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(番外コラム)システムズエンジニアリングとPLM(後編)
今回、新たに番外編コラムとして、設計開発・品質保証業務の経験があるコンサルタントが、システムズエンジニアリングと現場で実践できる改革のヒントを解説いたします。
<執筆者> 
NEC マネジメントコンサルティング統括部
ECMグループ  シニアコンサルタント 那須裕
人工衛星の設計開発、品質保証業務経験を経て、製造業を中心とするお客様に対して、設計開発プロセスの業務革新支援を行っている。防衛事業に対する業務革新(PLM導入)支援に従事。

2025/11/4
4.改革実現
システムズエンジニアリングの導入(または効率化・最適化)において、システムズエンジニアリングの考え方を組織に導入することがファーストステップではありますが、そのセカンドステップとしては、システムズエンジニアリング活動に対し、最適化された環境を整えることです。
システムの失敗には以下の3つが主要な原因とされており、「システムズエンジニアリングの3つの害悪」と呼ばれております。(6)
                                                
  ①複雑性の問題       : 複雑性が特定・管理されていない。
  ②コミュニケーションの問題 : 意思疎通が不十分、または曖昧。
  ③理解の問題        : 様々な視点が考慮されず、憶測が発生。
                                                
これらの問題に限らず、組織または開発対象のシステムによって異なる問題があります。問題を解決し、組織または開発対象のシステムに対し、最適化された環境を整えることが必要です。
                                                
例えば、組織の問題を考慮せず、欧米の先行事例をそのまま取り込み、MBSE(モデルベースシステムズエンジニアリング)を導入した場合、システムエンジニアはシステムモデリング言語(SysML)を使いこなすことができるが、サブシステムエンジニアは、SysMLのダイアグラムすら理解できないということも十分に考えられます。その場合は、モデルを作成したものの、効果が発揮できないという結果に陥ってしまいます。
                                                
上記のような結果にならないためには、組織の現状(問題・課題)に立ち返り、あるべき姿を今一度考える必要があります。
前章でも述べた通り、システムズエンジニアリングはクロスファンクショナルなエンジニアリング活動です。そのため、改革に際してもクロスファンクショナルチームで行い、「現在の問題・課題(As Is)」をベースラインとしたうえで、「あるべき姿(To Be)」つまりは、目指すべき目標を策定(改革構想企画)することが必要です。
                                                
商標
SysMLは、the Object Management Group、Inc. の登録商標です。

 拡大して大きくする
拡大して大きくする5.PLMで実現するシステムズエンジニアリング活動
これまでシステムズエンジニアリングと関連する改革実現について説明してきましたが、PLMを用いたシステムズエンジニアリング活動との接点を説明します。PLMには、システムズエンジニアリング活動の要件となる機能が存在します。本章では、その一例を紹介します。
                                                
(1)ライフサイクルマネジメント
PLMはその名前の通り、PLM(英:product lifecycle management:製品の設計・開発・保守・廃棄・リサイクルなど、製品のライフサイクル全体を通して、製品関連情報を一元管理する考え方)の実現を支援するシステムです。もちろんシステムのライフサイクルに合わせた適用を行うことも可能です。システムの一般的なライフサイクルステージであるコンセプト、開発、生産、利用、サポート、廃棄において、適したBOMを構成することで、それぞれのライフステージの目的に合致したアクティビティを行うことができます。BOMとその種別についてはコラム(2.E-BOMとは何なのか?)を参照ください。
                                                
(2)技術マネジメント
システムの構成要素の構成管理(BOM)を行います。システムズエンジニアリングにおいて、それぞれのライフサイクルステージでシステムがどのような要素で構成されているかを把握して統制下に置き、システムを構成する要素への変更要求を適宜行う必要があります。(2)上記はV字モデルのベースラインの合意を行う上でも必要不可欠です。また、変更に伴うCCB(Configuration Control Board)によるレビュー、評価、承認に相当する機能も標準機能として用意されています。また、関連する工程はBOPとして表現され、システムの構成要素と関連して、マネジメントを行うことが可能となります。
                                                
(3)企業全体あるいは企業間コラボレーションを実現する基幹プラットフォーム
コラム(3.「PLM」は、もはや部門システムではない)で示した通り、PLMは製品設計部門のシステムではなく、企業全体のエンジニアリングチェーン最適化のためのシステムです。システムズエンジニアリング活動においては提案されたベースラインが、経営者、顧客、利用者およびその他の利害関係者にとって確実に受け入れられることが必要です。PLMを基幹プラットフォームとすることで、プロジェクト関係者とのコミュニケーションを円滑にします。

6.最後に(MBSEの発展段階とPLM)
システムズエンジニアリングに関わる改革の一つとして注目をされているのが、MBSE(モデルベースシステムズエンジニアリング)です。MBSEとは、複数のモデルを使ってシステムズエンジニアリングを行い、システムのライフサイクルに合わせ、プロジェクト全体の業務効率化、最適化を行う手法です。
MBSEの発展段階として、システムズエンジニアリングのドキュメントベースのアプローチから、完全なモデルベースのアプローチに至るまでの変化を示しています。Stage1からStage5にかけてMBSEの発展段階があり、Stage3からモデルを活用したシステムズエンジニアリング活動(Model-Enhanced Systems Engineering)として定義がされています。Stage3は、Stage5を目指す上での短期目標になる、または、Stage3自体が最終目標となる場合があります(6)

Stage3を実現する上でモデル化するソリューションは複数考えられ、目的にあったソリューションを導入することが必要です。その選択肢の一つとして、前章で一例を紹介したPLMも該当します。
PLMは、エンジニアリング活動を行うためのソリューションであり、システムズエンジニアリングを行うための専用ソリューションではありませんが、PLM上においてもシステムの製品構成はデータモデルとして表現を行い、エンジニアリング活動を行います。つまり、PLM単体を導入して行うシステムズエンジニアリング活動はStage3に相当と理解します。(PLMと他システム連携によりStage3よりも上位のレベルに移行することも可能です。)
                                                
NECのコンサルティングサービスでは、「現在の問題・課題(As Is)」をベースラインとしたうえで、「あるべき姿(To Be)」つまりは、目指すべき目標を策定(改革構想企画)した上での、組織にあった最適なシステムズエンジニアリングの実現に関するご支援を行います。
                                                
引用
(6)Jon Holt. (2023) Systems Engineering Demystified.
コンサルティングサービス【製品開発】
                                                                            
最先端のデジタル技術に対する知見と、自社および製造業のお客様のものづくり革新の実践経験をベースに、製品開発プロセスの革新をご支援いたします。
                                                                            
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