、量子源、量子計測、量子検出器等です。発足から1年余りの新しい委員会で、英国規格協会 (BSI) が事務局を務めています。2025年には私が委員長を務める国内審議会が、国際会議を東京にて開催することに成功しました。東京会合では、とても重要な以下の5つのワーキンググループ(WG)を新たに設置し、合意形成等に貢献しました。
“量子センサ”に関するWG
“量子コンピューティング ベンチマーキング”に関する WG
“量子コンピューティング サプライチェーン”に関するWG
“量子乱数生成”に関するWG
“量子実用技術”に関するWG
上記でもお分かりの通り、量子技術分野は、その対象範囲がとても広いため、必要に迫られるところから標準化を進めていくことになります。“量子コンピューティング ベンチマーキング”に関するWGは日本提案にて設置されたものです。このWGは、量子コンピュータの性能測定方法の標準化を行い、その結果、例えば、量子コンピュータのカタログを見た時に、カタログに書いてある数値がどの方法で測定したかわからないこと、特定のサプライヤーにとって都合のよい数字が独り歩きすること、カタログスペックが実際の性能と乖離することなどを防ぐことを実現させます。日本は性能測定技術で優位性があり、標準化を主導し取り組みを加速します。
政府の標準化戦略とも歩調を合わせた活動を推進
国内審議会委員長としてどのような活動を行っているのでしょうか?量子技術は今年6月に内閣府により制定された「新たな国際標準戦略」において国の戦略領域の1つに指定されましたが、指定されることによる影響はありましたでしょうか?
国内審議会委員長は、日本産業界の意見をとりまとめ、標準化活動の方向性に関する議論を国際会議で牽引することが主な役割です。そのため 、政府関係者をはじめ、様々なステークホルダーと定期的に打合せを行っており、逐次、標準化活動の方向性に対するフィードバックを得ています。また国内審議会委員長という立場上、Head of Delegation(HoD:国代表)として他国のHoDを含む多くの国の方々と直接対話する機会があり、日本の一企業では参加できないような国際的な会合にも参加しています。ちなみに、米国のHoDは、NIST(米国国立標準技術研究所)の方が担当しており、様々な標準化やルールメイキングに関する知見が示され大いに刺激を受けています。
「新たな国際標準戦略」における戦略領域への指定は、活動費の支援を受けやすくなったこと以外にも、政府が後押ししているという安心感もあり、スタートアップ企業等からのコンタクトや活動への合流が増えるといった形での変化も感じられるようになりました。今後の官民あげての国際標準化活動にご期待ください。
まとめ
量子技術の国際標準化は、ワーキンググループの設置が合意され、ようやく議論がはじまったところです。議論の進展によっては、関連技術をお持ちの国内のみなさまのご協力が必要となる場面がでてくると想定されます。その際はご協力の程、よろしくお願いします。私たち量子技術の国内エキスパートは日本の国益最大化と量子技術普及のあるべき姿の明確化に向けて国際標準化の観点で貢献を継続していきます。今後ともよろしくお願いします。
- ※所属・役職名等は取材当時のものです。