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(番外コラム)設計標準化へのアプローチ(後編)
製造業を取り巻く外部環境は厳しさを増しており、その対応のために標準化による効率化や安定性確保がこれまで以上に重要となっていると考えられます。
標準化と聞くと「設計の自由度を制約する」「設計者の創造性を奪う」といった懸念を持たれる場合があります。しかし実際には、標準化の目的は設計者の思考を型にはめることではなく、知識の蓄積・共有を通じて設計の質を底上げすると共に、創造的な活動(各設計担当者に求められる個別の検討等)に集中出来る環境を作ることにあると筆者は考えています。
- 本稿では、設計標準化の定義や必要性を確認しつつ、標準化へのアプローチを
- 「ナレッジ継承」
「手法標準化」 - 「部品・ユニット共通化」
- 「製品コンセプト共通化」
- 「設計思想標準化」
- の5つの観点から整理します。
<執筆者>
NEC マネジメントコンサルティング統括部
ECMグループ マネージャー 中島悠佑
四輪乗用車のボディー設計、車両系建設機械のフレーム設計、機能性樹脂材料の用途開発等を経験した後、現職にて大手製造業のお客様の研究開発領域における業務革新支援(主に改革構想企画)に従事。

2026/4/13
3.設計標準化の進め方
設計標準化を組織として進める際、その順序は極めて重要となります。手を付けやすいのは「部品・ユニット共通化」ですが、そこばかりに目が行ってしまうと、既存部品の活用による小規模なコストダウン効果のみの結果に終わることになります。
設計標準化においても一般的な組織改革と同様、「概念・抽象」から「実体・具象」へとトップダウンで進めることで、その効果を最大化し得ると考えられます。(下図)

拡大なぜこの順序で進めることが推奨されるのか、前のステップが後のステップの前提条件(Input)になっている関係性を中心に説明します。
①製品コンセプト共通化
製品コンセプト共通化の役割は目的(ゴール)の明確化です。ここに最初に取り組むことで、「何のために標準化するのか」を明確にすることが出来ます。逆に、最初に明確にできていないと、設計上の判断に支障をきたします。例えば、「コスト最優先」なのか「軽量化最優先」なのかによって、選ぶべき部品も設計手法も異なるからです。
この指針なしに部品共通化を始めると、「軽量化」をコンセプトとする製品群を開発したいのに「安くて重い部品」標準部品群が形成され、結果として「軽量化」という商品価値を実現できないといった問題が発生する可能性があります。
②設計思想標準化
製品コンセプトが定まったら、次に行うのはそれを実現するための技術的な「考え方」の統一です。強度や安全率の考え方、モジュール化の方針、メンテナンス性を考慮した構造判断など、設計者の考え方や判断基準を明文化します。これにより、後続のステップで各設計者が手法を選定したり部品を選んだりする際に、迷いやブレが生じるのを防ぐことができます。
③ナレッジ継承
ナレッジ継承の役割は判断根拠の確立と共有です。なぜ手法の標準化や部品・ユニットの共通化より先に行う必要があるかというと、手法(How)をマニュアル化する前に、「なぜその形状なのか」「過去にどんな失敗があったか」という知見・判断根拠(Why)を整理しなければならないためです。「意味はわからないが、規定だからこの計算式を使う」という思考停止した設計者を生まないためには、手法を固める前に、その裏付けとなるナレッジを形式知化する必要があります。
④手法標準化
標準化された設計思想とナレッジに基づいて、標準とすべき設計手順やツール及びその使い方を定めることが出来ます。また、設計プロセスから設計成果物である図面等とそれに基づいて製作された部品・ユニットが生まれることとなります。部品(結果)を先に固定してしまうと、設計プロセスに無理が生じます。まず「誰が設計しても同じ品質になる手順」を確立する必要があります。
⑤部品・ユニット共通化
部品・ユニットは設計活動の結果であるため、これらの共通化が最後のステップとなります。また、上位の「コンセプト」「思想」「手法」が統一されていれば、結果として生まれる部品は自然と似通ってきます。上流がバラバラな状態で、無理やり「このボルトを使え」と部品だけ統一しようとすると、現場では設計思想に合わない部品を使わざるを得ない制約から、性能が出せないといったトラブルが発生するなどのリスクがあります。
ここまで見てきたように①~⑤の順序で進めることで、無理や矛盾なく設計標準化を進めていくことが可能になると考えられます。
4.製品アーキテクチャ別のアプローチ使い分け
様々な製品がある中、設計標準化において同一のアプローチが必ずしも有効とは限りません。実際の設計標準化においては対象とする製品の設計の特徴を捉えて実行していくことが求められます。ここでは、その手始めとしてアーキテクチャレベルの差異に対するアプローチの使い分けについて考えてみたいと思います。
藤本隆宏氏の理論によれば、製品アーキテクチャは大きく「モジュラー型」と「インテグラル型」に分かれます。[5]
●モジュラー型:部品や機能の境界が明確で、交換・共通化が容易(例:PC、家電)
●インテグラル型:部品間の依存度が高く、すり合わせによる製品のつくり込みが必要(例:自動車、航空機)
一般的に標準化はモジュラー型の方が進めやすい一方で、インテグラル型でも「設計思想標準化」や「手法標準化」によって設計効率を高めることは可能です。むしろ日本企業が得意とするインテグラル型設計では、暗黙知のナレッジ継承が競争力の源泉になり得ると考えられます。したがって、製品アーキテクチャによって標準化の重点領域は変化すると考えられます。細かくは下表に示す通りです。
表2 製品アーキテクチャ別のアプローチ重要度
[5]藤本隆宏『ものづくり経営学』21-50頁, 光文社, 2007.
5.まとめ
本稿では、設計標準化を単なる「部品の統一」や「コスト削減の手法」としてではなく、設計組織の持続的な競争力を高めるための包括的なものとして捉え、そのアプローチについて述べてきました。
実際の設計標準化においては、「製品コンセプト共通化」「設計思想標準化」「ナレッジ継承」「手法標準化」「部品・ユニット共通化」という5つのアプローチの連携が不可欠です。特に重要となるのがその進め方であり、目に見えやすい「部品」の共通化から入るのではなく、「コンセプト」や「設計思想」といった概念・抽象領域からトップダウンで進めることで、手戻りや矛盾のない標準化が可能となります。
また、製品の種類による設計の特徴を踏まえた設計標準化検討が重要であり、本稿ではアーキテクチャの差異(モジュラー型/インテグラル型)を例に各アプローチの重要度について述べました。自社製品の特性に合わせてこれらのアプローチを適切に推進することで、開発スピードの向上、品質の安定化、そして技術の伝承が促進され、企業としての競争力強化に繋がると考えられます。
参考文献
・日野三十四『実践 エンジニアリング・チェーン・マネジメント』(日刊工業新聞社, 2017)
・藤本隆宏『ものづくり経営学』(光文社, 2007)
・藤本隆宏『現場主義の競争戦略』(新潮社, 2013)
・藤本隆宏『現場から見上げる企業戦略論』(KADOKAWA, 2017)
・藤本隆宏『日本のものづくり哲学』(日経BP社, 2024)
(番外コラム)設計標準化へのアプローチ
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