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PLMコラム ~BOM連載シリーズ~

<執筆者>
NEC マネジメントコンサルティング統括部
ECMグループ ディレクター 杢田竜太
2002年より、20年以上に渡って、製造業:特に設計を主体としたエンジニアリングチェーン領域におけるデジタル技術を活用した業務革新(PLM/BOM/コンカレントエンジニアリング/原価企画等)支援に従事。製造業を中心とするお客様に対して、設計開発プロセスにおける業務コンサルティングを手がけている。

執筆者

2025/5/22

2.E-BOMとは何なのか?

E-BOMとは、設計BOMのことを指します。
と言っても、なんのことだかサッパリですよね?
キチンとした理解のために、まずは「統合BOM」、「目的別BOM」の概念について説明したいと思います。

「統合BOM」という言葉が世に出てきたのは、1990年代後半です。
それまでもこういう概念はあったのですが、情報システムとして「統合BOM」をマネジメントする機能を実装したパッケージソリューションはなく、言葉の定義もなされていませんでした。

「統合BOM」とは、業務上必要なBOMを一元管理し、業務遂行者がそのBOMを突き合う(登録・更新・削除・参照を一つのデータに対して行う)という概念でした。
この概念にフィットするのは、いわゆる個別受注設計型の業務モデルになります。
なぜならば、個別受注設計型の業務モデルでは、サプライチェーンとエンジニアリングチェーンが並走する(並行して走る)からです。

1998年当時、NECが提唱していた日本の製造業に対する革新コンセプトzoom拡大して大きくする
図1:1998年当時、NECが提唱していた日本の製造業に対する革新コンセプト
*エンジニアリング・チェーン・マネジメントという言葉が使われている

この業務モデルでは、受注の後に、設計が開始され、設計が完了した部位から五月雨で出図が始まります。
出図された図面内容に基づき、部材が手配され、手配された部材はサブ組立あるいはユニット組立されます。
全体が出図された後に総組がなされ、検査を経て出荷する、と言った業務モデルです。
つまり、設計作業が進みながら(エンジニアリングチェーン)、部材の手配と組立(サプライチェーン)が並走します。
*補足:設計者はまず、製品全体の構造(ユニットや部位単位)を示した構成データをリリースし、ユニット毎に五月雨で出図していきます(BOMと図面をリリースします)。初期段階のDR(デザインレビュー)で、どの部品は調達や加工にどのくらいのLT(リードタイム)が掛かるとか、金型制作のLTをどの程度取る必要がある、などの指摘が生産サイドからなされ、それに応じてどのユニットを先に出図すべきかの設計スケジュールが組まれているのです。
設計が進むとLTの長い部品が入ったユニットの初回出図がなされ、その構成部品が調達・加工されます。それと並行して他のユニットの設計が進み、その設計と調達の進捗状況に応じて、組立の製造スケジューリングがなされていました。つまり、設計情報と生産情報は、BOMを介して技術情報だけならず、進捗の情報も共有していました。

この際に必要な管理は、「何が」未出図なのか、「何が」出図済なのか、「何が」手配済なのか、「何が」組立済なのか、といった、部材・ユニット別のステータス管理なのです。
この「何が」を示すのが「統合BOM」となります。

設計・生産の各部門で、「統合BOM」のステータスを確認しながら、効率的に業務を進めていきます。
当時のNECでは、この「統合 BOM」に、加工工程(現在でいうBOP)や、金型・治具(現在でいうBOR /BOA)も含めるべき、というコンセプトを発信していました。
手前味噌ながら、革新コンセプトとしては先進的であったと自負しています。

統合BOMの考え方zoom拡大して大きくする
図2:統合BOMの考え方
*モールド型や治工具といった、現在ではBOR/BOAと呼ばれる情報も管理対象としている

さて、個別受注設計型の業務モデル(製番管理)においては、この「統合BOM」は非常にマッチするのですが、量産型の業務モデルにおいては、うまくフィットしません。
そこで登場した概念が「目的別BOM」という概念です。

「目的別BOM]とは、各種目的に応じたBOMを別々のテーブルで管理し、それらを連結しよう、というコンセプトです。
ひとつ注意事項があるのですが、「目的別」と定義されてしまったため、E-BOMは設計のためのBOMと捉えられがちですが、実はそうではないのです。
(ここがさまざまな誤解の元になっていたりします。)
「改めてBOMとは?」でも書きました通り、M-BOMは間違いなく、生産(調達含む)のためのBOMなのですが、E-BOMは、「設計のためのBOM」ではなく、「設計者が登録するBOM」のことを指します。

なので、E-BOMの目的は多岐に渡ります。
例えば、
 ・M-BOMの原案という目的
 ・試作品の部品手配という目的
 ・コスト積算の目的
 ・含有化学物質チェックの目的
 ・設計変更指示の目的
などなど、さまざまな目的を有します。

コラムのコラム:
「統合BOM」、「目的別BOM」に加え、もう一つのBOMのカテゴリーがあります。
私個人としては「データ種別BOM」と呼んでいるカテゴリーで、
 ・製番BOM
 ・号機BOM(シリアルBOM)
 ・ソフトウェアBOM(SBOM)
 ・150%BOM(スーパーBOM)
などで、これらは統合でもなく、目的でもなく、そのBOMが管理するデータ種別を表しています。
製番BOMは、製番管理(ロット製番含む)で生産管理を行っている場合、E-BOMでもM-BOMでも製番でBOMを管理します。
日本の製造業においては、完全製番BOMでの管理は少なく、製番で管理する構成と、製番で管理しない構成(標準構成)のハイブリッド管理が一般的です。PLMもERPもこれらのハイブリッド方式に対応しているソリューションを選ぶ必要があります。
なお、NECのPLMソリューション:Obbligatoも、ERPソリューション:IFSも双方ハイブリッド方式に対応しています。
号機BOMは、シリアルBOMとも呼ばれ、製品1台1台のBOMで、デジタルツインとも呼ばれます。
結果的に、目的別BOMである「保守BOM /サービスBOM」との親和性が高く、号機BOM=保守BOMと定義している企業様もいらっしゃいます。
ソフトウェアBOM(SBOM)は特殊ですね。一般的なBOMデータである「品目データ×構成データ」で表されるのではなく、SPDXやCycloneDXといったフォーマットで表されますし、その目的も、OSSの脆弱性管理を代表として多岐に渡ります。

さて、話があちこちに逸れてしまいましたので、最後に「E-BOMとは何か」について、まとめておきましょう。
 ・従来BOMと言えばM-BOMのことを指していたが、目的別BOMの考え方によりE-BOMが誕生した
 ・E-BOMとは、設計者が登録するBOMのことを指す
 ・E-BOMの目的は多岐に渡る(設計:EngineeringのためだけのBOMではない)

今回はここまでとしますが、次回以降、E-BOMの目的やE-BOMで管理すべき情報などについて、詳しく解説していくことにします。

コラムのコラム:
実は、「統合BOM」も、「目的別BOM」も、「エンジニアリングチェーン」という概念も、全て日本初の革新コンセプトです。
日本の製造業の強みは、顧客の多様なニーズに対して、個別受注設計という業務モデルで、きめ細やかに応えるものでした。設計だけでなく、生産技術・生産管理・調達・現場一体となって工夫をしてモノづくりを進めてきました。そこから「統合BOM」という考え方が出てきて、「目的別BOM」へと昇華していきました。
昨今はかなり強化されたようですが、外資系のPLMパッケージでこの目的別BOMをハンドリングできる機能が限定的なのは、こういう歴史によるところがあるのではないでしょうか?


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