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PLMコラム ~BOM連載シリーズ~
<執筆者>
NEC マネジメントコンサルティング統括部
ECMグループ ディレクター 杢田竜太
2002年より、20年以上に渡って、製造業:特に設計を主体としたエンジニアリングチェーン領域におけるデジタル技術を活用した業務革新(PLM/BOM/コンカレントエンジニアリング/原価企画等)支援に従事。製造業を中心とするお客様に対して、設計開発プロセスにおける業務コンサルティングを手がけている。

2025/12/22
9.今製造業に求められているBOM管理とは
今回は、日本の製造業に求められているBOM管理の今、そして、これからについて考察していきたいと思います。
まず、今、日本の製造業に求められているBOM管理は、間違いなく、自社エンジニアリングチェーン/サプライチェーンのオペレーション最適化の道具として、BOMデータ整備(システム改修/構築含む)を進めることです。
各企業/事業体のビジネス類型(MTS/BTO/CTO/ETO)や、これまでの歴史(例えば海外展開やM&Aの歴史など)、オペレーションやガバナンスの文化によって、取り組むべき整備のステップ範囲や変革方向性の優先度は異なると考えます。
この対象領域をイメージ図にマッピングすると、下図のように、エンジニアリングチェーン/サプライチェーンの上流最適化をターゲットにしていると捉えることができます。(この中の改革テーマも、企業様によって優先度が異なる。)

図1:今取り組むべきBOM管理の対象領域
先ほどは、「自社エンジニアリングチェーン/サプライチェーンのオペレーション最適化」のため、と表現してしまいましたが、もう少し補足的にいうと、「強い自社ものづくりのため」の道具としてのBOMの活用です。
前項の「8.統合BOM管理とは?」でも書きましたが、基本的なものづくりの改善的発展は、PDCAサイクルが回っています。つまり、指示情報に対して、実績情報があり、実績が指示通りに達成されたかチェックされ、達成されていない場合は原因分析からカイゼンが、達成された場合は、更なる基準を達成するためのアイデアが検討されます。
この「強い自社ものづくりのため」のフィードバックループは、2つあって、その双方を継続的・自律的にカイゼンしていくDX基盤(情報基盤)が必要と考えています。
① サプライチェーン・フィードバックループ
② エンジニアリングチェーン・フィードバックループ
図2:NECの考えるSCM~ECMアプローチの全体像
これまで日本の製造業は、設計から出図された技術情報を基に、工場側でM-BOM/BOPに変換し、そのデータを基準として①サプライチェーン・フィードバックループを着実に回し、量産効果によるコストダウン/高品質化を獲得することを強みとしてきました。
次に今取り組むべき構想としては、それを②エンジニアリングチェーン・フィードバックループにまで落とし込むことだと考えています。
補足すると、従来もこの②エンジニアリングチェーン・フィードバックループは不完全ながらも回っていたのが日本の製造業だと思います。この「不完全ながらも」という意味は、完全な属人的な人の繋がりによって回っていた、と認識しています。(工場メンバ(生技/生管/品証など)から、設計者個人にフィードバックされる)
NECのコンサルティングサービスでは、単純に「BOMってこうだよね!」というステレオタイプな改革テーマ導出を支援するのではなく、各企業様におけるものづくり全体を考えた際に「どういうBOMが必要なのか」を検討するご支援が可能です。
さて、本連載シリーズの最後のテーマとして、最後に、「これからの日本の製造業に求められているBOM管理」について試案を提言したいと思います。
結論から言いますと、エンジニアリングチェーン/サプライチェーンの下流、すなわち、「物流」、「販売」、「保守」領域におけるBOM活用の取り組みが重要になってくるのではないかと考えています。
このチェーンのイメージは、自社業務機能で表現しているので、こういう図になってしまいますが、B2Bでの企業連携を想定した場合、買い手側からみた売り手(サプライヤー)マネジメントではなく、売り手側から見た買い手に対する付加価値向上策とみることができます。

図3:これから取り組むべきBOM管理の対象領域
ちなみに、2020年度に経済産業省が提示したイメージ図によると、生産を中心軸としてエンジニアリングチェーンとサプライチェーンは合流し、「生産」⇒「流通・販売」⇒「保守・アフターサービス」でチェーンは合流しています。

引用元:経済産業省 製造基盤白書(ものづくり白書)2020年版
第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題
第1章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望
第3節 製造業の企業変革力を強化するデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進
図131-1 想定し得るソリューションの例とその位置づけ
このイメージ図の中で語られている「想定し得るソリューション」としては、物流最適化、予知保全、遠隔保守などのテーマが挙がっており、既にあらゆる新しい実サービスが市場に提供されてきている段階と認識しています。
今回、「これからの日本の製造業に求められているBOM管理」として着目しているのは、本領域にて、「サステイナブル」、「安心・安全」、「効率化」と言ったテーマでの取り組みの提言となります。
より具体的なイメージを持つために、自動車業界を例に説明していきます。
自動車業界では、様々な状況変化により当初のEV化シナリオは遅れがちですが、その潮流は相変わらず続いています。
その本質は、CO2排出削減であり、業界の取り組みとしては、「サステイナブル」がキーワードとなっています。
加えて、「自動運転」についても発展が続いています。
日本ではまだまだこれから、という状況ですが、例えば既にサンフランシスコでは、Waymoの自動運転タクシーが頻繁に往来し、生活の足として存在感を高めている状況です。
参考:自動運転タクシー、アメリカで火花 日本は地方・高齢者向け探る - 日本経済新聞
従来の「走る、止まる、曲がる」という基本機能の追求から、システム製品としての自動車へのシフトが進み、いまや、SDV(Software Defined Vehicle)という概念の下、商品としての自動車開発の付加価値戦略が変化してきています。
システム製品としての自動車は情報ネットワークに繋がります。
つまり、この繋がった無線ネットワークを介して攻撃されるリスクを内在してしまいます。
自動車基準調和世界フォーラム(WP29)の分科会:自動運転(GRVA)では、このサイバーセキュリティの対策についてソフトウェアのアップデート法規基準が検討されています。
ポイントとなるのは、市場に出た製品としての自動車1台1台に対して、OTA(Over-The-Air)と呼ばれる無線データの送受信技術でアップデートを掛けていくことです。
自動車1台1台はVIN(Vehicle Identification Number)と呼ばれる車両識別番号が割り当てられており、これらに対応する形で、ソフトウェアの状態を管理する必要性を求められています。
図5:WP29 サイバーセキュリティ法規、ソフトウェアアップデート法規
ここでの管理イメージは、以下のPwC社コラム記事とその図が参考になります。下記サイトの図表2を参照ください。
参考:UNECE WP29 GRVAソフトウェアアップデート法規基準への対応 |PwC Japanグループ
販売・整備部門では、車両識別番号(VIN)をキーに、オーナー、部品、ソフトウェアを特定するイメージが描かれています。本記事では最後に、「商品ライフサイクルマネジメント(PLM:Product Lifecycle Management)や部品表(BOM:Bill Of Materials)といった開発や製造に関連するマネジメントシステムにこのような考え方を取り入れ、既存のプロセスやシステムを変更する必要があるでしょう。」と締められています。
コラムのコラム
上記PwC社コラム記事:図2では、市場に出た自動車は、車両識別番号(VIN)をキーに、オーナー、部品、ソフトウェアを特定するイメージとなっていますが、実務上は、この「オーナー」の管理をどう実装するのか、という課題と、実装されている部品、ソフトウェアをどう管理するのか、という2つの課題があります。
自動車だけに限らず、例えば建機、医療機器、工作機械など、耐久財としての機械製品は、ユーザーに販売されるとは限らず、例えばリースやレンタルといった契約形態をとることもしばしばですし、代理店販売時には、その製品在庫は現地の販売代理店の資産となっていることも通常です。更には、中古という市場も存在していることから、メーカーが管理している「顧客」と、ここで表現されている「オーナー」とは別概念であることが伺えます。
また、これらの耐久財機械製品は、サードパーティー製の交換部品やアタッチメントがあることが通常です。自動車においても、メンテナンスは正規販売店に持ち込むだけでなく、街の信頼できるカーショップでメンテナンスしてもらうこともありますよね。その場合、メーカーにそのメンテナンスで交換した部品や更新したソフトウェアの記録はとれないことが通常であり、こういった現場の実態を考慮した上で、(メンテナンスコストも考え)どこまでどのように管理すべきか、を探っていく必要があると考えます。
上記、サイバーセキュリティ対策の他に、サーキュラーエコノミーを目指した資源・環境規制対応も要求されてきています。
昨今話題に上がるのは、欧州デジタル製品パスポート(DPP)でしょう。
プラスチックリサイクルや、バッテリーのトレーサビリティ確保のために、この仕組みの検討が進んでいます。
参考:プラスチックリサイクルにデジタルプロダクトパスポート(DPP)が果たす役割とそれを支える技術: Vol.76 No.1: グリーントランスフォーメーション特集 ~環境分野でのNECの挑戦~ | NEC
このデータ・スキームについても、私は先ほど述べたサイバーセキュリティ対策と相似だと考えています。つまり、市場に出た自動車一台一台の部品に対するトレーサビリティが要求されているのです。
これらの取り組みは、対応できる/できないが、経営リスクに繋がってくるほどの大きな課題と認識しています。
一方で、一朝一夕には対応することが出来ず、中長期の製品戦略として地道にDXを進める必要があり、製造業としての企業経営の底力が試されているのではないかと思います。
自動車業界を例に、これからのBOM管理として取り組むべき方向性について考えてみましたが、重要なのは、「今取り組むべきBOM管理の対象領域について、キチンとしたデータ管理が出来ていることが前提で、この市場に出た製品のBOM管理が出来ることに繋がってきます。
来るべき社会からの要求に対して応えられるデータを提供できるよう、今のうちに自社製品のDXデータ基盤を整えておくべきでしょう。

再掲)図3:今取り組むべきBOM管理の対象領域と、これから取り組むべきBOM管理の対象領域
※全体をカバーして、はじめてPLM(Product Lyfecycle Manajement)が完成する。
コラムのコラム
NECでは、IVI(Industrial Value Chain Initiative:https://iv-i.org/)の呼びかけの下、製造業PLMの共通モデルの国際化へ向けた取り組みを進めています。
参考:【プレスリリース】製造業PLMの共通モデルの国際化へ向けた取組をスタート – Industrial Valuechain Initiative
上記のプレスリリースを読むだけでは、図3における「今取り組むべきBOM管理の対象」をスコープに標準化、国際化を進めようとしているように読めますが、実はその先のシナリオがあります。
参考:IVIと図研・NEC・電通総研が描く「日本版インダストリー4.0の第2幕」──IVI設立10周年イベント (1/3)|EnterpriseZine(エンタープライズジン)
2025年6月12日に開催されたIVI設立10周年シンポジウムで、IVI西岡理事長は、
今後、日本の製造業は、「製品出荷後のサービス段階でのカスタマイゼーション」で戦える
そのためには、企業間の連携が重要となる(大企業と中小企業)
連携しつつ、全体的な仕掛けを回していくことがポイント と語っておられ、これは、私が「これから取り組むべきBOM管理の対象」と定義した領域のことを指しています。
私の今回ご紹介した自動車業界でのサイバーセキュリティ対策や、サーキュラーエコノミー対応等のBOM活用も進みますが、「守る」という観点ではなく、「攻める」という観点でも、この領域のBOM活用は、先進企業群によって進められていくでしょう。
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