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なぜ世界初を実現できた?小型カメラ1台でウォークスルー型「顔×虹彩認証」世界初の舞台裏

2026年7月6日

バイオメトリクス研究所は、世界No.1(※1)の認証精度を誇るNECの顔認証と虹彩認証を組み合わせ、小型カメラ1台によるウォークスルー型の顔・虹彩マルチモーダル認証を世界で初めて(※2)実現。その開発背景と社会実装に向けた思いを、3人の研究メンバーに聞きました。

歩きながら顔と左右の虹彩、3つの「鍵」で本人認証

──みなさんのご経歴と現在のお仕事を教えてください。

佐々木 2021年にNECに入社し、バイオメトリクス研究所で、虹彩を中心とした生体認証技術の研究開発に従事しています。入社3年目からは、顔・虹彩のマルチモーダル生体認証技術を1台のカメラで実現するシステムの設計に参画し、現在はこれをさらに小型化したウォークスルー顔・虹彩マルチモーダル技術(以下:WT型顔・虹彩MM認証)のソフトウェア全般とシステム全体の設計を担当しています。

舟山 NECに入社した当初は、カラー画像の自動高画質化や映像鮮明化などの研究開発に携わっていました。その後、バイオメトリクス研究所に異動してからは、顔認証に適した光環境対応の研究に従事し、2023年より虹彩認証チームに参画しています。今回のWT型顔・虹彩MM認証では、主にシステム全体の評価を担当しています。

赤司 私は2015年にNECに入社し、暗所などで撮影した低品質画像の鮮明化技術の研究に取り組みました。バイオメトリクス研空所が立ち上がってからは、顔や虹彩のセンシング技術の研究開発に携わりました。この時に、WT型顔・虹彩MM認証の前身ともいえるウォークスルー虹彩認証の開発などを担当しました。

NEC バイオメトリクス研究所
舟山 知里

──あらためて、WT型顔・虹彩MM認証の概要をご紹介ください。

佐々木 WT型顔・虹彩MM認証は、立ち止まることなく認証を行える、ウォークスルー型の顔・虹彩マルチモーダル生体認証技術です。最大のポイントは、従来、複数必要であった認証用カメラを1台に集約し、装置の小型化を実現したこと。PC、タブレットなどの既存システムにつなぐことも可能で、1億人規模でも他人受け入れを防いで認証する精度です。


──NECは、顔認証技術と虹彩認証技術でそれぞれ世界No.1の認証精度(※3)を誇っています。この2つを組み合わせる利点を教えてください。

※3:https://jpn.nec.com/biometrics/evaluation/index.html

舟山 WT型顔・虹彩MM認証では、顔と左右の虹彩の3つを本人認証の「鍵」として使います。強力な鍵を複数組み合わせることでよりセキュアな運用ができるため、データセンターなど高いセキュリティが求められる施設や入国管理などの公的な認証への導入が期待されます。また、生体認証には指紋や掌紋などさまざまな方式がありますが、顔・虹彩マルチモーダル生体認証の大きなメリットは、顔と左右の虹彩を1つのセンサーで同時に取得できる点です。1台のカメラで手軽かつ強固な認証を実現します。

NEC バイオメトリクス研究所
佐々木 政人

──ウォークスルー型の顔・虹彩マルチモーダル生体認証を、1台の小型カメラで実現したのは世界初とのことです。技術革新の背景を教えてください

佐々木 従来、直径わずか1センチほどの虹彩の模様から認証するには、顔認証用とは別の専用カメラが必要でした。NECでは品質が多少低い画像でも虹彩を認証できる認証エンジンを開発しています。このエンジンを利用することで、低品質な目の画像でも認証が可能になり、顔用と虹彩用のカメラを1台に集約して小型化することができました。今回開発したデモシステムでは、撮影範囲を広げたことで、身長差に対応するために複数台のカメラを使う必要もなくなり、1台での認証が可能になりました。

舟山 カメラシステム全体を最適化したこともポイントです。注目すべき箇所を素早く見極め、必要なデータのみを認証エンジンに送ることで、高速な処理を実現しています。

佐々木 ウォークスルー型では、人が歩くスピードに合わせて高速に画像を撮影しなければなりません。このスピードに合わせて処理を最適化することも重要となります。

デモを体験することで、お客さまの反応が変わった

NEC エアロスペース事業部門  *
赤司 竜一
*インタビュー時の所属は、NECバイトメトリクス研究所

──ウォークスルー型の生体認証は、どのようなシーンで使われるのでしょう。

赤司 空港の出入国ゲートや機密性の高い施設への入退場など、高いセキュリティと混雑緩和が求められる場面でのニーズが高まっています。一方、ATMや商業施設の決済シーンなどでは、立ち止まり型の生体認証が選ばれるケースが多いですね。NECの顔・虹彩マルチモーダル生体認証では、両方の開発を並行して進めています。


──WT型顔・虹彩MM認証の開発の経緯をお聞かせください。

佐々木 WT型顔・虹彩MM認証の開発が始まったのは2025年の半ばからですが、その基盤となるウォークスルー型虹彩認証の技術開発は、2018年にまで遡ります。

赤司 2018年の時点では、微細な模様の虹彩撮影時には静止するのが一般的でした。しかし、『歩きながら虹彩認証したい』というニーズがあり、ウォークスルー型の虹彩認証の開発がスタートしました。最初の開発時の大型装置を使って技術の実現性とビジネス可能性を検証した結果、有効性は確認できたものの、機材の大きさや複雑さが課題として明確になりました。そこで、システムの小型化を目指すとともに、セキュリティをより高めるために顔認証も組み合わせたマルチモーダル化へと移行した経緯があります。

佐々木 2024年には小型のカメラで認証する技術はすでに開発していたので、立ち止まり型であれば多少の変更でほぼ解決すると考えていたのですが、ウォークスルー型に変更となって一気にハードルが上がりました。

赤司 遠距離とウォークスルーという2つの課題を解決する必要に迫られ、スケジュール的には大変でした。ただお客さまと事業部の熱意もあり、研究所としてもぜひ期待にお応えしたいという思いで取り組みました。


──特に注力されたのは、どのようなところですか。

赤司 私が担当したのは、デバイス制御の部分です。遠くで動いている被写体に対して、虹彩認証用の光をどのように当て、カメラのパラメータをどう調整すれば顔と虹彩をきれいに撮れるのか。その最適解を見つけるまでに、何度も試行錯誤を繰り返しました。

佐々木 私たちの仕事は、技術を開発したら終わりではありません。その価値をお客さまに体感していただけるよう、デモ作りにも力を入れました。デザイン部門にも協力してもらいながらデモの表示画面もブラッシュアップを重ね、納得できるものができたと自負しています。

WT型顔・虹彩MM認証のデモを実践。カメラはこのサイズで、3メートル離れた距離から顔と虹彩を認証します。

──デモを体験したお客さまの反応はいかがでしたか。

佐々木 「歩いているだけでもう認証できたの?」「顔だけでなく、虹彩もここまで速く認証できるんですね」と、率直な驚きの声をいただけました。お客さまの声を直接聞くだけでなく、デモを体験した直後の高揚感も見ることができたのはいい経験です。資料で説明するより、断然いい反応を得られたのはうれしかったですね。

舟山 お客さまが、すごく楽しんで体験していたのが伝わってきました。一方で、ここまでできるということがわかると、「次はもっとこうしたい」「こんなこともできないか」といった新たなご要望も出てきて、うれしい一方で、開発がなかなか終わらないという悩みも生まれました(笑)。


──今回チャレンジしたことや達成できたこと、学んだことなどがあれば教えてください。

赤司 今回あらためて感じたのは、単に技術を追求するだけでなく、現場で本当に使えるものをつくることの大切さです。お客さまが見て「これは使える」「使いたい」と思ってもらえる技術にしていくことが、非常に重要だと学びました。これは実際にお客さまのリアクションに触れられたからこそ、実感できたことです。

認証を意識しない社会へ、WT型顔・虹彩MM認証で目指す未来

──ウォークスルー型の顔・虹彩マルチモーダル生体認証が実装されることで、解決する社会課題や目指す姿は何でしょうか。

赤司 ウォークスルーで認証ができるようになると、入国審査などで発生していた待ち時間が少なくなり、人の流れがよりスムーズになります。また、端末操作を覚える必要もなく、ただ歩くだけで認証が完了するため、使いやすさの面でも大きな価値があると考えています。カードキーをかざしたり、パスポートを取り出して照合したりといったワンアクションがなくなることで、日常のさまざまな場面がよりスムーズになるはずです。

佐々木 複雑な操作や手続きが求められると、利用する側の負担はどうしても大きくなります。ウォークスルー型の認証によって、そうした煩わしさを意識せずに処理が終わるようになれば、多くの人が便利さを実感できる社会につながっていくのではないでしょうか。


──将来の実用化に向けた意気込みと、この取り組みに対する思いをお聞かせいただけますか。

舟山 お客さまから寄せられるさまざまなご要望と向き合いながら、実用化に向けて進めていければと思っています。やはり企業の研究所なので、研究で終わらせるのではなく、きちんと製品として世に送り出すところまで関わっていきたいですね。

佐々木 多くの要望をいただいていますが、そのなかでも技術の視点から最もインパクトの大きい課題はどこかを見極め、まずはそこに注力していきたいと思います。すべてを一度に解決することはむずかしいので、重要なポイントを1つずつ着実に解決していくことで、さまざまなユースケースに適用していけると考えています。

まとめ

NECは、半世紀にわたって生体認証に取り組み、その認証精度は世界トップクラスを誇ります。なかでもNo.1の実績を持つ顔認証と虹彩認証を組み合わせたマルチモーダル生体認証技術には、大きな期待が寄せられています。小型化によって、これまで導入の課題となっていた点を解消し実用化に向けた見通しが立ちましたので、将来は、空港をはじめオフィスビルや商業施設など、さまざまな場所で身近に使われるようになるかもしれません。ぜひご注目ください。

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